たたき上げの創業社長には一種独特のカリスマ性があります。無から有をつくるという産みの苦しみを経験した苦労人は、人一倍の忍耐力と創意工夫の精神、社員に対する厳しさとともに感謝の念を忘れない人であることが多いようです。


同じ「ばかやろう!」ということばでも、いわれて心に響く人もいれば、(何いってんだ?)と反撃したくなる人もいます。これは日頃から信頼関係を築いているかが大きく関わっていて、それがない中で放ったことばは、ひとりでに歩き出し、相手の頭の中で消化されずにぐるぐると回り続けます。


この点、創業社長(だけではないですが、苦労された2代目、3代目社長も…)は相手の立場を理解する能力に優れた人が多く、厳しいことばを発しても、社員はへこたれずについてきます。


ご存じの方も多いと思いますが、室町時代に活躍した能楽師・世阿弥が「離見の見」という境地を説いています。これは自分で能を舞いながら、同時に客席にいて自分の「舞」を観る境地らしく、常に自らの行動を客観視することの重要さを説いています。先の例でいえば、相手を叱っていても、同時に叱られている相手の立場になって考えることのできる人、といえるでしょう。労使関係がうまくいっている会社は、社長さん以下、幹部社員がこうした姿勢で社員さんと接している気がするのです。


一方、労使トラブルが多い会社は、法律(会社では就業規則というやつです)で縛る前に、まず信頼関係の構築を目指してみる、というのも、案外よい会社への近道かもしれません。トラブルの源泉は、工夫次第でなくなるものです。就業規則は決して万能ではなく、そこに「魂」を入れて初めて活きてくるのです。