森を抜けると、遠くからラッパの音がした。
私はそっと近づく。
その先では、真っ赤な薔薇たちがざわめいている。
「女王が来るよ、また“首をはねろ”って言うんだ」
一輪の薔薇が小声でつぶやいた。
私は少し怖くなった。
怒りの声に包まれると、
心の中の小さな光が消えてしまいそうになる。
でもそのとき、森の風がふわりと吹いて言った。
「あなたは誰の声を生きているの?」
その言葉に、私は胸に手を当てた。
思い出す
人の評価や期待を気にして、
自分の“好き”を隠した日々のことを。
“ちゃんとしなきゃ”という大人の仮面の下で、
小さな私はいつも泣いていた。
けれど、52歳の私はもう知っている。
恐れの中にこそ、自由が眠っていることを。
怒りの声よりも、
自分の声を聴く方が、
ずっと静かで勇敢なことを。
アリスはゆっくりと立ち上がった。
「私は、誰の命令にも従わない。
自分の“好き”を信じるために、生きるの」
薔薇たちは微笑んで頷いた。
その瞬間、赤い花びらが舞い、
空から光が差し込んだ。
森の奥で、ハートの女王の影が静かに薄れていく。
新しい風が吹いていた──。
私は変わる
