第89話 西ドイツから九死一生でたどり着いた時計の話し その2 | 鳩時計修理”鳩ぽっぽ屋"のブログ

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ヤフーショップ”鳩ぽっぽ屋”の主人でございます。鳩時計が好きで、修理と販売のショップをしています。※ブログの記事は作り話で、過去の所有者様と何ら関係はございません。鳩ぽっぽ屋

 電話の話しによると、長野県某所にあったキリスト教会で見たと言う。この時計を鳩ぽっぽ屋のインスタグラムで見てとても懐かしく、お譲りしてもらえないか、と電話したと言う。これが治るかどうか分からない事と、治った場合はネットショップに上げるのでお待ち下さいと伝えた。子供が通っていた教会学校の部屋にあったと言っていた。ここで、知りうる範囲であるがキリスト教会の様子を紹介しよう。

 

キリスト教会は、カトリック系とプロステタント系で大きく分かれる。カトリックは本部はバチカンにあり、全世界が本部の指導で運営されている。それに対し、プロテスタント系は単独で運営される個人教会と、教団と言われる複数の支部教会と本部が連携し運営されている教会がある。プロテスタント系では、聖書の解釈に微妙な差があり、いろいろな宗派が存在する。この時計が置かれていた教会はプロテスタントの教団系に属する教会と思われる。牧師が何らかの理由で辞されると本部は交代の牧師を派遣する仕組みだ。赴任された牧師は、同じ教義で活動を進めるが、教会運営は牧師の考え方が反映される。それゆえ牧師の信仰の深さ以外に運営能力のいかんで教会が繁栄したり、衰退したりするものだ。

はベニアがベコベコで接着修理、時計文字盤は洗浄後文字を書き込み

そしてこの時計の生き様は教会との関係に触れなくてはならない。

 

あるキリスト教会に長年勤めた牧師が高年齢を理由に退任しその街を去った。そして若い牧師が信任として着任した。数年は先代牧師のやり方を周到し、信者達の信頼を深めていった。だんだん彼の考え方、そう合理的運営方針が徐々に出て来た。その一つに使わない物は捨てよう、と言うやり方だ。これは教会に限らず何処の家庭でも大事な事だ。そして槍玉の一つになったのが、この古時計だった。

ステージの6聖人の一人が欠落。レジンで作成し、塗装します。

さて、その古時計だが確かに信者さんが教会に寄贈したことは間違い無さそうだ。女性の話によると寄贈した信者さんは、長年のクリスチャンホームの家庭に育った航空機パイロットだったそうだ。長野県に住むキリスト教の家庭で育ち、信仰を引き継いだのだろう。しかし、国際パイロットでは、年に数回ほど礼拝に出席するのが、せいぜいだっただろう。そのパイロットは東京に居を構えたが、長年馴染んだ長野県の教会に籍を置いていた。そのパイロットがフライトで西ドイツに向かった時、休日にニュルンベルクに出向いたのだろう。彼は日本の家族、友人や教会の為にお土産を買っていた。時計店で思わず手を叩いた。「これだ、これが教会に相応しい土産だ」と。

トランペッターの腕とトランンペットを製作します。

その時計は集会室と言う部屋に掛けられていた。集会室とは、静かな礼拝が出来る様に、幼児の預かりや教会学校に使われる。この時計がそこにあったのは、時報の鐘が鳴ったりオルゴールが鳴ったりすると礼拝の妨げになるからだろう。しかし、メンテナンス無しでは10年程で止まってしまうだろう。多分信者が内部にオイルスプレーをして何とか動かし続けたと思われる。ある時、牧師夫人が大掃除で手の届かない鴨居などははたきで埃を落としていた。気が付いたら、時計のトランペッターの腕が折れてしまっていた。街の時計店では修理を断られた。そしていつしか時計も動かなくなり、倉庫に置かれてしまった。

  信任牧師は

「この動かない古時計は、この先ずっと置いておくのですか」と、信者に尋ねた。