<少年時代> イム・シワン、激しい青春のぶつかり合い
まるで顔を変えたような型破りなコミック演技変身

 

 



今月1日、俳優イム・シワンは35回目の誕生日を迎えた。彼は今まで、時代を生きる青春の様々な表情を見せてきた。ある時は競争に負けて疲れ、またある時は希望に膨らませキラキラと輝いた。時には近づく初恋の感情にドキドキし、すべての希望を失った深淵の底で狂気に染まった。イム・シワンのその「かよわい肩」を見ると青春の辛さや儚さすら感じられる。

その彼が初めてコメディに挑戦した。やはりイム・シワンらしい挑戦だ。11月24日から公開のクーパンプレイのドラマ <少年時代> で、イム・シワンは「温陽のヘタレ」で知られるチャン・ビョンテ役を演じた。4話まで公開されたところだが、イム・シワンの演技は「まったく違う顔」と好評を得ている。最近、俳優アン・ジェホンがネットフリックスの <マスクガール> で「引退作ではないか」とコメントされたが、世間にそう評価されるのは、キャラクターですべてを表現する俳優にとって最高の賛辞ではないだろうか。

 

 

イム・シワン演じるチャン・ビョンテは、1989年に忠清南道の温陽で育った平凡な高校生だ。学校でいつも殴られていたビョンテは打たれ強さと状況判断能力だけが身についていった。その後、不法ダンススクールをしていた父チャン・ハクス (ソ・ヒョンチョル) について扶余に行き扶余農高に入ったが、彼の学生時代はわかりきっていた。明日か明後日か、その時期が重要だった。

折しもその頃、牙山を牛耳っていた「牙山の白虎」チョン・ギョンテ (イ・シウ) が転校して来るという噂に扶余農高はざわつく。たまたま起きた交通事故でギョンテを倒したビョンテは名前が似ているだけで扶余農高の生徒たちから「牙山の白虎」と間違えられ、すべての状況が重なり「けんか最強」の名を守りぬく。彼には扶余最高の美人カン・ソンファ (カン・ヘウォン) との恋愛と、転校で同じクラスに入ってきた、いつ本性を現すか分からない記憶喪失のギョンテがいる。<少年時代> は、そこで成長していくビョンテのストーリーだ。

 

 

 

 

コメディージャンルが初めてのイム・シワンの姿はどうも見慣れない。あの当時に流行ったおかっぱ頭 (マシュルームカット)、おどおどして人と目を合わせられない。何をするにもあたふたする運動音痴な姿は笑いを誘う。何より忠清道の方言を話す姿に驚く。彼は出演が決まってから忠清道方言の先生を雇ってマンツーマンレッスンし、ダンサーのヒョジンチョイに3か月ダンスを習ってキャラクターに活かした。

周りの忠清道ネイティブスピーカーは、イム・シワンの (方言) 再現は素晴らしいほうに入るという。特に「ネイティブ」たちは語尾に鼻音を混ぜて発音するイム・シワンの手腕に賛辞を送った。釜山出身のイム・シワンはまるで扶余に住んでいたようなチャン・ビョンテを再現した。

演技は努力の領域とも言われるが、幾分は体質の領域でもある。歌手が好きで「帝国の子供たち」のメンバーになったイム・シワンにとって演技は遠い国の話だった。歌手ではあったがダンスもそこそこ、歌もそこそこ、何より平均より少し小柄な体が目立ちにくくした。 

 

 

 

 

そして2012年、MBCドラマ <太陽を抱く月> のキム・ドフンPDの目に留まった。キムPDは知り合いの芸能事務所社長に「演技の素質がある子を紹介してほしい」と頼み、その中で一番目を引いたのがイム・シワンだった。彼は主人公イ・フォン (キム・スヒョン) の少年時代役 (ヨ・ジング) の学問の師匠ホ・ヨム役で登場し、ドラマの人気に一役買った。彼の演技はまるで体にぴったりな服のように、ドラマや映画のカメラの前で生き生きと動いた。

その後、<赤道の男> のイ・ジャンイル、<未生> のチャン・グレ、<他人は地獄だ> のユン・ジョンウといった人生配役が来た。映画では <弁護人> で拷問を受けたパク・ジヌ、<兄思い> のハン・サンリョル、<不汗党:悪い奴らの世界> のチョ・ヒョンス、<非常宣言> のリュ・ジンソク、<スマートフォンを落としただけなのに> のオ・ジュニョンなどを演じた。

(役の) 色は少しずつ違うが、共通点があるとしたら慎重な人物という点だ。多くの演出者が、彼に青春の辛さや試練、そして喪失につながる狂気を見い出した。<熱血司祭> を演出したイ・ミョンウ監督は、彼の顔にコメディーを見つけ、デビューして初めて一番壊れた役をイム・シワンはいつものように誠実な準備でやり抜いた。

 

 

 

 

「演技」は一人の人間をいとも簡単にスターに押し上げる。そして安定すれば定年がない。息が切れる日まで、自分がやりたい演技をして暮らせる幸運が与えられるのだ。しかし、その過程はそう簡単なものではない。配役のために、大衆が知っている普段の人格と習慣、顔は全てコンピューターを修理する時のように「フォーマット」されなければならないし、完璧にキャラクターを設定しても次の配役のために再びフォーマットされなければならない。

もちろん、その過程は容易ではない。苦痛と悩みが伴う。いつもイム・シワンに会うと信頼感を感じるのは、彼がその過程を要領など考えずに定石通りに淡々と進めようとする点であり、毎回自分の姿に足りない部分を感じて努力を惜しまず実践するからだ。彼は初めて挑戦するコミック演技にも要領など考えずに定石通りぶつかり、かなりの好評を得ているのだ。

あどけない顔で演技に挑戦したイム・シワンも、すでに経歴は13年。20代前半の幼い顔は、いつしか30代半ばの成熟した姿へと変わった。だが、<少年時代> に挑戦する姿を見ると、初めて演技をした時のときめきと震えがそのまま残っているように見える。まったく違う顔になったようなイム・シワンの活躍が際立つ <少年時代> は、イム・シワンは今も「心は少年」のままだと示す証拠ともいえよう。 

 

コラムニスト シン・ユンジェ

 

 

2023年12月2日

 

 

 

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