社会に出て3年目くらい。なので相当程度のむかし話。社内で使い走りに追われていた当時の上司『色メガネ部長』には大変可愛がられた。
残業後に焼肉や寿司を良くご馳走になったものだが、新入社員に毛の生えたような私に「なんか提案しなよ」といつも唆してくれていた。
奢られっぱなしでは悪いので、週に一、二度はA4一枚の企画書をよく提出したものだ。いい企画を提案するとすこぶる機嫌がいい。しかし、気に食わない提案などしようものなら、好意で作成した企画書にもかかわらず、その場で破り捨てられたりした。
それならまだいい。紙飛行機にして飛ばされてしまうことも度々あった。「鳩サブロー君(←もちろん本名ではない)、3、4年地方に飛んでみるかね?」などと脅されながら。
ところで、なぜ色メガネ部長が『色メガネ』になったのか?は、彼の口癖に起因する。
「鳩サブロー!てめえ、色メガネかけてんのか?色メガネかけてから企画書出しやがれ!」
・・・と、こんな具合である。だから『色メガネ部長』。なので、別に彼がサングラスを着けて仕事をしていたわけではない。
彼の言う『色メガネ』というのは、つまり「思考の補助線」と同義である。意味は、こちらの商品説明にある。
つまり、誰もが思いつくようなあたりまえの企画書なんか出すな、ちゃんと『色メガネ』を着けて誰も気づかないような風景を俺に見せてみろ、世の中を違った切り口でとらえ直してみなさいよ、ってことを言いたかったのではないかと思う。
そんなわけで、色メガネ部長には大いに鍛えられた。だいたい新聞社なんて超絶保守的な業種で、若造に向かって「企画書出せ」なんて指示する上司なんかいないもの。
おかげで、その十年後には、新聞社に所属しながら、「新聞以外」の事業に関するほぼすべてを体験させてもらえるようになった。新規事業開発担当社員というポジションは、色メガネ部長のおかげで楽しく関わらせていただいたもんだ。
賀状を送らなくなって、もう何年経ったろう・・・・、この正月そんなことを考えた。
「ストックビジネスの教科書」という本を読んだ。これは「色メガネ部長」の遺言ではあるまいか?と思った。
本書による「ストックビジネス」の定義は、(1)継続的にお金(=利益)が入る(2)(そのビジネス自体を)売ることができるビジネスのことだ。(1)だけでもダメで、(2)だけでもダメ。両方揃えて、「継続収益かつ売却益」が成り立たないものはストックビジネスではないという。
両方揃えるためにはまず、世の中のビジネスを、上記(1)(2)の「物差し」で眺め、良し悪しを判断することが大切だといい、これをストック思考と呼んでいる。
物差し、そう。色メガネ部長的に言ったら、この「物差し」こそまさに『色メガネ』なのである。「ストック思考」という色メガネ。間違いなく、色メガネ部長もこの種の色メガネをかけていた。しかも、20年前から。彼は流行の最先端を行っていたのではないか?一体何個の色メガネを持っていたのだろう?
本書のページをめくるたんびに思い起こされるのは、色メガネ部長のことばかりである。
もしかしたら、「正月はこの本を読んで企画の一つでも提案しろ!」という、草葉の陰からのメッセージなのかもしれない。
いや、死に際に会えなかったから、これが彼の数年遅れの遺言なのかもしれない。
ところで、上記(1)(2)の両方の条件を充たすビジネスって、なかなかありそうでない。参考になる事例が乏しいので、自分でビジネスを起こすときは、どうしても「フローなビジネス」から参入せざるを得ないことが多いはずである。
フロービジネスとは、ストックビジネスの対極にある、単発の利益に左右されるビジネスであり、そのビジネスモデルを第三者に売却できないビジネスのこと。
私も含め、ど素人がいきなりストック性の高いビジネスでウホウホっ!なんて至難の業なので、とにかく最初は「フロービジネス」を作ることからはじめ、そのフロービジネスを、「ストックビジネス」に切り替えていくことが重要なのだろう。
一方、すでに何らかのビジネスに取り組んでいる人が、自分のビジネスがストックビジネスなのか、フロービジネスなのか、あるいは両者の複合体なのか、どっち寄りなのか?等を分析しておくことは極めて有意義なことだろう。
たとえば、1件20万円でホームページの作成を単発で請け負う仕事は、見事なまでにフロービジネスである。
これを会員制(月額2万円/年間契約)に移行し、ホームページの制作受注とともにホームページの運営をフォローアップする情報を会員向けのメルマガで配信してみる。
すると、「今すぐホームページを作って欲しい」という方だけでなく、「近いうちにホームページを作りたい」と検討中の方まで顧客にする可能性が広がり、新たな顧客数の増加と継続的な粗利益が見込めることからストック性は高まる。
さらに、ホームページを制作できる方をパートナーに招き入れ、その人に制作業務を完全に任せてしまえば、自分自身は会員制ビジネスの運営だけに集中できるし、(その気になれば)このビジネス自体を売却することも可能となる。
このように「ストック思考」という『色メガネ』を.着用することで、新たに取り組むべきビジネスを見つけたり、今取り組んでいるビジネスの改善に役立てようというのが本書の趣旨だと思う。
おそらく、「ストック思考」という補助線を最も活用すべきなのは、単発売り中心のコンテンツ屋稼業などではないか?
一方、フロービジネスのストック化を最もスムーズに移行し得る業種の一つ、それもまたコンテンツ屋ではないかと考える。
とはいえ、ストックビジネスよりも本当に重要なのは「コンテンツの質」そのものであり、ここが崩れたら、どんな万能な色メガネをかけたところでまるで意味ないよね!というのが、現実だろう。
逆に、商品(コンテンツ)の質には絶対の自信を持っているのにまったく儲かっていないよ・・・という(おそらく頑固者の)方は、一読してみてもよいと思う。
◆本日の朝読み 「ストックビジネスの教科書」(ポプラ社) –大竹 啓裕 (著)
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◆本日のひらめき 「いい色メガネをかけ倒す。ついでに他のいい色メガネも着用してみる」
