区分所有法制研究会の検討内容(2) | セミリタイアを目指すサラリーマン大家 マンション管理のお勉強

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令和3年3月から令和4年9月にかけて「区分所有法制研究会」において、法律専門家、都市工学者等のほか、実務・実態的な側面からマンション関係団体、法務省、国土交通省等も参加して、決議要件の緩和、所有者不明の課題等、広範な検討が行われ、報告書がとりまとめられました。検討会で行われていた議論内容も参考になるかと思い、資料を参照し、気になった点をメモ書きしましています。今回は令和3年6月1日の第2回の検討内容についてです。

■第2回(令和3年6月1日開催)
https://www.kinzai.or.jp/legalization_manshon.html

(1)建替えを実施した経験のある事業者からのヒアリング
(2)質疑・意見交換
1)建替え決議に関する問題(団地を除く。)
2)建替え以外の老朽化マンション対策に関する問題(団地を除く。)
3)団地の建替え等に関する問題
4)被災マンションに関する問題
5)その他の問題


(1)建替えを実施した経験のある事業者からのヒアリング

・所在不明者を決議のカウントから外してもらう手続きを講じてもらうことは,建替え手続きを進めるうえでは有効であると思われる。一方で,個人の財産権にかかる決議であるため,「カウントから外してよい人物」の判断基準が難しい(裁判上の争点になる可能性が考えられる。)。この判断をするときは,「非訟」手続き等,裁判所の関与が必要ではないかと考える。

・区分所有法の建替え決議では,登記簿記載の権利者を所有者として取り扱うが,登記簿が正しく所有者を反映していない(姓や住所が変わったり,区分所有法の前の権利が残っていたり)事情が多くある。その中で相続未完了が多く,親族の同意が得られないなど苦労しているケースが多く見受けられる。

・外国国籍の方は,建替え決議の招集通知などは届け出の国内住所などに送るケースが多いが,非賛成で売渡請求をする場合,手続き的に海外の居住地へ売渡請求を送らなければいけない場合がある。それが実際に到着するのかが問題で,時間をかなり要する可能性がある。日本での手続きを進められるような方法が求められる。例えば,中国籍やアフリカ籍などは,所在が分からなくなる可能性があり,対応方法が必要と考える。

・団地の建替え決議において棟別決議が要件とされるが,団地の組合活動において,居住者の大半は,マンション全体と区分所有の考え方がほとんどで,棟別での意識がほとんどないのではないか。かえって,建替え決議に棟別の考え方が作りこまれ,難しくしているのではないか。
・団地一括建替え決議の各棟要件は,特定の棟の少数の票の取り合い合戦になり,争いを助長する面がある。

・建替え決議は総会当日一発勝負,同意書を集める形と比べ不確実性が高く,精神衛生に悪い。

・ごね得狙いで少数の権利者をまとめて拒否権を握り,反対運動をされるケースが現実にある。
・当初は建替え要件である5分の4について変更する必要はないと考えていたが,最近の傾向として反対する区分所有者は「あることないこと」を言いふらす傾向にあることから,最近では緩和の必要性を感じている。

・高齢者が多いとインセンティブが働かず8割賛成は至難である。
・マンション建替えは人の和が大切。通常の管理活動での対立を持ち込み,建替え推進活動での意見対立となる場合もある。再開発事業と異なり権利関係が同質のため組織化が容易である。高齢化が進み,現状維持を望む区分所有者が多い。事業に対する意向を変えても仲間との関係を崩したくない(棄権に廻る)。最近の人は裁判をいとわない。

・現行法のマンション建替えの場合,借家人の全員同意が求められているが,現状において借家人は必ずしも弱者であるとは限らず,同意の必要性や権利保護の条件等見直しが必要ではないか。例えば,一定条件の補償(例えば用対連基準に則った補償等)により同意要件を外すなどが考えられる。
・賃貸人と借家人が協力し,多額の和解金を取得した事例等もみられる。借家権解消費用の交渉に利用されている事例もある。

(2)質疑・意見交換

1)建替え決議に関する問題(団地を除く。)

・デベロッパーとしては,事業規模がポイントになるので,価格と量(保留床の取得面積)を含めての判断になるが,事業性がよければ入っていける。

・多数決は全員同意に至るためのプロセスだと思っている。賛成しない人に,最後には仕方ないねと思ってもらうためのプロセス。最近は,かなり強い主張をされる方がいる。5分の4の要件をもう少し緩められれば,多数の常識的な方の判断がより反映されることになると思う。4分の3か3分の2のどちらが望ましいかはにわかに判断できないが,いずれにせよ決議が通ったら賛成すると言ってもらえるような状況で決議をすることが重要だと思う。

・過去の経験からであるが,売渡請求に進むケースは限られている。仮に要件が4分の3になったとしても,催告を経て,最終的には全員合意に近い状況になるのではないかと推察している。また,売渡請求が増えた場合について,デベロッパーとしては売る床が多ければ多い方がいいのではなかろうかと推察している。

・少数弱者のステレオタイプは高齢者や貧しい方などの生活弱者のイメージであった。ところが,建替え決議の理解が社会的に浸透して,5分の1を超えれば拒否権を握れるということで,少数者だが強者のように振舞う方がいるという感覚がある。

・借家人の保護については何か手当てをしなければならないと思っている。区分所有者が反対しても自分の所有権を取り上げられるにもかかわらず,他人の物を借りている人が反対すればすべて止まるというのは,おかしいと思っている。
→ 例えば,店舗借家の場合には,区分所有権の建替えを前提とした評価よりも立退料が上回ることがある。これは明らかにおかしいと思うので,何とか考えていただきたい。弁護士の中には,デベロッパーが建替えのプレスリリースを出すと,ポストに借家人宛の投げ込みをする方もおられると聞く。

・大きな要素になるのは,住宅でありながら,事務所等の事業用に変わっているケースで,評価自体が逆転するケースが多く出てきている。老朽化しているので賃料は安いが,月数を考えると立退料としては結構かかる。賃料は取れていないのになぜこんなに立退料を払わなければならないのかというオーナーさんのギャップが反対の原因となる場合がある。商業借家の下駄履きのマンションは建替えに苦労されている。借家人の補償について,事業費に折り込むことなどについても考えていかないと,借りる人と貸す方の経済合理性が生まれないような気がしている。

・区分所有建物の共有者の中に行方不明者がいる場合,建替え決議の議決権行使者の指定ができないという問題がある。この場合でも,例えば,5分の1の行方不明者を抜いて決定するとか,議決権の数を0.8とする考え方を取れないかと考えている。

2)建替え以外の老朽化マンション対策に関する問題(団地を除く。)

・デベロッパーが賃貸マンションを丸ごと買い取って改修する事業が増えている。老朽化した分譲マンションについても,解体しないで,誰かのものにして,リノベーションをして市場に供給するという対策ができればと思っている。

・実務上,高齢者の方は二回の引っ越しの負担が大きい。組合の運営も規模が大きくなると,理事の負担が大きい。スピーディに考えていく観点からは,これからは敷地売却が進んでいくと思う。デベロッパーが高齢者負担や組合運営などの大変さをどのように意識づけをするかにもよってくると思う。ただし,敷地売却は税制がまだ整備されていないことがネックになってしまっていて,デベロッパーとしても敷地売却に持っていきにくい状況である。

・現場の実感として,最初から敷地売却の話をするのは難しいと思う。区分所有者の方々に,買収しに来ているのかと感じさせてしまう。基本的には,まず,修繕改修で延命していくか,建替えをしていくかを検討し,建替えを検討する中で,権利変換手法を使うのか売却手法を使うのかという選択をすることになるのではないかと思う。いずれを使うのかという点は,技術的な側面で,借家権の問題や事業コストや手間を下げる観点から敷地売却を使うという方向性があるが,本来は,マンションを再度建てない方が合理的である場合に,敷地売却制度を使うのが一番よい。このような場合には,敷地売却を選択することを迷わない理由ができると思う。

・基本的に,マンションを建て替えるのであれば,敷地売却制度を使う意味はないと思う。あるとすれば,問題がある借家人がいて,その対策に使うということになる。敷地売却というのは,他の用途に使うべき場合に活用されるべきだと思う。また,都心部で日影規制によって既存不適格状態のマンションがある。建替えをしても75%くらいの建物しか建てられないということであれば,敷地売却という方向にいかざるを得ないと思う。本音としては,都心部の日影規制をなくしていただきたいと思っている。

3)団地の建替え等に関する問題

・いわゆる団理管理規約(68条規約)を設定するためには,棟と団地で決議する必要がある。旧公社の割賦販売のような物件は,割賦金の償還が終わったときに購入者は区分所有者となるため,その結果として,例えば,築後40年経ってから規約を設定することになるが,全体の決議しかやっていないために68条規約にはなっていない。20棟団地で築50年経って,今さら棟と団地の決議を取ることは極めてハードルが高い。例えば,取得時効ではないが,10年とか20年とか一定の期間,文句を言わずに使ってきた規約については現に有効な規約とみなすというようなことができないかと実務上感じる。

4)被災マンションに関する問題

・現行法の期間制限が厳しいと思っている。公費解体の制度があり,建物を解体する費用を行政が負担してくれる。公費解体となった場合には,廃棄物処理を所管する環境省が担当となり,全員同意が必要だと言われる。熊本地震の際の説明では,建物の中には解体に反対している方の動産もあるので,その方の同意を得なければならないというロジックのようである。区分所有法上も先取特権が動産にも及ぶということもあるので,解決を要する問題だと思っている。

・過去の事案で,公費解体について全員同意が必要であり,期限が迫っているということで,なんとか反対する方の同意を取り付けたことがあった。先取特権なのか,多少期間を延ばして,売渡請求権を行使して所有者になるなど,何らかの仕組みの構築が必要だと思われる。

5)その他の問題

・合意形成をしっかりやるということ,言いたいことを言わせるということだと思う。多数の方が賛成したということで,やることはやったという達成感的な諦めというのはあると思う。催告に応じないという人は,どうしても自分が中心でやりたかったのにできなかった人である状況である。
→ 高齢者の場合には,気持ち的には賛成できないが,少数派であることが分かって,賛成するケースが多い。人間関係で揉めているケースの方が訴訟になるケースが多いように思われる。