The Eighty-Dollar Champion | First Chance to See...

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エコ生活、まずは最初の一歩から。

 第二次世界大戦下におけるウィーンのスペイン乗馬学校存亡の危機を描いたノンフィクション、The Perfect Horse (2016)が素晴らしく面白かったので、同じ著者がこの本の前に出版しベストセラーになった、The Eighty-Dollar Champion: Snowman, The Horse That Inspired a Nation (2011)にも手を出してみることに。

 

 

 ……というか、さすがに私の好きなスペイン乗馬学校関連の本は、ガチの馬術の専門書を除いては、フィクション/ノンフィクション共にもう見つからなくてねえ。馬が出てくる小説本の類なら、Amazon.comで未訳の作品が山のように見つかるけれど、ためしに表紙のイラストが気に入った一冊を読んでみたら早くも「もういいや」という気分になってしまい、だったら評判の良い馬についてのノンフィクションのほうがまだしも楽しめるかな、少なくとも著者については信頼できるしな、と考えた次第。

 

 実際、狙い違わずおもしろかった。

 

 1950年代のアメリカ。貧しいオランダ移民のハリーは、積雪のせいで馬市場に遅れて到着し、売れ残って廃馬寸前だった農耕馬を80ドルで買って連れ帰る。家に着いた時に雪まみれだったため「スノーマン」と名付けられたその馬は、体格は大きいが性格はおだやか、ハリーの子供たちが群がっても嫌がらず、乗馬のド素人を乗せても暴れずのんびりと歩いてくれる。ハリーの仕事はお金持ちのお嬢様が通う私立女子校での乗馬の先生&乗馬の管理なので、スノーマンのような馬はおっかなびっくり初めて馬に乗るお嬢様たちにはまさにうってつけ——と思っていたら、実はこの馬、とんでもないジャンプの才能まで隠し持っていた。

 

 才能を隠し持つという意味では、ハリーもスノーマンと同じ。第二次世界大戦さえなければ、ハリーは母国オランダで馬術の国代表に選ばれるところだったのだ。ハリーとスノーマン、不遇な運命で自分の能力を発揮できずにいた人と馬が出会い、これまではお金持ちのための競技だったアメリカの障害馬術の世界で快進撃を開始する。メディアを通じて報道されるハリーとスノーマンの勇姿にアメリカの庶民たちも熱狂するが、その熱狂は、障害馬術の世界に企業の資本が流れ込み、才能ある馬の価格が高騰するという皮肉な結果をもたらした。

 

 私がこの本をダラダラと読んでいたちょうどその頃、巷では東京オリンピック2020とやらが始まった。私はまーーーったく関心がなかったので開会式から閉会式まで意固地なまでに無視したけれど、馬術競技に関してはどうしても好奇心をおさえられず、BSグリーンチャンネルで放送されたオリンピック/パラリンピックの全種目を録画して観た。その結果として障害馬術の採点法について一通り学ぶことができ、このにわか仕込みな知識はこの本の後半、ハリーとスノーマンの競技シーンを英語で読む際にものすごく役に立った。

 

 ふふふ、'clear round'だの'jump off'だのと言われても、今の私にはよくわかる。スノーマンとライバル馬が'clear round'して'jump off'になったとか、読んでドキドキすることもできる。英文読解って結局のところ、書かれている内容についてあらかじめどれだけ日本語で知っているかによって理解度は大きく左右されるよなあ、と、しみじみ思う。

 

 タイトルがタイトルだけに、スノーマンがチャンピオンになることは最初からわかりきっている。が、一つだけ強烈に意外だったのは、スノーマン亡き後のハリーの後半生だ。エピローグとしてさくっと書かれたその内容に、私は思わず「え?」と声を出してしまった。それというのも、

 

 

 

 

 

 

 

(一種のネタバレです。自分で読みたい人はここでやめてね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(いいですか? いきますよ??)

 

 

 

 

 

 

 

何があったかは知らんけど、一緒にオランダからアメリカに移住し、貧しさと重労働の中でたくさんの子供たちを育てながら家族経営の牧場を守ってきた妻と離婚して、別の女性と再婚するとはな!!!