Part1. <ビッグマウス> で意図して演技に隙を作ったのは理由がある。
イ・ジョンソクは、今まで自分で決めてきた数々が現実的な問題意識によるものと語った。地に足をつけた彼の姿がいつにも増して頼もしかった。
 
 
 
 
こんなに早く終わった撮影は久しぶりですね。撮影はどうでしたか?
(笑) 服がきれいでした。韓服のような美しさがありました。ロングコートがトゥルマギ (韓服の上に羽織る外出用の上着) のような感じというか? 薄色デニムのセットアップも本当にきれいでした。
 
 
少年美が出ているなと感じました。鮮やかな感じがマルジェラとよく似合っていました。
そんなぁ。僕はもう30代なかばですよ。
 
 
年齢と少年美は関係ありません。
(笑) 僕も今日はとても嬉しかったです。フォト室長も、マルジェラ関係者の方々もみなさん応援してくださいました。おかげで元気が出て終えられました。
 
 
前に会ったのは <魔女2> の撮影に入る直前でした。
そうです。除隊して『 Esquire 』とグラビアの仕事の後から本格的に作品に入りました。
 
 
<魔女2> では特別出演じゃないですか。でも思ったよりインパクトのある役でしたね。
僕も予告編を見てびっくりしました (笑)。予告編では、僕がかなり多く出ているように見えましたよ。出番は少なかったですが、作業自体は面白かったです。
 
 
パク・フンジョン監督が描く <魔女> の世界観では、かなり意味のある人物でした。さらに3本のメインヴィラン (悪役) 候補にまで挙がるほどです。
実は僕も作品に入るまでは、監督から僕のキャラクターについての詳しい説明や作品全体の世界観については聞いていませんでした。ただ「ちょっとかっこいいキャラクターがいるんだけど、やってみる?」と言うので参加したんです。後で監督のインタビューを見てから、その世界観を知りました。
 
 
パク・フンジョン監督とは前作で縁がありましたよね。
<V.I.P.> という作品に出演しました。個人的には監督とギャグコードがよく合って…… 親しい兄と言いますか? 監督はとても無愛想なんですが面白いところもあるんです。なんてことない言葉を楽しく話してくださって、 言葉のキャッチボールが楽しいです。
 
 
 
 
除隊後初のドラマ <ビッグマウス> が大ヒットしました。次回作にかなり悩んだそうですが、その悩みが活きたようです。
そうですね。次期作を悩んでいた時期がしばらくありました。運が良かったです。久しぶりの復帰なので、どんな作品を持ってくればいいか本当に悩みましたが、割と気に入ってくださって本当に良かったと思いました。自分でも半信半疑だったんですよ。このドラマでは、今まであまり見せたことのない僕の姿でしたから。
 
 
前に、ジョンソクさんが好きだった <ロマンスは別冊付録> のチャ・ウノについてこんな話をしたことがあります。「ウノは現実感のあるキャラクターながらも偏見がなく、自分が愛する人には無条件に気遣って、どちらかというとファンタジーのような人物」だと。<ビッグマウス> では、変わる前のパク・チャンホは少し無能なところもあるが、ミホを思う気持ちはウノに似ているようです。
僕は、その二人は正反対のキャラクターだと思います。実はチャ・ウノは、超能力や優れた特別な一面があるというより、他人を気遣う姿がファンタジーのようなキャラクターなんです。<ビッグマウス> ではミホへの愛がチャンホの動力になることはありますが、人そのものはウノとは正反対です。
 
 
もしチャ・ウノを、ミホを守らなければならないような状況にしたら、チャンホのようにドラマチックに変わるのではないかと思いました。
それはあると思いますね。でも、実はチャンホのキャラクターを演じながら「これは本当にミホのためなのか」とかなり考えましたよ。実際にチャンホを演じる僕は「チャンホ、口だけでミホのためじゃないの?」と思いました。
 
 
(笑)ドラマでも口だけなので「ビッグマウス」ですよね。
そうですね。離れている時はミホが恋しくて涙を流すのに、会えばハグをちょっとだけしてミホのスマホで自分の用事を済ますから。
 
 
私、その時、腹が立ちましたよ。パク・チャンホが銃で撃たれて死んだように見せかけるシーンがありますが、それならミホに言うべきでは?
そうです。何も言わないで死んだふりをしたら、妻のミホはどれほど心配するでしょうか。相手を気遣うウノと比べると、チャンホは少し残念なところがあります (笑)。
 
 
 
 
その不器用で地味なキャラクターが繰り広げる過程こそが、このドラマの本質です。勝率10%の弁護士だったり、刑務所のボスだったり、偽のビッグマウスだったり、本物のビッグマウスになって巨大悪を倒す過程が英雄のように描かれています。
僕も台本を初めて見た時、そこが一番面白かったです。チャンホが元々持つ本来の姿を見せたのは1話だけでした。1話だけがチャンホの本当のキャラクターが現れ、その後は迫りくる状況を打ち砕き、逆境を乗り越えていくために臨機応変に見せる姿だけです。人の本質ではなく、特別な状況におかれた為の表情だけを見せるわけです。自分になかったものを手にして難関を乗り越えていくキャラクター。4話まで読んで、そこに大きな魅力を感じて新しいなと感じました。
 
 
その後はチャンホは消えます。
中盤から後半を過ぎて、自分もそこが気になりました。1話で見せたチャンホの表情がいつのまにかすっかり消えていました。全くの別人になっていたのです。
 
 
生きていれば本当に大変なことを経験して、人ががらっと変わったりしますからね。
覚醒する事があります。そう理解しました。でも、普通は本当に大変なことを経験しても、1、2か月もすればまた元の性格が戻ってきたりするんですよ。それで基本的な本性は大きく変わらないと思っていました。でも今、記者さんが言ったことも合っていると思います。自分はとても内向的で気が小さい性格ですが、俳優として活動して少しずつ変わってきました。もちろん今もそんな傾向はありますが、出るべき時には出るぐらいにはなりました。後天的でも、いくらかは変わる可能性もあるということです。
 
 
 
 
前にもそういう話をしましたよね。内向的すぎて、何十人ものスタッフが見守る中で演技するのがなかなか難しく、緊張する時が多かったと。
緊張するよ、いつも緊張しました。序盤は緊張というより、自分ができるキャラクターなのか悩みました。僕はMBTIで言うと「I」タイプで、自分が引き受けるキャラクターが陽気で極端な「E」タイプなら、僕が表現できる方向とこのキャラクターが目指す方向が全く違えば、僕は克服できるだろうか。そんなことを考えました。
 
 
今、話している様子を映像に撮って見せたいです。落ち着いて恥ずかしがりながらも言葉ひとつ選ぶのにもじっくり考え、ゆっくり吐き出す姿が印象的です。
今までのインタビューは、いつも思いつくままに答えていたと思います。今、改めて見ると、当時のインタビューは洗練されていないようでした。正直とは少し違うんですよ。正直ながらも、自分が言いたいことが誤って捉えられたり、ねじ曲げられないように、はっきりと正しく、テキストだけで伝えても十分理解できるように説明しなければならないと思いました。
 
 
どういう意味なのかわかる気がします。緊張したり興奮したりすると、自分が言いたいこととは全然違う言葉を言ってしまいますよね。例えば「アバンテ (ヒョンデ自動車の大衆車) はコスパがいいです」と言うべきところで、「アバンテは安すぎます」と言ってしまったとします。そこで意味が間違って伝わることがあります。
ですよね。僕はインタビューが好きなんです。でもインタビューで質問が続くと、時には何でも答えなければならないような義務感のようなものができて、自分の言葉ではないのに話してしまう事もありました。年をとるほど慎重に言葉を選び、誤解がないようにもう一度よく考えます。わからなければ「よくわからないです」と答えています。
 
 
賢明ですね。知らないことを知らないと言うのは、記者には難しいです。特に最新のトレンドについてです。記者仲間が集まれば世の中に知らないことはありません。
(笑) 記者の方々はそうかもしれませんね。以前は僕もそうだったと思います。でも、今はわからないことがあれば何でも正直に聞くようになりました。知らない時は知らないと言うのも美徳で勇気なんです。それを学びました。
 
 
 
 
今、話していて感じたのですが、ジョンソクさんと話すのは本当に気楽ですね。<ビッグマウス> を見てそう思ったんですよ。ドラマがジェットコースターのように迫力満載で、観客は目が回るかもしれないと思って。でも、主演俳優がイ・ジョンソクで安定感や説得力があって良かったと思います。
とてもありがたい話ですが、実際に演じる自分はすごく不安な時が多かったです。僕は台本の最後までわかった状態で演技をしていませんでした。台本が完結しないまま撮影に入ったので、自分の正体が何かも知らなかったし、他の人たちの正体も知らなかったです。しかも、このドラマの事件の展開が、あとの台本を受け取るまでは前に起きたことの原因がわかりません。
 
 
どういうことかわかりました。例えば、最初にパク・チャンホとコン・ジフンが麻薬犯罪者5人のリストで賭ける時などですよね? その後に続く台本を見ていないとしたら、パク・チャンホが麻薬犯罪者5人の名前を知る唯一のケースは、パク・チャンホがビッグマウスの時だけですから。
そうです。そこまでわかって演技する時は、後にどんなストーリーが続くかわからないので「曖昧」に、チャンホがビッグマウスであろうとそうでなかろうと、どちらにも合うような表情で演技するしかないのです。演じる自分でさえ方向性をはっきり設定できないので手探りで演技するのが大変でした。それで台本にある文章通りに演技するしかなかったです。
 
 
中盤までは、チャンホがビッグマウスではないかと疑ってしまいます。
実は、チャンホがビッグマウスではないと確信していました。でも、後のストーリーがはっきりわからないので、曖昧に演技をするしかなかったし、そのうちに視聴者の方々がビッグマウス探しにすごく興味を持っておられました。
 
 
それが神の一手になりましたね。
「チャンホは二重人格だ、チャンホが犯人かもしれない、ミホがビッグマウスだ」など、本当に面白い予想がたくさんありました。
 
 
FASHION EDITOR ユン・ウンヒ
FEATURES EDITOR パク・セフェ
PHOTOGRAPHER ユン・ソンイ
STYLIST イ・ヘヨン
HAIR ヒョンチョル
MAKEUP ボリョン
ASSISTANT キム・ソンジェ / ソン・チェヨン
ART DESIGNER キム・デソプ
 
 
 
part.2へ続く