昔書いたベルばらのブログを発掘したのでいくつか載せます。お暇な方だけ読んでください。7月だし。この頃は真面目?だった。
2006年12月17日 (日)
ベルサイユのばら フランス語版
前に更新してから2ヶ月以上も経ってしまいました。季節労働者なので、今週末ようやく冬季休業期間に入りました。
報告がのびのびになってましたが、ベルサイユのばら フランス語版をAMAZON EUで購入しました。送料込み 61.92ユーロ! 重さ 上下巻+番外編 3冊で2.63キログラム!
http://www.bedetheque.com/serie-5256-BD-Rose-de-Versailles-(La).html
私が購入したのは 2ème Edition 2版です。2002年にブリュッセルで出版されています。
売れとるんかー。
こういうのは何ていうんでしょうか?逆輸入じゃなくて逆輸出?
*これを書いている私の情けないフランス語力について・・
子どもの頃、祖母から少し教わり、高校から大学にかけてアテネフランセで学ぶ。大学4年までに高等科1年まで終了。中等後期のみavec Eloge をもらう。が、その後10年ほど全くフランス語に触れない時期あり。今の職についてからフランスに行く機会が増え、15年ぶりに大学3年次の夏に40日間夏期講座に行った時のルームメイトAさんに再会。彼女はフランス人の額縁を作る方と結婚し、フランスの美術館の公認ガイドをしている。当然ながら日本人と結婚した私のフランス語力はその後全く伸びることはない。
というわけで ベルサイユのばら フランス語版 いやー、これがイイんですよー。
えーっと、まず何から書きましょうか。
Oscar とAndré から。
日本語だともちろんオスカルとアンドレでどちらも4音節ですが、Oscarだと2音節半,Andréだと2音節。短い音節でAndré, André と繰り返されると日本語で読むより全然いい感じです。Oscarの方はcarの部分がゆっくり発音されるのでさらに良い。
どちらも母音で始まるので、Mon Oscar (俺のオスカル)と Mon André(私のアンドレ)がenchaînementしてくれてmonoscar と monɑdre になるのも綺麗だ。André, Mon André(アンドレ、私のアンドレ)は、なんとたったの5音節で言えてしまう。
*enchaînement フランス語の調音規則 フランス語では子音で終わる語の次に母音ではじまる語がくる場合、発音される語末の音と次にくる語頭の音と結びつけて発音します。この現象を アンシェヌマン といいます
ロザリー 日本語で読んでいる時はロにアクセントを置いて読んでいるのに、Rosalieとなるとlieの方にアクセントがあることに気づいたりする。
*性数一致
これは後で詳しく述べますが、フランス語では性数一致するのでオスカルが女性として振舞っているのか男性として振舞っているのか、また女性として見られているのか、男性として見られているのかがたいへん重要です。
このフランス語翻訳者の方はMisato氏 絵の方の翻案は Eric Montésinos氏 となってますが、思うにこの方はアンドレファンですな。アンドレのセリフの翻訳にはたいへんな愛を感じます。最初っからアンドレはオスカルを女性形で呼んでます。
Tu es bête! idiote! imbécile! このとんま まぬけ どじ idioteが女性形 男性形ではidiot
こんなところまで女性形で呼ばなくてもと思うんですが・・まあ、女性として完全に意識しているということでしょう。アンドレのセリフは最初から最後までオスカルを女性扱い。彼だけはOscare(オスカルの女性形・・そんなものありませんが)と呼んでいるのではと思ってしまう・・。
反対にオスカルの父 ジャルジェ将軍 Général de Jarjayesは、Oscar mon fils ”オスカル、我が息子よ” に始まって オスカルに結婚を勧めるまでずっと男性形で通します。ちなみにオスカルの母 ジャルジェ夫人の呼びかけは Oscar mon enfant ”オスカル 我が子よ” ma fille 我が娘と呼んであげられないところが涙です・・・。
最初、通しでざっと読んだ時、日本語と最も印象が異なったのがこの点で、アンドレとジャルジェ将軍との会話が面白いです。アンドレとジャルジェ将軍との会話はあんまりないんですが、
オスカルがゲメネ公爵と決闘になるのを止めるシーン
アンドレのセリフ
Monsieur de Jarjayes! Empêchez cela! ムッシュー ジャルジェ この事態を妨げてください。日本語原文”旦那様 止めてください” 彼女 la を止めてくださいではなく 中性の指示代名詞celaを使っているところがうまい。
これに対してジャルジェ将軍は、「”彼”が決闘できないようなら跡継ぎにしなかった」と言ってます。
次、オスカルがフランス衛兵隊に入る時、アンドレを護衛につけるシーン
Protège-le jusqu'à ce que cet orgueilleux s'enfuie parce qu'il s'est fait casser le nez!
「この”傲慢者(男性形)”が、”彼の”鼻を折られて逃げ出すまで”彼を”守れ!」
とまあ、オスカルを表すのに男性形を3回繰り返すほどの徹底ぶり、恐るべし、フランス語版ジャルパパ。
こんな調子なので結婚を勧める時もいきなりの子ども扱い。
C'est de la Tyrannie! ”横暴でございます!” のセリフがものすごく妥当な感じ。封建親父ジャルパパ!
それだけに
ジャルパパに成敗されそうになるオスカルを助けるために将軍を短剣で刺そうとするアンドレのシーンのセリフはすごい。
ちなみに”成敗する”をフランス語でどう訳しているかというと
Je vais corriger moi-méme. ”私が自分自身で修正する。”
になってます。
アンドレがジャルパパの腕をひねり上げたシーン
Lâche-moi, André ”放せ アンドレ”
Jamais ”断じて”
ここでのアンドレのセリフはJamaisなんですよー。否定の最上級。英語でいうneverです。この人はねぇー、オスカルのブラウスをビリビリした時にオスカルに同じセリフ Lâche-moi, André ”放せ アンドレ”と言われた時は、ただのNon!! だったのにですよー。
Je t'ordonne de me lacher. 私はお前に放せと命令する。
Je ne lacherai pas! 放すつもりはありません。
Dans ce cas je t'affronterai aussi!! それならお前とも敵対する!!
Très bien!! たいへん結構!!
Mais avant... Je vous poignarderai et j'emmènerai Oscar...
けれどその前に、私はあなたを短剣で刺し、オスカルを連れていきます。
とまあ、たいへん強い会話が交わされます. poignarder qn dans le dos 後ろから人を短剣で殺す(卑劣に人を裏切る)という意味もあるんですね。
アンドレ 大恩ある旦那様になんてことを。2週間後のバスティーユ襲撃を待たずして、ジャルジェ家では革命が起きてしまったー!!という感じです。
Je veux seulement vous donner ma vie en echange de celle d'Oscar même si dix de mes vies ne suffiront jamais à remplacer la sienne...
私はただあなたが私の命とオスカルのそれを変えてくれることを望んでいる、10の私の命でも”その彼女のもの”と取り替えるのには決して充分でないだろうけれども。(直訳)
ここで初めてアンドレがジャルジェ将軍にオスカルのことを女性として伝える表現が出てきます。
でもって 「お前を殺せば、ばあやも生き延びてはいないだろう。」と続き
Tu es trop rusé... お前は悪賢すぎる。(日本語では「知能犯め」ですね)
となります。
最後に廊下でアンドレとジャルパパの交わす会話
Est-ce qu'Oscar se rend de nouveau au régiment?
オスカルは新しい連隊に行っているか?
Ses sordats n'obéissent qu'a elle.
兵士たちは、”彼女”にしか従いません。
私はここを最初に読んだ時、ぶっとびましたー。うっわー、アンドレ、旦那様に向かってもう”俺の女”呼ばわりー?原文は「オスカルの言うことでなければききません」ですから、わざわざ彼女elleを入れる必要はないんです。
その後、「ただお前が貴族であったなら」というセリフがくるんですね。
Deviens son ombre... Et tant qu'il y aura de la lumière, suis-la comme son ombre.
影になれ、光ある限りその影のように”彼女”に付き添え。
というジャルパパのセリフがきます。うん、やったね。衛兵隊での護衛を命じた時は「”彼”を守れ」ですから。「”彼女”に付き添え」ということは、女としてのオスカルを
Je compte sur toi... お前に頼んだぞ ということです。
アンドレの答えは
Vous pouvez.
の後は省略されてますが、Vous pouvez tout sur moi... すべて私にお任せください。という意味ですねえ。
なんだぁー、アンドレ、婿として認められてんじゃん。いや、日本語でももちろんこのシーンはジャルパパから恋人同士の黙認を得た感じではあるんですが、フランス語版はジャルパパがそれまで超封建親父だっただけに晴れて女としてのオスカルを引き渡された?という感じです。
えーっと、アンドレの下克上物語? アンドレ確信犯、悪賢いヤツ?
えっとベルばらってそういう話でしたっけ?