今日、私は一つ行動を起こした。
もう何年も悩んでどうするべきか考えて、
でもいざなると躊躇して怖気付く。
それでもまた考えて、イライラと悩む。
自分で自分が嫌になるくらい、
いざとなった尻込みしてしまっていた。
でも、
自分が思う私は、
もっと行動力があって、嫌なことダメなことにはNoと言える人間のはず。
道路族問題にしても騒音問題にしても、近隣トラブルはどうしても自分一人の気持ちだけですぐに行動を起こせない。
行動を起こした後に相手の反応で、家族に、特に子供に嫌な思いをさせるのではないかと心配になったりと、躊躇してしまう。
私がそうこう考えているうちに
4年もの時間が過ぎていた。
でも、もう我慢の限界。
暑い暑い夏が来る前に。
早朝7時からの窓全開のピアノ演奏が始まる前に、何とかしなくては。
わが家は子供達も善悪を判断し、非常識な人間の歪んだ反応を無視することぐらいは出来るような年齢になった。
だから、
今日、自宅から一番近い交番(正確には駐在所)に行った。
早朝の窓全開でのピアノ騒音を相談するために。
裏隣のおパンティ宅の名前、住所と家族構成、ピアノ演奏する子供の人数、年齢、ピアノの練習時間、どのくらい前からのことか、現在の騒音状況など、順番に聞かれ質問に答える。
次に、道路族ボスママ宅のアホのピアノ練習についても同じく答える。
一通りの情報を駐在さん(オマワリさん)に伝えてから、どんな風にわが家に聴こえてくるか、どれだけの我慢を強いられてきたかなど、私の感じる事、考える事も話をした。
「窓を開けて?」
「ピアノを?」
と、駐在さんは何度も驚きを見せ、口をあんぐりと開けた。
「直接はご近所トラブルの元になるので警察が間に入りましょう」
と言ってくれた。
そこで、警察が動くには管轄の警察署の生活相談課(係)に話を通した方がいいという事で、本署の担当部署へ電話を入れる。
駐在さんが一通りの事情を生活相談課の担当警官のNさんに伝える。
駐在さんから私へと電話を代わる。
おパンティ宅とボスママ宅の位置関係や名前を確認したいというのでその説明をしながら、もう一度騒音状況を簡単にNさんにも話をした。
するとNさんから、
「一旦自宅へ戻って、駐在所からではなく自宅の電話からもう一度こちらにかけてください」
「そうすると、お宅(私)からの騒音苦情相談という事で記録に残す事ができますので」
と言われた。
また駐在さんに電話を返し、警官Nさんと駐在さんが話をすることに。
電話を切った駐在さんは、
「自宅へ戻って、またすぐに生活相談課のNさんに電話をしてください」
と。
「ここでの話も相談という形で残しますが、本署の方で相談受付をすると警視庁全てのデータに騒音苦情と記録が残ります。110番通報の時も、万が一トラブルに発展した時にもすぐに動けますので」
と、最後に駐在さんから話があった。
私は自宅へと帰り、すぐにまた受話器をとった。
私が何年も悩んだ末に、何故他でもなく駐在所を訪ねたのかという話を担当警官のNさんに話をする。
今から3年前、自治会役員の順番が回ってきた時に夏祭りの手伝いで、当時中1だった娘も唐揚げの販売係をボランティアでやってくれた事があった。
その時だ。
部活を休んでまで手伝いをしてくれているそのわが娘に、おパンティ宅のデブハゲ旦那が暴言を吐いたのだ。
「できてねぇのかよーー!俺を待たせんのかよ‼︎」
と。
油で揚げる冷凍の唐揚げの仕上がりが、あまりの好評ぶりで追いつかない状況だった。
そんな時に唐揚げを買いに来たデブハゲ旦那。
娘の顔を見て「隣の娘」という事に気がついていたはずだ。
その上で奴から出た暴言だ。
私はその時、その場を離れて別の場所で作業をしていた。
戻って来るとそんな事があったと話を聞き、
「隣のジジイに言われた」
「二度と手伝いなんてしない」
と娘は泣いていた。
その場に私がいたら、
酒が入っていたとしても許さない。
絶対に許さない。
「隣の旦那さんはそんな暴言を吐くような方なので、どんなに言葉を選んだとしても直接やめて欲しいと伝えるのは、年頃の娘もいるのでとても怖い」
と、わざわざ駐在所へ来た理由を話した。
そんな事があってから、
それまでは会釈程度はあった裏隣おパンティ宅との関係が、今では顔を合わせてもお互いに知らん顔であるという話もした。
さらに、窓を開けてピアノを弾くようになった最初の頃は、音が騒音になっているとは気づかないでいるのかもしれないと思っていたが、最近では嫌がらせのために窓を開けて弾いているように感じるとも。
そう思う私には根拠があった。
この1、2年前から窓開けピアノ練習をするのは、休日にはおパンティ宅が外出する直前の30分間だったり、平日は小学生の娘達の登校や母親(おパンティ)の出勤時間間近にピアノ練習をしてすぐに出かけてしまうのだ。
そういった訳がありこれまでは110番通報するタイミングを逃していた。
そんなことから、相手は110通報される事を十分に理解していて、それを逃れるために家を空ける直前にピアノ練習をするのではないかと。
わが家への嫌がらせなのではないかと。
そんな話もできた。
兎にも角にも、全て、全て、
窓全開ピアノについて、いつも感じていた事、考えていた事の全てを話す事ができた。
この際、道路遊びの話もしてしまいたい衝動に駆られたが、駐在さんや警官Nさんの私への心象を考えると余計な事案を持ち出さず、今はピアノ問題が最優先と思い、それに徹した。
私が話した全てを記録に残しその上で、これから暑くなり実際に窓を開けてピアノを弾いているその時に110番通報をするようにアドバイスを受けた。
その場合、パトカーで警官が到着した時にピアノ練習が終わっていたとしても、「ピアノ騒音の苦情で110通報でパトカーが出動した」という事実が記録に残るらしいのだ。
その時にすでに留守であっても、何度でも110番通報をするようにと。
窓を開けてピアノを弾くことは非常識だという事を警察官が直接本人達に伝える事で近隣トラブルを防ぐ事案になるので、是非に何度でも110番通報をするようにと言われた。
その際はもちろん「匿名で」とも。
この4年間、毎日早朝から下手な子供の演奏を聴かされてイライラし、時には眠りを妨害され、その怒りや憤りの全てを今日、表に出す事ができた。
そうして今まで私の身体中に付き纏っていた鬱憤や憂鬱がいっぺんに払い落されたような、そんな爽快な気分になった。
憑き物が落ちた気がした。
これから、或いは明日から、
窓を開けて弾いているであろうピアノの音が聴こえてきたら、ボスママ宅であろうと、おパンティ宅であろうと迷わずすぐに110番通報しよう。
もうグズグズと躊躇していた私は
どこにもいない。
私が話す全てを聞いた警官Nさんの言葉に、
私は電話口で涙をこらえた。
「よく4年も我慢しましたね」
と。
受話器を置くと、
涙がとめどなく溢れた。