<艶が~る、二次小説>


【十六夜の月】と、勝手に題した(笑)もう一つの沖田総司物語も、何だかんだともう11話目。艶がの沖田さんを意識しつつ、新選組のことを勉強しながら本編とは違った展開、本編では描かれなかった二人の想いなんぞを書いて来ました。


もう、これまた私の勝手な妄想物語ではありますし、相変わらずの拙い文ではありますが…良かったらまた、お付き合い下さいきらハート


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【十六夜の月】 第11話



私は、頬を伝う涙を拭うことも、嗚咽を堪えることも出来ないままただその場に泣き崩れていた。


(ただ、傍にいたいだけなのに……どうして…)


「大丈夫か…」

「……っ…」


その穏やかな声にゆっくりと顔を上げると、開け放たれたままの障子に触れながら佇む秋斉さんの柔和な視線と目が合った。


「あ…秋斉……さん…」


しゃくり上げながら言う私の傍に腰を下ろすと、秋斉さんはそっと私を抱きしめてくれる。


「かいらしい顔が台無や」

「……っ…」

「沖田はんがいつものように笑顔で帰らはったから、急いで来てみれば…」



艶が~る幕末志士伝 ~もう一つの艶物語~



「遠慮はいらん、泣きたいだけ泣きなはれ…」

「……っ…うっ……」


藍色の着物に包まれてすぐ、そのしなやかな細い指が零れる涙を受け止めてくれて。私は、その温かい胸に甘えながら少しずつ心の中の哀しみを解放し始めた。


「沖田はんは、何てゆわはったんや」

「最後に……私の笑顔を見せて欲しいと…」

「……そうか」


そう呟くと、秋斉さんは私の肩を抱きしめる手に力を込めて優しく後ろ髪を撫でてくれる。


「これが、受け止めなならん現実や…」

「……っ…」


呆然として顔を上げる私に、秋斉さんは眉を顰めながら呟いた。不慮の病だということは聞いていたけれど、どうしても沖田さんを助けたくて。その現実を受け止めることが出来なくて…。


「本当に、沖田さんを助ける方法は無いのですか?」

「労咳に効く薬なんぞ無い」


(…じゃあ、沖田さんが死んでいくのをただ見守ることしか出来ないの…?)


また俯く私に、秋斉さんは子供に諭すようにゆっくりと口を開いた。


「あんさんに、沖田はんを看取る覚悟はありますか?」

「……看取る…覚悟…」

「そうどす」

「……私、私は…」


心に迷いが生じると同時に胸がぎゅっと締め付けられた。どんなことがあっても、たとえ先に逝ってしまうと分かっていても、ずっと一緒にいたいと思っている。


――でも。


「迷って当然どす」

「…秋斉さん」

「この間もゆうたが、沖田はんの本心はあんさんと添い遂げること。ほんまは、自分の手ぇで幸せにしたい思うとる筈や…」

「本当にそうなのでしょうか…」

「意外に強情やからね、沖田はんも…」


――あんさんも。


そう言うと、秋斉さんは柔和に微笑んだ。


「私は、これからどうしたら…」

「心から好いとるお人と添い遂げること。それ以外に、どない幸せがあるとゆうんや…」

「……あ…」


秋斉さんの言葉に、迷っていた心が少しずつ解放されていく。



【たとえ夢叶うとも、貴方を置いて逝かねばならないことが堪らなく辛い…】



辛そうに吐きだした沖田さんの想いに臆病になり、もう会うことは出来ないのだと思い込んでいた。でも、私の気持ちは変わらないまま。


「たとえ、先に逝ってしまうとしても……沖田さんの隣にいたい」

「きっとまた会える。もう一度、そのままの気持ちを伝えればええ…」

「……はい」


いつか、沖田さんに分かって貰える日が来るだろうか…。


貴方の隣にいる時が、一番幸せなのだということを。



 


*沖田SIDE*



「……………」


屯所に戻った沖田は、まるで何かを断ち切ろうとするかのように竹刀を振るっていた。


素早く振りかぶり、見えない敵に斬りかかる。


「…これで…良かったんだ……」


息を弾ませながら呟いたその時。彼の背後でゆっくりと動き出した黒い影が、徐々に月明かりに照らされ始めた。


「もう戻っていたのか」

「……ええ」


聞き慣れたその厳かな声に笑顔で答えると、荒くなった息を整えるようにしてゆっくりと振り返り、腕組みしたままの土方を見やる。


「お別れを告げて来ました」

「そうか…」


ゆっくりと縁側に正座する土方に薄らと微笑むと、沖田は竹刀置場に竹刀を戻して夜空を見上げたままの土方の隣に腰掛けた。


「ねぇ、土方さん」

「……何だ」

「覚えていますか?壬生浪士として京へ赴いた時のことを…」



文久三年。一月七日。


松平主税介が浪士募集の命を受け、土方が小島鹿之助に浪士募集の書状を認めると、近藤、土方、沖田、山南らはそれぞれに刀、鎖帷子などを借用して周り、翌月五日。


江戸の小石川傳通院大信寮にて浪士らを編成し、京へ発つ準備を整え。


二月八日。上洛浪士組234名が出立。


中山道を経由し、京へ向かったのであった。



「あの頃は毎日が楽しくて、無我夢中で稽古や仕事に勤しんでいました。そういえば、江戸を出立して間もなく、発句を認められた事がありましたよね?あの『豊玉発句集』は、お見事でしたよ」

「待て、どうしてそのことを知っている?」


おどけながら言う沖田に、土方は眉を顰めながら呟いた。


「近藤先生から聞いていたのです。土方さんが発句集を作っていたと…」

「余計なことを…」

「そのことを山南さんや永倉さんたちにも話したら、皆で読んでしまおうということになって…」

「で、盗み読みしたってわけか」

「はい」


土方は、くすくすと思い出し笑いをする沖田を見つめながら苦笑して見せると同時に、曇り始める笑顔から目が離せなくなっていた。


「まさかこの私が、労咳に倒れるとは。それに、死というものがこんなにも恐ろしいものだったなんて思ってもみませんでした」


沖田は、ぎこちない微笑みを浮かべながら土方を見上げ言った。


「幾人もの同志達が命を落としていったように、私の命もあと僅か…」

「…………」
「……正直、怖くて堪らないのです」

「総司」

「好いた人はおろか、自分の身さえも守ることが出来なくなるなんて…」


己が労咳だと気付かされた時から常に不安に思い、口元を真っ赤に染める度に死を覚悟する。自分という存在が、ある日一瞬にして消え去ってしまうという恐怖に苛まれる日々…。


土方は、その想いを受け止めると、肩を震わせながら俯く沖田に厳しく言い放つ。


「最期の最期まで武士として戦い、石に齧りついても生き抜く」

「…土方さん」
「それが、誠の武士の生きる道というものだ」


沖田の泣き言を聞いたのは、これで何度目だろうか。土方は、今までにないほどの優しい眼差しを浮かべると、沖田に微笑んで見せた。


「……もう、迷いません」


(どれほどの苦悩があろうと、命の尽きる日が近かろうと…私は…)




艶が~る幕末志士伝 ~もう一つの艶物語~



二人を照らしていた十六夜の月が、ゆっくりと厚い雲に隠されてゆく。


沖田の病を受け入れられずにいた土方もまた、心惑わされていたのだろうか。改めて誠の下で生きて行く決心をすると同時に、それぞれの迷いを振り払おうとしていた。


 ・

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それから数日後。


池田屋事件で重症を負っていた安藤早太郎と、新田革左衛門がその尊い命を失い。


その一か月後には、近藤勇の方針について行けなくなった同志数名らが、『非行五箇条』の建白書を幕府に提出していた。


永倉新八を首謀者とする、斉藤一、原田左之助、尾関雅二郎、島田魁、葛山武八郎の六名が切腹覚悟で反乱を起こし、松平容保の仲裁によりいったんは和解されたものの、両者の間には溝が生まれ。


副長助勤の三名を失うことを恐れた土方は、謹慎処分を近藤に提案し、永倉と斉藤にそれぞれ数日間の謹慎処分を。そして、葛山に切腹させることで解決を図ったのだった。



そして、その翌月。


容姿端麗な弁舌を有する伊東甲子太郎が、藤堂平助の仲介により新選組に加盟。近藤や土方とは、攘夷として繋がっていた。


しかし、池田屋事件などの働きが幕府によって認められ、念願であった直参の身分を手に入れることになった近藤と土方を快く思わない者達が現れ始める。


その中心人物こそが、新選組にその身を置いたばかりの伊東甲子太郎であった。


伊東の考えは、局中法度にこだわり過ぎる近藤達のやり方に終止符を打つべく。篠原泰之進、藤堂平助ら十数名の新選組隊士を引き連れ、薩摩藩と手を組み――


近藤や土方たちと袂を分かつこと。



これらにより、剣客集団の鉄の結束が音を立てて壊れようとしていた。




【第12話へ続く】




~あとがき~


お粗末さまどした汗


いよいよ、一番難しい部分に来たぁ~ガクリ(黒背景用)時々、沖田総司様花エンド後のお話と混ざりそうになる私汗本当は、これからは色恋沙汰なんてしていられないんでしょうね…新選組も涙


山南さんの脱走も、どのように描こうか…まだ悩んでいます。まだ、先の話ですけど涙これから佳境に入ってきている為、さらに切なくなるかもしれません涙十六夜=躊躇い。と、いうふうに描いてきましたが、改めて、死を受け入れ。新選組の為に生きようと決めた沖田さん涙春香との恋はどうなるのか??


良かったら、また覗きに来てやって下さいキラキラ