【あいらぶゆー】 (←前編はこちらから)
【あいらぶゆー】坂本龍馬×土方歳三編(後編)
六、真相。
あれから二週間が過ぎた晩のこと。
揚屋から置屋へ戻った私は、番頭さんから声を掛けられた。
「今さっき、結城はんがあんさんに渡してくれゆうて、これを持って来はったんや」
「翔太くんが…」
「ほな、しっかと渡しましたえ」
「あ、有難うございました!」
(わざわざ、これを届ける為だけにここへ来てくれたということは…)
何となく嫌な知らせのような気がしていたのだけれど、受け取った翔太くんからの手紙の内容に思わず目を疑った。
「嘘…」
龍馬さんの大事な友人の一人である、武市半平太さんが今夏起こってしまった、世に言う『八月十八日の政変』後、弾圧を受け投獄されてしまったということだった。
龍馬さんと翔太くんがお座敷へ遊びに来てくれた時、少しだけれど武市さんのことを聞いていたから、会ったことは無くても、龍馬さん達にとってどれだけ大切な人なのかということだけは理解していた。
だから、そんな武市さんが投獄されているという事実に、龍馬さん達がどれだけ辛い想いをしているか等を想像しただけで胸が痛んだ。
そんなこんなで、龍馬さん達は何とか武市さんを助け出す為に、大久保一蔵さんという方も伴い、江戸へ出向くことになったらしい。文面の最後まで、翔太くんらしい私への気遣いの言葉が続いており、また江戸を発つ時、手紙を送ると書かれていた。
(龍馬さん…)
脱藩者である龍馬さんが、どうやって故郷へ戻り投獄された武市さんを救出しようとしているのか。こんな時、自分も何か役に立てたら良いのにと、そう思わずにはいられなかった。
一方、壬生浪士組も、『八月十八日の政変』により、組名を『新撰組』へと改名し、会津藩の配下についていた。
そんな中、芹沢さんが亡くなったという噂は私の耳にも入ってきていたのだけれど、芹沢さんをよく知る人から偶然、話を聞くことが出来た時には一瞬、耳を疑った。
何故なら、壬生寺にて子供達を相手に戯れていたこともあったらしく、その会話がなんとも言えない程楽しげで、子供達に対して真面目に説教をしたり、逆に子供達から説教をされた時の芹沢さんは、豪快に笑いながら素直に頷いていたそうだ。
その人が言うには、酔うと手が付けられなくなるのは難だが、お酒が入っていない時の芹沢さんは割と面倒見の良い人柄だったらしい。
新撰組筆頭である芹沢さんがどうして亡くなったのかは分からないままだったけれど、きっと土方さん達もとても辛い想いをしているだろうと思っていた。
この後、真相を耳にするまでは。
芹沢さんが新撰組から姿を消したことに関して、芹沢さんから暴力などを振るわれていた人からは、「いなくなって清々した」などという言葉を耳にするものの、それ以上に気になっていたのは、私もお世話になったことのある、お梅さんの行方だった。
中には、新撰組内部で起こっていた主導権争いが招いた騒乱で、芹沢さんとお梅さんは、隊士らにより暗殺されたのではないかという説が最も有力視されていた。
もしも、その話が真実だとしたら、誰が芹沢さんを暗殺したのかということだ。
心に浮かぶ、あの人のどこか切なげな瞳が動悸をさらに速めてゆき、不安は消えないままでいた。
七、倒幕派と佐幕派。
数日後。
私は、久しぶりのお休みを貰って京の町を散策していた。
冬のように冷たい風が吹いていた昨日に比べると、今日はそれが無い分温かく感じるからか、京の町もいつもより活気づいているように見える。
そんな人通りの多い道を逸れて狭い路地裏を曲がった時のこと。抜けた先の大通りに、大勢の人だかりが出来ているのを確認すると、その野次馬達の隙間から龍馬さんと土方さんが数人の浪士相手に斬り結んでいるのが見えた。
「りょ、龍馬さんに、土方さん!?」
(どうして二人が?!)
どうやら、龍馬さんと土方さんが斬り合いをしている訳ではなく、その逆で、龍馬さんと土方さんが背を合わせて浪士達と戦っているという風に見える。
龍馬さんは、木の棒を使って男達を薙ぎ倒し、土方さんは向かって来る男達に対して峰打ちで斬りつけていた。
(すごい…)
やがて、倒れ込んだ男達の数名はその場から逃げ去り、残りの数名はその場に倒れ込んだまま気を失っている人もいる。一騒動済んだからか、次々と野次馬たちが去りゆく中。
「まっこと、助かったぜよ!ありがとう」
「礼には及ばん」
笑顔で土方さんに右手の平を差し出す龍馬さんに、土方さんは一言告げて踵を返した。その途端、
「ちっくと待っちょってくれ!」
「土方さん!」
龍馬さんと私の声が重なった。
その声に足を止めてこちらを振り返った土方さんと、私に気付いた龍馬さんの少し驚いたような瞳と目が合う。
「…お前」
「おまんは!」
少しずつ龍馬さんに歩み寄りながら、今度はお二人からの声に応える。
「お久しぶりです!お元気でしたか…」
「おう、会いたかったぜよ!おまんも元気じゃったがか?」
「はい、私は変わらず…」
未だにこうしていられるということは、まだ龍馬さんの面は新撰組に知られていないのだということに安心すると同時に、ここでの出会いを感謝した。
そして、どうしてこんな騒動が起きたのかを尋ねたところ、すぐ傍の茶屋で一服していた時のこと。先ほどの男達にいちゃもんをつけられて、格闘していた龍馬さんをたまたま通りかかった土方さんが応戦し、助けてくれたのだと話してくれた。
「土方さんもお元気そうで、何よりです」
「ああ。それより、顔見知りか?」
「はい。えーと、うちの常連さんというか…」
一瞬、土方さんから尋ねられ何て答えれば良いのか戸惑っていると、不意に発せられた龍馬さんの突拍子も無い一言に、私と土方さんは思わず息を呑みこんでしまう。
「もしや、あの新撰組の土方さんかい?おんしゃー、まっこと強いのう!どうじゃ、このわしと剣術試合をしちゃー貰えんじゃろうか?」
「…何だと?」
(な、ななな…何を言ってるの!?)
すぐに私なりに説得してみるも、盛り上がってしまっている龍馬さんを止められる訳も無く、土方さんの顔が少しずつ曇り始めていることの不安だけが募ってゆく。
「以前、新撰組はんの剣術稽古を観て、一度己の腕を試したい思っちょったがじゃ!」
「…剣術を嗜んでいるのか」
「おう、ちっくとばかしのう。それに、この子を守ってゆく為にもおんしとの剣術試合で勝ったゆうことになりゃー、自信だけやのうて箔もつくっちゅうもんだ!」
龍馬さんは、優しく私の肩を抱きしめながらいつもの明るい笑顔を見せてくれる。反面、私達の目前で土方さんの大きな溜息を聞いた。
「…ただの常連客ではないということか」
「ま、そーゆうことじゃ」
今度は少し鋭い眼差しを浮かべる龍馬さんに、土方さんは薄らと笑みを浮かべる。
「俺も暇じゃねぇんだが。そういうことなら相手になってやる」
「ほうか、ありがとう!」
「お前の名は…」
「さかも…おっと、坂上じゃ」
(どうしよう…翔太くんがこの場にいたら、必死になって龍馬さんを止めただろうな…)
こうして、偶然の出会いが巻き起こしたこの一件。
敵同士の二人がどのようにして戦うのか、対照的な二人に挟まれた私は、ただこれからの行方を見守ることしか出来ずにいた。
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~あとがき~
前編のあとがきでも書きましたが…
この二人のこんな展開は、実際には有り得ないと思いながらもかなり、強引に書いてしまったような。でも、艶展でそれぞれの旦那さまを書きたいと思っていたので、それなら、「あいらぶゆー」がいい。ということに…
皆さんからのアンケートで多かった、俊太郎さまや沖田さんの花エンド後などの番外編とか、「思惑」とか、「恋心」シリーズとか…
いろいろ考えたうえの決断というか(;´▽`A``
私なりに頑張ってみましたが…どうだったでしょうか??良かったら素直な感想をお聞かせ願えればと思いまふ!
「もっと、萌えな部分が欲しかった!」とかw
↑何となく自分で書いててそう思った
あと、これは偶然なのですが…
文久三年という年は、龍馬さんにとっても土方さんにとっても苦悩の始まりの年と言っても過言では無いくらい、いろいろなことが起こったようで…
脱藩してあまり間もない龍馬さんの方では、大切な存在である武市半平太が投獄され。新撰組も、幕府の下で倒幕派などから京の町を守りながら、芹沢鴨暗殺の一件などを抱えていた。
龍馬さんも、土方さんも…立場と内容は違うけれど、意外と共通点がある?なんて思って。
書いていた私は、新たな発見をすると同時にたげ楽しかったですw
あ、ちなみに最近、D2の三津谷くんの影響で津軽弁にも惚れまして…「たげ」とは、「とっても」とか、「すごく」とか言う意味らしいですw
意外にも長くなってしまったので…剣術試合の様子は、旦那目線などでいつか番外編としてアップ出来たらと思っています。
話は変わりますが…
私がこの二次小説を書き始めてから、もうすぐ二年が経とうとしていて。
これまで、本当にいろんなことがあって…
なんつーか、艶展に参加して初心に戻ったような…試行錯誤している間中、ずっと思ってました。
今まで、いろんな艶イベントに参加したり、素敵な絵師さまとコラボして頂いたりして、たくさん素敵な思い出を作ることが出来て楽しかったなーって。
改めて、このブログへ遊びに来て下さった方、これまで私と絡んで下さった方、今も仲良くして下さっている方々に感謝です!
なんて、このまますぐに艶を卒業するような感じですがww
新撰組大好きだし、沖田さん、龍馬さん、翔太くん好きな気持ちは永遠だし(←痛すぎる)
これからも、こがな私ではありますがッ!仲良うしてやって下さい!!
仕事やプライベート、子育て優先なので、連載もあとどれくらいかかるか分かりませんが……最終回を迎えられるまで、見守って頂けたら幸いです。
今日も遊びに来て下さってありがとうございました!
BGM:『水曜どうでしょう』(「激闘!西表島」より。)
↑何気に、小説も彼らのトークや爆笑を聞きながら書いてたりするw