法制審議会区分所有法制部会の検討内容(16) | セミリタイアを目指すサラリーマン大家 マンション管理のお勉強

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令和4年10月から令和6年1月にかけて法務省の法制審議会区分所有法制部会において、決議要件の緩和、所有者不明の課題等、広範な検討が行われ、見直し要綱がとりまとめられました。部会で行われていた議論内容も参考になるかと思い、資料を参照し、気になった点をメモ書きしましています。今回は令和5年12月21日の第16回の検討内容についてです。

■第16回会議(令和5年12月21日開催)
https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00230.html

(1)共用部分等に係る請求権の行使の円滑化

●③の旧区分所有者が「別段の意思表示」で管理者による一括行使から抜けることができてしまう件
・現区分所有者は団体の一員として集会の決議に拘束され、また、管理者に対する監督も可能であるのに対し、旧区分所有者にはそのような拘束は及ばず、管理者に対する監督もできないことから、保険金等の請求権を有する者が旧区分所有者である場合において、その者が便宜を享受することを望まないのであれば、同人の有する権利について管理者による代理や訴訟追行を強制することは適切ではない。
・③の別段の意思表示については、こちらの規定というのは任意規定ということでよいか?
→今回この別段の意思表示をした区分所有者には適用しないということを書いたからといって、個別行使を禁止するという規約を締結することを許しませんと、こういうことではないので、そういう意味では、任意規定ということになる。
 規約で個別の権利行使を禁止しますということを定めるということを否定するものではないが、ただ、それを定めたときにどういった権利までそれが及ぶのかとか、抜けたときに及ぶのかというところについては今後の解釈に委ねますということ。

・法的に整理をしていくと、この損害賠償請求権というのは最終的には各区分所有者に分属している。旧区分所有者になった方にも分属したままで行くということだが、旧区分所有が管理者による行使というのをやめてくれということがどれほどあるのだろうかというと、委任の規定に従うことになっていて、法的には、管理者が回収したものというのは最終的に旧区分所有者に返すという法律関係になるはずだという整理になっている。そういうふうに見たときに、旧区分所有者は既に建物から出て行ってしまっていて、損害賠償請求の行使をしようとしても、もはや立証のしようがないわけなので、今住んでいる方々に立証してもらった方がいいということになる。そうすると、管理者に委ねた方がいいだろうし、別段の意思表示をして代理関係から抜けるインセンティブが余りないのではないだろうかと考えている。

・別段の意思表示をしたかどうかは置いておいて、代理をして管理者が旧区分所有者の分についても損害賠償金を合わせて取ってきましたと。その場合、その損害賠償金というのは修補費用に充てられるものではなくて、旧区分所有者の権利なので、旧区分所有者に払わないといけない、委任の受取物と一緒で。そうすると、抜けられると修理費用が足りなくなって修理できなくなるという、その理屈そのものが、前提がおかしいのではないでしょうか。

●実際上の不都合性
・実際の譲渡事例の大半は、瑕疵発覚前の譲渡であるが、その場合、瑕疵は考慮されず、瑕疵がないことを前提とする価格で譲渡される。
 また、譲渡人が個人の場合、瑕疵担保責任については期間が引渡から1~3か月と短かったり、免除特約が付されたりすることが多く、ほとんどの場合、譲渡人は譲受人に対して瑕疵担保責任を負わない。
 にもかかわらず、瑕疵修補に代わる損害賠償請求権については、区分所有権の譲渡時に、別途、債権譲渡の手続を取らない以上、譲渡人の下に留まるものとし、かつ、これを個別に行使することが可能とするなら、譲渡人は、これを行使して賠償金を得ることもできてしまうが、瑕疵なき前提での価格で区分所有権を譲渡した者にそのような二重利得を許すのは、著しく不当である。
 しかるに、原案が採用され、世間に周知されると、このような著しく不当な権利行使が横行することになり、これは、区分所有建物を適切に管理して長く利用しようとする区分所有法の理念に明らかに反する結果を招来する。

・瑕疵発覚後には安価で区分所有権を譲渡せざるを得なくなることがあるとしても、当該譲渡者の保護は、「瑕疵が修補されるか、修補に代わる損害賠償義務が履行された場合には、代金額を見直す」旨の特約を付すことで回避可能である。
 ここでの問題の本質は、譲渡契約における代金の調整であり、そのような譲渡当事者間の利益調整は、専ら当事者間の合意でなされるべきである。
 この点、瑕疵物件を安価で譲り受けて修補ないし賠償金回収後に高値で転売する買取ビジネスの跋扈を懸念することも重要であるが、分譲主等に対する責任追及が奏功する保証等がないというリスクに鑑みれば、実際に社会的に問題になることは考えにくいのではないか。