「エリザベート」ざんまい | First Chance to See...

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 ウィーン好きのはしくれとして、一度は東宝ミュージカル「エリザベート」を観てみたい。で、再演されるたびにチケット購入に挑戦するも、一般発売開始と同時になぜかすべての回のすべてのチケットがソールドアウトになっている。ミュージカル好きの同僚いわく、「エリザベート」は先行予約等の時点でチケットは既にほぼ完売状態なので、一般発売に回ってくるチケットの枚数がそもそも極端に少ないらしい。2020年の公演は3ヶ月のロングランだから今度こそ取れるだろうと思ったのに、やっぱり失敗。よよよよよ。


 そこへ、今回の新型コロナウィルス感染拡大である。2020年の公演は中止となり、そりゃ黙って待ってりゃそのうち再演されることは確実な演目だけど、飢餓状態に陥っているであろうファンたちによるチケット争奪戦がこれまで以上に激化することもまた、同じくらい確実だ。

 

 オーストリアのウィーンよりも手が届かない、有楽町のウィーン。あああああ。

 

 ……という話を職場で愚痴っていたところ、先の同僚が「エリザベート」のDVDを貸してくれることに。うっ、すみません、観たい観たいと言っておきながら万事においてチェックが甘いもんで、DVDが出ていることすら知りませんでしたーーー!

 

 

 貸してもらったDVDは、全部で3種類。2016年に帝劇でダブルキャストで上演された時のDVD、トート役を井上芳雄が務めるBlack versionと、トート役を城田優が務めるWhite version、それにテアター・アン・デア・ウィーンで上演された、本家本元のドイツ語版。深く考えず、列挙した順に観てみたところ、

 

 なるほど、これは人気が出るのも頷ける。っていうか、すんごくお耽美。井上芳雄って歌が上手とは思ってたけど、こういう種類の表現をこんなにもできる人とまでは思ってませんでした、私が悪かったです。あらためてリスペクト!

 

 ……とはいうものの、東宝版を観ていてちょっとだけ疑問を感じる箇所もあった。皇太子ルドルフって確か女性と一緒に無理心中を図ったんじゃなかったっけ、とか、第一次世界大戦を完全にスルーしてハーゲンクロイツ出しちゃうのはさすがに先走りすぎじゃないの、とか、ウィーンのカフェなのに「カフェを一杯」とオーダーするわ受け皿なしのカップで給仕するわってそりゃないぜ、とか。日本で上演している分にはいいかもしれないけど、現地ウィーンの客は私以上に引っかかったんじゃないのかなあ、と思いながらドイツ語版を観てみたところ、

 

 台本は一応同じだけど、演出もセットも全然違う。「レ・ミゼラブル」とか「オペラ座の怪人」同様、日本での上演は現地での上演の完コピが基本と思い込んでいたけれど、私が勘違いしてただけで日本での上演って完全にオリジナルの演出だったんだ。いやはや東宝版に比べてウィーン版のトートの登場シーンの地味なこと地味なこと、さすが長年にわたって宝塚で演出を手掛けていらっしゃった小池修一郎先生だけのことはある。その他のシーンも、総じてウィーン版より東宝版の演出のほうが気に入った。

 

 ……その一方。ウィーン版の演出を観ると、先にあげた東宝版を観た時の疑問はすべて解決した。ルドルフは女性と無理心中したことを示唆する演出になってたし、ナチのハーゲンクロイツは出てこないし、カフェでは客はちゃんと「メランジュ!」とオーダーするし(ウィーンのカフェはコーヒーの種類が多いため「カフェ」だけでは注文が通りません)、ちゃんと受け皿つきで給仕されもする。だよねえ、でなきゃウィーンの観客は納得しないよねえ。

 

 あと、東宝版を観て「せっかくウィーンなのに、やはりスペイン乗馬学校の白いお馬さまは出てこないのか」と少し残念に思っていたら、何と何と、ウィーン版ではちゃんとオマージュされて出てくるじゃありませんか——ま、デザインが少しばかりキッチュだったけどね。