濃霧の中での衝突事故の確率を減らすには、レーダーを装備するのが合理的ですが、私のヨットの乗り方と財政からは、手が届きません。
濃霧対策として、スマホのナビに、AIS情報を簡単に表示できるようにしました。 しかし、相手の船がAIS送信機を搭載していなければ、役に立ちません。
この夏ヨットと衝突事故を起こした砂利採取運搬船「第三十八さだ丸」は、長さが65mとヨットに比べると遥かに大きな船ですが、498総トン。
500総トン未満まので、法律はAISの搭載を要件していません。
ヨーロッパでも売れている中国製のAIS送受信機は、35,000円。 この値段なら漁船を始めとして小さな船にも普及すると思います。
日本では小型船の安全よりも電波法の遵守優先ですので、AIS送受信機が安くならず、普及していません。
濃霧対策第2弾として、相手のレーダーに自分のヨットが良く映るように、レーダー反射器(Rader Reflector)の勉強をしました。
恥ずかしながら、箱から出して組み立てたのは29年前の1回だけ。 船検のときに「積んでいます」と箱を見せるだけでした。

勉強した結果、結論は、
レーダー反射器は有効であるが、死角がある。 360度全方向に有効ではない。
反射板は注意深い見張りに代わるものではない。
反射板の吊るし方によって、反射性能が大きく弱くなる。 フルに性能を発揮するためには、
- Edge Onの吊るし方をしてはならない。
- モノハル ヨットは、Double Rain Catch Position で吊るすべき。
- マルチハル ヨットは、Catch Rain Position で吊るすべき。

レーダーの仕組み:
アンテナからパルス状の電波を発射します。
発射された電波が目標物(船、雨粒、波など)に当たって反射し、その反射波をアンテナが再び受信し、目標物をモニターに写します。

FRP、カーボンや木造のヨットは、電波をよく反射しないので、レーダーで発見されにくい。 マストが金属ですが、細く曲面なので、反射波の殆どは、レーダーの方向に戻りません。
反射電波が弱いと、豪雨や波浪の大きいときには、雨や波に紛れ、レーダーで発見されにくくなります。

そこで、電波を強く反射するために、レーダー反射器が必要です。
レーダー反射器は、直角に交差する3枚の金属板で構成され、電波を発射した方向へ反射します。

これまで、レーダー反射器は、下の写真のように頂点を上にして、ぶら下げて使うものだと思っていました。 Edge Onです。 しかし、この吊るし方では、船が揺れ傾くと、反射した電波をレーダーの方向に戻さない場合が多いことが、わかりました。

上の図のように、レーダーの電波が縁の方向の場合、左下図のように、全面積が有効に電波を来た方向に反射します。
ところが、レーダー電波の方向が、縁の方向から少し(例えば1度)ずれると、 黄色の有効な反射面に当たった電波だけが、レーダーに戻ります。 ほどんどの電波はレーダーに戻りません(青色)。反射能力が著しく小さくなる方向の範囲が広いのです。
これは、水平方向の360度だけではなく、船の前後左右の傾きに当てはまります。
安定した反射でなければ、レーダーの操作をしている人に捕らえてもらえません。
海上では、波で揺れることが当たり前なので、Edge Onは避けるべきですね。

正しい使い方は、「Rain Catcher」と呼ばれる、1つの三面体(ポケット)で雨を受けるように設置する方法(下の写真)。 1つのポケットが上向き、もう1つが下向きとなり、残る6つのポケットは円周上に配置される。これによりポケットからの反射を最適化し、反射の死角や隙間を最小にします。 船が大きく傾くと、能力は落ちてしまいますが、疾風のようなマルチハル ヨットの場合、最大10度ぐらいの傾きなので、問題はありません。

大きく傾く普通のヨット(モノハルの)の場合には、「Double Catch Rain (ダブルキャッチレイン)」が良いそうです。これは、1つの平面が船体軸に沿って垂直に配置され、他の2つの平面が垂直から±45°の角度で配置されるもの。これは傾斜角度が小さい場合は、理想的ではありませんが、船体が傾斜するにつれて「キャッチレイン」位置に近づきます。

勉強して、思ったこと その1
チューブ型のレーダーリフレクターを付けたヨットをよく見ます。
これらは、参考文献3と4のテストで酷評されています。

直径2インチ(5センチ)のチューブ型については、参考文献3(1995年のテスト)の中で、「あらゆる状況下で検出されず、風圧も最小限であるため、ステルス爆撃機にとって優れた追加装備となる可能性があります。」と皮肉たっぷりの評価を受けています。
常時設置しているという誤った安心感を船長に与え、危険です。
1995年のテストで、最低の評価だった製品が、今も製造販売されているのは不思議です。
下のグラフは、直径4インチ(10センチ)チューブ型のテスト結果。 0度、1度、5度、10度、15度の傾きに対するRCS(Rader Cross-section)。
RCSとは、 波の照射を受けたときにアンテナの方向に電波を反射させる能力の尺度。

私の使っているDavis Echomaster (Catch Rain Position)の結果。

勉強して、思ったこと その2
日本小型船舶検査機構の技術基準が改正され、2010年以降に建造される船のレーダー反射器には、新基準が適用されます。
「水平方向360°のうち240°以上にわたってレーダー断面積が2.5㎡以上で、かつ、レーダー断面積が2.5㎡未満となる方向が10°以上連続しないこと 」
レーダー反射器の傾きにより、反射性能が大きく変わることがを基準では考慮していません。 「画竜点睛を欠く」基準です。
参考文献:
1. 小型船舶用航海用レーダー反射器の効果的な取り付け方
https://www.kaiho.mlit.go.jp/04kanku/safety/toritukekata.pdf
2. Davis Echomaster Superior In SRI Radar Reflector Tests
http://honeynav.com/wp-content/uploads/2016/06/radar-reflector-tests-SRI-complete.pdf
3. Safety At Sea Studies - 1995 Radar Reflector Tests
https://www.ussailing.org/wp-content/uploads/2018/03/radar-reflector-tests.pdf
4.“Performance Investigation of Marine RadarReflectors on the Market”
https://assets.publishing.service.gov.uk/media/547c705540f0b6024400008d/Radar_reflectors_report.pdf
5. 航海用レーダー反射器の取り扱いについて 日本小型船舶検査機構
https://jci.go.jp/topics/pdf/topi_h221004.pdf