新国立劇場「こうもり」 | First Chance to See...

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 オペレッタ「こうもり」は観たことないけど、どうせ観るなら年末年始のウィーン歌劇場一択でしょ。その際には、帰り道のことも考えて、やはり歌劇場周辺の5つ星ホテルに宿泊することが望ましい。ザッハーとかアストリアとか、そりゃもちろんインペリアルは素敵だけど歌劇場からはちょっと離れているのよねえ。

 

 ……妄想だけなら自由だし、一銭もかからない。とは言えこの妄想、「しょぼい節約人生におけるただ一度のド派手な散財」としてならまんざら不可能でもないかもしれない——という、私のうすぼんやりした夢想を、このたびの新型コロナウイルス感染拡大は木っ端微塵にしてくれた。そりゃ20年後くらいなら欧州への旅行が元通りの安定価格で楽しめるようになってるかもしれないけれど、その頃には私の足腰が弱りすぎ&老眼が進みすぎてオペラどころじゃなくなってるよ!

 

 というわけで、「年末年始のウィーン歌劇場で「こうもり」を観る」という妄執を断ち切るべく、東京/初台の新国立劇場に「こうもり」を観に行ってきた。

 

 

 ……結論から言います。妄想を断ち切るどころか呼び水になっただけでした。やっぱりこの演目はウィーン歌劇場で観たいよううううう!

 

 そりゃおもしろかったですとも。超有名オペレッタだもの、ストーリーは愉快だし、音楽は気持ちいいし、盛り上がるところは大いに盛り上がるし。でも、何が悲しいって、今の新国立劇場は新型コロナウイルス厳戒態勢で、感染予防に最大限の努力が行われていて、それはそれでとてもありがたいことなんだけれど、でも感染予防を意識しながら舞台に熱狂することにはアクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなしんどさがある。ものすごく端的に言えば、「こうもり」なのに幕間にホワイエでシャンパンを飲めない。

 

 あ、いや、私自身はアルコールが弱いのでたとえ販売されていても飲めないのだが、幕間に観客がシャンパングラスを傾けながらお友達同士で盛り上がって喋っているような、そういう劇場の空気感が好きなのだ。ところが現状は、アルコールが飲めないというだけでなく、ホワイエで販売されているのはペットボトルの飲料水だけ、お友達同士のおしゃべりも控えましょうという指示まで出される有様。現状の対策としては、もちろん、それで正解なんだけどね。

 

 考えてみれば、新型コロナウイルスの騒動が起こってから私が劇場に足に運んだのは今回が初めてだった(チケットを購入した公演はいつかあったけど、すべて中止になってしまった)。それだけに、たとえ同じように観客が並んで座って数時間過ごすにしても映画館と劇場では全然違うということが痛いほどわかった。私よりはるかに観劇好きな同僚が、「上演中止で観られないことより、観られるようになったけど以前のように劇場で心置きなく盛り上がれないことのほうがはるかに気が滅入る」と言っていたのは、まさにこのことだったんだな。