今日、私は一日仕事だった。
それは、途轍もなく神経を擦り減らし、途方もない憂鬱と不安との戦いの一日でもあった。
毎朝、寝室のカーテンを開けて一番に目に飛び込んでくるのは紛れもなく、この世から消えて欲しいと切に望むチビゴキの大事な大事なリースおベンツの姿だ。
今朝もやっぱりそこにあった。
私が目を覚ました6時半にはすでにリースおベンツの点検をすませた後であったようで、いつものように門柱の陰に隠れてタバコをふかしていた。
チビゴキは今日もまた休みのようだ。
私はGW中日一日の仕事。
憂鬱がまた私を占領し始める。
ヤツのこの連休は、先週の土曜日から何一つ変わることなく毎日同じように一日の暇を持て余し、何をするでもなく家の周りをウロウロ、何度目かのおベンツの洗車をしながら近所を監視する毎日だ。
毎日、毎日。
また今日もそんなゲスい事を繰り返すチビゴキの様子が目に浮かぶ。
数時間後、仕事用の大きなトートバックを抱えた私が玄関を出て行く姿をどこかで必ず見ているだろう。
今日一日私が家にいないと気づいたら、いつものように監視窓から、または裏のどこからかわが家を覗き、観察、監視するだろう。
何よりも心配のタネは、高校生になった娘が今日は開校記念日で家にいる。
娘一人で留守番している。
娘に可哀想な思いをさせるのではないだろうか、
チビゴキの嫌がらせを受けないだろうか、
娘に何かしないだろうか...
心配で仕方がなかった。
昨夜、そんな恐怖と心配が次から次へと頭をよぎり、仕事へ行くべきか、休むべきかと考えては堂々巡りに陥った。
あまり眠れなかった。
今職場で責任ある仕事を任されている。
休むわけにはいかない。
休めるわけがない。
朝の支度をすませ、8時前に洗濯物を干しに2階のベランダへと出た。
リースおベンツがない。
さっきまでそこにあったおベンツが
ガーレージに停まっていない。
もしや、
滅多にない、殆どない、全くない外出なのか?
それとも、
滅多にない、殆どない、全くない帰省なのか?
いやいや、
この時間に車がないのはガソリンスタンドへ洗車に行っているに違いない。
昨日は午前中に1回、夕方5時から2回目の洗車をいつものように路上でやっていた。
自分の気狂いじみた車への執着がどう見られているのか、今更近所の目が気になるのだろうか。
そういった日の翌日早朝には必ず近くのガソリンスタンドでまた洗っている。
そんな姿を私は二度見かけた。
息子は早朝バイトへ行く途中、一昨日日曜の朝にも見たらしい。
間違いなく気狂いだ。
強迫性障害からの洗車病。
もうじき、一心不乱に磨いたリースおベンツに乗り意気揚々、ご満悦な阿呆面で帰って来るだろう。
そして、
わが家のガレージに車がない事を間違いなく確認するだろう。
リースおベンツへの執着同様、わが家への執拗な監視で目を輝かせるだろう。
私はひとまず娘に、
「何かあったらすぐにLINEして。急いで帰って来るから。」
そう言い残し、8時40分に玄関を出た。
リースおベンツはまだ帰って来ていなかった。