「はい・・・あ、いえ、休暇は確かに取ってるんです。ただ、どうしても連絡が取りたくて・・・はぁ、朝から・・・行き先とかは・・・そうですか。わかりました。ありがとうございます。帰宅されたら、私に電話するよう伝えて頂けますか?遅くなっても構いませんので・・・はい、よろしくお願いします」
「坂本、どうだった?山田と連絡は取れたか?」
「駄目ですね。携帯がつながりません。今は自宅にかけてみたんですが、妹さんしかいませんでした」
「休暇中に電話するのは気が引けるが、これはちょっとな・・・山田に聞いてみないと対処できない。しかし、つかまらないのか」
「土日も働き詰めが普通、なんて人ですからね。たまには休ませてあげたいという気持ちもあるんですが・・・」
「とりあえず、俺は先方に行って、状況を確認してくる。お前はここを頼むよ」
「はい。私はもう少し山田さんを捜してみます」
「ん、それは構わんが。あてはあるのか?」
「山田さんの親友という方に面識があるんで、連絡先を探してみます。休日なら一緒にいるかもしれません」
「そうか、解った。向こうに着いたら連絡する。できるものなら山田抜きで片付けたいしな」
「そうですね。よろしくお願いします」
「はい、もしもし、は・・・? あぁ、雄介の職場の・・・いや、ここには来てないよ。うん、知らないなぁ・・・わかった、会ったら伝えておくよ」
幼馴染である、親友、山田雄介の職場の後輩からの電話だった。雄介と連絡が取りたいらしい。
小さい頃から「末は博士か大臣か」と言われるくらい優秀で、なおかつお人よしで面倒見のいい雄介には、僕もずいぶん世話になった。いや、現在進行形で世話になってるか。もう、仕事やめて二ヶ月経つし。
その雄介だが、今どこにいるかというと・・・
「ん?もしかして俺に電話だったのか?」
僕の部屋でゴロゴロしていた。
「あぁ、前に飲んだときお前が連れてきた坂本って後輩から。なんかトラブルみたいだった。会社に電話してほしいって言って」
「そりゃー大変だー」
棒読みかよ。珍しく他人事のような反応だ。何かあったのか?
「今日はお前、携帯鳴ってもずっと出てないじゃん。だから一応、いないことにしといた。良かったか?」
「あぁ、悪いな」
「平日の昼間に僕の家でだらだらしてていいのかい?」
「お前が言うな。ハロワ行けハロワ。俺は有給だ。なにもしないってのも、たまにはいいもんだな」
「みんながむしゃらに働きすぎなんだよ。もっと欧米や僕を見習うべきだ」
「年間休日の格差は、笑えないのを通り越して笑えるな。でもお前は働け。まず、仕事を探せ。あと嫁も探せ」
前の仕事も雄介が一緒に探してくれた。仕事についてのアドバイスをしてもらったこともある。そこを辞めてしまったあとも、愛想を尽かさずこうやって気にかけてくれる。本当にお人よしだ。
そんな雄介も、唯一、金だけは貸してくれない。いや「ちょっと小銭が無かった」程度ならもちろん貸してくれるし、それくらい返さなくてもいいと言ってくれる。だが、「今月食費が足りそうにない」と相談したことがあるのだが、まさか食材を持って家にきてくれるとは思わなかった。その後、その食材で食いつなげるように、しっかり料理まで教えてくれたのだ。うちの冷蔵庫には、雄介の手書き簡単レシピがたくさん貼り付けてある。「金は貸さない。力と知恵は貸す」というのが雄介のモットーらしい。ちなみに雄介にも嫁はいない。
「明日・・・は寒そうだから来週、いや来週もまだ寒いか。来年になったら本気出すよ」
「俺の家で同じこと言ったら蹴るからな。今日はお前の家だから自重しておくが」
「そういえば最近、雄介の家に行ってないな。恵ちゃんは元気かい?」
「恵なら、大学が冬休みでずっと家にいるよ。だからなんとなく、俺の居場所がなくなる。レポートだなんだと、手伝わされるしな。ってか恵はお前にはやらんぞ」
いや、そんなつもりはなかったが。まぁ、それほど悪い話でもないな。雄介をお義兄さんと呼ぶのは遠慮したいところではあるが、いよいよとなったらそれもアリかもしれない。しかし、僕がいよいよなる頃には、もう恵ちゃんが嫁にいってるかも・・・うむむ・・・
「なに考え込んでやがる。俺はいい考えを言ったつもりはないからな。とりあえず仕事探せ」
「ぐうの音も出ないね。まぁ、それはいいとして、社会人として働いてる雄介は会社に連絡しないのかい?」
「なんで?」
「なんでって・・・坂本君は困ってたみたいだが」
「俺は休日だろ」
それはそうなんだが。いいのか?おい、その「なにが?」って顔やめろ。なんだそのキャラは。お前のそんな顔初めて見たぞ。話し辛い・・・
「悪い悪い。ちょっとふざけてみただけだ。そんな顔すんなって」
「いや、それは僕が言いたかった。さっきのお前の顔の方がありえん」
「でも、そんなに変か?いや、顔じゃなくてな。たまの休みなんだから、ゆっくりしたいじゃないか」
少なくとも、僕の知っている雄介はそういう人間ではない。電話どころか、会社まですっ飛んで行く場面だ。
「まあ、急なトラブルでの休日出勤は、いつものことだな」
「それが今日に限ってどうしたことだい?恵ちゃんのことも珍しいな。レポートを手伝うのが嫌なわけではなかろうに・・・学会に出せるレベルの課題が完成して、発表の時に恵ちゃんが困るって結果になりそうなもんだろ」
「うん、それは夏にあった」
あったのか。あんたどんだけ能力高いんですか。本当に末永く仲良くしてください。
「恵はめちゃくちゃ怒られたみたいだな。そして家では俺が恵に怒られた。頼まれたから手伝ったのに、理不尽だろ。それでいて、また手伝わせようとするんだぜ?恵のレベルに合わせて、適度に手を抜いて、間違えればいいのか?会社の奴らも、同じようなもんだろ。休暇中の申し送り資料はすべて準備している。なにが起きても自分達の手で解決すべきだろ」
「いや・・・それは、その、たぶん、イレギュラーなことが、あって・・・」
何で僕が弁護してるんだ?
「いや、すまんな。でも、あるんだよ。矛盾してること言うけど、イレギュラーで普通なんだ。どれだけ準備しても、想定外のことが起きる時は起きる。その対処までが仕事だろ。聞いてないから解りません、じゃ駄目なんだよ。ああ、もうっ!どいつもこいつもなにもかも、俺のところに持ってきてっ!!俺はなんなのっ!?辞書なのっ!?グーグルなのっ!?ウィキペディアなのっ!?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「すまん。なんだか一気に吐き出した」
「雄介、ごめんな」
「お前が謝るところじゃないだろ」
違う。僕はいつも、雄介に頼ってばかりだ。困ったことがあったら、雄介に電話して。家に行って。それで、なんとかしてくれるのが、あたりまえだと思っていた。もしかすると、一番迷惑をかけているのは、僕かもしれない。
「雄介にとって、そんな重荷になってたとは・・・」
「誰が言った?」
「えっ、と・・・」
「誰が重荷だなんて、言ったんだよ?」
今、雄介が言って・・・ない、な。うん、確かに言ってない。
「でも、そういう意味じゃないのか?」
「違うね。俺は人から頼りにされるのが好きだ。頼りにされる自分を誇りに思う。同僚からも、家族からも。もちろんお前からも。そして、ありがたいことに、俺は応じられる能力を持っている。まぁ、必ずってわけじゃないが。頼りにされて、助けてやれることが、なによりうれしい。好きでやってるんだよ」
「だけど、実は俺は、あんまり強い人間じゃない。その意味ではお前の言う通り、重荷なのかもな。でも、重荷だけど、宝だ。誰にも渡したくない。抱えていられるのが、俺なんだ。今は少しだけ、手をはなした。そうしたら力が抜けて、つい一緒に、弱音がこぼれた。まぁ、現実問題として、人に頼ってばかりなのも、どうかと思うしな。俺しかできない仕事、なんて立派そうに聞こえるが、実際は駄目だ。誰でもできるように工夫すべきだろう。かと言って、誰もが俺を頼りにしなくなったら・・・それは、好ましいことなんだろうとは思うけど・・・きっとその時、俺は少し悲しい」
「雄介もたまには、人を頼っていいんじゃないか?」
「嫌だ。俺は、頼れる男でいたいんだよ」
さいですか。まったく、面倒見がいいのに、面倒な奴だ。大丈夫、そんな顔しなくても、今聞いた話は誰にも言わないし、僕も忘れることにするよ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「会社に電話するかい?」
「あぁ、あたりまえだろ」
本当、頼りになるやつだ。