出典 こんなによくなる!糖尿病
鈴木吉彦 著 朝日新聞出版から引用連載
こんなによくなる!糖尿病 驚きの「インクレチン」新薬効果
DPP-4阻害剤は課題を解決した薬
ここまでの、従来の治療法の課題を整理してみます。これまで使われてきた薬や、インスリン注射やSU剤における大きな課題として、 まず 、「脂肪の増加や過食により体重が増え てしまうこと」、さらに大きな問題として、「低血糖が起きるということ」を挙げることが できます。
これらの課題に対して、DPP-4阻害剤はどう答えてくれるでしょうか。
まず、体重の増加という課題に対して、DPP-4阻害剤はどちらかといえば、血糖コントロールが悪い場合は、体重を減少させるか、現状維持に作用します。
DPP-4阻害剤はDPP-4の働きを邪魔することで、インクレチンのGLP-1が長い時間、力を発揮するように作用する薬です。
前にGLP-1というホルモンの優れた特徴をいくつか紹介しましたが、その中に「腹人分目で抑える」という特徴があったのを覚えていらっしゃいますか。GLP-1は、膵臓のβ細胞やα細胞に働きかけるだけでなく、脳の「食欲中枢」という部分にも働きかけるというお話です。
食欲中枢に「もうお腹いっぱいですから」という、いわば 都合のよい情報を伝えることで、食欲中枢が「ふ―ん、もうお腹いっぱいなのか」と反応していることが考えられます。
その結果、食事を 腹八分で抑えることができるわけです。DPP-4阻害剤を使えば、この "腹人分目効果"を持つと思われるGLP-1を大いに活かすことができるのです。
少なくとも言えることは、DPP-4阻害剤を使うことが直接的な原因となって体重が増加するということはないということです。
もう一つの大きな課題である低血糖についても、DPP-4阻害剤がどう答えてくれるか紹介します。
DPP-4阻害剤の"腹人分目効果"よりもはっきり言えるのは、「低血糖の心配は、従来の治
療法に比べて限りなく小さい」ということです。
これも、GLP-1の特徴を振り返っていただければご理解いただけると思います。前にGLP-1の第一の特徴として、「血糖値に合わせてインスリンを分泌する」ということをお伝えしました。
GLP-1は、血糖値が上がったときだけ、膵臓のβ細胞にインスリンの分泌を促すのです。逆に、血糖値が正常なときは何も働きかけず、インスリンの分泌を促すようなことはしません。
もう少しこの作用を詳しく見てみます。
DPP-4阻害剤のひとつで、日本で2009年12月から発売されていると紹介した「シタグリプチン」の効果-4阻害剤のひとつで、日本で2009年12月から発売されていると紹介した「シタグリプチン」の効果を示す興味深いデータがあります。
それは「高血糖になればなるほど、シタグリプチンはしっかり効く」というものです。血糖値の指標の一つに 「ヘモグロビンA1c」(HbA1c)があります。この海外の試験では、シタグリプチンを使った糖尿病患者さんを 「HbA1c8%未満」「8.0〜9.0%未満」「9.0%以上」の三つの群に分けて、それぞれにシタグリプチンを単剤で使うよう指示しました。
すると、それぞれの群で、順番に0.6%、0.8%、1.5%のHbA1cの値の低下が見られたのです。つまりHbA1cの値が高い人ほど、シタグリプチンの血糖値への効果が大きかったわけです。
(HbA1cは出版当時のJDSで表記、現在使用しているNGSP表記は+0.4換算)
さらに、これを逆に考えれば、HbA1cの値がさほど高くないときは、DPP-4阻害剤はほ どほどに効くことになります。つまり、DPP-4阻害剤によって血糖値が下がりすぎることは起りづらいわけです。
これは、崖に向かって走る馬の喩えで説明することができます [図2-1]。まず、坂道の先に は崖があり、崖を超えると低血糖の領域に入ってしまうというようなところを思い浮かべていただきたいと思います。
従来のSU剤やインスリン注射などによる治療法では、坂道を下ってきた馬は、 放っておくとそのまま崖を越えてしまい、崖の下へ突っ込んで行きました。
一方 、DPP-4阻害剤を使う場合、馬は坂道を下って行き崖の手前まで来ると、ここで自動的にブレーキがかかり、崖の下には落ちていかないのです。
この、高血糖になるほどGLP-1がよく効き、正常値に近くなるほどその効き目にブレーキがかかるという特徴は、私などの糖尿病の専門家からしても、とても画期的で驚くべきことです。

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