<艶が~る、二次小説>


【十六夜の月】と、勝手に題した(笑)もう一つの沖田総司物語も、何だかんだともう10話目。艶がの沖田さんを意識しつつ、新選組のことを勉強しながら本編とは違った展開、本編では描かれなかった二人の想いなんぞを書いて来ました。


もう、これまた私の勝手な妄想物語ではありますし、相変わらずの拙い文ではありますが…良かったらまた、お付き合い下さいきらハート


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【十六夜の月】 第10話



禁門の変――


前年の八月十八日の政変により、京都を追放されていた長州藩勢力が、会津藩主・京都守護職、松平容保らの排除を目指して挙兵し、京都市中において市街戦を繰り広げた事件である。


京都市中も戦火により約三万戸が焼失するなど、太平の世を揺るがす大事件が起こってしまったのだった。


大砲も投入された激しい戦闘の結果、長州藩勢は敗北し、尊王攘夷派は急進的指導者の大半を失ったことで、その勢力を大きく後退させることとなった。


一方、長州掃討の主力を担った徳川慶喜・会津藩・桑名藩の協調により、その後の京都政局は主導されることとなり、新選組も、長州の制圧を抑える為に出動していた。


長州勢の進軍に伏見稲荷関門の大垣藩の応援に向い、そこでの戦いを終えると御所へ向かい、長州兵の残兵と戦ったのだった。



そんな未曾有の大事件から三日が経ち、島原もようやく落ち着きを取り戻し始める中――。


私はいつものようにお座敷へ出る準備を終え、自分の部屋の窓辺から外を行き交う人々を見下ろしていた。


「……沖田さん」


ぽつぽつと降り始めた雨により、一つ、二つと傘が開かれ始める。


(……会いたい…でも、もう二度と会えないのだろうか…)


そんな絶望感だけが先立ち、自然と涙が頬を伝っていった。




~沖田SIDE~


「お二人とも、大丈夫ですか?」


隊士達が御所から戻って来たことを見届けて、負傷してしまった原田さんと永倉さんに労いの言葉を掛けた。


「総司こそ、起きてきて大丈夫なのか?」

「今日は調子が良いので。原田さんのその傷に比べたら…」


傷の手当をされながら呻く、原田さんと永倉さんを交互に見やる。その傷の深さが、争いの凄まじさを物語っていた。


「だからって、無理すんなよ」

「分かっていますよ…」

「あ、いってぇ!おいおい、治りかけとはいえもう少し優しくやってくれ」


永倉さんの傷も、とても深い…。


……こんな私でも、盾ぐらいにはなれたかもしれないのに。


「総司、お前は体を治すことだけを考えろ」

「……永倉さん」


永倉さんは、私が池田屋で体調を崩してからずっと労咳を疑っていたらしい。


そんな私を気遣う言葉を耳にする度に、己が病人なのだという気持ちに苛まれていき。労咳である現実と向き合わされるのだった。



「病人は大人しく寝てろ」

「土方さん…」


背後から機嫌の悪そうな声がして振り返ると、鬼の副長の細められた瞳と目が合った。


「ずっと大人しく寝ていましたよ。寝すぎて、腰が痛いくらいです」

「体調はどうだ」

「……良いとは言えません」

「……………」


そう伏し目がちに呟いて、また視線を土方さんに向けると、その視線は開け放たれた障子の向こう。庭先へと向けられていた。


「……総司」

「何です?」

「少し話がある」

「嫌です」

「…………」


黙り込む土方さんに、冗談ですよ。と言って微笑んで。


速足で廊下を歩き出す土方さんの背中を追いかける。


「でも、土方さんがそんなふうに畏まった顔をしている時は、大抵ろくでもないことに決まっているんだ…」


開け放たれた襖の向こう。いつもの部屋の定位置に座り込む土方さんの前に腰掛けた。


「で、話って何です?」

「これからどうするつもりだ」

「……どうするって…」


俯き加減だった視線を上げると、いつもと違う柔和な微笑みが私を見つめていた。


「ですから、以前も言ったとおりです。私にはもう…」

「時間がねぇ、か」

「はい。とうとう、刀も握れなくなってしまいましたし。隊士らの稽古を看てやることさえままならなくなってきた…」

「……そうか」


――いつ尽きるとも知れない命。


先が短いと知りながら、私のものになって欲しいなどと言えるはずが無い。


「私は……残りの人生を、新選組の為に捧げたい。あとどれくらいあるかは分かりませんが」

「……総司」

「もう一度言いますよ」


……私の命は、新選組と共に。


そう告げて、ゆっくりと立ち上がる私に土方さんが鋭く呟く。


「待て」

「まだ、何か言い足りないことでも?」


背を向けたまま立ち尽くすと、土方さんは、しばらくの間何かを考えるようにして静かに口を開いた。


「昨日、お前が床に臥せていた時。藍屋さんが尋ねて来てな…」

「藍屋さんが…」

「お前のことを尋ねられた」


振り向き目を見開く私に、土方さんの容赦ない厳かな視線が向けられた。


「……話したのですか?」

「ああ…」


(ということは、春香さんにも……)


「総司、男らしくケリをつけて来い」

「……………」


その一言が胸に突き刺さる…。


「……分かりました」


両手の握り拳を膝元に置き、一点を見つめたままの土方さんに一礼して部屋を後にすると、私はその足で島原へと向かった。


――あの方に別れを告げる為に。



艶が~る幕末志士伝 ~もう一つの艶物語~




~ヒロインSIDE~



「今夜もお気張りやす」


揚屋の玄関先で、秋斉さんが私達一人一人に声をかけてくれる。


「春香はん…ちいと、話がある」

「あ、はい…」


草履を脱いで秋斉さんの傍に寄ると、内緒話をするかのように耳打ちを受けた。


(……っ…!!)


「今宵はそのお座敷だけでええ」

「…秋斉さん」

「さ、はよう行き」

「は、はい…」


(沖田さんが、会いに来てくれた……)


耳元で囁かれた言葉に唖然としながらも、それが嬉しくて。


気が付けば、沖田さんが待ってくれているであろうお座敷へと急いでいた。


「沖田さん……沖田さんっ…」


やがて近づいたお座敷の前で、乱れた息を整えて。


「あの……失礼致します…」

「どうぞ…」


ずっと聞きたかったあの爽やかな声を聞き、私は急いで膝をつきながら障子を開けた。


「……お、沖田さん…」

「……こんばんは」


もう、会えないかもしれないと思っていた人が目の前にいる。


私は、胸がドキドキしすぎて手足が震えるのを堪えながら、沖田さんの隣に腰を下ろす。


「……………」


お互いに目線を上げられないまま、気まずい沈黙が流れた。


「……あの」


同時に発せられた言葉に、一瞬、顔を見合わせて。


「どうぞ…」

「いいえ、沖田さんから…」


(…この展開は…あの時も……)


月が紅く見えると聞かされたあの晩だった。


置屋まで見送って貰った時も譲り合って…。


「では……」


あの時は、私に譲ってくれた沖田さんが、眉を顰めながら厳かに口を開いた。


「もう、ご存じなのでしょう?」

「……はい」


小さな溜息をついて、伏し目がちに呟く沖田さんに私は、躊躇いながらも一つ頷く。


次いで俯き加減な私に、沖田さんは苦しげな表情のまま小さく呟いた。


「私はもうすぐ死にます」

「……お…きた…さん…」


消え入るような弱々しい声を耳にして、私は思わず自分の襟元を握りしめた。


(秋斉さんから全てを聞いていたから、覚悟していたはずなのに。どうしようもないくらい心が震えて……でも、私は……)


「……ですから、こんな男のことは…」

「嫌です」

「春香さん…」


――忘れられる訳がない。


もう、沖田さんしか見えないし、沖田さんのことしか考えられないのだから。


どんなに痛くても、苦しくても。


「ずっと傍にいたいんです。貴方が好きだから…」

「……………」


いつの間にか頬を伝っていた涙が唇を擽って落ちてゆく。


とうとう、口にしてしまった想いに戸惑いは無く。それよりも次の反応が怖くて。私は、嗚咽が漏れそうになるのを必死に堪えながら口を開いた。


「初めて会った時から……ずっと沖田さんのことが好きだった。子供のような優しい笑顔や、新選組隊士としての鋭い眼差しも……全て。私にとって、沖田さんはもう無くてはならない存在なんです。だから、」


ゆっくりと沖田さんの手に自分の手を添えて。


「忘れろなんて……言わないで下さい…」


堪えきれなくなった嗚咽が漏れる。


それでも、沖田さんは無言のまま。そんな私の気持ちなど分かっているとでも言いたげに、眉間に皺を寄せて一点を見つめるだけだった。


「春香さん」


沖田さんの温もりが私の手を包み込み、


「私も貴女を好いている。心から…」

「沖田…さん…」

「けれど、想いを募らせる度に胸が苦しくなるんだ」


躊躇いの手が、そっと私の肩に添えられた。


(…痛い……心が……)


「もう、刀を振るうことさえままならない…」

「……っ…」

「いずれは、貴女一人守ってあげることも出来なくなる」


気が付けば、もうこれ以上近寄ることが出来ないほど強く抱きしめられていた。


沖田さんの想いを受け止めたくて、彼の襟元を握りしめていた手に力を込める。


「……怖いのです」


私を抱きしめたまま、沖田さんは何かを堪えるように口を開いた。


「たとえ夢叶うとも、貴女を置いて逝かねばならないことが…」

「……っ……」

「……堪らなく辛い」



艶が~る幕末志士伝 ~もう一つの艶物語~



その計り知れない想いを受け止めて、涙が止まらなかった。


私はただ、無言で沖田さんの痩せた体を抱きしめることしか出来ない――。


「私の、最後のお願いを聞いてくれませんか?」


見上げると、いつもの柔和な微笑みが私を見つめていた。


(最後の…お願い……)


沖田さんは私を愛でるような瞳で見下ろしたまま、「笑顔を見せて下さい」と、呟いた。


「笑顔を……」

「はい。私は、貴女の笑顔が大好きだから…」


ぎこちなく微笑む私の頬に、沖田さんのしなやかな指がそっと触れ。その端整な顔がゆっくりと近づく。


(…あっ……)


優しい口づけが涙で濡れた目元を掠め、それを拭うかのように頬に滑り落ちた。


それは、とても切なくて。


胸がぎゅっと締め付けられて。


(ただ、沖田さんの傍にいたいだけなのに…)


「どうか……私の分も幸せになって下さい。それが、私の願いです」


一瞬、呼吸が止まった。


ゆっくりと離れていく優しい温もり。


そこから急速に冷えていくのを感じて、例えようもない哀しさでいっぱいになっていく。


それでも、手を伸ばすことが出来ない。


沖田さんを引き留めることが出来ない。


気が付けば、お座敷に一人。



――雨音が強まる中。


私は、例えようも無い虚無感に襲われながら、肩を包み込んでいたあの人の温もりを手繰り寄せるように、自分の肩を抱きしめていた。




【第11話へ続く】




~あとがき~


お粗末様どした汗


本編の主人公ちゃんなら、きっと「そんな弱気でどうするんですか!」と、説教をしそうな感じですが(笑)こちらの沖田さんと主人公ちゃんは、そうはいかず…。


本編の沖田さんは、確か…禁門の変に出動していたはずですが、こちらの沖田さんは床に臥せていたことになっちょります。歴史的にも、沖田総司は禁門の変に出動していたらしいですが…。


またまた、いつの間にか脳内で沖田さんが辻本沖田に変換されつつあったのは、言うまでもありまへん。この後、新選組も仲間割れなどが相次ぎ、山南さん脱走事件もまだ描けておまへなんや。


こちらの沖田さんと主人公ちゃんはまだまだ切ないまま嘆


本編でもそうでしたが、昔の男性はきっと自分の決めた道に対して、てこでも動かん!みたいな強情さがあったような。そう思うと、まだまだ引っ張ってしまう私でありました。


今日も遊びに来て下さってありがとうございましたキラキラ