法制審議会区分所有法制部会の検討内容(15) | セミリタイアを目指すサラリーマン大家 マンション管理のお勉強

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令和4年10月から令和6年1月にかけて法務省の法制審議会区分所有法制部会において、決議要件の緩和、所有者不明の課題等、広範な検討が行われ、見直し要綱がとりまとめられました。部会で行われていた議論内容も参考になるかと思い、資料を参照し、気になった点をメモ書きしましています。今回は令和5年12月7日の第15回の検討内容についてです。

■第15回会議(令和5年12月7日開催)
https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00227.html

(1)共用部分等に係る請求権の行使の円滑化
(2)出席者の多数決による決議
(3)建替え決議がされた場合の賃貸借の終了


(1)共用部分等に係る請求権の行使の円滑化

●部会資料の記載
・損害賠償金は、法的には、各区分所有者の損害を補填するために各区分所有者に支払われるものであり、マンションとして損害賠償金を確保するものではないのではないか?
・既に共用部分が毀損していて、その程度の価値しかないという前提で価格にも反映して区分所有権を譲り受けた者についても、損害賠償請求権を承継させることは、かえって譲渡人に不当な不利益をもたらすため、新旧の区分所有者間の公平は、むしろその所有権の移転をもたらした原因関係における調整によって図られるべきであり、損害賠償請求権の承継を一律には決められないということになるのではないか?
・損害賠償請求権が現区分所有者に当然承継することとすると、契約不適合の存在が判明した区分所有建物から離脱したいと考える区分所有者は、区分所有権をかなり安い金額でしか売ることができない上に、損害賠償請求権も譲受人に当然承継されてしまい自らの損害回復を図る手段もなくなってしまう事態となり、区分所有権の処分を困難にさせてしまうのではないか?
・本文の規律に加え、保険金等の請求権が発生した後に区分所有権が譲渡された場合には、別段の合意がない限り、当該請求権は、譲受人に移転するものとする規律(区分所有権の譲渡当事者間の意思表示に関するデフォルト・ルール)を設ける必要があるとの意見があった。しかしながら、区分所有権の譲渡の経緯や動機、譲渡価格や条件その他の事情は様々であり、区分所有権の譲渡当事者の意思について、通常、保険金等の請求権を譲渡する意思を有すると推定することは困難であると考えられ(この点、保険金等の請求権を有する旧区分所有者が、その回収の便宜のために、通常は管理者による代理行使、訴訟追行を望むと考えられるのとは異なる。)、この点からも、上記のような規律を設けることは提案していない。

●"別段の意思表示をした旧区分所有者には適用しない"について
・実際には、既に区画を譲渡した者がその後に「別段の意思表示」などする筈もないだろうとの予測を前提にしているのかも知れないが、同文言が挿入される結果、瑕疵あるマンション区画を他に譲渡した者に、将来、損害賠償金の一部が取得できる旨告知する効果を生じさせることになってしまい、むしろ、今後は、積極的に「別段の意思表示」を促す結果を生じさせ、現状以上にかえって団体的・一元的行使を阻害させることになることが懸念される。
・別段の意思表示をした場合には、今の総会の決議とか、管理者が代理するというものについては規制が及ばなくなるというような、別段の意思表示というものも設けたらどうだろうかというような意見も出ているが、その別段の意思表示というものを明記することによって、かえって、その別段の意思表示を誘発するような、そういうことになってしまい、そもそも損害賠償請求権は自分で行使するというようなことが多くなればなるほど、その瑕疵修補に向ける区分所有者の皆さんの修補に充てる金額が減るということになってしまうので、正に別段の意思表示などのような、そういう記載をすることについても反対をしている。

・総会決議等の前に譲渡人が区分所有権を譲渡した場合には、拘束されないということになるとすると、これはやはり、どうも結論としてはおかしくならないかと考えている。譲渡人が同決議に参加し反対の意向を示したものの、多数決で譲渡人の意見が否決された場合、譲渡人はその決議に拘束されることになるのに対して、譲渡人が決議の前に離脱した場合は拘束されない、こういう法律構成は、団体的な性質を有する区分所有法、それからマンションの考え方と相入れないものではないかと思う。
 その部分も特に、早く出ちゃえば、拘束されないで自分のやりたい放題なことができるよというような、そんなことを示唆するような法律であってはいけないと思う。当然、それは社会からの理解を得られないものだと考えるので、やはりこの行使の前後ということではなくて、決議の前後ということではなくて、その行使は譲受人が行えるように、そういう構成をしておくべきだと思っている。

・区分所有権の譲渡があった場合に、では、その行使の在り方はどうなのかというと、既に集会の拘束を受けた状態で区分所有関係から離れるという人は、それまでの拘束をチャラにすることは、自らが拘束の当事者になっているわけですから、それはできないけれども、後でされた決議等によって行使を拘束されることはないということ。代理関係につい、ても、例えば自分で行使をしようと思っている場合に、一元的に代理を委ねることはしないというのは、やはりそれは認めるべきではないかという考えだと思う。

●瑕疵が発見されて損害賠償も付さずに安い価格で売却せざるを得ない状況の考慮
・譲渡人に酷ではないかというようなこともあるかもしれないが、そもそもマンションを売却するに当たって、いろいろな事情で売却せざるを得ないと。そのときの価値が、もしかすると安くなってしまうかもしれない、もしかすると高いかもしれない、そういうような状況の中で売却するというのが、マンション特有の問題なのではないかなと思っている。その中で考えると、この時期にどうしても売らなければならないという方は、ある意味そのリスクを取って売却をしていただくということになるんだろうと思う。
 ただ、そのような重大な瑕疵が存在している状況の中で、本当に売買って成立するんだろうかと。瑕疵が発見されていて、その瑕疵をどうするんだと、修繕するかどうかというような議論をしているときに、果たしてそれを買い取りましょうという人が一体どの程度いて、その保護をせざるを得ないという状況がどの程度あるのか。結局は、なかなか売れないんだろうと思うし、売れるためには、やはり修繕をして適正な価格にして売るという方が、よいのではないかなと思っている。
 そのほかに、その状況で幾らにすると適正な金額になるのかということは、もうこれ分からない。この減価する価格が幾らなのかということがはっきりしない、かつ、瑕疵修補を求めていて、結果として瑕疵修補をしてくれたという場合には、そもそも減価しないマンションになってしまう。そのときに、安い価格で売るとかそういうような判断をしてしまった、この後の結果はどうするんだろうかと考えると、やはりここでは、その損害賠償請求権は、当然承継して、そちらできちっと解決するということが、区分所有法上は正しい方向だと思うし、そのための規律をやはり設けるべきだと考えている。

・瑕疵が顕在化していても住めないマンションだったら、買う人はあまりいないかと思うが、住めないわけではないマンションはおよそ流通しないだろうという、本当にそんなことが言えるのかというのが1点。それから、瑕疵がある場合、安くしか売れない。これは絶対現実だと思う。損害賠償請求権を本当に行使できるか、修補されるかどうか分からないときに、修補されたら元の価値に戻るからということで、修補がされた後の価格で買う人がどれだけいるかというと、それはほとんどいないのではないかと思う。そうすると、売却価格を安くするしかない。それでも、買手は少ない。他方で、売らなくても済む人ばっかりではなくて、転勤することになった人や、相続をしたけれども自分は別に家を持っていて、そこは要らない人、あるいは、そのような瑕疵のあるところに、やはりちょっとなかなか住んでいるのはつらいという人もいる。売らざるを得ない、売りたいという人はいるはずで、その人に売るなとは言えないと私は思う。
 そうすると、修補してから売れという、そういう要求はまずできない。安く売るしかない。この状況になったときに、損害賠償請求権は譲受人のところにあるんだってなると、多分買取りビジネスをできるようになると私は思う。資力があって胆力もあるという人だったら、先を見越して、非常に安く買いたたく。それでも売らざるを得ない人が一方でいるので買い取れる。そして、まあ時間は掛かるのしれないが、無事に修補がなった、あるいは、修補はされないんだけれども賠償請求権は行使できた。そうすると、瑕疵があった分の減価分、それが厳密に算定されなくたっていいわけで、瑕疵があるから買いたたける、その分について、譲受人が利益を得ることができる。こういうことができることが明らかになったときに、ビジネスにする人が出てこないなんてことは、言えないと思う。
→全く逆に考えている。これが、損害賠償請求権を付けて安い価格で買うという人が出てきた場合は、その方が損害賠償請求権を行使するということになる。譲受人か、譲渡人の方で損害賠償請求権を行使するというようなことを考えることが、そもそもなかなかないのではないかなと思うし、その請求権を行使するための方策というのは、多分譲渡人の皆さんはないと思う。そうすると、それを誰かが購入する、そういう正に損害賠償ビジネスのようなものをすることを心配するので、そうであれば、きちっとマンションに居住している人が損害賠償請求権を行使するべきだと考える。

・瑕疵を補修して、瑕疵なきマンション区画を販売すれば通常価格で販売できたというのに、あえて自らが瑕疵修補分を低減させて譲渡するという選択をされたのであれば、それはもう、低減分をほかから回収することはできないということで考えてよいのではないか。それは、元々マンション価格というものが、時期によってそれぞれ大きく左右されるということがある。結果として、そこの時期に売ったことがかえってよかったということもあり得る、そういう状況の中で判断されることなので、その段階で、それではかわいそうだと、酷ではないかということにはならないと思っている。もっとすごい瑕疵が判明して、ほとんど売れないような価格になってしまったということもあるかもしれない中で、相続とか転居とか、そういう理由で売却をされたという方は、正にその事情の中で高かった、安かったということが判断されるだけであって、それを今回法律で、例えば当然承継だと、損害賠償請求権は前の方に、譲受人にそのまま移転しますよといって、それ自体が酷だということにはならないと思っている。

●"当然承継"に法改正すれば、価値はそれほど安くはならないのでは?
・理論的に言えば、例えば、1,000万円の補修費が掛かるマンションについて、1,000万円の賠償を取れますよとなっても、損害賠償請求権はそう簡単に実現できないというところがあるのでは?。そうすると、事業者というか施工業者が、そう簡単に払ってくれるかどうか分からないし、簡単に補修ができるかどうか分からないところ、あなたたち権利を得られますよ、ということになったからといって、まともな価格で買う人って出ててくるのか。
→ただ、総会決議で瑕疵修補に充てるということで採決しているので、それは、譲受人も拘束されるのではないか。(法改正で"当然承継"となれば、損害賠償金が減額されず、適切に修補されることが期待・周知されるので、それほど価値が下がらないのでは?)
→減価するというのは明らかな話であって、その減価を、逆に言うと、算定できないから、買う方は大目に見積もるのではないでしょうか。そして売ろうという、売りたいというニーズがあると、それに応じざるを得ない状況に普通なるのではないでしょうか。
→当然、損害賠償承継されますよ、だから、価値はそれほど下がらないんですよということをここで規律することによって、何千万も幾らも減るというようなことにならないんではないか。
 住めないマンションではない、それは共用部分だから。共用部分の瑕疵があるところで、その専用部分のところには問題がなければ、それほど価値は下がらないで売却されるんではないか。

・施工業者はきちんとその後も健全に存続しているって保証はないし、損害賠償請求権がありますって言っても、損害賠償請求権をきちんと見込んで、いわゆる適正価格ですか、瑕疵のない状態の価格、あるいはそれに相当する額でみんな買いましょうということに、行動としてなりますか。

・損害賠償については、まず幾ら認められるかということもはっきりしない、そして、現実を言えば、通常は損害賠償というのは常に少ない額しか取れない、つまり、争うと、売買契約に基づく損害賠償訴訟をしていたら、弁護士料など様々に費用が掛かってくるわけで、完全な損害分は取れないという構造にはなっているわけで、幾ら取れるかも分からない。さらには、額が決まっても、相手方の資力の問題があるので、分譲会社がしっかりと実現してくれるかも分からないというので、やはり非常に不確実だと思える。そうしたときに、一般的には人間の行動としてはリスクアバースになるということがあるので、不確実さということからすると、通常はやはりその部分についての評価は低くなるというのが、むしろ一般的なのだろうと思う。

●"当然承継"されると、譲受人が安く買い叩き、その後、修補せずに賠償請求権を行使し、利益を得ることもできてしまうのでは?(損害賠償ビジネスの懸念)
・総会決議で瑕疵修補に充てるということで採決しているので、それは、譲受人も拘束されるのではないか?
→損害賠償金を瑕疵修補に充てるという採決を、拘束力を持ってできるのか疑問がある。管理費用で取ればいいわけで、その管理費用の支払い方は、別に拘束されるわけではないと思う。個人の権利を総会の決議で奪うことはできないのではないか。
 管理組合で実施するのは修補であり、その費用については、修繕費用とか管理費用で取るということになっているのであって、その決定はできると思う。だけれども、例えば、修補のための費用をあなたの持っているこの定期預金から払えと言えないのと同じように、損害賠償請求権でもってそれを何とかしろということも、強制力を持っては、総会決議で決めることはできないのではないか。
→損害賠償ビジネスをまず心配をするということだが、そもそも損害賠償請求訴訟などでどのぐらい取れるのかということもはっきりしない中で、その損害賠償ビジネスがそれほど社会問題として大きくなるような、そんなようなことが起こるとはないのではないか?皆さんで勝ち取ったその損害賠償金については修補に充てると考えるのが、一般的な考え方ではないかと思うし、そのようなレアな、そういうビジネスをして損害賠償請求権を行使したい、損害賠償請求権でそれはきちっと自分のお金の中に、ポケットに入れたいというような、そういう方を想定して、全体としての規律を考えるのは適切ではないと思う。今、区分所有法として考えるべきは、きちっとその損害賠償を請求して、瑕疵修補に充てられるような、そういう法制度を考えた方がよいと思う。

●管理不全マンションでは瑕疵修補や損害賠償請求を行使できないのでは?
・管理が機能していないから、個々の損害賠償請求権を残しておきましょうというような考え方はやはり適切ではなく、逆にそのマンションがきちっと管理組合や適正な管理者によって管理されるべき、そういう仕組みを設けるべきだということを考える。具体的に損害賠償請求権を行使するなんてことはなかなかないわけなので、きちっとマンション管理者が管理できるような、そういう仕組みを設けるということが望ましい方向性では。

●"分割債権"かどうかについて
・分割債権という言葉を使うのは適切でないのでは?契約上の修補請求権も修補に代わる損害賠償請求権も、各契約当事者が持っている権利であって、預金の相続のように、一つであった債権が複数人に、共有という形で属するのか、分属するのかという局面とは全く異なっている。したがって、分割債権とするのはおかしいのではないか、というところから出発すること自体がおかしいと思う。預金債権の場合は、繰り返すが、一つの債権であったものをばらしていいか、ばらばらにするのはよくないかが議論というか、問題とされているのに対し、ここでは、各契約当事者、各区分所有者が有しているそれぞれの請求権、これを一つにするか、互いに拘束するものとするかということを問題としているのであって、局面が全然違うと思われる。


(2)出席者の多数決による決議

●対象の議事
① 普通決議
② 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)の決議
③ 復旧決議
④ 規約の設定・変更・廃止の決議
⑤ 管理組合法人の設立・解散の決議
⑥ 義務違反者に対する専有部分の使用禁止請求・区分所有権等の競売請求の決議及び専有部分の引渡し等の請求の決議
⑦ 管理組合法人による区分所有権等の取得の決議

●質疑・意見
・④から⑦について、特に④について反対する。規約の改正、これは管理組合の運営のそれこそを守る点になるので、これは反対する。
 現在、管理業者が管理者に就任する第三者管理方式が大分急速に浸透してきていて、管理業者が第三者管理に就任した後、決議事項について、管理者に決定権限を与える規約改正が殊にされた場合に、出席者多数で決まってしまうのではないかという強い懸念が生じている。
 例えば、現在でも管理業者が管理者に就任して、規約、それから大規模修繕工事、それから修繕費用の借入れ等の誘導する例もあって、そういう権限を、幅広い権限を持たせてしまっているケースが出始めている。
 本改正により出席者多数が導入されると、マンションの管理を管理業者に任せてしまっている区分所有者がよく考えず、殊に委託方式での全面委託など、このような広い権限を規約改正に賛成してしまったり、管理業者がよく考えない管理者に声掛けをして、出席率をよくして、その賛成票を集めているというようなケースも出てきておいる。
 ⑤番、⑥番、⑦番について、出席者多数にすることを求めるニーズは少ないのではないか、実際にはあるのかどうか、ちょっと懸念している。

・4分の3を集めるというのはもう大変なことで、役員の方が何度も何度も足を運んで、不在のこともあるが、頭を下げてようやく提出してもらうと。分かりましたと言っても、なかなか提出してくれるものではないので、2度、3度と回らなければいけないというような話も耳にする。そういう管理組合の苦労というのを増やすような、今後増えていくような状況をこのまま維持するとすると、ますます第三者管理的なところに走る組合が増えていきそうな気もする。

・時代が変化して、相続人が遠くに住んでいる、あるいは海外からの投資物件としての不動産売買があるなど、そうした中で、現地にいない、あるいは関心が低下している所有者や区分所有者が、意思表示をしない場合にどうするのか、賛成の人、反対の人、そして賛否不明の人という三つ目のグループができたときに、これをどうカウントするのかと。
 今までの民法だと、賛成の意思表示をしなければ、つまり賛否不明の人は、文字どおり賛成か反対か分からないのだけれども、はたから見ていると、その人たちは積極的な賛成ではないということで、反対票にカウントされるということになっている。
 そうすると、積極的に賛成の意思を表明した人の1票が、賛否を表明しない人の1票によって打ち消されるという事態になってしまうと。なかなかこうしたケースで解決が進みづらいということが出てきていると思う。
 今まで反対票にカウントされてきた賛否不明者をカウントしないということは、すなわち積極的な賛成を表明した人と積極的に反対を表明した人、それから書面で投票した人と委任状という、参加の意欲を示した人で合意形成をしていくということで、これはルールとしては妥当なものであると考えている。
 むしろ、一般国民からすると、なぜ議決に積極的に参加しない人の票が反対にカウントされるのかということは、民法を知らない人から見たら、むしろそちらの方が違和感があって、今回の出席者多数のような決め方の方が、国民の感覚には近いのではないかと思う。

(3)建替え決議がされた場合の賃貸借の終了

・「補償金の提供を受けるまでは」という文言への修正により、賃貸人が、賃借人に対して直接的に補償金の支払が行えなかった場合でも、適正な金額を供託するなどにより、履行に着手したとみなされる、ということが明確になったと理解している。

・補償金額について、「用対連の通損補償と同水準とすることを想定しているが、公共用地の取得の場合との異同を踏まえた上で算定されることを想定している」、と記載されているが、建替え事業の性質を加味したルールが必要と考えている。収用や市街地再開発の現場での借家人等への補償と、建替え事業の現場での借家人への補償は、支払元や原資が異なる。収用や再開発は、事業者が公的な補助金などを受けながら、借家人に対して用対連基準に基づいて算出された金額を支払うのに対し、建替えは、賃貸人である区分所有者自身が借家人への補償を行うという違いがあり、区分所有者の負担に留意する必要があると考えている。
 区分所有者には、転出する方と再建建物の住戸を取得する方がいるわけだが、いずれの場合も、区分所有者の資産評価は、一般的に再建建物の資産評価額から新築等の事業に掛かる費用を差し引いた価格を基本として算定されるため、住宅マーケットや建築費等の動向に左右される。例えば、住宅マーケットが低調で、かつ、建築費等がかさむ場合には、区分所有者が受ける資産評価は低くならざるを得ない。このような場合でも、そういった状況に関係なく補償金額が算定されるルールになると、賃貸人が賃借人への補償費を支払えないという事態になりかねない。用対連基準そのままの準用となってしまうと、賃借人が単なる居住の用ではなく営業利用している場合に、営業補償が家賃差額補償などに比して極めて多額になることも想定される。建替え事業の特質を考慮した上で、用対連基準をベースとしながらも、この記載のとおり公共用地の取得の場合との異同を踏まえたルールとすることをお願いしたいと考えている。