日経コンピュータ2023.09.14 | HATのブログ

HATのブログ

IT関係のニュースを中心に記事を掲載します。日経コンピュータで重要だと感じた記事とコメントを2010年9月1日号から書いています。
このブログは個人的なものです。ここで述べていることは私の個人的な意見に基づくものであり、私の雇用者には一切の関係はありません。

特集は<SIer新時代 躍動する準大手 2030年に売上高1兆円も視野に>です。システム開発をどの会社に依頼するかという情報としては必要なのでしょう。ただ、この雑誌のペルソナが「ユーザ企業の基幹システムに携わっておりIT関連の動向を見たい」という人であれば興味はあまりないでしょう。紙面だけでなく内容も普通の雑誌を目指されているのかも知れません。

編集長セレクト】(無料登録で読める記事です)
クラウドロックインは避けるべきか「使い倒し」事情に日米企業で差
→「Lambdaは人類史上見た中で最悪」なぜ?
「辞めたい」と言いながら会社に残り続ける人 その本心は?
→「俺がいないと会社がダメになる」の誤解

ITが危ない:「保護率39%」で命を救えず 人生を左右するAIをどう使う】(P.10)
三重県で2023年7月、4歳の女児を虐待死死なせたとして母親が傷害致死の罪で起訴されました。女児が通う保育所から児童相談所(児相)に「顔にあざがある」と報告があり、面談までしたのですが一時保護の判断を見送りました。

その判断にAIが出した「39%」という保護率の数値も参考にしたことで、このAIの使い方は適切だったのかを様々な専門家に尋ねています。三重県では2020年からすべての児相でAIシステムを導入し事例を蓄積しています。

弁護士:正解のない判断にAIを使うのは危険
東大研究員:人間の活動から取得した学習データはバイアスがある。バイアスを前提にAIのリスクを洗い出し、人間が補うべき

児相の人員不足を補うためAIを導入したいという気持ちはわかりますので批判はしません。個人的に子供が大好きなので虐待事件は気が重くなります。国が主導すべきではないでしょうか

SIer新時代 躍動する準大手 2030年に売上高1兆円も視野に】(P.12)
1.目指せ売上高1兆円 2つの壁を打ち破る
2000年代後半にSIerの「3000億円クラブ」と呼ばれた準大手SIerが10社ほどありました。それらの中の数社は売上高1兆円を目指して動き出しています。

自社製のハードウェアを持つNEC、富士通、日立製作所などのメーカー系はシステム構築以外の事業も手掛け、企業規模も大きいことからSI専業企業とは区別されてきました。SI専業の中ではNTTデータが群を抜いて大きく売上は4兆円を越えています。次がNRIの約7千万、CTC約6千万、TIS約5千万と続きます。

2.新事業が続々 SIer成長への勝算
人月商売だけでなく新たな事業も行っています
BIPROGY:自動運転センサーの検証シミュレーション
TIS:クレジットカード事業の基幹システムのSaaS
CTC:「最適化技術」をシステムで提供。配送ルートなど

3.DX需要に照準 ERPや内製化に商機
SCSKは<ERP技術者約400人を移管>しERP事業本部を新設
CTCは内製化の支援に力を入れる<実はおいしい内製化支援>

4.開発コスト10%減 NRIの生産性向上策
NRIは様々なプロジェクトで得られたノウハウを集約し、「エンジニアリングIP」(IPは知的財産の意味)を作成し、開発コストの10%を削減

いわゆる人月商売(1人1か月いくらという値付け)で1兆円を超えようとすると、平均200万円/人月でも社員数4万人以上必要になります。NRIもTISも約6千人ですからそれでは実現出来ません。サービス提供を模索するのでしょう。

クラウド活用のリアル】(P.26)
自社システムにクラウドを採用している35社アンケート結果
6割がマルチクラウド
・マルチクラウドの全社がAWSを使用中
・クラウド選定理由の1位は拡張性
・4割がコンテナ(Kubernetesなど)を使用中
<課題について>
・社内の人材不足・・・IT技術者の獲得競争が激化している
・コストへの不安・・・大手が使うと従量課金が予想以上

10年前の比較も多少載っていましたが、もう少し「時代の変遷」がわかるような記事にして欲しかったです。

15年ぶりの大改訂 J-SOX直前対策】(P.44)
日経コンピュータ2023.06.08のITが危ないで特集された通りJ-SOXが15年ぶりに改訂され、2024年4月からスタートします。


大きくは次の2点が変わります
1.評価範囲の決定方法の考え方が変わった
いままでは売上の大きい子会社から全売り上げの2/3を対象にすればよく、機械的に決める事が出来ていました。来年からはリスクベースで実質的に評価することになります。
2.ITの委託業務に係る統制が重要と記載されました
クラウドサービスを使用しているときは、クラウドサービス自体の<内部統制の運用状況>を自社で評価する必要があります。内部統制のSOC(ServiceOrganizationControls)-Type2のレポートを出せないクラウドサービスを万一使っていると、自社で監査する必要があります。
 

SalesforceやAWSでは当然ですがレポートをもらえます。ご自分が使用されているクラウドサービスでSOC1報告書を提供されているか検証が必要です。前回の記事ではkintoneはSOCレポートが出せないと書かれていました。今回はSOC1報告書を作成しているSaaSの一覧があり、freeeeや奉行クラウドなど多く書かれていましたが、kintoneはありませんでした。

マイナ保険証ひも付け未了77万件 データ不備がなくならないワケ】(P.74)
厚生労働省は8月24日に開いた会合で、マイナンバーと保険資格のひも付けが未完了のデータが77万件あるとの調査結果を報告しました。ひも付け出来ているか、本人がマイナポータルで確認して欲しいと呼びかけました。

各医療保険者はマイナンバーとのひも付けが始まった2017年以降、加入者の所属企業にマイナンバーの提出を依頼してきましたが、未提出者がまだ多く居ます。今後は加入者個人に直接送付して要請するなど対策を考えるとの事でした。

このことは最初から分かっていたはずです。なぜ問題として声を上げなかったのかが課題だと思います。本人確認の依頼は最初から行うべき。大したことはないと考えていたのかも。

Javaの記法を初心者向けに大幅完了 「魅力を高めて若い世代の心をつかむ」】(P.77)
<2023年秋の「JDK 21」で導入>
初心者がJavaをスムーズに学べるように記法を改善します。
<従来のJava>
class HelloWorld { 
   public static void main (String[] args) {
      System.out.println(“hello, world\n”);
   }
}
<「JDK21>
void main() { System.out.println(“hello, world\n”);}

意味のないクラス名や型をデフォルトで補うことで、煩雑な記述を簡素化します。

オリックス銀行が勘定系をクラウドへ 20年間利用のシステム基盤が限界に】(P.78)
オリックス銀行はオンプレミスの勘定系を富士通のパブリッククラウドに移行し2023年2月に稼働させました。

富士通クラウドを選んだ理由は2点書かれています。
1.周辺システムとの親和性が高い事
2.国内保守のため海外クラウドと比較して対応スピードが速い

日本発のクラウドが広がることは嬉しいですが、継続的にバージョンアップ出来るかが少し心配です。

CIO/CDOオブ・ザ・イヤー初選出 大賞に荏原製作所・小和瀬浩之誌】(P.80)
日経クロステックが選ぶCIO/CDOオブ・ジ・イヤー」が2023年から開始されました。初選出の3名は次の通りです。
<大賞>

荏原製作所:小和瀬浩之氏 プロセス標準化グローバル一体経営
<特別賞>

ベイシア:亀山博史氏 様々なOMO施策の展開
旭化成:久世和資氏 DXやMI、デジタルツイン

CIOはそれほど前に出ない方が多いので目立つ人だけを選ぶようにならないかが心配です。システム開発でCIOが前に出るということはあまり上手くいかなかった時でしょう。CIOインタビューも日経コンピュータだと1年に26人です。

新連載:押さえておきたい! 生成AIの法規則 第1回】(P.102)
模倣の意図なくてもリスクはある?生成AI利用を巡る著作権問題
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士 村田 知信氏がAIに関する法律上のリスクについて解説されます。

1.次の4つを満たしたとき著作権侵害となります
(1)創造性:学習用データに創作性が存在する事
(2)依拠性:学習用データに依拠して複製などがなされている事
(3)類似性:学習用データに類似したデータの複製などがなされている事
(4)権利制限規定不適用:著作権の権利行使が制限されていない


2.生成AIサービスで作成したデータに著作権があるか
著作権法は、創造を保護する法律です。人間の創作意図と創作寄与が認められる場合にのみ著作権が発生すると解するのが通説です。
 

3.日本の著作権法はAI学習については著作権が適用されません
著作権法30条の4は著作物を人間に「享受」させることを目的としない、「情報解析」には著作権者の許諾を得ないで利用することを認めています。

弁護士さんの連載は珍しいですが、タイムリーで興味深いです。ただ、創る側の法的規制に興味がある人は限られていますので利用者に絞った内容を期待します。

社長の疑問に答える IT専門家の対話術 第249回】(P.110)
オープンデータで独自の事業 「天気の保険」会社の振りきる力
コンピュータとデータの役割は、「処理→記録」から、「可視化→駆動」へと変わっています。コンピュータは計算機というより、人が協調する相手になっています。データ駆動でのビジネスの事例を紹介します。

米センシブルウェザーは、天気に関する保険を提供しています。雨が降ったから保証するという事後保険ではありません。天気を予測し雨天が見込まれる場合はキャンセルを推奨し、キャンセルされると予約金を全額支払います。

天気予測の分析に使うのは、だれでも自由にアクセスできる公的な衛星データです。さらに降雨だけでなく暑さに対する保険も検討されています。

これらがリーズナブルな価格で提供できるのは人手を介さないITだけで全てを賄えるからです。

以上