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 大家の奥さんは、小鼻のわきに小豆ほどの大きさのホクロがある人物であった。
 部屋の中には大きなコリー犬がいて、僕の手首を何度も噛んでは尻尾を振ってみせた。


 卒業式が終わると、ついに僕は浪人生となった。
 奇妙な気分だった。
 それまでは中学生とか高校生とか、ちゃんとした身分があった。
 小僧寿しのアルバイトをしていたときだって、
「○○高校三年生」
 という揺るぎない身分があったのである。
 それが、卒業式という儀式が終わったとたん、身分を剥奪されたのだ。
 一人、荒野に立っているような心境だった。
 世界はこんなに広かったのか、とも思った。 
(自由とは、存外恐ろしいものだ)
 僕はすぐさま上京の準備を始めた。
 ともかく動き出さないと、何かが崩れてきそうな気がした。


 つづく