Apple TV+『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』 | First Chance to See...

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 3月にiPhoneを新しく買い替えたらApple TV+の3ヶ月無料視聴特典がもれなくついてきて、でも私は既にWOWOWとNetflixとDisney+で手一杯の身、かくなる上は購入から90日以内という登録期限を目一杯利用して、仕事が一番ヒマになる6月〜8月の3ヶ月間にApple TV+無料視聴を利用しようと考えた。

 

 せこい。

 

 ともあれ先月、計画通りApple TV+の無料視聴に登録し、さて何を観よう……とApple TV+のトップページを開いた途端、真っ先に目に飛び込んできたのが『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』だった。

 

 

 タイトルは、何となく耳にしたことがある。すごく評判がよくて、いくつもの賞を受賞しているコメディドラマ。でも、主人公が実写版スーパーマリオみたいなヒゲのおじさんで、おまけにプロスポーツの世界の話ときた日には、正直まったくそそられない。とは言え、1話30分のコメディだから気軽に観られそうだし、何より今なら無料視聴できるんだし、と、かなり後ろ向きなノリで第1話を観てみたら、

 

 やばい。めっちゃおもしろい。

 

 主人公のテッドはアメリカの大学でアメフトのコーチをしていたが、なぜかスカウトされてイギリスのプレミアリーグに所属するサッカーチーム「AFCリッチモンド」のコーチを務めることになる。そもそもそんな素人にプレミアリーグのコーチを依頼する「AFCリッチモンド」のオーナーもオーナーだが、サッカーのルールも知らない身で引き受けるテッドもテッドだ。が、どうしてこんな奇妙な事態になったのか、その事情は割とさっくり明かされる。そもそも「AFCリッチモンド」の新オーナーのレベッカは、夫ルパートとの離婚協議の末に夫からサッカーチームを勝ち取っただけ、そんなレベッカがあえてテッドのような素人コーチを雇ったのは、単に夫が愛するサッカーチームをズタボロにして憎き夫に復讐したかったからである。とは言え、そんなこととは露知らず人の良さ全開でロンドンにやってきたアメリカ人のテッドにもまた、知識ゼロのサッカーのコーチ役を引き受けてでも故郷のカンザスを離れたい理由があった。

 

 このコメディの何がいいって、まずサッカーについて全然知らなくても楽しめること。何せ、主人公のテッド自身が何も知らないからね。あと、スポーツのコメディというだけでなく、アメリカとイギリスのカルチャーギャップのコメディにもなっているから、スポーツそのものに関心が薄くてもやっぱり楽しめる。

 

 その上で、登場人物たちはそれぞれにいろいろなな欠点や弱みを持っていてあれこれやらかしたり対立したりするけれど、それでも誰かを決定的な「悪役」にしない脚本が素晴らしい。サッカーのプレミアリーグというと何だかひどく閉ざされた世界のようだけれど、オーナーに女性を配したことにより、そのホモソーシャルなありようも照射されてコメディのネタにされているし、また、世界中からやってくるサッカーチームの選手たちはそれぞれの出身国の事情やら何やらを抱えていて、その辺りも上手に脚本に盛り込まれている。

 

 いやはや、第1シリーズから第3シリーズまで、本当に本当におもしろかった。最終回まで観てしまった今はただ、テッド・ラッソとの別れがさびしくてならん——観る前は、単なる気の良いヒゲのおじさんにしか見えなかったのが嘘のよう。どんなに人気が出たとしても第3シリーズですぱっと終わらせる潔さは立派だと思うけど、ついスピンオフとか番外編とかを期待せずにはいられない。

 

 あ。でも、この後そんな作品が製作されたとしても、配信される頃には私の無料視聴期間は過ぎてるよな? うむ、仕方ない、その時は腹をくくってサブスク代を貢ぐことにしよう——って、うわああああ、私ったらまんまとApple+の計略にハマってる!

 

 ……にしても、こんな作品を観てしまうと「ポリコレが厳しい昨今、おもしろいコメディなんか作れない」なんて大嘘だってことがよくわかる。むしろ、トキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)とか家父長制とか、コケにして笑いを取れるネタは増えたと言ってもいいんじゃないの?