どぅばの倉庫 -15ページ目

どぅばの倉庫

煩悩廃棄物倉庫


 私とチアキにはもう一人、小さい頃から一緒に遊んでた子がいたの。アキラっていう男の子なんだけど、やっぱり家が近くで、まあ、その子と遊んでいたのは小学校4年生ぐらいまでかな?女の子二人に男の子一人だと体裁が悪くなったのかしらね?あまり遊ばなくなっていったわ。もちろん、仲が悪いわけじゃないから、会ったときは仲良く話もするし、うん、その頃でも他の男子よりは仲良くしてたの。
 チアキも同じように、というよりチアキは男子が苦手だったから、唯一普通に相手できるのがアキラだったわね。でもやっぱり、人を避けるようになってからは全然、お話すらしてなかったみたいだけど。

「藤原と最近、また仲がいいんだね」
「えっ?ああ、うん。同じクラスになったしね」

 お昼休みにチアキの言うところの「外でボールをおっかけまわしてる」そんな時だったわ。たまたま一緒になって遊んでて、そんな時に突然聞かれたの。

「いつからかわからないけど、ずっと一人だったよね。気になってたんだ」
「気になってたんなら何とかしてよ」
「いや、そうは言ってもさあ、おっと」

 遊びの最中だったからお話は途切れ途切れ。アキラが言うには、女子の事情だろうから下手に男子が入らない方がいいと思ってたみたい。それは正解ね。女子とは、もちろん避けられてるからってこともあるけど、でも全然付き合いのない子が特定の男子とだけ話をしていれば、それはそれで変な目で見られるわ。

 アキラは特別女子から人気があったわけではないけれど、その頃の中学校ではね、男子の髪型は丸坊主って決まってたの。可笑しいでしょう。まあ、決まりは決まり、だからね、人気があったのはスポーツマンね。ただアキラは、どちらかといえば運動は苦手だったけど、容姿端麗というわけではなかったけど、とにかく頭が良かったの。テストではいつも一番。だから目立つ存在ではあったのよ。

「チアキが気になるの?」
「うん。なんかおとなしすぎて、昔からほっとけないところがあるからね」
「ぷっ、確かに」
「沢村は…ほっといてもしぶとく生きていくんだろうけど。」

 失礼よね。私は仕返しに、何でそんなにチアキが気になるの?他に理由があるんじゃない?ってからかってやったわ。アキラは真っ赤になってたけど、本当のところはどうっだったんでしょうね?

「理由はもうわかってるの?」
「何?チアキのこと?」
「うん。無視されてる理由」
「そうね、アキラが想像してるのとはちょっと違うかもね。理由はわかってるんだ」
「聞いてもいいかな?」

 私はまた茶化そうと思ったんだけど、アキラの顔を見てやめたの。真面目な顔だったのよ。それでも、飛んでくるボールには対応してたけど。

「私からは言えないんだ、ごめんね」


 私ね、その後すぐにチアキに伝えたの。アキラが気にしてたよって。そうしたらね、なんとチアキも顔を赤くして、

「え…?アキ…ラ…君が…?」

って、うつむいちゃって。でも、嬉しそうだったのよ。私はピンときたの。わかるでしょう?だから、これはアキラも仲間にいれなくっちゃ、そう思ったわ。

「ねえ、チアキ。アキラにも相談してみたら?」
「えっ!な…何で?」
「アキラ、頭いいじゃん。それに…ムフフっ!」
「ちょ、カナっ!」
「あはは!多分、や、絶対力になってくれるよ。アキラなら何かいい方法を考えてくれそうだし」

 その時の私はね、二人のキューピット、というようなことも一応考えにはあったんだけど、でもそれより、仲間が増えるというか、チアキが普通にできるお友達が増えることの方が嬉しかったの。全然知らない人を紹介するわけでもないし、それに、アキラは本当に物知りだったから、きっと頼りになると思ったの。
 でも、チアキは拒んだわ。やっぱりね、人に知られたくないんですって。ずっと、二人だけの秘密にしときましょうって。でもそうなったら、もしかすると一生チアキの友達は私一人になっちゃうかもしれない。チアキはそれでもかまわないって言うんだけど、そういうわけにはいかないわよねえ。

「ダメだよ、そんなんじゃ」
「うう…でも…」
「でもじゃないよー。私だって多分人生設計があるんだから、ずっとチアキと一緒ってわけにはいかないんだよ」
「ぷっ、多分って。どうしてもアキラ君じゃないとダメなの…?」
「他の人がいいの?」
「…他の人はもっと無理…です…ううー…」


 チアキが一人だった理由について、アキラはしつこく聞くようなことはなかったけど、それでもその日を境によく声をかけてくれるようになったわ。クラスは違ったけど、教室移動のときに会ったらちょっと立ち話をしたり。
 だんだんね、休み時間はチアキと廊下で話をするようになったの。私がさりげなくそうし始めたんだけど、そしたらね、アキラが時々参加してくれるのよ。チアキも嬉しかったみたい。そしてついに、アキラを図書室に誘ったの。お昼休み一緒にどう?って。まあ、チアキは「えっ?」って顔をしたんだけど、私が誘っちゃったのよ。

「ずいぶんマニアックな本を読むんだねえ」
「うん、最近ね、興味あるんだ」
「何か調べ物?」

 チアキったら、その日に限って普通の本を選んできてるのよ。可笑しいでしょう?おかげで私の趣味かと思われちゃったのよ。
 ちょうどそのとき私が持ってきてたのはある科学雑誌。怪奇現象や超能力を特集していたんだけど、実はアキラもこういうの好きだったの。チアキには悪いけど、話が弾んじゃったわ。あ、もちろん、チアキも話には入ってきたわ。といっても、最初は私が引っ張り込んだんですけどね。

「調べるって言うよりは、ただ読んでるだけなんだけどね。不思議なことって、結構あるもんだねえ」
「そうみたいだね。でも、この本って随分前のやつみたいだけど、今ならもうトリックがわかってたりするかもね」
「トリック?」
「うん、全部ってわけじゃないんだろうけど…意外とウソが多いみたいだよ」
「大掛かりな手品みたいなもの?本当の話はないの?」
「うーん、どれが本当の話なのかは僕にはわからないけど…でも、僕はほとんど信用してないよ」
「でも、結構詳しいよね?」
「うん、信用はしてないけど、例えばこの本みたいに超能力が使える人が実際にいたら面白いなあって思うじゃん」
「…面白い…かなあ…?」

 チアキは不満そうとも不思議そうとも見える顔で、そうつぶやいたの。私もアキラの意見には賛成だったわ。でも、チアキは身近にそういう人がいたら怖くない?って言うの。

「もちろん、その人が悪い人だったら大変だよね。うん、怖いと思うよ。そういう能力を使える人は正義の味方みたいな人がいいな」
「それはそうよね」

 じゃあ、もしアキラがそういう能力を持っていたら、とか、こんな能力が欲しいよね、なんて話をしてたんだけど、チアキがね、聞いちゃったの。

「もし…もしもだよ。私…が、そんな力持ってたら…どう?」

 急な質問に私は固まってしまって、アキラも「へ」だか「ほ」だかわからないような声で返事をしたわ。私はまさか、チアキがそんなこと言い出すとは思ってなかったし、アキラにとってもチアキがそういう冗談を言うのが意外だった見たいね。

「藤原が超能力者ならそれこそ全然怖くないよ、ははっ」
 次の日、いつもと違ったのは、朝待ち合わせの場所にチアキがいなかったこと。おかしいなって思って、十分ぐらい待っても来なかったから一人で学校に行ったの。チアキはもう来てたわ。

「ちょっとー、先に行くなら言っといてよー」

 別に怒ってたわけでもないし、変だなって思ってただけなんだけど、チアキは泣きそうな顔で、

「あ、おはよう…ごめん…」

って言っただけですぐその場を離れちゃって…私、気が付いたの。チアキは昨日のことを気にしてるって。なぜそれまで気付かなかったのが不思議だったわ。私は「チアキお手柄だったね」ってぐらいの気持ちだったの。
 でも、あなた達ならわかるかしら。そう、チアキは自分のせいで私が倒れてしまったと思っていたのね。自分の、自分ではよくわからない能力が、もしかすると人を傷つけてしまうかもしれない、そう思って他人とできるだけ関わらないようになったチアキですもの。

 その様子は周りの子たちも見てて、変だなって思ったみたいで、何人か私に声をかけてきたわ。でも、「どうしたの?」って聞かれても、「うん、ちょっとね。」ぐらいにしか答えようがなくて、だって、本当のことを言うわけにもいかないし、何より私が落ち込んでたから…あまり人と話をする気にはなれなかったのね。だって、先生のデリカシーのなさには腹を立ててたくせに、自分は全然チアキのことを思いやっていなかったわ。本当なら、昨日のうちに声をかけておくべきだったの。私が倒れたのは不可抗力で、チアキのせいじゃないって、お話しとくべきだったの。

 そんなことを考えているうちに、朝のホームルームが終わって私とチアキの二人は職員室に呼ばれたの。

「昨日は大変だったんだって?」
「はい、でも大丈夫ですよ」

 私は元気よく答えたわ。ちょっとぶつかったときにびっくりして、それで気を失っただけで体はなんともないですよって。チアキに言い聞かせるように。

「そうか、それなら良かった。いや、ひったくりの被害者の女性から学校に電話があってね。お礼をいわれたよ」
「そんな、たまたまぶつかっただけですよ。犯人を捕まえようとか、そんなこと考える暇すらなかったです」
「まあ、それでもな、先方さんは助かったわけだ。自分を犠牲にしてまで男を止めてくれた、なんて言ってたがな、わはは」

 自分を犠牲に、ってところでチアキがビクッて反応したわ。先生は気付かなかったみたいだけど。

「言いすぎですよね。私だって、自分の力で泥棒を捕まえたんだったら学校中に自慢して歩くんですけど」

 チアキはずっと黙ってたわ。先生は「そりゃそうだ」なんて笑いながら、私もできるだけ笑い話にしようと思って。先生と話しながら、それでも頭の中ではどう言ったらチアキが気にしなくてすむだろう?チアキも笑ってくれるだろう?って、ずっと考えてたの。
 でも、結局チアキは話には参加せずに、ずっと黙ってたの。

 その後チアキは、教室に戻るときも早足だったし、休み時間もすぐいなくなって、なんだか私を避けてるみたいだなってのがわかったわ。朝のうちはショックだっただけなんだけど、だんだん腹か立ってきちゃったの。だって、避けられる理由はなんとなく想像できるけど、じゃあ、私の気持ちはどうなるの?って思うでしょう。だから私は、お昼休みに図書室で待ち伏せしたの。

「ちーあき!」
「ひゃっ!」

 それまで何度か、お昼休みをチアキと図書室で過ごすこともあったけど、たいてい私は、やっぱりというか、外に遊びに行ってたの。だから、私が先に図書室にいるとは思ってなかったみたい。凄くびっくりしてたわ。

「あ…の、あ、あれ…?」
「うん、ちょっと外で話しよう」

 私は強引にチアキを外に連れ出して、図書室は校舎の一番はしっこだったから、ちょうど図書室の裏あたりね。そこなら普段、人もいないし、チアキと話をするにはちょうどいいと思ったの。

「で、今日の態度は何?」
「あ、あの…ごめん…」
「ごめん…って、私に何か悪いことしてるの?黙って避けられてちゃ何にもわかんないよ?」
「あの…だって、昨日…」
「あー、やっぱり昨日のこと気にしてるんだ。あんなのどうってことないよ。見ての通り、私元気だよ」
「で、でもね…」

 チアキはうつむいたまま、涙声で話し出したわ。

「でも…昨日のはたまたま何ともなかったけど…次はどうかわかんないんだよ!カナが怪我するかもしれない!死んじゃうかもしれない!」
「そんなこと…ないよ?」
「どうしてそう言い切れるの?そんなのわかんないじゃない!」

 私は何も言えず…涙まで溢れてきて…そう、確かにわからないの。チアキの声はだんだん大きくなって、泣きながらいろいろわめいたわ。もう死にたいって。私、凄く悲しくて…

「だからね、カナ…もう、私にかかわらない方がいいよ…」
「そんな…」
「近寄っちゃダメっ! …いま…こうしてるだけでも…私の手、凄く熱くなってる…うっ…ううっ…」
「チアキ…」

 そのとき、何で私がそういう行動をとったのか、あれだけ拒否していたチアキがどうして避けなかったのか、よくわからなかったんだけど…私ね、泣きながら、いつの間にかチアキの手を握ってたの。多分、熱すぎて火傷どころじゃなかったわ。ジューって聞こえたくらいですもの。

「カ…ナ・・・?」
「大丈夫よチアキ。ほら、手だってつなげる…」
「だ、ダメよっ!」

 チアキは手を振りほどこうとしたけど私は離さなかった。なんだかね、ここで手を離したら一生後悔するって思ったの。それにね、焦げ付いちゃって離れなかったのよ。凄いでしょう。
 チアキは泣きながら「ごめんね、ごめんね」って繰り返して、手をほどこうとしてたの。私は痛みで気を失いかけてたわ。
 でもね、ほら、私の手、やけどのあとなんてないでしょう?もう、歳が歳だから綺麗な手、とはいえませんけどね。あの時ね、しばらくチアキと手をつないだままだったんだけど、いつの間にか痛くなくなって、熱くもなくなって、気が付いたら私の手は傷ひとつない、もとのまま。

「チアキ!見て見て!」
「…あ、あれ?」
「ほらっ!大丈夫じゃない!怪我なんかしたって、チアキがすぐ治してくれるよ!」

 チアキもまさか人の傷まで治せるとは思ってなかったのね。きっと、そんな機会もなかったでしょうし。私も嬉しいやら、びっくりするやら、もう何がなんだかわからなくなって、泣きながらチアキに言ったの。

「私だって、いろいろ辛かったんだよ。せっかく同じクラスになったらチアキは無視されてるし。チアキの周りで変なことが起こるって話も聞いてたよ。チアキだって辛かっただろうけど、無視されてる子に声をかけるって、どんだけ勇気いるかわかる?」
「ごめん…」
「もう、謝んないでよっ!それでも私はチアキが好きだから…小学生の時はずっと一緒にいたじゃない!中学生になった最初の頃も、一緒に帰ったりしてたじゃないっ!うう…うえっ…ごめんね、チアキが辛かったの気付いてあげられなくて…ごめんね…」

 久しぶりに泣いたわ。こう見えても強い子だったのよ、あの頃は。チアキも泣いてて、泣きながら二人で話して、もう、一人で抱え込まないでって。この不思議な出来事は、二人で考えて解決していきましょうって。約束したの。その後すぐ「二人」じゃなくて「三人」になったんですけどね。

 家に帰ってすぐ、私はチアキに電話したの。内容は美術の時間に話した本のこと。小学生の頃は私とチアキの本の趣味は合わなくて、チアキは小説、と言っても小学生でも読めるような児童書ね、そういうのが好きだったんだけど、私は専ら漫画やファンタジー小説が好きで、だからチアキがそういうの読むようになったって聞いて、まあ、本当は違ったんだけど、そういうことにして私のおすすめの本を貸してあげようと思ったの。でも、それは口実。

「そういえば、チアキは朝何時頃学校に行ってるの?」
「七時半ぐらいかな」
「はやっ!もう十五分遅くしようよ」
「え?何で?」

 朝のホームルームが始まるのが八時半、生徒は八時十五分までに学校に行かなくてはいけなかったの。私達は家がわりと近くで、学校までは自転車で通ってたんだけど、普通に行けば十五分、急げば十分ぐらいで着く距離だったわ。

「私がいつもより十五分早く出るようにするからさ。一緒に学校いこう!」

 それが本当の目的。それからは毎日、チアキと登校するようになったの。休み時間も結構おしゃべりするし、学校帰りにお互いの家に寄ったり。でもね、周りはそんなに上手くはいかなかったわ。ううん、どちらかと言うと悪い方に向かってたの。
 チアキは私以外とはほとんどしゃべらないし、他のみんなもやっぱりチアキのこと避けてたし。それでね、悪い方向っていうのは、多分わかると思うんだけど、案の定っていうか、私まで避けられるようになったの。もちろん、仲の良い友達もいたから、チアキが気にするほどには問題はなかったんだけど。まあ、仕方ないわね。

 え?不思議なこと?そりゃ起こったわよ。一緒にいるときにはっきりと見せてもらったわ。しばらくの間は目に見えて不思議なことっていうのは起こらなかったけど。あれ?って思う程度のこと。
 でもね、ある日、私の家でテスト勉強してたときだったかしら、夕方、といってもだいぶ薄暗くなった時間にね、窓を開けっ放しだったの。そしたら、あ、その頃はもっと山の方に住んでいたんだけど、窓から虫が入ってきてね、チアキに向かって。カナブンだったんだけどいきなりだったからチアキがびっくりして、こう、手で払いのけるじゃない?そうしたら、カナブンが床に落ちて…なんと真っ黒コゲだったの。

「おお、不思議なことができるんだね」

 そういうところを見られて困惑してたのかしら。チアキは黙ってうつむいてしまっってたわ。だから私は、明るくそう言ったの。

「う…ん、最近ね、なんだか変なの…」
「へー、でもすごいじゃん。カナブン真っ黒だよ」

 丸コゲのカナブンを下敷きですくいながら、それこそ世間話をするように、カナブン臭いねっていいながら。

「……怖くないの?」
「え?そりゃ、チアキが私を真っ黒コゲにしようって思うなら怖いけど。そんなこと…しないよねぇ?」
「当たり前じゃない!そうじゃなくて…私…変だよ…?」
「うーん、変だねー。でも、怖くはないよ」
「……そう?」
「ね、他にどんなことができるの?」

 そう聞いたんだけど…チアキが泣き出しちゃって。私も慌てたわ。よっぽど思いつめてたのね。一生懸命、隠してたんですって。泣きながら話してくれたわ。
 そのときのチアキは、その不思議な力が何なのか、何で自分がこんなことになってるのか、ずっと悩んでいたの。それに、自分が「何ができる」ではなくて、気が付いたら勝手におかしなことがおきてて、自分にはどうしようもなかったんですって。だから、できるだけ人と関わらないようにしてたのね。

「だからね…読んでた本はファンタジーとかじゃなくて…本当に魔法とか、その歴史とか、あと錬金術とか…怪奇現象を集めた本とか…ごめんね、ウソついて…」
「えー、それはウソじゃなくて私の早とちりだよ。細かいこと気にしないの。で、何かわかったの?」
「それが全然…でも、昔から変な力を持った人って酷い目にあってたみたいで…私、怖くって…」

 魔女狩りの本ね。あと、オカルト雑誌なんかも、どちらかといえば怖いことしか書いてないじゃない?だから余計に、チアキはこのことを人に知られたくなかったみたい。

「うーん、人に知られない方がいいのかなあ?まあそれはチアキ次第だからいいんだけど…私の前では気にすることないよ」
「うん、でも、気を付けとかないと…まだ…その…誰かに怪我をさせたことはないけど…」
「あ、そうか。カナブンが黒コゲになるわけだもんねえ」
「そう…今のは多分、電気が走ったみたいなんだけど…」
「電気?」
「うん。なんかビリってした。他にはね、指先がものすごく熱くなったり、触ったものが冷たくなったり、勝手に濡れたり乾いたり、それと、包丁でちょっと切った傷がすぐに治ったりもするの…」
「すごいじゃんっ!」

 そんなことがあって、私とチアキは秘密を共有することになったの。チアキはその後、私の前ではだいぶリラックスできるようになったって言ってたわ。普段は何も起こさないようにずっと気を使ってたんですって。
 でもね、やっぱり事件が起こったの。えっと、巻き込まれたのかな?でも、いいことだったのよ。

 ある日曜日、私とチアキは二人で街まで買い物に出かけたの。電車に乗って。二人ともすごくはしゃいでてね、だって、二人でお出かけなんて初めてだったのよ。小学生の頃はそんなことさせてもらえなかったから。今では考えられないでしょう?
 それにね、全部自由かっていうとそうでもなくて、お金はいくらまでしか持ったらいけません、とか、何時と何時には必ず電話で連絡すること、とか、とにかく親といろいろな約束をして、やっとお出かけできたの。電話だって公衆電話。街中にはいっぱいあったのよ。
 目的の本屋さんをでて、ちょっとアクセサリーでも見に行こうって、そんな時だったわ。後ろの方から女の人の叫び声が聞こえたの。

「その人捕まえてー!ドロボー!」

 びっくりして振り向いたら男の人が走ってきて、私たちの間を駆け抜けようとしたとき思わず手を伸ばしたの。

バシッッッッ!

 その時のことで私が覚えているのはそこまで。気が付いたら病院だったの。気を失って救急車で運ばれたんですって。

 チアキが泣いてて、私の両親、チアキのお母さんもいて、警察から少し質問されて、女の人からたくさんお礼を言われて。特に問題なさそうだからそのまま帰ることになったの。それぞれ親がきてたから別々。その時はまだ、頭がぼーっとしてたわ。

「もう、びっくりしたわよ!」
「ごめんなさい…」
「まあ、カナが悪いわけじゃないしね。おかげでひったくりも捕まったみたいだし。あの人、是非お礼をなんて言うんだもの。とんでもない」
「たまたま犯人がぶつかっただけだからな。何にしろ、怪我がなくて何よりだ」

 あの時、私は走ってくる犯人を捕まえようとして、手を伸ばして、気を失って。聞いた話では犯人もその場で気を失ったらしくて、だから私とぶつかってそうなったんだってみんな思ったらしいの。もちろん、気を失うほどの勢いでぶつかったのに二人とも全然怪我がなくて、それに、それほど遠くまで吹っ飛んだわけでもないから「変だな」って話にはなってたみたいだけど、それ以上進展しなかったみたい。
 私には何があったのかわかっちゃったわ。黒コゲにはなってなかったけど。