どぅばの倉庫 -13ページ目

どぅばの倉庫

煩悩廃棄物倉庫


「まあ、可愛い子には旅をさせろってことね」

 わははははって豪快に笑いながら、お母様は許してくださったわ。それに、私たちの親にもお母様の方からもお願いしてくださるって。もちろん、目的は自由研究ってことでね。

「おばさんもね、魔女さんが魔法を使うところを見たことあるのよ。転んだ男の子の擦り傷がすぐに治ったわ。ただね、人に話しても信じてくれるわけないじゃない?」
「…そう、ですよね…」
「だからね、おばさんは忘れることにしたの。もちろん、否定してるわけじゃなくてね。魔女さんのためにもあまり騒がない方がいいのかなって。だからね、おばさんはチアキちゃんのことも知らないからね。バカ息子が火傷しなかったってだけで十分よ」

 お母様の出した条件は、まずは私たちが自分で親にお願いすること。ダメだと言われれば、お母様からお願いしてくださることになったの。それと、自由研究もきちんとすること、宿題もすること。

「でもね、チアキちゃんや魔女さんのことでわかったことは別に報告しなくてもいいわよ」
「え、いいんですか?」
「あなた達の事情だしね。子供は子供同士の秘密を持ってるもんよ」

 結局、私の親は何故かアキラのことをすごく信用してて、「アキラ君が一緒ならいいよ」なんて言って、簡単に許してくれたの。私には妹が二人いて、その子達が「一緒に行きたい」って言うのをなだめるのに苦労したぐらいかしら。チアキの家は、チアキはね、その時はお母様と二人で暮らしてたから、あ、お父様はね、お仕事で外国に行ってたの。夏休みの終わり頃に帰ってきたのよ。だからやっぱり、簡単に許してくれたそうよ。
 アキラのお母様がおば様に都合をつけてくださって、それとね、橋本さんがまだその住所に住んでらっしゃることも確認してくださったわ。簡単な地図まで書いてくださったのよ。そんなこんなでね、私たちは八月の初めにおば様の家にお泊りに行くことになったの。

 アキラのおば様は私たちを暖かく迎えてくれたわ。ごく普通の田舎の一軒家に、おじ様とおば様の二人暮し。子供はよそで働いてたり大学生だったり。久しぶりに家がにぎやかになって嬉しいって言ってたわね。

「部屋はこことこっちを使うといいわ」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、私はこっちを使うから、アキラとチアキは…」
「ちょ、バカっ!」
「おい、沢村…」
「え、何?アキラ、私とが良かった?」
「な、何を言って…」
「あらあら、本当に仲良しさんなのね。アキラちゃんがずいぶん久しぶりに来たかと思ったら、女の子を二人も連れてくるなんて。ムフフ!」

 おば様がそんなことを言ったもんだから、アキラは部屋割りの話よりそっちの方の説明に一生懸命だったわね。
 荷物を置いてしばらくおば様とお茶を楽しんだ私たちは、早速行動を開始しましょうって、おば様には外に遊びに言ってくるって伝えてね、橋本さんの家に行くことにしたの。夕飯までには帰らないといけなかったからそれほど時間もなかったけど、でもね、三泊四日の予定だったから、それこそ時間が惜しくてね。自由研究もしなくちゃいけなかったから。

 地図どおりにたどり着いた家の門には、しっかりと「橋本」って表札があったわ。私たちは恐る恐る呼び鈴を押したの。

「はいはい、どちらさん?」

 ガラガラガラって、戸を開けて顔を覗かせたのは、そうね、これぞおじいさんって感じのおじいさんだったわ。頭も禿げ上がってるし、残ってる髪の毛は真っ白だし、真っ白なヒゲも生えていたのよ。

「こ、こんにちは。初めまして。あ、あの僕たち…」
「んー?見ない顔じゃな。ワシに何かようかい?」
「あの…私たち、ま、魔女さんに…」

 あわててそう言った私はアキラから、「失礼だよっ!」って小声で注意されて、確かにそうよね。いきなり「魔女」だなんて。で、すぐに謝ろうと思ったんだけど、橋本さんはニコニコしててね、

「おお、ばあさんの知り合いかい?まあまあ、とりあえずあがりんさい。線香でもあげてやってくれ」

 そういって家の中へ入れてくれたの。話しやすい、とっても気さくな人だったわ。お部屋に案内されながら、簡単な自己紹介をすませたの。魔女さんにお線香をあげてる間に、お茶まで準備してくださったのよ。

「で、ばあさんとはどんな知り合いなんだい?」
「あの、僕の祖母が以前お世話になったんです。あ、祖母は峰時って言います」
「おお、峰時さんかい。よく覚えているよ。いつもばあさんに手紙をくれとった」

 珍しい名前だったから、そう付け加えて、そのままアキラのおばあ様の話になったわ。今どうしてる?から始まって、おばあ様の病状とかね。魔女さんはおばあ様より年上だったそうよ。

「で、そっちのお譲ちゃんが魔女なのかな?」

 突然の質問に私達はびっくりしてね。ただ、首を縦に振ることしかできなかったわ。

「なるほど、やっぱりそうじゃったか。ん、なんとなくばあさんと同じ雰囲気じゃのう」
「に、似てるんですか?」
「うん?なんとなくな。まあ、ばあさんからきっと魔女が訪ねてくるからよろしく頼むと言われとったからの。それを覚えとったからピンときたんじゃよ」

 私達は顔を見合わせたわ。だって、自分たちが来ることを魔女さんは予言してたってことじゃない。チアキだってそんなことできないし、魔女さんはそんな力もあったの?って聞いちゃったのよ。

「いやいや、予言なんてたいそうなもんじゃないわい。はっは、どうやらそういう決まりみたいじゃぞい」
「決まり?」
「うむ、ばあさんには確かに予知能力?と言えるかどうかもわからん程度の力ならあったがの。それじゃなくてな、魔女の間では古い魔女、あるいはその関係者が、若い魔女に話を伝えるようになっとるんじゃよ」

 わけがわからなかったわ。私達は当然そんなこと知らないし、でも、ここへ来るのが、橋本さんに会うのが運命だった、ってことよね?

「その辺はわからん。お前さんたちがここに来なければ、近い将来また別の魔女のもとに行くかもしれんし、第一、それが決まりじゃといわれても、それを確かめる術はワシらにはない」
「じゃあ、世の中には魔女がたくさんいるってことですか?」
「それもワシにはわからん。ただ、ばあさんは生きとった頃、二人の魔女と、それらとは別の魔女と関係した一人と会ったことがあるようじゃ。まあ、そのうちの魔女一人は一瞬だったようじゃが」
「一瞬で魔女だってわかるんですか?」
「さあ、なんでも街中で突然話しかけられ、わけもわからぬまま手を握られて一瞬クラッとしたらしい。気が付いたら目の前から消えてたそうじゃ。魔法なのかもしれんし、魔女の幽霊だったのかもしれんな」
「なぜ、その人が魔女だと…?」
「うん?『あなた魔女ですね?』と聞かれ、『これを受け取ってください』と言われ、その後ばあさんの能力がすごく上がったんじゃよ。魔女としか考えられん」

 驚く話ばかり。私とチアキは二人してポカンとしてたわ。いろいろ聞けたのはアキラのおかげね。

「まあ、今日はもう遅い。また明日来んさい。ワシの昔話でよければゆっくり聞かしてやるわい」

 気が付くともう夕方。おば様の家の近くと言っても、バスを使わないと行けないぐらいのところだったのよ。あわててご挨拶して、また明日って約束して、大急ぎで帰ったわ。

 その後しばらくの間、私たちの話題といえば、おばあ様から聞いた「橋本さん」に会いに行くかどうかって事ばかり。きっと、あなたたちも同じように悩んでここへ来たんでしょう?
 チアキはね、その人には会わなくてもいいんじゃない?って言ってたの。

「だって、魔女さん本人ならね、私のこの邪魔な力を何とかしてくれたかもしれないけど…そのおじいさんは普通の人なんでしょう?」
「え?邪魔なんかじゃないじゃん!すごいと思うよ」
「邪魔だよー。私、普通の方がいい」
「まあ、藤原の気持ちもわからないでもないけどね」

 その頃の私にはあまり納得がいかなかったわね。もし、私に魔法が使えたら…なんて想像は誰しもすることだわ。特に、私みたいにファンタジー小説が好きな子ならね。

「私はそのおじいさんにいろいろ聞いてみたいけどな」
「でも、聞いたって何も変わらないじゃない」
「そうかなー?」
「うーん、確かに何も変わらないかもね。あとは藤原がその力と上手く付き合っていくしかないんだろうし…」

 確かにそうよね。チアキが上手に魔法と付き合っていければ、誰にも迷惑はかけないでしょうし、誰かを助けることだってできるわ。そうやって生きていくしかないって、チアキも開き直ったみたい。
 でもね、私には、ファンタジー好きの私にはね、それだけで終わって欲しくなかったの。

「えー、それじゃつまんないじゃない!」
「へっ?」
「だって、魔法が使えるんだよ。何かこう、運命とか使命とかさ、実はそういうのがあったりしてさ…」
「ちょ、ちょっと…」
「世界のどこかわからないところで何かが起きてたりしてさ、魔界の帝王とかが復活しそうだったりさ…」
「おいおい、沢村…」
「で、私たちの大冒険が始まったり…」
「カナっ!私をどうしたいのっ!」

 もちろん冗談よ。私はちょっと物足りなかっただけ。もっと三人でいろんなことをしたかったの。でも、私のわがままはチアキには通じなかったわ。

「まあ、冒険はできなくってもさ、いろんなことを知って損はないと思うよ。」
「うーん…でも、わざわざ知らない人に聞きに行くのもね…」
「…話を聞きに行くのはね、できれば僕も行きたいとは思うんだ」
「ふぇ?」

 アキラの言葉がね、チアキには意外だったのかしら?変な声で返事をしたわ。

「でしょ!アキラもそう思うよね」
「いや、藤原の言うとおり、特別何かが変わるわけじゃないとは思うけど…ただ、そのおじいさんがさ、魔女さんと一緒に過ごして、何を見てきたかとか、どんなふうに感じてたかってことは聞いてみたいんだよね。魔女さんから何か聞いてるかもしれないし…」
「う…えっと…うーん、アキラ君の…うん、それはまあ…そうかもしれないけど…」
「へー、そうかそうか。アキラの言うことなら賛成なのか」
「ちょ、ちがっ…」

 そりゃあもう、精一杯からかってあげたわ。だって酷いでしょう?私の主張は否定されるのに、アキラが言うと賛成なのよ。そんなのずるいじゃない。

 でもね、私たちがじゃれあってる間も、アキラはずっと何かを考えてて、そして一つの問題を口に出したの。

「ただ、どうやって会いに行こう…?」
「え?」
「あ…」

 そう、私達は中学生。それも田舎の。魔女さんの手紙の住所はとても遠いところでね、電車に乗って、そうね、日帰りができるかできないか、できてもちょっと顔を見て、はいさようならってぐらいだったわ。
 さっきもお話したとおり、その頃の常識ではね、そんなに簡単には子供だけでの遠出を許してはもらえなかったの。ましてや、ゆっくりお話を聞こうと思えばどこかに泊まらないといけないぐらい遠いところ。あ、あなた達もそうね。

「泊まろうと思えば、一応おばさんちがわりと近いんだけど…」
「私たちも泊めてもらえるかなあ?あ、それより、親が許してくれないか」
「そこなんだよね…」

 こればっかりはね、子供だとどうしようもないのよ。私もさすがに何も言えなくて…でもね、チアキも黙っちゃって。「じゃあ、しょうがないね」なんて言うと思ってたんですけどね。本当は、チアキはどう思ってたのかしら?もしかしたら、会うのが、いろいろなことを知ってしまうのが怖いってだけで、実はチアキも橋本さんに会いに行きたかったのかもしれないわね。
 しばらく沈黙があって、アキラがこう聞いたの。

「二人は、どう思ってる?行きたい?行きたくない?」
「行きたい!」

 私はすぐに答えたけど、チアキはしばらく悩んで、でも結局は「行きたい」って答えたわ。

「じゃあ、僕が母さんに相談してみるよ。どうせおばさんちに泊めてもらわないといけないし。どうにか考えてみる」
「あの…ごめんね?」
「いいよ。僕だって行きたいわけだし。まあ、任せてみて」

 ちょうど一学期の期末テストが終わって、私達は夏休みを心待ちにしている頃だったわ。アキラは夏休みを利用して、おば様の家に泊まりに行く計画を立てたの。
 でもね、そのおば様というのは、アキラのおばあ様のお姉様の娘さんという、ちょっと遠い親戚になるわね。それでも、おばあ様がまだそちらにいる頃に何度か遊びには行ってたみたい。ただ、おばあ様はもうこちらにいらっしゃるし、泊まりに行くには理由が必要でしょう。それも、自分の友達も二人連れて行くわけですから、ちょっと難しいんじゃないかな?って思ったの。

 数日後、一学期の終業式の日にね、アキラから家に来ないかって誘われたの。

「例の話をね、母さんにいろいろとお願いしてたんだ。OKが出たからちょっと計画を立てよう」
「えっ?大丈夫だったの?」
「うん、話をあわせて欲しいんだけど、だいぶ山奥になるんだけど、渓流があるんだ。あ、子供でも行けるぐらいだから大丈夫。夏休みの自由研究ってことで、そこに行こうと思うんだけどって話したんだ」

 だからね、アキラのお母様に、私たちもそれについていってもいいですか?ってお願いしようってことだったの。アキラが言うよりも、私たちが直接お願いした方がいいんじゃないかって。私たちが直接言えば断れないでしょう。もし上手くいけば、アキラのお母様の方からも私たちの親に言ってくれるだろうって。
 それはいいアイディアだって、私たちもそう思ったわ。でもね、実際にお母様にそのことを言うと、全然違うことを言われてしまったの。

「もしかして、橋本のおじいさんの家に行きたいの?」

 私たちはびっくりして、もう、その表情だけで十分な返事だったわ。

「やっぱりねえ。まったく、ウソまでついちゃって」
「な、何でわかったの?」
「だってあんた、最近橋本さんの話を聞いてきたじゃない。おばあちゃんにも会いに行ってるし。それにね、なんとなくわかるのよ。息子だからね。まあ、悪いことをしようとしてるふうではなかったけど、それでもね、ああ、本当のことを言ってるわけじゃないな、って」
「う…」
「それにね、チアキちゃんよ」
「えっ?あ、私?」
「そう。この前はありがとうね。バカ息子がお世話になっちゃって」
「あ、あの…」
「チアキちゃんも魔女だったんだねえ」

 お母様は気付いてたの。ただ、あの時にわかったわけじゃなくてね、アキラが魔女さんのことを聞いてきたときにもしかしてって思ったそうなの。どうやら橋本さんに会いに行きたいらしいってことで確信したそうよ。

「じゃあ、アキラの聞き方が悪かったからバレちゃったってことね!もうっ!」
「ちょ、ちょっと、そりゃないよー」

 アキラのおばあ様から聞いた話だと、魔女さんは一年ほど前に亡くなっていたの。詳しくはわからないけど、病気で亡くなったそうよ。もちろん、自分の病気は治せなかったの?って思ったし、そう聞いたんですけどね。詳しいことはわからなかったわ。おばあ様も病気を治して頂いたわけではないし、もしかしたら怪我しか治せなかったのかもしれませんね。
 亡くなる何ヶ月か前までお手紙のやり取りをしていたみたいで、おばあ様はそのお手紙をとても大切にしてらしてね、だから住所はすぐにわかったわ。魔女さんの旦那様、その頃の私たちからするとおじいさんね。魔女さんはおばあ様とそれほど歳は変わらなかったみたいだから。その橋本さんはまだその住所にいると思うって、これも確かな情報ではなかったけど、おばあ様から聞けたのはここまでだったわ。

「魔女さんには会えないね」
「何の病気だったんだろう?」
「病気は治せないんだね。チアキはどう?おばあちゃん、良くなったみたいだけど」
「えっと…ね、よくわからない」
「でも、さっき藤原が…」
「…うん…でもね、おばあちゃん、その…良くなったわけじゃないと思う」
「へ?そ、そうなの?」
「…うん。ちょっとの間、回復したっていうか…アキラ君のこと、わかる日もあるんでしょ?」
「うーん、最近はなかったけどね…あまり行ってなかったし…」
「そう…だから、その…」

 アキラは「気にしないで」って。チアキがその時言いにくそうにしてたのは、おばあ様はこれ以上良くはならないってわかったからみたいなの。でも、全然根拠はないし、何故かはわからないけどわかってしまったって言ってたわ。

「だからね、病気を治せるわけじゃないと思うの。風邪とかは…試したことないけど…」
「でも、何かしたよね?」
「うん、私もよくわからない…何かはしたんだけど…」

 チアキにわからないなら私たちにはわかりっこないねって、私もチアキもそう思ったんだけど、アキラは違ったみたい。私たちの中では、アキラが一番、チアキよりもチアキの能力について詳しく知りたいって思ってたの。それはもちろん、アキラの興味でもあったんだけど、チアキのためを思ってのことだったみたい。

「じゃあ、考える方向を変えてみよう。藤原は何でおばあちゃんの頭を触ろうと思ったの?」
「あ、えーっとね、その…上手く言えないんだけど、おばあちゃんが言ってることとは別にね、その…おばあちゃんが何か言ってたような気がして…」
「言ってることとは別に?」
「う、うん…そうね、多分、そうかな?」
「私にはよくわかんないよー」
「えっと、私にも…よくわからない…」
「おばあちゃんは何て言ってた?」

 アキラの問いかけに、チアキは黙ってしまって。でも、いつもみたいに言いにくくて黙ってるんじゃなくて、うーんって一生懸命考えてたの。私達はしばらくそれを見守ってたわ。少しずつ、紐を解くようにチアキは説明してくれたの。

「えっとね、おばあちゃん、私を魔女さんのつもりで話してたでしょう?でもね、それとは別に…最初は『ごめんね』って…で、私は…その声が何だろう?っては思わなくて…何故かおばあちゃんの声だってわかってて、何で謝ってるんだろう?って思ったの」
「それであんな顔してたんだ」
「へ?ど、どんな顔してたの?」
「なんか不思議な顔。顔はいいから、続き」
「あ、うん。おばあちゃんの言葉をちゃんと覚えてるわけじゃないんだけど…」

 チアキが言うには、おばあ様の「ごめんね」は、覚えてなくてごめんねってことだったみたいなの。私たちのこと、とても大切な誰かだってのはわかってるんだけど、でも、こんなふうにしか、頭に思い浮かぶふうにしか話ができなくてごめんねって。思い出そうとしても、その過程で違う記憶と結びついちゃって、言葉が出てるような、チアキも上手く説明できなくてね。私も全部は理解できなかったわ。
 その話を聞いて、アキラがね、突然、

「それって…」

って言ったかと思うと、チアキの手をつかんだの。チアキも私もびっくりして、でも、アキラは真剣な顔でチアキを見つめてたわ。
 私は声も出なくて、チアキは顔を真っ赤にしてうつむいちゃって。でもね、ちょっとしたら、チアキが驚いたように顔を上げてアキラを見て言ったの。

「え?『僕の…考えてること…わかる?』って…」
「やっぱり!」

 アキラはとても満足そうな顔。私は、何だか二人が二人だけの世界に行っちゃった気がして、正直ちょっと不満だったわ。

「ナニナニ?何で突然二人して見せ付けてくれるわけ?」
「あっ!」

 我に返った、って言うのかしら?二人はパッと手を離して、決まり悪そうにうつむいて。私は真っ赤な顔をしてる二人に説明を求めたの。

「あ、あのな、僕が藤原の手をつかんだのは…」
「うんうん、二人で手をつないで見つめあってたね」
「ち、ちがっ!そんなんじゃなくて…」
「はいはい。で、何なの?」
「アキラ君が…考えてることがわかった…」
「へっ?」

 すごいでしょう?相手の心が読めるのよ。手を繋いだだけで。まあ、厳密に言えば「心が読める」んじゃなくて「思いが伝わる」って言うのかしら?すぐ私も、チアキと手を繋いでみたわ。

「そうなの?すごい!私もやってみて!」
「うん、えーっとね…あれ?」
「どうしたの?」
「…わから、ない…」
「ナニそれ?アキラ限定サービス?」
「ち、ちがっ!」
「…沢村、今何考えてた?」
「えっ?そろそろお腹すいたなーって。チアキは大丈夫かなーって。」
「なるほど。じゃあ、今度は心の中で藤原に何か話しかけてみて」
「えっ?」

 アキラが言うには、考えてるだけじゃなくて、その考えを相手に伝えようとしないと伝わらないのかもって。そういうものかしら?って私は思って、今度はちゃんと、チアキに話しかけるように心の中で考えたのよ。

「これでどうかな?」
「うーん…ちょ、カナっ!バカっ!」
「あはははは!」

 私は飛びっきりのことを考えてチアキに送ってあげたの。

「どうしたの?」
「何でもないよ。ねーチアキ」
「もう、バカ!知らないっ!」

 チアキは怒って、先にどんどん歩いていったわ。私達は追いかけるようについていったの。

 アキラの話では、多分チアキからも、相手に思っていることを伝えられるんじゃないかって。もちろんそれも試したわ。結果はアキラのいうとおり。

「藤原はあの時、おばあちゃんと心で会話してたんだね」
「あ、うん。そうだね…アキラ君、その…辛くなか…た?」
「うん?そうだな、あの時はそんなことは思わなかったし、うん、辛いといえば辛いけど、いつものことだしね。まあ、おばあちゃんとそうやって会話できる藤原が羨ましいかな?」
「…ごめんね」
「なーんでチアキが謝るのよっ!」
「そうそう、謝る必要ないよ。それに、今日久しぶりにちゃんと会話できたのもそうだけど…藤原のおかげでさ、おばあちゃんが、僕のこと、僕の友達のことを、今でも大切に思ってるんだってわかったんだ。それがすごく嬉しくてね。ありがとう、藤原」

 アキラはチアキに深々と頭を下げたの。チアキはどうしていいかわからない顔で…照れながら「そんな、たいしたことしてないよ」なんて言ってたわね。