Banbi通信 VOL.347 | 初鹿明博オフィシャルブログ Powered by Ameba

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この夏、豪雨災害が頻発

しかし、スーパー堤防はいらない!

 

 この夏は7月の西日本豪雨に始まり災害の多い夏でした。台風シーズンは過ぎていないので今後も予断を許さない状況で、特に被災地域は地盤が弱まっていたり、復旧途上であったりして、再度災害に見舞われると被害を防ぎようがない状態にある場合もあり、警戒が必要だと感じています。

 このような大規模な災害が起こるたびに皆が思うのは被害が大きかった地域の多くが以前から危ないと指摘されていたのに整備が進んでいなかったということです。

 だからこそ、優先順位をきちんと考えた上で、公共事業を行うべきなのですが、残念ながら、あれもこれも手をつけようとして、結果、本当にやるべき整備が遅れ、次に被害に遭ってしまうということの繰り返しのように感じます。

 今回こそ、本当に必要な事業は何か、そして、今やらなくても良い事業は何かのメリハリをつけて、人命だけは守るべく計画を立てて行く必要があると感じます。

 以上のことを考えると、我が江戸川区が計画予定地の住民の意思に反して進めようとしているスーパー堤防は作るべきではないと、水害が多発した今だからこそ、敢えて言いたいと思います。

 江戸川区はゼロメートル地帯だから水害が起こりやすいと思っている方が多いようですが、海抜がゼロであることと水害が発生しやすいかどうかは関連はありません。洪水が起こるかどうかは川の流量と堤防の高さによって決まってくるのであって、ゼロメートルだろうが海抜以下であろうが、川の流量がしっかりあれば、水が堤防を越えることはないのです。

 水害の多くは比較的上流部の堤防の整備が進んでいない地域で起こっていることを考えれば、理解していただけると思います。

 基本的に河川の堤防整備は下流から整備して行くものなので、江戸川区のように最下流の地域は江戸川も荒川も河川整備計画上の堤防は概ね整備済みであり、むしろ、上流部の埼玉県などの整備が遅れていて、西日本で発生したような豪雨が降って危ないのは上流部になるのです。

 水は高いところから低いところに流れるので当然下流部に水が流れてきます。その結果、江戸川区まで水が流れ滞留してしまうということは起こりうると思いますが、それは排水の問題であり、堤防を強化しても解消できるものではありません。ですから、海抜の低い下流部は堤防よりも下水処理の問題を考えるべきなのです。

 多くの方々が、スーパー堤防の整備がされると堤防が今よりも高くなると誤解されているようですが、これは間違いです。前述しましたが、下流部は堤防の高さは計画通りに整備済みなので、地盤沈下などで数十センチ沈下してしまった分は元に直すことはあっても大きく堤防の高さが変わることはありません。ですから、堤防を越える流量に達すれば、スーパー堤防でも今のままの堤防でも堤防を水が越える越水は起こり、浸水被害は起こってしまうのです。何が変わるのかといえば、スーパー堤防は堤防の高さは既存堤防と同じですが、堤防の幅が計画では高さの30倍にすることになっているので、堤防が決壊し難くなるだけなのです。多くの既存の堤防は土を盛り上げただけなので、越水により堤防がえぐられていき、堤防が崩れ出し、決壊に至ってしまうのですが、スーパー堤防は堤防幅があるので決壊には至らないというメリットがあるという訳です。確かに決壊してしまうと一気に水がなだれ込んで行くので、家屋が押し流されたりして被害が多くなるのに対して、決壊せずに緩やかに堤防を越えて水が流れていけば建物が押し流されるようなことは食い止めることが出来るかもしれません。しかし、越水してしまえば浸水被害は起こるので、まずは浸水しない対策も取る必要があります。川の水が堤防を越える越水を防止する為にはスーパー堤防を整備するのではなく、河道流量を増やす為に、河床に堆積した土砂を浚渫して河床を下げれば良いのです。

 今回の豪雨でダム放流により死者を出してしまった愛媛県の肱川では、以前から堆積物を浚渫するよう住民が求めていたにもかかわらず、実施せれず、二ヶ所のダムが容量オーバーとなるからといって、大量放流に踏み切って、死者を出してしまいました。人の命を守る為に作られたダムなのに、ダムを守る為に人に命を奪う結果となってしまったのです。

 河床を掘削して水深を深くしておけば、越水するまでの時間をもう少し稼ぐことが出来たし、もしかしたら決壊せずに済んだかもしれません。

 越水してしまった場合に堤防が破堤しないようにする方法はスーパー堤防以外にもあり、国交省も1997年からフロンティア堤防だとか難破堤堤防だとか言って整備を進めようとしていたのです。

 これは、堤防の上部の「天端」、堤防の陸側の斜面「裏のり」、水が堤防の斜面を下って行った時にぶつかる陸側の斜面の下の「のり尻」という越水に対する弱点を3方とも全て、鋼線のかごに石を詰めた「布団かご」やコンクリートブロック、遮水シートやアスファルトなどで補強するものです。

 この方法なら住民を退かすことなく出来るので、住民を巻き込むこともないし、用地買収の必要もないので費用も安く、整備期間も短く済みます。

 私は用地買収にかかる予算や時間を考えるとスーパー堤防はやめて、難破堤堤防に堤防を強化することに変えるべきだと思うのです。

江戸川区のような下流部で水が滞留してしまうのは排水の問題、つまりは、下水処理の問題だと前述しましたが、この点についても少し説明いたします。

 雨の振り方にもよりますが、基本的に、下流部では水が堤防を越える前に浸水被害は必ず発生します。何故なら、下流部は大量に雨が降って下水処理が追いつかなくなるとポンプ所から下水処理する前の汚水を今でも川に放流しています。しかし、川の流量が多くなり、一定の高さまで増水すると川に放流して越水して破堤しないよう堤防を守る為に、川への放流を止めます。そうなると、どうなるかといえば、下水処理が間に合わないのですから、下水が溢れるのです。これは国土交通省も認めており、川の水量が多くなればポンプ所から河川への排水は出来なくなり下水が氾濫するのです。

 20年くらい前は下流部でもない中野や杉並の辺りで神田川などが氾濫したことが多くありました。これも全て同じ論理で下水処理が間に合わずに水が溢れてしまっていたのです。これが解消出来たのは環八の地下に一時的に水を貯める地下貯留池を設けたからなのです。

 今でも時たま江戸川区内で排水が追いつかず道路に水が溢れてしまうという事態が起こっていることを考えると絶対に完成しないスーパー堤防の整備に躍起になるのではなく、23区西部のように地下に巨大な貯留池を設けるべきだと考えます。現在、篠崎公園周辺をスーパー堤防にするという無謀な、そこに住む人の暮らしを無視する計画を強引に進めていますが、篠崎公園を土盛りするのではなく、地下を掘って巨大な貯留池を設けた方が住んでいる人を退かす必要もないし、汚水の河川への排水もなくなり環境にも良く、現実的だと考えます。

 江戸川区はスーパー堤防整備を正当化するために避難するための高台が必要だと言います。しかし、考えてみてください。大雨が降って河川が氾濫するかもしれないと考えられている時に高いからといって、川の側の堤防に逃げますか?そして、大島小松川公園のように広い公園ならばまだしも、北小岩で進められている地区のように区画整理とセットで行って住宅が立ち並んでいる地域に大量に住民を避難させることは非現実的です。

 こんな馬鹿げたことを考えるのではなく、江戸川区は高層住宅が数多くあるのですから、非常時にはそれらの建物に近隣住民が避難出来るように協定を結ぶなどして、高いところに逃げられるようにすれば済むのではないでしょうか。

 そして、今後は、現在、区立小中学校の改修を順次進めていますが、避難所として使う事になる体育館は1階ではなく最上階に作るようにしたり、一定階数以上のマンションは3階以上に避難所としても利用出来る集会室の設置を義務付けるようにすれば良いのではないかと考えます。

 地震と違い水害は事前にある程度予測出来ます。

 今回の豪雨災害で判明したことは、情報をいかに早く確実に住民に届けるかということと、甘く考えずに命を守る為に早めに安全な場所に逃げるということです。

 では、なぜ、江戸川区はスーパー堤防に固執し続けているのか。

 それは、スーパー堤防整備だと単に区画整理をするよりも国からの補助が多くなり、区からの持ち出しが減るからです。区の財政運営だけを考えたら非常に良いところに目をつけたなと思います。しかし、区の持ち出しは減ったとしても全体に事業費は大幅に増加するので、税金という面での住民の持ち出しは増えてしまっています。そして、ここに国費を使わなければ江戸川や荒川の上流部の整備が済んでいない堤防の整備に予算を振り分けるなど、優先順位の高いところに予算を回せるようになります。

 つまり、スーパー堤防整備は江戸川区の財政にとってプラスでも、国全体としては必ずしもプラスではないのです。

 江戸川区の財政が良くなりさえすれば良いのでしょうか?私は違うと思います。なぜなら、税金を支払っている我々国民からすると国税も区民税も同じ税金、どっちからだそうが我々の負担であることには変わりません。江戸川区の財政負担が減っても国の負担がより増えるのであれば、国民としては意味がありません。

 江戸川区が区画整理と抱き合わせに進めているスーパー堤防計画は、部分最適なのかもしれないけれども、全体最適にはなっていないのです。

 そもそも、どんなに堤防を高くしようが川幅を広げようが想定外の事態は起こり得るので、人の力で自然を食い止めることには限界があります。最悪の場合は逃げるという選択肢も持っておくべきなのです。

 江戸川区を含む江東5区が最悪の浸水被害の時は他の自治体に全住民で避難するということを打ち出しました。これが可能かどうかの是非はありますが、人の手では食い止められない事態もあり得るということを素直に認めたことは評価したと思います。

 以上が、こんな水害が頻発しても江戸川区にスーパー堤防はいらない理由です。ご賛同いただけたでしょうか。