第89話 70年前の西ドイツ製の時計との出会いの話 その1 | 鳩時計修理”鳩ぽっぽ屋"のブログ

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ヤフーショップ”鳩ぽっぽ屋”の主人でございます。鳩時計が好きで、修理と販売のショップをしています。※ブログの記事は作り話で、過去の所有者様と何ら関係はございません。鳩ぽっぽ屋

  この教会の形をした時計は、どこをどう生きて来たんだろうか。日本のオークションサイトに初めて出品されたこの時計は、西ドイツ時代の有名な時計会社、シュメッケンベヒャー社の製作の品だった。

受け取った時の時計 埃にまみれた教会モデル 

数名の応札があったが、海外オークションの驚く価格とは比べ物にならない低価格で鳩ぽっぽ屋が落札した。もっとも、出品時の写真を見る限り、酷い汚れと壊れ方を見た人は応札を途中で諦めたのだろう。落札後、出品者に連絡を取ると、岐阜県在住の古物商だと言うので、直接取りに出向くことにした。そして受け取った時計はまぎれもなくシュメッケンベヒャー社製聖母教会レプリカモデルだった。

 

 この聖母教会レプリカモデルについて調べた範囲で紹介しよう。第二次世界大戦後、西ドイツで終戦を迎えたシュメッケンベヒャー氏(Emil Schmekenbecher)は、ドイツ、シュバルツバルト(黒い森)にあった家具会社を引継ぎ、カッコー時計の製作を始めた。製品はアメリカに人気を得て海外輸出も広がり繁盛した。ドイツのニュルンベルクに皇帝カール4世が1356年に建てたフラウエン教会(聖母教会)がある。シュメッケンベヒャー氏はその教会に備えられたからくり時計(時計は1506年に追加された)を見て感銘したのだろう。彼は持前の器用さを駆使し、自らデザインしてレプリカのからくり時計を製作したという。

 

 

教会の実物の写真は フラウエン教会 ニュルンベルクで検索してください。

 

  しかし、買い取った現物はオークションの写真と比べ物にならないほど汚れていた。その古物商にこの品を持ち込んだお客さんのことを聞いてみた。古物商はお客の情報は秘密ですが、長野県の方です、と教えてくれた。いったいこの時計はどんな人が西ドイツで買い求め、日本に持ち込み、長野県の何処かで時計として働いていたのだろうか。そしていつか動かなくなり、修理が必要になても、恐らく引き受ける時計店は無かったのではなかろうか。日本には存在しないからくりが仕込まれたムーブメントの修理を頼まれても、部品は無く、治らない恐れがあるなら、引き受けないのは当然に思われる。

聖人の左右のトランペット奏者の腕は欠損、箱内部は酷い汚れ 腕を上下させるギミック消失

時計を引き取り後、早速修理を開始した。先ずは部品を取外し、洗浄から始めることにした。しかし、凄い汚れだ。装置は油まみれ、箱は油系の煤汚れで、おそらく炊事も行った部屋に置かれていたのだろうか。装置を取り出し、さらに、パーツに分離した。時計の箱はベニア製で、接着が剥がれベコベコだった。正面の聖人の横でトランペットを吹く人形の腕は欠損し、持っている筈のトランペットも無い。しかも、腕を上下させる装置は欠落し、部品すら無かった。オルゴールも煤と埃だらけだ。時計の修理の状況を鳩ぽっぽ屋のInstagramに紹介しているが、この時計の修理の掲載を開始した。数日後私のスマホに電話が入った。仕事上新しい問合せもあるので必ず応対する。電話を掛けてきた相手は女性だったが、驚きの話をしてきた。

次号に続く