part.1の続き
 
 
 
Part2. イ・ジョンソクの決定は現実に根づく。

 

 

 
 
私が先ほどイ・ジョンソクが持つ説得力と言ったのはそこです。単なる犯罪者ではなさそうな表情、単なる悪役ではなさそうな顔。それがドラマの内容が気になる説得力なんです。
ああ……何かワケありに見えるってことですよね? でも逆に、僕が今までドラマで善良な役でよく登場してできた説得力ではないかと思います。イ・ジョンソクは今まで善良な人ばかりを演じてきたので、<ビッグマウス>では演技変身を図るために本当の悪役を演じたかもしれない、それとは逆に今回も絶対に犯人ではないだろうと予想するのです。
 

<デシベル> では本当の悪役でしたね。もちろんストーリーはありますが。悪役ということでイ・ジョンソクの発見という記事がたくさん出ました。<V.I.P.> の時もそうでした。
<V.I.P.> の時は悪役そのものが初めてで、演技に欲を出した時期でした。<デシベル> はちょっと違いましたね。単なる悪役だとは思いませんでした。実は自分でも特別出演くらいかなと思っていたんですよ。出番もそれほどないし、映画では1時間ほど経ってから僕が登場するんですよ。
 

最初はアクションシーンもなかったんですって?
そうです。アクションシーンもなかったし出番も少なかったんですが、次第に増えてアクションもしたり、しまいには主演に上がっていました (笑)。撮影すると決めたので最善を尽くし、製作発表会のテーブルに座っていました。
 

情にもろいですね。
そうかもしれません。とりあえず始めたなら役目を果たさなくては、とも思います。どうせなら出演した作品で自分がもっと上手くできて、より良い方向に発展できるのならしなければなりません。
 
 
 
 
そういえば、<ビッグマウス> での怪我は大丈夫ですか?
3話目を撮る時でしたか? ある服役者がナイフを手に飛びかかるシーンがありました。普通はそういうシーンだとアクションスクールで息も合わせて練習もして撮るんですよ。でも、その時は時間も足りなくて、撮影もチャンフンだったので、練習する時間がなかったです。現場でアクションを合わせている時に膝の靭帯が切れてかなり苦労しました。骨が折れたのなら1か月もあればくっつくから大丈夫ですが、靭帯は回復するまでに何か月もかかるので、怪我のままの撮影で回復するのに大変でした。靭帯は完璧に治らないと思います。小さい頃、一度怪我をしたところなので痛めやすいんです。
 

それなのにアクションがちょっと多かったのではないですか?
アクションもそうですが、生きるか死ぬかの瀬戸際のシーンが多すぎて、このドラマが終わったら休息が必要だと思いました。8話あたりで刑務所から出ると聞いたのですが、今なら言えますが12話まで出られません。8話に一度出ましたが精神病院に連れて行かれます。
 

しかも妻のミホとはほとんど会えません。
ユナさんとは1話に1回くらい会って、実は刑務所の兄貴や弟たちとのほうが長く撮影してみんな親しくなりました。ヤン組長で出演されたソン・ギョンチョル先輩とは、その時の縁で名節の度にプレゼントも送り、連絡もしています。肉を送ったら「俺が肉も食べられないかと思って肉を送ったのか」と言ってくださいます。ちょっと「ツンツン」な一面があります。かなり長く一緒に撮影したので、今でもヤン組長との絆が一番深いと思います。
 
 
 
 
<デシベル> ではチャ・ウヌとイ・ジョンソクのツーショットで期待を集めたりもしました。
兄弟のシーンでは感情が少し高ぶりました。ウヌさんとは頼りあいながら撮影しました。壁の向こうの弟に感情を爆発させるシーンは本当に大変でした。極限状況でしたからね。
 

フィルモグラフィを見ていると、ある時から強烈なキャラクターを選んでいるように感じました。<V.I.P.> の後の <ビッグマウス> <デシベル> などがそうで、<魔女2> も特別出演ですが強烈でした。
強烈なキャラクターばかりを意識したわけではありませんが、こうも考えました。当時は復帰作を控えた30代半ばだったでしょう。どんな作品で、どんな姿を見せようかと考えたんです。自分が今までやったことのないキャラクターに目を向ければスペクトラムをますます広げることができるとも思いました。こういう質問をよく受けます。ですが僕の悩みは、好みや感性によるものではない事が多いです。俳優として活動する自分のポジショニングを正確に理解し、自分がどんな競争力と方向性で生きていくべきかを現実的に悩む方です。
 

イ・ジョンソクというブランドを長く続けられるかと悩んでいるのですね。
そうです。若い頃は本当に運良く良い作品に出会い、その当時のキャラクターに似合うビジュアルでした。やったことのないキャラクターを演じてみたいというのも、そんな現実的な悩みから出た答えです。色々と悩みも増えて何事にも慎重になりますね。こんな僕のことをファンは少し寂がると思います。僕を応援してくださるファンの方々が、もっと立派な俳優になってほしいと願うので、今後の方向も真剣に悩んでいます。ファンにはいつも申し訳なく思うし、感謝しています。
 

いい言葉ですね。俳優がアーティスト的な意味で何かを決めるのではなく、今できる事に重点をおくという意味ですから。ですが前回、他のメディア (ARENA 2022年12月号) とのインタビューでは「中身を探している」とも言っていました。
あの時、どうしてそう言ったのでしょうか?(笑)
 
 
人は環境が変わると少し不安定になりますが、中身があって安定する方がかえって疲れるんじゃないかと思いました。自分は正しいと押し付ける人のように。
中身というのは「芯」というか、自分のベースだと思いますが、それを探し出して大事にしながら生きるのも悪くないと思います。他の人にそれを見せつけて「おまえもこうやって生きなきゃな」と言えば、ただの口うるさい人になるんでしょうけど。今、思えば「中身を探す」と言ったのは、たぶんあの頃は少し不安定だったからだと思います。20代から30代になる時、みんなそういう時期を経るじゃないですか。20代の時は僕がどんな行動をしても周りは理解してくれると思ったけれど、30代になったら誰に会って話をするにしても、もう少し大人らしく接しなければならないという考えで。どんな事であれ、もっと大人にならないといけないという自己規制のようなものが生まれる時期です。それに軍服務という激変の時を経験した後の復帰だったので、そう悩んだのだと思います。 
 
 
 
 
 
その時、あの方」がずいぶん力になってくれたのではないですか?
こんなにいきなり入ってくるんですか?(笑)
 

このタイミングで会ったのに全く知らないふりはできませんから (笑)。
(笑) あの子の存在そのものが頼りになって力になると言ったら陳腐に聞こえるかもしれません。でも、僕だけでなく本当に多くの方々が、あの子の音楽とあの子の歌詞と、心を癒す文章に慰められるんです。僕もそうです。ただ僕は会話することで癒されている点が違うだけです。でも、僕たちはかなり前から友達で、あの子が世界で一番面白いです。さっき話した30代になって悩んでいた時期に、友達だったあの方に本当にはずいぶん慰められました。
 
 
今、すごく感動しました。
僕は20代半ばから友達だったので、お互いがかなり若い頃に会ったわけです。あの子が僕に「ずいぶん大人っぽくなった」と言ってくれると、もっと大人になりたいと思います。そして今よりもっと良い人になりたいと思えてくるんです。
 


えっ……とっても感動的な言葉がまた出ましたね。似たような映画のセリフを思い出しました。<これ以上良くならない> (邦題 恋愛小説家) で、ナムジュ (メルビン) がヨジュ (キャロル) に告白する時、こう言います。「いい人間になりたくなった」と。
タイトルは何ですか? チェックしておかないと。

 

「自分だけの中身を探している」と語っていた

ARENA 2022年12月号