ヘルスフィア -Around the Health Sphere-

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医療政策分野のメモとその他駄文。

 
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「The Charlson comorbidity index is adapted to predict costs of chronic disease in primary care patients」
Mary E. Charlson, Robert E.Charlson, Janey C. Peterson, Spyridon S. Marinopoulos, William M. Briggs, James P. Hollenberg
Journal of Clinical Epidemiology 11 July 2008.


 抄読会メモ。チャールソンインデックスを用いて、慢性期疾患の初期治療患者のコスト予測は可能かどうかにつての論文。コストと医療資源という観点は、特に海外の雑誌ではよく載っているタームですが、日本でももっとやってもいい分野かもしれません。


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Objective
・初期治療患者の大規模集団における慢性期疾患のコストを測定する。
・人口統計と疾病指標に幅広く用いられている診療情報を用いて、一年以上のトータルコストを予測する予測モデルを作成する。 

Study Design & Setting
○診断名、薬剤名、資源活用を含むデータ
 母集団    
・1993年より少なくとも1年間
・NY Hospitalのacademic medical practiceに適応する5681名の患者
・うち2864名の患者は18人の主治医が担当している
・2997名の継続的外来患者

 データ収集 
・ICD-9に基づいた診断情報、薬剤情報、資源情報
・Comobidity data はCharlson index score(ICD-9による17項目)を使用
・年間のコストを予測するための疾病指標に4つの状態を指標として追加(高血圧、鬱、ワーファリン使用、皮膚潰瘍/フレグモーネ)

 資源活用  
・Total cost :外来診療、検査、放射線検査、コンサルテーション、入院費
・医療機関コストのデータは会計システムより取得
・各部門別に費用対コストの比を算出

 データ分析 
・Total costは対数変換し標準化
・単回帰モデル、多変量モデル ランダムに50%サンプルを選択し実施した

Result
・患者あたり変換平均コストは$2655
・平均年間入院コストは$9547 うち外来コストは$1070
・平均年齢 56歳、性別 女性72%
・Medicare 32%、Medicaid 30%、 マネージドケア12%、employees'plan 8%
・高齢者、Medicare、Medicaidはより高い
・医療機関のコストは$1558(全体のコストの58.7%)
・Comobidoty indexによってコストも高くなる
・→ワーファリン使用、皮膚潰瘍/フレグモーネでもコストの差異が見られた
・全体の11.4%が入院で、うち2/3(n=435)が初回入院
・複数回の入院患者の場合、年間平均コストは$24355と2倍以上

・入院患者あたりの予測変数: 年齢、Comobifity、皮膚潰瘍/フレグモーネ

Conclusion
・Comobidity indexを適用することで、リスクを予測し、コストが高くなる対象患者の資源の予測が可能になった                 

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所感

・補正は年齢・性別・Charlson indexのみで十分なのか?
・医療機関同士の比較や、施設情報による補正がない(1医療機関の選出は代表性に問題)
・診療プロセスに関する検討が少なく、コストの差の要因が不十分?
・医療機関のコスト情報を扱う論文が多く、日本でも原価計算の議論は必要ではないか。


ということでしたー。
股関節骨折手術に関する論文その2です。


Quality effects of operative delay on mortality in hip fracture treatment
Qual Saf Health Care 2005;14: 371-377
R Sund, A Liski

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<Aim>
 1,早期手術と手術遅延を定義する
 2,術後の超過死亡率と手術遅延が長引いたことの関連を調べる
 3,早期手術と手術遅延グループの違いと、観察された要因の調整は、手術遅延と死亡率の関係を変えるか
 4,リスク調整された手術遅延の割合を病院間で比較
 5,1年死亡率と手術遅延患者の割合に関して、病院レベルの違いを調査する


<Data>
 フィンランドのヘルスケア記録、退院記録、国の死因記録

<対象>
 65歳以上で初めて股関節骨折になった患者で、内固定、人工骨頭、人工 股関節手術を行った16881人

<メソッド>
 Product limit estimators, 比例ハザードモデル、Z検定、カイ二乗検定、ロ ジスティック回帰、階層ガンマポワソンモデル

<アウトカム>
(1) 10-2日の待機時間は死亡率に同じ影響を示し、3-4日の待機時間で有意に死亡率の上昇があり(p<0.001)、5日以上の待機時間は最も高い死亡率を示した。早期手術は0-2日の待機時間(n=14426)、手術遅延は3日以上(n=2455)の待機時間と定義。

(2) 早期手術に比べて、手術遅延の未調整の死亡の超過リスクは、すぐに3%上昇、1年で5%まで引き続き上昇した。

(3) 早期手術は、85歳以上、女性、痴呆、目の疾患、入院前の長い入院治療、水曜日入院と関連。手術遅延は転子下骨折、大腿骨頸部骨折、循環器疾患、末梢血管障害、退院後すぐの入院、ナーシングホーム、ヘルスセンターからの入院、木曜・金曜・土曜の入院と関連。

(4) 手術の遅い患者の割合は施設間で大きな変化があった。

(5) 手術遅延患者の割合が小さいと、手術遅延患者の死亡率が高い。

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 股関節骨折手術の遅れと死亡率というのは、日本ではあまり考えられていない話ですね。入院した曜日による術後のアウトカムの変化は、医療業界ではよく言われることで、論文も色々あります。入院した曜日に関する日本の論文も以前に読んだ気がするな。。
クラスター解析の手法はいろいろとありますが、
前回の論文で使っていたクラスター解析フィニッシュまでの道のりをざっと。


罹患率の基本的なデータはデータベースから。共変数のデータは、インタビューで集めたマイクロデータを医療区別に再構成。空間解析用に、近接構造(つまり、どの医療区とどの医療区が隣り合っているか)を反映した近接行列を人力で作成。今時のソフトは、矛盾しているデータが出たらエラーが出てわかるようにはなっていますが、結構大変ですね。。

 使っていたのは、Kulldorffの空間スキャン統計量。
データが得られた地点を中心に(前回の論文ではマップポリゴンから中心点を算出している模様)、円状に空間をスキャンし、罹患率の高い地域を見つけています。 計算の概要は、データ範囲の中で、中心点から無限個の円を書き、円の中と外の罹患率の差を見ています。分析の単位あたりのサンプル数が少なかったので、ポワソン分布を用いてモデル化。モランのI統計量とギアリーのC統計量は、肝臓癌の罹患率の比において、近接した地域との間の空間的な自己相関の評価のために算出しています。

 モランのI統計量は、ほぼ相関係数と同じ感じで、ゼロを中心として-1から+1までの値を取ります。-1が完全なランダムで、+1が相関。ギアリーのC統計量は0~2までの値を取り、0が正の相関、1がランダムで、2が負の相関を示しています。算出されたP値は、多重検定のためモンテカルロ法による仮説検定をしています。

 その後、階層的ポワソンモデルでは、共変数を投入して分析。 データ不足などもあり、この辺は不発に終わっている模様。マッピングはArcGISで。ArcGISも色々複雑なソフトなので、細部まで使いこなすのは大変です。



Cluster of liver cancer and immiration: A geographic analysis of incidence data for Ontario 1998-2002
Yue Chen, Qilong Yi and Yang Mao,
Internationa Journal of Health Geographics June 2008

 HealthGISの専門誌であるヘルスジオグラフィックスから。
カナダのオンタリオ地区の肝臓癌の地理的変異と、移民の影響に関する空間統計解析を行ったペーパーです。この雑誌は、数年前に始まったばかりですが、インパクトファクターもあるし、(この分野だと、IF無しということもあるので)隙間産業として地味に頑張っている感じがします。
ちなみに、オープンアクセスなので誰でも読めます。
www.ij-healthgeographics.com/content/7/1/28

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Methods
 オンタリオの癌登録データから、癌の罹患率のデータを得た。1998年から2002年のデータを使用。対象はオンタリオの35の医療区で、主病症が肝臓癌の個人を選択した。15歳以下は除外。リスクファクターの調査は、インタビューで行われ、15歳以上を分析の対象とした。集められたマイクロデータは35医療区にまとめた。医療区マップに基づいて、近隣構造を反映した35医療区の隣接行列を手動で作成し、空間解析に用いた。それぞれの医療区の中心は、マップポリゴンから算出した。

Data Analysis
 肝臓癌の標準化罹患比率(SIR)は、35の医療区で算出しマッピングした。集積している地域を特定するため、Kulldrffの空間スキャン統計量を用いた。モランのI統計量とギアリーのC統計量は、肝臓癌のSIRのと隣接した地域の空間的な自己相関の評価のために算出した。

 モランのI,ギアリーのC統計量、スキャン統計の双方で、多重検定のために、P値はモンテカルロ法による仮設検定を用いた。階層的ポワソンモデルは、クラスター要素とした医療区において、肝臓癌のSIRと、他の要因との関係の分析に適していた。緯度と経度は、医療区のロケーションの指標として用いられた。ランダムエフェクトとフィックスドエフェクトの双方を同時に分析した。条件付きの自己相関モデル(CARモデル)は、空間的な相関と、医療区のランダムエフェクトの効果の双方が考えれらる状態で、それらの要素のSIRの影響を調べるために用いた。すべての分析は、SASとSatScanのパッケージを用いた。マッピングはArcGISを用いた。

Results
 スキャンメソッドにより、肝臓癌の罹患率が高い地域が集積している2つのクラスターを発見した。一つは三つの医療区(トロント、ヨーク、ピール)で、もう一方がオワタ医療区であった。

 階層的ポワソンモデルのモデル3(移民の割合を調整した)において、モランとギアリーの統計量はどちらも有意とならなかった。これは、近接地区の空間的な相関は、移民の割合によって説明可能である可能性を示した。分散は、選択した共分散の調整のあるなしに関わらず有意だった。フィギュア2は、年齢、性別、ジオロケーションに加えて、移民の割合を調整した前と後の肝臓癌の相対危険度を示した。

Discussion
 今回の分析で、オンタリオの肝臓癌のSIRが地理的にランダムではなかったことが示された。トロント、ヨーク、ピールを含む医療区が、有意に高いリスクのクラスターを形成していた。また、移民の割合が、オンタリオの肝臓癌のSIRの地理的変異の主な要因であることがわかった。

 肝臓癌の発症は、喫煙、大量の飲酒、肥満が関連されると確認されていたが、本研究では有意な差が認められなかった。移民の割合と他の響変量を入れても、まだ地域差を起こす重要な要因が残っている。また、リミテーション(HCV、HBVのデータ無しなど)がいくつかある。
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消化不良だなーという印象です。
 肝臓癌の割合と、移民の関係(HCVとHBV感染率が高いため)というのは、以前から言われていることなので、移民の割合が高い地域がSIRが高いというのは当然のことです。 もう一歩踏み込んで、HCVとHBVのデータも入れることができればもっと良くなった(これは論文でも触れていますが)のかもしれません。飲酒などの共変数の影響が消えてしまったのもイマイチな印象。相関があるのと、因果関係があるのは別次元の話なので、感染のデータが無かったのは実に残念です。
 この論文は、クラスター解析をやったから載ったのかもしれません。 
空間統計解析は面白いです。この辺の数学はちょっと大変だけど。。
クラスター解析についてはまたちょくちょくまとめたいと思います。マッピングの苦労は、きれいに解析できると報われますね~。




Outcomes Following Coronary Stenting in the Era of Bare-meral vs the Era of Drug-eluting Stents
JAMA,June25,2008 Vil 299, No. 24 David J.Malenka, Aaron V.Kaplan, et al

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Background
DESは、BMSに比べて再狭窄を減少させるが、ステント血栓症の増加が懸念されている。本研究では、ステントの種類別に人口に基づくアウトカムを調査した。

Method
待機的冠動脈ステント留置術を受けた症例における医療ベネフィットを、DESの使用可能時期別に比較。
 2002年の10月から翌年3月までのメディケア症例で、BMSのみが使用可能であった時期に待機的に冠動脈ステント留置術を実施した38917例をBMS時期のコホートとし、2003年の9月から12月にDESが使用可能となった28086例のうち、DESを留置した61.5%の症例とBMSを留置した38.5%の症例をDES時期のコホートとした。

Outcome
 冠動脈の血行再建(経皮的インターベンション、CABG)、ST上昇を伴う心筋梗塞、2年の経過観察中の生存。
 DESコホートは、BMSコホートより、2年の経皮的冠動脈インターベンションの実施(17.15 vs 20.0% p<0.001)とCABGの実施率が低かった(2.7% vs 4.2%)。 BMSコホートとDESコホートにおけるこれらの違いは、リスク調整後も有意であった(ハザード比 0.82 ; 95%CI 0.79-0.85)。 2年間の未調整死亡リスクに差はなかったが、(8.4% vs 8.4% p=0.98)、ST上昇を伴った心筋梗塞のわずかな減少が認められた(0.96 95%CI 0.92-1.01)。

Discussion
DESの使用は、BMS使用より血行再建実施率を減少させたが。2年間の死亡とST上昇を伴う心筋梗塞の発生率は同等であった。

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・DESの真の血行再建実施率がよくわからなかった。
 →保険からの支払額が低すぎて分割している可能性もある。
・患者要因が分析に入っていない。
・1年くらいでは、DES使用例の方が再狭窄が少ないことは既にわかっている。
・臨床試験では、FDAの適応症例を選んでいるので、このような結果になっている可能性も。
  →実際は、FDAの適合例以外の患者が多数いる
・JAMAに載ったのは、100% national sampleだからではないか?


このDESのステントとMBSの違いはよく論文になってましたね。
DES導入開始となってから、供給不足が起こるため、
どのラインのデータを分析するかも重要なところです。