#ちょっと小耳に(5)
日本の速記方式(後編)
前編では、明治15年 (1882) の田鎖式から始まった日本の速記は、昭和50年 (1975) のV式まで10種類が発表されているが、これは日本速記協会の速記普及活動に参加している速記方式なので、実際にはもっと多くの速記方式が考えられたようだ。そして現在では、参議院式、衆議院式、中根式、早稲田式が代表的な速記方式とされているということをご紹介しました。
ということで、今回は後編です。
参議院と衆議院の速記方式ですが、ちょっと疑問に思ったことがあります。
国会の速記者養成所であるのになぜ2つの速記方式があるのでしょうか。なぜ違うのでしょうか。そもそもなぜ1つの養成所にしなかったのでしょうか。
人件費や養成にかかる費用など諸々から見ても1つの方が効率的だと思うのですが…
そこで、その理由を考えてみました。
まず最初に、なぜ両院に速記者養成所(現在は廃止)があったのかですが、帝国議会が始まった当初は速記者養成所はありませんでした。途中から貴族院と衆議院それぞれに属する速記者養成所が設置されました。
推測するに、当初は速記者は民間から採用していたが、議会側の都合に合わせて必要な数の速記者を確保することには限界があった。そこで議会側で速記者を養成することにした(養成中に議会関連の法令なども研修させれば更に有益)。帝国議会は貴族院と衆議院の2院制であったことから(当然に?)両院に養成所が設置され、そのまま定着した。といったところでしょうか。
まぁどこかの段階で統合する意見もあったかもしれませんが、その時も総合的に勘案して現状維持ということだったのでしょう。過去の省庁再編を見ても、既にある組織をまとめるのはいろいろな意味で大変な労力とまた予算が必要ですから。
次に、速記方式については、当初は両養成所の速記方式は同じであったが(田鎖式から派生しているので)、指導者の交流や異動、教授内容の情報交換などがなかった。あったとしても積極的ではなかった(対抗意識や上下意識もあった?)。最終的には会議録がきちんと作成されればいいので速記方式は疑問視されなかった。そしてそれぞれ独自に改良されていった。といったところでしょうか。
中根式と早稲田式にも違いがあります(代表的な速記方式)。
早稲田式に特徴的なものに、さ行とた行に正規文字と変規文字という2種類の速記文字があります。これは文字のつなぎ方で使い方を分けるのですが、両方の書き方を取り入れるとどちらを使うか迷うこともありますので、楽らくメモ速記では正規の方を学びます。メモ取りには正規文字で十分に対応できます。
ちなみに、私が学んだのは早稲田式です。たまたま聞き及んでいたのが早稲田式で、学んだ速記学校が早稲田式でした。
いずれの速記方式にしても、先人たちが文字どおり試行錯誤を繰り返し、改良に改良を加えて進化してきたんですね。頭が下がります。
(つづく)
#これまでの「ちょっと小耳に」
(1)速記の始まりと今
(2)日本の速記はいつから?
(4)日本の速記方式(前編)