建築物の省エネ性能表示に関する新しいルールの検討状況(5) | セミリタイアを目指すサラリーマン大家 マンション管理のお勉強

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2022年6月に建築物省エネ法が改正され、建築物の販売・賃貸時の省エネ性能の表示制度が強化されたことを受けて、新たな表示ルールの検討がおこなれています。その検討状況をメモ書きしました。(施行時期:令和6年4月予定)

第5回(開催:令和6年2月5日)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000216.html

(1)既存建築物の省エネ性能表示についての検討の進め方

1)背景・目的

・既存建築物についても省エネ性能表示制度による表示を促進するため、その建物特性や流通実態を踏まえた表示事項・表示方法を検討。
・とりまとめた結果をガイドラインの改訂版に位置づける。

2)検討内容

●住宅
・省エネ改修部位の表示ルールを中心に検討。

●非住宅
・運用段階のエネルギー消費量の実績値ベースの表示ルール整備を検討。
・上記に限定せず、既存建築物の省エネ性能についての表示(告示に従った表示を含む)の普及方策を取り扱う。

3)既存建築物における表示の分類

A)設計仕様の把握又は推定が可能なもの

・設計図書、公庫融資等の制度利用の書類・情報が残存
・目視等により比較的容易に設計仕様を把握可能

〇表示
・設計上の省エネ性能の表示(告示に従ったラベル)

B)設計仕様の把握・推定が困難なもの

・評価に活用できる図書・情報が不存在
・目視等による設計仕様把握も困難

〇表示
・実況に基づく表示
→改修部位の表示、実績値の表示等

4)住宅ストックにおける制度利用の状況

〇住宅ストック総数:約5,200万戸
A)制度利用していない住宅:約3,600万戸(69%)
B)制度利用している住宅:約1,600万戸(31%)
 長期優良住宅(2009年~)審査実績戸数:約97万戸(1.8%)
 金融支援機構(2004年~)フラット35申請戸数:約139万戸(2.6%)
 住宅性能表示(2000年~)省エネ関連建設評価取得:約254万戸(4.8%)
 金融支援機構(1950年~)融資契約戸数:約1,163万戸(22.1%)

5)今後の検討の進め方

●住宅
①新築等
・告示に従った表示(R6~)
②既存・断熱性能等の把握が可能なもの(新築時に公庫融資や住宅性能評価を受けている等)
・より簡便な省エネ性能の把握方法の検討:建築基準整備促進事業(基整促)により現在実施中)
→新築と同様の表示:本検討会で実装・普及に向けた議論
③上記以外で省エネ改修を実施
・改修部位の表示の検討:本検討会で議論
→改修部位の表示

(2)事例紹介

1)リノベーション協議会

●R1エコの基準の概要
・共同住宅の基準の策定・登録
・義務付けではなく、推奨・登録の指標
・詳細基準は、3月中旬リリース予定

●エコ設備のPOINT表示の案
・消費エネルギー削減の設備の整備状況について、POINT制として、一定POINT削減していれば表示することを検討中

●省エネ性能向上の課題
・どのような省エネ性能向上工事を行えば、どのような効果、コストかの把握が不十分
・既存住宅の図面の取得ができないケースがあり、現状の省エネ性能、省エネ計算が困難なケースがある。
→図面が無い場合で最小限の省エネ性能現況調査が確立できないか。
・既存住宅において、外皮面積等を算出する「標準計算ルート」は定着していない(極一部に留まる)

2)東宝ハウス株式会社

●中古物件の省エネ化に関する現状と今後の課題
〇消費者の省エネ意識
・売り手・買い手ともに省エネ意識は決して高くないが、昨今の電気・ガス代高騰で高まりは感じる

〇仲介事業者の立場から
・省エネに関する「広告表示」や「重要事項説明」は、手間や業務が増えるので、積極的にやってほしいとは言いづらいが、国の政策としてしっかりやるなら、ハザードマップのように義務化する、あるいは、消費者と事業者にメリットを作らないと、意識の高い一部の会社以外の仲介事業者は積極的には取り組まないと感じる

〇積極的に取り組むためには
・CO2削減、では、売り手・買い手の意識は高まらない。金銭的にお得といえることが望ましい。
・「光熱費の削減額」「住宅ローン控除」「補助金」等を合わせて「支払いトータルでみるとお得」を分かりやすく伝えられると、積極的に取り組む事業者が増えるのではないか?

〇課題と感じること
・正確な省エネ性能を出すためには設計図面が必要と思うが、中古の売買時点では、売主側の手元にほぼない
・平成築以降の物件でも、新築時に設計図書が買い手に渡っていないのではないか?
・中古マンションは、広告時点では管理組合からの入手が困難なケースが多い。

3)SUUMO編集長からの報告・提案

●既存住宅の省エネ性能ラベルのデザイン
A)新築同様の評価法とした場合
・「★なし(基準未達)」「断熱等級1,2,3」等が多く悪く見える

B)既存用に別の区分で評価した場合
・既存専用の評価区分を設定

C)BEIの数値+新築基準比
・新築より悪くは見えるが、A)の方法よりは緩和

●課題
・新築同様のラベルだけでは既存評価は一部の物件に限られるので、別のラベルを検討する必要がある
・複数種類のラベルが表示された際に、異なる指標で省エネ性能の高低を判断できるかは課題。
・新築同様のラベルと、一部推計が入るラベルは誤認を避けるため、一部デザイン変更をするかどうか

●ネット広告の特徴項目フラグにおける省エネ性能の対応状況
〇既存売買
・太陽光発電システム、省エネ給湯器、は既にあるが、高断熱窓、省エネ基準適合、ZEH水準等の項目はない

〇賃貸
・賃貸は「省エネ性能」関連の特徴項目フラグはない。太陽光発電、省エネ給湯器、高断熱窓、の項目はない
・特徴項目フラグの新規追加は、時間・開発コストが相当かかるため、各社の合意難易度が高い
・物件の特徴PRコメントに記載する案もある
※ただし文字量制限あり。広告主の意向との兼ね合い課題有

●仲介・販売会社の状況や意識

〇省エネ性能の高い物件を流通しやすくするためには
・省エネリフォーム物件が金銭的に得かを明示化するのが一番早いと思われる。
①削減される光熱費をローン返済額に換算して、毎月トータル支払額で提示する
例)光熱費が8000円/月削減 →毎月返済8000円分を金利1%35年のローン借入額に直すと283万円。つまり物件価格が283万円高くても、毎月の支払いトータルは一緒。
②住宅ローン控除で、後で戻ってくるお金が大きいことを提示する
例)個人間売買の既存住宅のローン控除額は2000万×0.7%×10年=140万が上限だが省エネ基準の再販物件(子育て世帯)は4000万×0.7%×13年=364万円 差額は227万円

〇売却者・購入者に提案することはありうるか?
・売却者に先行リフォームの提案は困難。
 その分高く売れる蓋然性が高くないから
・購入者に購入同時リフォームの提案も困難
 ただ住宅ローン控除での優遇、補助金等のメリットが出せれば一定の可能性はある

〇普及への課題
・業務フローが増える、現場は知識不足のため、必須とされることは望まない
・他方で任意とすると、表示しない可能性も高いので、表示促進したいなら必須化するべき
・本質的には、売主/買主が「省エネ性能を求める状態」を作る必要がある

(3)既存住宅の改修等部位の表示について

1)何を表示するか(表示内容)

●対応案
・窓、給湯器を基本とする。
・表示のニーズが高いと考えられる外壁等の断熱、ドアの断熱、節湯水栓、高断熱浴槽、 太陽光発電設備、太陽熱利用についても表示可能とする

●改修部位の表示の対象選定にあたっての基本的な考え方(案)
・一般的な省エネ改修等のうち、改修等部位の表示を行う効果が高いと考えられる要素を設定。
・住宅の省エネ性能の評価対象である外皮の断熱、設備(暖冷房設備、換気設備、給湯設備、照明設備等)のエネルギー消費量の削減効果のある改修等から選定する。

① 省エネ性能の向上(外皮性能、BEI)への寄与度が比較的高いもの。
② 一般的には入居者自ら改修できず、ロックイン効果があるもの。
③ 改修の内容が一定程度普及しているもの。
④ 対象部位の比較的確認が容易なもの。

2)表示対象とする窓について

●対応方針案
・表示対象とする窓の性能について、当面は、省エネ基準の仕様基準に適合するものを対象とする。
・表示対象とする窓の設置範囲は、主たる居室のうちリビング及びダイニングを必須とする。

〇考え方
・窓の性能については、当面、省エネ基準と整合をとる。
・今後の省エネ基準の段階的な引き上げや、市場に供給される製品の性能実態等を踏まえ、必要に応じて見直しを検討。
・窓の設置範囲については、住宅に複数存在する窓のうち、どの程度改修していれば表示できるのかについてのルールが必要。
・確認のしやすさと設置効果に配慮したルールとする。

●窓の熱貫流率

・窓の性能(熱貫流率)は、建具(サッシ)とガラスの仕様から把握可能。
例)
 ・樹脂製サッシ又は木製サッシ+複層ガラス : 2.15~3.49
 ・アルミ樹脂複合サッシ    +複層ガラス : 2.33~4.07
 ・アルミサッシ        +複層ガラス : 2.91~4.65

・内窓(二重窓)
例)
 ・単層ガラス:3.23
 ・複層ガラス:2.26

※仕様基準における開口部の基準(地域の区分5-7)
 JIS等級H-1:4.7
 JIS等級H-4:2.9
 JIS等級H-6:1.9
 JIS等級H-8:1.1
※先進的窓リノベ2024事業の支援対象
 中高層集合住宅の外窓交換(カバー工法):2.3以下

3)追加的に表示可能な項目

・外壁等(外気と接する屋根・天井・壁・床・基礎壁)の断熱
※窓と同様に、主たる居室のうちリビング及びダイニングに存する外皮
・ドアの断熱
・節湯水栓、高断熱浴槽
・太陽光発電設備、太陽熱利用

4)どのように表示するか(表示方法)

・新築時の表示方法(告示ラベル)とは別に、改修等部位専用のラベルにより表示を行う。
・基本の表示事項(対象とする窓、給湯器)のいずれかが設置されている場合にラベル表示可能ととする。
・基本の表示事項を中心とした表示とし、その他の事項(外壁等の断熱、断熱ドア、節湯水栓、高断熱浴槽、太陽光発電設備)については副次的な表示とする。
・告示ラベルと明確に区別可能としながら、連続性を持たせるデザインを検討する。

(4)討議、意見

〇住宅の実績値表示について
・居住者のプライバシー等の住宅特有の問題もある。
・エネルギー消費性能の実績値は、その年の天候にも左右されるため、実績の対象期間をどのように定めるかも検討する必要がある。

〇既存住宅で窓の改修を行った場合について
・全窓改修しなければ表示できないとすることは厳しいように思うため、少しでも省エネ改修が進むことを重視して、リビングの窓が交換されている場合に表示できることで良いと思う。
→今回の提案は、仕様基準以上の窓であれば、一定の省エネ対応をしているということを表示していただく、というイメージである。

〇既存住宅のドアの改修を行った場合について
・ドアの断熱は玄関ドアと屋内ドアどちらも対象なのか。
→外気に接するドアが対象となるため、玄関ドアや勝手口ドアのようなものが対象となる。