森の小道の先にある古いテーブルを見つけた。
そこには、帽子屋と三月ウサギが座っていて、
無数のカップが並び
時間が止まったままのお茶会が続いていた。
「おやつの時間が終わらないの。
でも、悪くないよ。
だって“今”がずっと続くんだから」
帽子屋は笑いながら
少し困ったように微笑んだ。
「でも、未来のことを考えないと、
大人は生きていけないんじゃない?」
帽子屋は、ふっと私のカップに紅茶を注いだ。
「未来を考えるのはいいさ。
でも、今の香りを嗅ぐのを忘れると、
未来なんて、どこにも辿り着けやしない」
その言葉に、私ははっとした。
そういえば、いつからだろう。
“今日”を味わうよりも、
“次”の予定ばかりを見ていたのは。
時計の針が動かないこのお茶会で、
私は初めて、ゆっくりと紅茶を口にした。
花の香り、湯気、木漏れ日、
すべてが静かにひとつになって、
時間がほどけていく。
その瞬間、私は気づく。
「私は、焦らなくてもよかったんだ。
止まっているように見える時間の中でも、
ちゃんと心は動いていた。」
帽子屋は優しく笑った。
「そう、それが“生きてる時間”ってやつさ。」
