法制審議会区分所有法制部会の検討内容(12) | セミリタイアを目指すサラリーマン大家 マンション管理のお勉強

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令和4年10月から令和6年1月にかけて法務省の法制審議会区分所有法制部会において、決議要件の緩和、所有者不明の課題等、広範な検討が行われ、見直し要綱がとりまとめられました。部会で行われていた議論内容も参考になるかと思い、資料を参照し、気になった点をメモ書きしましています。今回は令5年10月17日の第12回の検討内容についてです。

■第12回会議(令和5年10月17日開催)
https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00217.html

(1)パブリックコメントの概要

1)出席者の多数決による決議を可能とする仕組み
2)管理不全専有部分管理制度
3)共用部分の変更決議の多数決要件の緩和
4)専有部分の使用等を伴う共用部分の管理(配管の全面更新等)
5)共用部分等に係る請求権の行使の円滑化
6)規約の閲覧方法のデジタル化
7)区分所有建物が全部滅失した場合における敷地等の管理の円滑化
8)第三者を管理者とする場合の監事の選任
9)建替え決議がされた場合の賃借権等の消滅
10)団地内建物の建替え承認決議の多数決要件の緩和

(2)所有者不明専有部分管理制度
(3)専有部分の使用等を伴う共用部分の管理(配管の全面更新等) 
(4)区分所有者が国外にいる場合における国内管理人の仕組み
(5)共用部分等に係る請求権の行使の円滑化
(6)建替え決議がされた場合の賃貸借の終了等
(7)敷地の一部売却


(1)パブリックコメントの概要

1)出席者の多数決による決議を可能とする仕組み

●反対(マンション学会、全マン研、特定非営利活動法人日本住宅管理組合協議会、個人1名)
・出席者による多数決の仕組みを導入することは、管理組合の合意形成の力を弱めることになり、建替え決議、建物敷地売却等の区分所有関係の解消決議及び震災等災害からの再生の場面において、合意形成ができなくなるおそれがあり、平時の管理から区分所有者全体の合意形成を行っておくべきである。
・理事会は、無関心な区分所有者に対し、出席を促さずとも決議ができることとなり、無関心な区分所有者への働きかけがなくなることが懸念される。そうすると、無関心な区分所有者が置き去りになることとなり、管理運営への参画について二極化が進んでしまうおそれがあり、その結果、無関心に乗じて一部の理事や管理業者の利益を図るような議案が承認されてしまうことさえ起こり得る。

●集会の招集、議案の要領
・全議案について議案の要領の添付を義務付ける場合、議案の要領に反する決議はあらかじめ通知した事項ではないので禁止されると解する余地がある。議案の要領の義務付けによって役員決めの方式が違法となる可能性がある。各管理組合の実情に合わせることで良く、法で違法とする必要は全くない。
・議案の要領に反する動議の提出が認められなくなる可能性があるため、修正動議を許容する旨の規定を設ける必要がある。

2)管理不全専有部分管理制度

・管理不全専有部分の区分所有者が素直に報酬を支払わないことへの対処が必要であり、場合によっては先取特権を有するなどの制度設計が必要ではないか。(不動産戦略協会、旭化成不動産レジデンス株式会社マンション建替え研究所長)

3)共用部分の変更決議の多数決要件の緩和

・今後の区分所有建物は、建替えができるものは極めて限定的であり、解消できるものも限定されるため、長寿命化を図っていくことが大前提となる。
 その観点からは、性能向上改修(工事)をいかに合意形成しやすくしていくかが重要であり、区分所有法において、性能向上改修(工事)のための変更決議に関する抽象規定を設け、【3分の2】以上の多数により決議できるとした上で、適正化法において、性能向上改修(工事)の具体的な類型を設けて、そのための変更決議については、【3分の2】以上の多数により決議できるとするのが相当である。(マンション学会)
・客観的事由がある場合に緩和を認めるのであれば、マンションが社会的資産であることを踏まえ、持続可能な社会の実現に必要な改修、たとえば省エネ化や、バリアフリー化のための工事についても含めるべきである。(全マン研)

4)専有部分の使用等を伴う共用部分の管理(配管の全面更新等)

●中間試案
専有部分の使用等を伴う共用部分の管理に関し、次のような規律を設ける。
① 専有部分の使用又は形状の変更を伴う共用部分の管理に関する事項は、規約に特別の定めがあるときは、集会の決議で決することができる。
② 専有部分の使用又は形状の変更を伴う共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、規約に特別の定めがあるときは、共用部分の変更の決議と同様の多数決要件の下で、集会の決議で決することができる。
③ ①及び②の決議においては、専有部分の利用状況及び区分所有者が支払った対価その他の事情を考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるようにしなければならない。

●パブリックコメント
・専有部分の使用等を伴う管理について、規約に特別の定めがあることが要件となるというのは、現行法の解釈として強い疑義があり、広く行われている実務(大規模修繕時に専有部分に立ち入ることを当然に集会決議で決め、それに基づいて専有部分への立入りを行っている。専用部分である給排水管を含む全面更新の場合には、一部規約を変更する場合も多いが、それは主として修繕積立金の取崩事由を追加するなどの観点から行われているにとどまる。)を不可能とするものである。(マンション学会、神奈川弁)
・①及び②について、「規約に特別の定めがあるとき」に限定する法改正については、少なくとも現行法の法解釈の問題点等を改めて確認した上で、その必要性等を慎重に再検討するべきである。①~③の法改正は実務上必須とはいえない。(全マン研)
・管理行為に該当する工事は、現行法において、規約に基づくことなく集会の決議に基づいて直接実施することが可能と考えられているが、「規約に特別の定めがあるときは」との表現は、規約に特別の定めを置く必要があるかのようにも読める余地があるため、現行法よりも管理組合の選択肢が狭まることがないよう、その表現の仕方を含め、より具体的な検討を引き続き行う必要があると考える。(日弁連)
・「専有部分の使用を伴う共用部分の管理」としては、①管理組合が共用排水管を取り換えるために、専有部分の壁を一旦撤去した後に、壁を原状回復するケースや②管理組合が共用排水管の取換えに併せて専有部分の排水管の取換えを行うケースがあるが、①は現行の区分所有法第18条により実施することができ、本文は②に該当するので、そのことがわかりやすくなるよう、①専有部分の保存、改良又は変更の目的を含む共用部分の管理に関する事項は、規約に特別の定めがあるときは、集会の決議で決することができる、②前項の場合において、専有部分の改良又は変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならないと規定するべきである。(個人)

5)共用部分等に係る請求権の行使の円滑化

●中間試案
① 管理者は、損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金(以下「共用部分等に係る請求権」という。)の請求及び受領について、共用部分等に係る請求権を有する者(区分所有者又は区分所有者であった者(以下「前区分所有者」という。)に限る。以下同じ。)を代理する。
② 管理者は、規約又は集会の決議により、①に規律する事項に関し、共用部分等に係る請求権を有する者のために、原告又は被告となることができる。
③ ①及び②の規律は、管理者に対して別段の意思表示をした前区分所有者については、適用しない。
④ 管理者は、②の規約により原告又は被告となったときは、遅滞なく、共用部分等に係る請求権を有する者にその旨を通知しなければならない。管理者が②の集会の決議により原告又は被告となった場合において、共用部分等に係る請求権を有する者が前区分所有者であるときも、同様とする。
⑤ ④前段の場合において、共用部分等に係る請求権を有する者が区分所有者であるときは、区分所有法第35条第2項から第4項までの規定を準用する。

〇注1
本文とは別に、共用部分等に係る請求権の発生後に区分所有権が譲渡された場合には、管理者は、ア)原則として、その請求又は受領について、現在の区分所有者を代理し、規約又は集会の決議により訴訟追行することができることとし、イ)ア)の例外として、共用部分等に係る請求権は管理者のみが行使し、各区分所有者は共用部分等に係る請求権を個別に行使することができないものとする規約又は集会の決議がある場合には、現在の区分所有者及び区分所有者であった者を代理し、規約又は集会の決議により訴訟追行することができるとする規律を設ける考え方がある。

〇注2
・本文に加え、共用部分等に係る請求権の発生後に区分所有権が譲渡された場合には、別段の合意がない限り、当該共用部分等に係る請求権は、譲受人に移転するものとする規律を設ける考え方もある。

●パブリックコメント
〇①及び②のみとして③~⑤を削除した上、共用部分等に係る請求権は管理者のみが一元的に行使できるものとする意見(大阪弁、京都弁護士会、自由法曹団、日弁連、広島弁、福岡県弁護士会、個人22名)
・①及び②は管理者による一元的請求を可能にするものであり妥当であるが、③~⑤は、管理者による一元的請求を阻害するもので不当である。共用部分に関する損害賠償金は本来共用部分の瑕疵修補に振り向けられるべきであるが、管理組合から離脱するにもかかわらず別段の意思表示をした元区分所有者が受領した損害賠償金を瑕疵修補に充てることは期待できないから、修補費用が不足して瑕疵修補が実現できない不合理な結果を招く。
・区分所有者は集会の多数決に服さなければならず、仮に、自身が損害賠償請求権を個別行使したいとして管理者が原告となることに反対しても、多数決で賛成の決議がされれば、管理者は反対した区分所有者の分も含めて訴訟提起が可能だったはずであるが、③の規律では、転売した前区分所有者は、転売したことにより多数決に服さなくなることになる。前区分所有者だけがかかる多数決の拘束から解放されるとするのはバランスを失するし、デベロッパー側の切り崩し工作により、補修費用相当額全額を請求できない事態が容易に生じてしまうおそれがある。
・共用部分に瑕疵が発見された場合の損害賠償請求訴訟提起までの過程で最も困難なのは欠陥調査であるが、④の規律によれば、前区分所有者は、管理者が獲得した損害賠償金の分け前を引き渡してほしいと考えることは想像に難くない。ところが、実務上、中古マンション売買では、契約不適合責任については免脱ないし制限する特約が付されていることが一般的であるため、前区分所有者が、管理者が受領した損害賠償金の持分割合の引渡しを受けた場合、現区分所有者が前区分所有者からこれを取り戻すことは相当困難である。
④の規律を採用すると、多くの前区分所有者が望外の利得を得る反面、現区分所有者にとって必要な修補が困難になる事態に陥る。
・修補に代わる損害賠償金について前区分所有者による引渡し請求を認める以上、全ての前区分所有者から賠償金を修補費用に充てることの同意が取り付けられるまでは、これを修補に充ててしまうと横領になりかねず、引渡請求権が時効消滅するまで賠償金を保管し続けなければならないことになりかねない。他方、前区分所有者から引渡しを請求された場合、これに応ずるべき額について新たな紛争が生ずる可能性もある。

〇その他の意見
・共用部分等に係る請求権は区分所有者の団体に帰属するという立場を採るべきであり、共用部分等に係る請求権は、請求権が発生した当時の各区分所有者に分属し、各区分所有者自身がその請求権を処分することも可能という建前を採ることに拘泥するべきではない。共用部分等に係る請求権が区分所有者の団体に帰属するという理解を前提とした立法がされるべきである。技術的な立法で管理者等の一元行使を認めたかのような体裁を作り、運用した際には結局全額の行使ができないことになりかねない立法をするのであれば、立法しない方がよい。(全管連)
・請求権を一元的に扱うことには賛成であるが、代理権の問題ではなく、請求権自体が新
区分所有者に移転する規律を求める。(関住協)
・①につき、「請求権を有している者が、前区分所有者か現区分所有者かという点にこだわらず、管理者が団体的に一元的に請求権を行使できる」と位置付けないのであれば、①、②及び④には反対であり、③及び⑤にも反対である。(マンション学会、全マン研、個人1名)
・共用部分に瑕疵を生じさせたデベロッパーの子会社が管理会社として第三者管理をしているような事例では、共用部分等に係る請求権を管理者のみが行使できるとすることには利益相反の可能性があるので、その点も含めて今後の検討を続けるべきである。(東弁)
・共用部分の瑕疵に係る損害賠償請求権の性質は、飽くまで「瑕疵修補に代えて」認められる「修補のための」債権であり、その使途は、一元的・団体的に管理運営され全額を修補に充当されるものであり、個々の区分所有者に分属するものではない。共用部分に瑕疵があるマンションが転売された場合、同瑕疵に係る修補請求権や損賠賠償請求権は、転得者に当然承継される旨、立法で明記されたい。(個人)

〇(注1)について
・既存の区分所有建物で既に区分所有権の譲渡が生じている事案においては、元区分所有者を含めて代理することができる余地がなくなることを意味し、管理者による一元的な行使が実現されない。(マンション学会、大阪弁、京都弁護士会、自由法曹団、全マン研、東弁、日弁連、広島弁、福岡県弁護士会、個人15名)

〇(注2)について、「別段の合意がない限り」を削除し、「譲渡人に移転するものとする」を「譲受人に当然に移転し、管理者のみが一元的に行使するものとする」と修正するべきとの意見(京都弁護士会、個人21名)
・共用部分の共有関係は、区分所有建物の永続的な共同所有・管理を目的とした特殊な権利関係であり、区分所有法自体が、共有持分につき専有部分との分離処分を禁じ、区分所有者の管理費滞納等の債務が特定承継人に承継されるなど、民法の一般原則と異なる規定を設けている。したがって、共用部分の瑕疵修補という区分所有建物の永続的な管理の場面において、民法の一般原則に拘泥することは本末転倒である。
・共用部分に契約不適合がある場合、瑕疵修補請求権と修補に代わる損害賠償請求権が選択的に発生するところ、前者は不可分債権であるし、後者を選択した場合にも金銭債権ではあるが修補請求権が転化した本来的性格から清算対象となる可分債権でなく、共用部分の修補に振り向けられるべき不可分債権としての性格を有する。いずれにせよ、選択権行使前に可分債権とみる余地はなく、管理組合を離脱した元区分所有者の一存で損害賠償請求権を行使することはできない。したがって、区分所有権譲渡に際して「別段の合意」により損害賠償請求権を留保する余地があるとの考え方自体が誤っている。
・区分所有権の売買契約では、売主に対する契約不適合責任の減免特約が付されることが多く、売主たる元区分所有者が一方で自らの責任を制限しながら、他方で分譲者等に対する損害賠償請求権を留保する余地を認めることは、むしろ、元区分所有者を不当に利する不合理な事態を招くことになる。共用部分に係る損害賠償請求を行使する場面では、契約責任のほかに不法行為責任が成立することも多い。不法行為責任に基づく請求権は現区分所有者に帰属することが通常であろうが、元区分所有者に契約責任に基づく請求権の帰属を認めると、請求権の法的構成により権利者が異なることになり、実際上の法律関係が錯綜する。

〇(注2)について、その他の意見
・仮に「別段の合意がない限り」の文言を存置する場合は、(注2)にただし書を設け、「ただし、前区分所有者(売主)が、新区分所有者(買主)に対して契約不適合に基づく損害賠償責任を負わない場合又は著しくその責任が制限されている場合は、当該損害についての賠償請求権は、譲受人に当然に移転するものとする。」などとするのが妥当である。(日弁連)

6)規約の閲覧方法のデジタル化

・閲覧を請求した利害関係人の便宜から考えるとメールに添付して規約等のデータを送信することは認めても良いのではないか。ただし、送信する際には、改ざん防止のため、生データではなくPDFにして、かつ、印刷できないようにパスワードをかけて送ることを義務付ける必要がある。(関住協)
・実務上の運用に関して、改ざんを防止する観点から、印刷不可や編集不可の設定をするなどの注意喚起をしてもらいたい。(全管連)

7)区分所有建物が全部滅失した場合における敷地等の管理の円滑化

・期間については、地方都市では更地にしてもすぐに売却できる見通しが立たない土地もあるため、【5年】ではなく【土地が処分できるまで】にするべきとの意見もあった。(全管連)
・「5年が経過するまで」と土地管理に期限を設けることになれば、民法に戻り、全員一致でなければ処分ができなくなる。それでは、放置される土地を増やすだけになるため、「土地が処分できるまでに」とするべきである。(個人)
・更地になれば現行法では固定資産税が6倍になる。固定資産税の特例を設けて、マンション建物が建っていたときと同じ税金額にすることは必須である。(個人)

8)第三者を管理者とする場合の監事の選任

〇【積極的に検討することに賛成】(マンション学会、全管連、神奈川弁、日弁連、特定非営利活動法人東北マンション管理組合連合会)
・第三者が管理者になる場合の監督機能を充実させるべきである。
・第三者管理について何らの規律を設けないとすると、管理者となる第三者には区分所有建物の販売会社の子会社又はその従業員等が就任するおそれがある。このような場合には、販売会社に対する建物修補請求権や損害賠償請求権等の権利の行使が適切にされないおそれが高い。そのような事態を極力避けるために、法人化していない管理組合においても、第三者(区分所有者以外の者)が管理者になる場合には監事を必置機関とするべきである。
・ 区分所有者以外の第三者が管理者に就任する場合に、監事を選任するべきとする原案に賛成である。更に一歩進めて、第三者に限らず、区分所有者も含めて、「監事を選任し、区分所有者の団体と管理者の利益が相反する事項については、監事が管理者の代理となる。」などと規定するべきである。

〇その他の意見
・現行法上も対応可能である上、選任を必須とすると、誰がなるのかという問題が生ずる。結局、管理者が連れてきた者に報酬を払ってなってもらう(余計な出費が生じただけ)という事態にもなりかねない。
・標準管理規約が想定している監事の役割を完全に果たしている監事などほとんどいない。監事の本来の役割を大いに伝播することは当然良いことであるが、現実がそこまで追いついていない段階で、第三者管理の歯止めにできるとは考えられない。(関住協)

9)建替え決議がされた場合の賃借権等の消滅

●中間試案
【A案】
① 建替え決議においては、次の事項を定めなければならない。
ア)建物の取壊しの工事の着手時期の目安
イ)専有部分の賃貸借が終了する日
④ 専有部分の賃貸借は、①イ)に規律する日が終了した時において終了する。
【B案】
① 建替え決議があったときは、専有部分の賃借人に対し、賃借権消滅請求をすることができる。
② ①の規律により賃借権消滅請求がされた時から【4か月】【6か月】が経過したときは、専有部分の賃借権は、消滅する。
③ ①の規律により賃借権消滅請求を受けた専有部分の賃借人は、②の規律により専有部分の賃借権が消滅したときは、賃借権消滅請求をした者に対し、賃借権の消滅により通常生ずる損失の補償金の支払を請求することができる。
④ ③の規律により請求を受けた者(専有部分の賃貸人である区分所有者を除く。)は、補償金の支払をしたときは、専有部分の賃貸人である区分所有者に対して求償権を有する。

●パブリックコメント
・自己の資産である区分建物の利用形態が、偶々建替え決議時点において自己使用であるか賃貸であるかという違いによって、区分所有者の負担が大きく異なるのは不合理であり、賃借人への補償は不要とするべきである。
・【A案】又は【B案】の判断は難しく、補償金の義務の有無についても難しいところである。何十年もその地で店舗を開いていた庶民の店主に数か月で無償で移転してくれというのは難しいことも分かるが、是非保証金の上限を適切に明確に決めていただきたい。(個人)

10)団地内建物の建替え承認決議の多数決要件の緩和

●中間試案
【D案】 議決権の各4分の3以上の賛成による建替え承認決議がある場合に限り特定建物の建替えをすることができるという現行法の枠組みを改め、建替え決議が成立した後、一定期間内に議決権の【4分の1以上】【3分の1以上】【2分の1以上】の反対による建替え不承認決議がない限り、特定建物の建替えをすることができるものとする。

●パブリックコメント
・自分に関係のない棟の建替え決議にわざわざ賛成票を入れに行くマンション居住者は多くない。【A案】から【C案】まではこのような人間の行動を理解していない考えである。(個人)

(2)所有者不明専有部分管理制度

・所有者不明の場合の専有部分管理命令について、どういう場面を管理人を選ぶ場合として主に想定しているのか?
→例えば、部屋の中にごみが一杯たまってしまっています、所有者等がどこにいるか分かりません、こういった場合には、そのごみから悪臭が漂ってくる、このままだと困るということで、所有者不明専有部分管理人を選任して、その方にごみの処分等を依頼する。
 その部屋を買いたいという人が具体的に現れた場合に、購入したいのだけれども、誰から買えばいいか分からない、こういったような状況のときに、所有者不明専有部分管理人を選んで、その方から買い受ける、裁判所の許可が必要になりますけれども、こういったようなケースが想定されるのではないか

・管理料等の取立てのために選ぶことができるのか?
→所有者不明専用部分管理人として選ばれたからといって、その人に支払義務が生じるわけではない。飽くまでこの不明である所有者の方の持っている財産から支払うということになるので、例えば管理費なんかの場面だと、先取特権があると思うので、管理人制度を使わなくても別途、強制執行等の手続をすることができるのではないかと思っている。


(3)専有部分の使用等を伴う共用部分の管理(配管の全面更新等) 

●提案内容
① 専有部分の使用又は形状の変更を伴う共用部分の管理に関する事項は、規約に特別の定めがあるときは、集会の決議で決することができる。

〇提案の趣旨
・区分所有関係においては、共用部分の管理(変更を含む。)に関する事項については、集会の決議で決することができることが明らかである(区分所有法第17条第1項、第18条第1項)ものの、専有部分については、基本的に当該専有部分の区分所有者が自由に管理・使用するべきものであり、現行法の解釈としては、区分所有者の意思に反する専有部分の使用については、集会の決議があることでは足りず、「建物の管理又は使用に関する区分所有者相互の事項」(区分所有法第30条第1項)として、規約で定める必要があると考えられる。
・実務の現状として、大規模修繕の際に専有部分に立ち入ることを集会の決議のみに基づいて行っているとの指摘もあるが、マンション標準管理規約(単棟型)第21条第2項は、「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときには、管理組合がこれを行うことができる。」と規定しており、これにより、本文にいう「規約に特別の定めがあるとき」との要件を充足しているのではないかと考えられる。そこで、本文では、専有部分の使用を伴う場合には、集会の決議があることでは足りず、規約で定める必要があるとの解釈を前提として、中間試案と同様の規律を設けることを提案している。

●質疑・意見
・この条文ができたことで、逆に今できていることができなくなるのであれば、それは私たちが求めていたことではないと思う。規約に特別の定めがあるときは集会の決議で決することが・・とあるが、規約に特別の定めがあるというのが本当に必要なのか。
 大規模修繕をするというとき、住戸の中に入らせていただいて工事をするときに、工事の説明会、そしてその後の総会で、皆さんこうしますよということで工事の方法を御納得くださいという、集会の決議でやってきた事実があるのではないか。
 あるいは共用部分の一部として玄関扉の塗装をし直す、もちろん枠みたいなところも塗りますので、玄関扉の枠を塗るときに開けていただいて、おうちの中の方から塗るということもある。
 専有部分の使用にあたるので、これも全部規約に書いていないとできないのかというふうにも読めるので、この条文が今までできていたこと、求められていることをできなくする可能性があるように思う。
→現状の理解としては、規約に定めがない場合に、集会の決議だけをもってこういったことができるかというと、それはできないと考えている。
 ただ、そのできないということの意味合いですけれども、説明会を開き、こういうふうにやっていきましょうということで集会の決議も得ましたと、実際に工事を行う場面で、こういうことで決議がありましたので協力してくださいということで御協力を任意に頂く分には、当然できるということになると思う。
 なので、現在できているものは、そういった区分所有者の方の同意が得られているのでできている、という仕切りになるのではないかと思っている。
 一方で、最後までその区分所有者が、いや、立入りは拒みますということになった場合に、強制的にその方を退かして中に入って、できるのかと、これが集会決議だけでできるかというと、そこは少し難しいのではないかという整理をしていて、少なくとも規約で定めることが必要だろうと。

(4)区分所有者が国外にいる場合における国内管理人の仕組み

・なかなか管理費がスムーズに払ってもらえないというときに、この国内管理人の方に管理費を払ってもらえるようなことを請求してよいのか、払えと言えるものなのか?
→債務の弁済ということで債務を支払うことも書かれているが、これは飽くまで事実的に債務を支払うということが書かれているだけで、国内管理人自身が所有者と同じように義務を負担するというわけではないので、国内管理人に対して管理料を払ってください、こういう請求はできないと整理している。

・何か訴訟等でいわゆる裁判所などの手続の手紙を送るというのは、この人に到達すればよいということになるのか?
→飽くまで国内管理人の権限として想定しているのは区分所有建物のこの部屋に関する権限であるので、訴訟における被告になった場合に誰に送達するか、これは全く別の話になるので、国内管理人を訴状の送達先にするとか、そういうところまでは今回、予定していない。

・知らない間に国内管理人ではなくなっていると困る。例えば、今の国内管理人の方が必ず次の国内管理人を決めてほしいとか、何か継続性を持たせるようなことが現場としては必要ではないかと思うがそうした制度は無理でしょうか?
→選任の義務付けまでは予定していないので、引き続き別の方を選任してくださいというところまでは義務付けることはしていないと考えている。ですので、国内管理人をやはり置くのはやめますと言われてしまって、その次に置きませんとなったときには、その次の方をどうしても選んでくださいと、これは法律上は特にそこまでは義務付けるものではないということで考えている。

・国内管理人の方が、私はもう国内管理人でもないし、所有者がどこに住んでいるか分からないと言われたら、これは今度は所有者不明の区分所有者としていけるのでしょうか?


(5)共用部分等に係る請求権の行使の円滑化

●提案内容
・① 管理者は、損害保険契約に基づく保険金並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領について、共用部分等に係る請求権を有する者(区分所有者又は区分所有者であった者(以下「旧区分所有者」という。)に限る。以下同じ。)を代理する。
② 管理者は、規約又は集会の決議により、①に規律する事項に関し、共用部分等に係る請求権を有する者のために、原告又は被告となることができる。
③ ①及び②の規律は、管理者に対して別段の意思表示をした旧区分所有者には適用しない。 

〇中間試案の注2
本文に加え、共用部分等に係る請求権の発生後に区分所有権が譲渡された場合には、別段の合意がない限り、当該共用部分等に係る請求権は、譲受人に移転するものとする規律を設ける考え方もある。

●パブリックコメント
・中間試案(注2)の考え方については、区分所有法が、共用部分の持分と専有部分との分離処分の禁止や管理費等債務の特定承継人への承継など区分所有建物の管理のために民法の一般原則と異なる取扱いをしていることなどを理由として、区分所有権の譲渡に伴い、共用部分等に係る請求権も譲受人に移転する仕組みとすることに賛成する意見が多く、その中には、「別段の合意がない限り」との留保を設けるべきではない(区分所有権の譲渡があった場合には、共用部分等に係る請求権は譲受人に当然に移転するとした上で、管理者のみが一元的に行使するものとする)とする意見も多数あった。

●提案の趣旨
・区分所有権が譲渡された場合には、共用部分等に係る請求権も当然に移転することとする規律については、共用部分等に係る請求権は、請求権が発生した当時の各区分所有者に分属し、各区分所有者自身がその請求権を処分することも可能という建前を崩すことを正当化するのは困難であり、同建前を採りながら、区分所有権が譲渡された場合には法律上当然にその請求権が区分所有権の譲受人に移転することを整合的に説明することは困難であるから、取り上げていない。

●質疑、意見
・区分所有権が譲渡された場合に当然移転するという規律について、結局、譲受人に移転することを整合的に説明することは困難であるから取り上げていない見解となっているが、今回のパブコメを見る限り、取り上げないというようなレベルのものではなくて、積極的にここを考えるべきではないかと、当然移転ということを考えるべきではないか。
 これは実は、2001年の段階で、同じようにこの瑕疵担保に関する承継問題については議論がなされていて、残念ながらその2001年の法制審議会ではこの議論は途中で終わってしまっていて、そのときは取り上げないと、先送りみたいな、そういう結論になった。20年掛かっていて、まだその問題が今回解決できないということについては、やはり疑問がある。平成14年8月22日の法制審議会区分所有法部会の第16回の議事録を確認したが、ここでは瑕疵担保責任の請求権の承継問題については今回の改正要綱案には盛り込まないことにしてはどうかと考えておりますみたいな、そういう提案に従って、盛り込まれないことにはなったと思うが、今回やはりもう20年たって、実務からこれだけの要望があって、具体的な実務での解決をやはり考えるということからすると、この当然承継について、やはり一歩踏み込んで考えるべきではないか。
 理論的になかなか難しいのではないかというような意見を頂いているところもあるが、やはりもうこれはそもそも区分所有法というものが、民法上の理論からは特殊な法制度の実現のためにできているものだし、共用部分の持分は専有部分の処分に従って分離処分は許されないという法律があるし、管理滞納などの債務は、逆に今度、特定承継によって承継されるなどという、これもどこの理屈から出てくるのかといえば、そうではない、政策的な問題として出てくるような、そういうような民法の一般原則とは異なる規律を既に設けているから、今回の債権の当然承継についても、やはりその必要性から、設けるということに何らちゅうちょすることはないと思う。
 ですので、パブコメの意見と、最終的には瑕疵修補に代えて認められるというような債権であることからすれば、団体的行使ということについて何ら違和感のあるものではないと考えるの、(注2)の、特に別段の合意とかを抜いた、当然承継されるという形で、この部分を提案すべきだと考えている。
 そもそも区分所有法という法律ができたところから考えれば、一定の民法原則の変更というか、そういうことは許されるわけで、どこまでが区分所有法によって民法上の原則を変えるかというような理屈だと思う。どこまでかと。理論的な問題からすると、そもそも共有持分の処分は専有部分の処分に従わなければいけないと、分離処分で許されないと書いてあるところとか、区分所有法の管理費滞納なんかは特定承継によって承継されるなどと、やはりこれは全然民法の一般原則とは異なるわけではないかと思う。

・ニーズがどこにあるのかというところからスタートすべきだと思っていて、どこにニーズがあるかというと、瑕疵を修補しなければいけない、というところだと思う。単に金銭債権だというところからスタートしていくのではなく、やはり瑕疵修補、修繕に代わる損害賠償請求というところに着眼点を置き、その上で考えていくと、やはりそういった性質を持つものに関しては一元的に管理者が代理し、必要な修繕まで行き着く制度にしていくということは可能なのではないかと思っている。
 仮に、提案いただいているような①から⑤のような内容にするとしても、やはり(注2)のルールというのは、特約がないケースで有効となるようなデフォルトルールとして意味があるものという意見があって、本文を設けたからといって(注2)が要らなくなるというわけではないと思う。
 というのは、④に書かれているような請求権を有する者に通知しなければいけないとの規定があるが、管理者側からして、所有権が誰かというのは分かっても、その請求権がどこに移転しているのか、誰が持っているのかというところまでは把握できないというのが現実かと思っているので、そういった場面において(注2)のようなルールがデフォルトルールとしてあれば、通常は移転しているだろうということで、取りあえず現区分所有者の方に通知すればよいということになるし、別段の合意というのを主張したい人は、それを積極的に言わなければならないというような立て付けにしておく方が、実務的にはやりやすくなると考えている。


(6)建替え決議がされた場合の賃貸借の終了等

・補償金さえ支払えば立ち退きができてしまうということに関し、これが客観的事由を要件としないということになると、ニーズがない区分所有建物についてもそういった状況が発生してしまうと、理論上、危険性がないのに多数決でもって立ち退きされてしまう、これが果たして正当化できるのかということについては、引き続き疑問を有している。
 現行法では正当事由の枠組みの中でバランスをとってきたものであり、それに対してこの提案の①、③が終了の請求によって明渡しが先行してしまい、③の補償金請求権という債権が残るという形で別個独立の手続になってしまうと、結局は賃借人の方で補償金を受け取れないまま追い出されるリスクが生じてしまうので、賃借人保護としては不十分であると考える。ですので、③については同時履行を明記する必要があるのではないかと思われる。というのも、無資力のリスクを回避するためには、そういった手立てが必要だと思う。
 また、④についても同じ理由で、請求をした人あるいは区分所有者だけでは、その方が無資力で回収できないということのリスクが、万全ではないので、賛成者や参加者全員にすべきという意見もあった。

・この補償をどうするかということで、建替えをされている方にヒアリングをしたところ、余り問題にならないというケースもあるが、この基準に基づいて、特に店舗の補償の場合には非常に高くなるという実態があると聞いている。そういう事業をされている方々が、公共性のために、すみません、少し動いてくださいという場合と、自分たちで建替えしましょうというときと同じ考え方でよいのでしょうか。
 公共性のある再開発事業では、事業全体の中に補助金が入ってきたりするというのと、自分たちで事業費を全部出さなければいけない場合というのとは状況が違うので、その場合には別の考え方が必要ではないかと私も思っている。

(7)敷地の一部売却

・敷地の一部を電力会社の方が売ってほしい、そこに電力会社が何か施設を造るとか、ガス会社かの方が売ってくれと、そこに何か施設を造るということが過去にあったということもあるので、そういったときに対応できるということが必要ではないかと思う。
 多数決でできて、そしてデメリットを被る方をどういうふうに守っていくのかということで、それに関しては、特別の影響を及ぼすという方で、その方の同意を取っていくという形が望ましくて、基本的には多数決でできるという、今まで議論してきた制度を構築していくということを引き続き検討していくのがよいのではないかと思っている。
→結局突き詰めて言うと全ての人に特別の影響があるのではないかと。敷地、今まであった部分について失うということは、様々な影響がやはり出てき得る、その後も含めて。そこの利用の在り方によっては環境が悪化するということになると、それも場合によっては誰に及ぶか分からない特別の影響のおそれもあるということになると。結局、特別の影響が及ぶ場合にはその人の同意は得なければいけませんねということは、恐らく否定できないので、だとすると結局、全員同意でやるしかないのではないのかと。

・敷地の一部売却も、分割が適正であることを確保できるような仕組みが何か作れるのだったら、あり得るのかもしれないが、これは区分所有法の見直しでやるべきことかどうかも含めて、検討しなければいけないことなのかなと思う。

・敷地が必ずしも整形ではなくて不整形な場合に、実は敷地の購入についてオーケーだというのが前の方に出ていますので、それとこの売却をうまく合わせると、敷地を整序したりすることもできる。そういうのもなかなか難しいだとか、それから、場合によっては公共用地用に少し売却をしなければいけないだとか、いろいろなケースが考えられて、一部という幅が広すぎるので、なかなか難しいということになったのかもしれないが、もっと限定する形で可能にするというのは、あり得るのかなとは思ったりしている。

・司法書士に区分所有建物の権利に関する登記手続について相談が多く寄せられる中で、緊急車両が通れるように道路を拡幅したい、拡張したいというものがある。この場合、敷地の分割、分離処分可能規約の変更、個々の担保権の抹消、共有者全員の持分移転の登記手続などが必要になるが、そうしたときに区分所有者全員の同意を得ることは非常に困難であり、断念せざるを得ないケースもある。
 潜在的にはそういった公益的なニーズに応えられる制度が望まれているとも考えている。 管理組合法人が集会の決議を前提に隣地を取得することを可能とする提案がある一方で、売却することは区分所有者全員の合意が必要であるということにも疑問がある。