「光る君へ」

平安貴族と黒魔術

今年のNHK大河ドラマは、珍しく平安朝「光る君へ」です。紫式部や藤原道長が生きた平安中期の史実をもとに、虚実おりまぜたドラマ仕立てになっています。

さて、先日放送分の14回で道長の妻、源明子が義父である藤原兼家を呪詛するシーンがあり視聴者に戦慄が走りました。

藤原兼家は、陰陽師・安部清明に依頼して、花山天皇の女御・藤原よし子をお腹の子供もろとも呪殺した過去があります。そうして自分の娘の生んだ皇子（一条天皇）を帝にたてて、関白に成り上がったのでした。

栄華を極めた兼家でしたが、歳月が流れ、老いた兼家がいよいよ臨終の時、庭にでてふと空を見上げると月がみえます。月の美しさに去り行くこの世の風情を感じながら穏やかにこの世を去る・・・とはいきませんでした！！

美しい月は、突然、おどろおどろしく・・赤く変貌し・・

時同じくして、明子が必死の形相で兼家を呪詛していたのです。明子の真言からすると、荼枳尼（ダキニ）天の呪法のようです。そのかいあって、兼家は、庭でこときれます。

黒魔術の報いとは？

黒魔術は、願いの成就とひきかえに自分の命を費やします。つまり、自身の命を資源にして願いを叶えるのが黒魔術のシステムなのです。光る君でも、兼家が清明に呪詛を依頼する際、「帝の御子を呪詛するとなると、わが命を費やすことになりますので・・」と一度辞退しています。（結局はやるんですが）

この場合、直接やったのは清明ですが、依頼したのは兼家なので、命を費やすのは両名ともです。

「え、でも、政敵を呪殺した兼家は、その後も生き続けて栄華を極め、それなりに長寿でなくなっていますよね？」

黒魔術を行うと

１：願いは叶うが体調不良に陥る、人によっては死に至る。

２：若くて生命力が旺盛な間は大丈夫だけれども、年をとって体力が低下した時に体調不良がでる。また、本来の寿命より縮む。（80歳なら70歳、50歳なら40歳という風に）

３：生きてる間は、栄華と繁栄の人生を歩むが、死んだあと地獄に落ちる。

ざっくりと3パターンがあるといわれています。

兼家の場合は、呪殺の後、いったん倒れて意識不明になりますが、復活して出世街道を上り詰めます。多少寿命は縮んだかもしれませんが、本来長寿の方だったのでしょう。生きてる間は、栄華と繁栄の人生を歩み続けました。そう、兼家は典型的な3パターンなのです。

栄光の人生を生ききって、静かに最期を迎えようとしたときに報いがやってきます。かつて自身がよし子と赤子を呪殺したように、自らも呪殺されてこの世を去るのです。脚本の大石静さんは、因果応報と言いたかったのかもしれません。

兼家は、寝殿造りの庭の、橋の手前でこと切れます。川は三途の川、橋はあの世へ渡る道を暗示しています。橋の手前で倒れている兼家は、あの世へはいけない・・つまり、成仏できずにこの世に留まることを示唆しています。当時の死生観からすると、橋を渡れずに＝極楽浄土にはいけずに、こちら側を彷徨よう＝不成仏霊となったといえるでしょう。

呪詛をした明子もまた流産します。よし子の際も、お腹の赤子も呪殺されたので、大石さんはここでも因果応報を描いているのです。

黒魔術には贄が必要