映画祭本番まで、あと16日!【 ヒューマンドキュメンタリー映画祭《阿倍野》2013
監督からのメッセージ⑥】「奈緒ちゃん」監督・伊勢 真一「奈緒ちゃん」(98分)
8月30日(金) 15:30~
「不惑」
夏の一日、横浜市郊外の通い慣れた道を、スタッフと共に姪っ子の奈緒ちゃんの家に向かいました。
てんかんと知的障害を持つ、「奈緒ちゃん」の撮影を始めて、もう33年になります。
まだ撮り終えません。
この日は、奈緒ちゃんの40才の誕生日、「不惑(ふわく)」です。
私の姉、奈緒ちゃんのお母さんも、今年5月で70才。
二人だけのささやかな誕生祝いをすると聞き、撮影することにしたのです。
何事にも用意周到でない私は、当日になって、バースデイプレゼントを忘れていることに気づき、慌てて近くのスーパーマーケットに立ち寄りました。
洋品売り場で見かけた、バーゲンのアロハシャツが一目で気に入りゲット、「沖縄で買って来たんだ・・・」とホラを吹き、おおいにもったいぶってプレゼントした。
奈緒ちゃんはピンク色、お母さんはグレー、二人ともとてもよろこんでくれました。
誕生祝いのメインディッシュは、奈緒ちゃん得意の料理「春巻き」。
ここのところ、週に一度は「春巻き」を創っていると言うだけあって、なかなか腕を上げたみたいだ。
狭い台所で、母子二人たっぷり汗を流しながら「春巻き」を揚げているシーンを、“映画のおじさんたち”も汗だくになって、隅っこにへばりつき必死で撮影した。
ふと、私はこおいう撮影が、こおいうドキュメンタリーが、性に合っているのだろう・・・と思った。
“こおいう”というのは、「普通」のひとりひとりの、「普通」のひとときひととき、という感じだろうか。
意を決して被災地へ向かい、その記録を撮ることも必死になってやるけど、「普通」の魅力に心動かされ夢中になってしまうのが、私にとってのドキュメンタリーを撮りたいと思う一番の動機、ということだ。
もちろん、被災地あるいは戦場などで、ドキュメンタリーを撮ることの背景の動機は、その「普通」が、揺らぎ破壊されることへの哀しみや怒りであることは、充分にわかりつつですが。
臆病者だから、コワイところは苦手で居心地がいいところが好き、というだけかもしれないが、ドキュメンタリストには、不向きな性格かな?
「奈緒ちゃん」と「お母さん」の二人きりの誕生祝いは、とても居心地がよかった。
美味しいものを食べ、歌を唄い、笑いに笑い・・・「しあわせが写っている」と、今は亡き、映画『奈緒ちゃん』の初代カメラマン瀬川順一さんが、フィルムを観ながら呟いた言葉を久しぶりに思い出した。
ひとときの「しあわせ」。
「しあわせ」って、いいですね。
奈緒ちゃんは「不惑」。
仲間たちとグループホームで暮らし、福祉施設「ぴぐれっと」で働き、時々、この日のように実家に帰って来る。
「不惑」をとおの昔に過ぎ、まだまだ惑いっぱなしの私は、まだまだ「奈緒ちゃん」を撮り続けるのです。
いせフィルム伊勢 真一(監督)
1949年東京生まれ。
答えよりも、問いを持ち続けたいと、幅広くドキュメンタリーを手がける。