「コスパ」「タイパ」に続く第三の消費キーワードとして、いま静かに注目を集めているのが「メンパ」です。

 

メンタルパフォーマンスの略。「心理的な負担を最小化しながら、最大の満足を得る」という考え方で、2026年の流行語になるとも言われています。

 

若者の間で流行っているだけだろう、と思ったとしたらちょっと待ってほしい。実は日々無数の決断を迫られている経営者・リーダー層にこそ、このテーマが一番鋭く刺さるんです。


気づかないうちに「壊れている」怖さ

メンパの損傷が厄介なのは、自覚症状がほとんどないところです。

 

風邪なら熱が出ます。睡眠不足なら眠くなります。でもメンパの劣化は、「判断の質が静かに落ちていく」という形で現れます。

 

コンビニで「なんでもいいや」と適当に商品を手にとる。重要なメールを「あとでいいや」と後回しにする。一見ただのズボラに見えますが、実はこれ、認知資源が枯渇して決断から逃げている赤信号なのです。

 

しかも先送りした判断は消えません。翌日に持ち越されてさらにメンパを圧迫する——。複利の負債、とでも呼ぶべき構造です。

 

経営者がこの状態に陥ると、会社全体への影響は計り知れない。Forbesの調査によれば、慢性的なプレッシャー下で疲弊したリーダーは戦略的思考を失い、目先の短期的な問題への反応に終始するようになるといいます。視野が狭まり、複雑な課題に対処できなくなっていく。

 

さらに始末が悪いのが、その悪影響の伝播です。

 

燃え尽きた社長が深夜にメールを送ったり、仕事のために私用をキャンセルしたりすると、組織のメンバーはそれを観察しています。「過重労働こそがコミットメントの証だ」という間違ったメッセージが静かに広がり、企業文化ごとブラック化していく。

 

立派なウェルビーイング施策を整えても、トップがこれでは全部水の泡です。


私たち、金魚以下なんですよ

そもそもなぜ、これほどメンパが削られているのか。

 

答えはシンプルで、情報過多とデジタル環境による注意散漫です。

 

仕事中にメールをチェックする回数は、調査によれば1日平均77回。つまり1日に77回、自分で自分の集中を断ち切っている計算になります。

 

そしてスマートフォンの普及やマルチタスクの常態化により、人間の集中力は「わずか8秒」にまで落ちているというデータがあります。

 

金魚の集中力が9秒といわれているので、私たち、金魚以下。オフィスワーカーがPC画面に集中できる平均時間にいたっては44秒という報告まである。

 

 

この状況を放置したまま「もっと頑張れ」「もっと集中しろ」と言われても、それは的外れな精神論というものです。


防衛策①:判断の「数」を減らす

では、どうすればいいのか。まず有効なのは、判断そのものの数を意図的に減らすことです。

 

スティーブ・ジョブズが毎日同じ黒いタートルネックを着ていたのは有名な話ですが、あれはファッションの哲学というより、「服を選ぶ」という認知資源の消耗を防ぐための設計でした。

 

結果に大きく影響しない些末な判断は、ルーティン化するかAIに任せてしまう。これだけで、日々のメンパの消耗量はかなり抑えられます。

 

マーケティングの世界でも「決定疲労(Decision Fatigue)」への対処は重要課題で、選択肢を3つに絞って真ん中を選ばせる「松竹梅の法則」などはその典型です。

 

選ばせないことが、最大の親切になる時代です。


防衛策②:シングルタスクを貫く

もうひとつの柱は、「常にシングルタスク」の徹底です。

 

マルチタスクが得意と自負している方もいるかもしれませんが、脳は本来マルチタスクには対応していません。同時処理しているように見えて、実態はシングルタスクを高速で切り替えているだけ。その切り替え自体が注意力を浪費し、作業効率を落としているのです。

 

今目の前のタスクが「全世界の中心」であるかのように没頭する時間を、意図的に確保する。これがパフォーマンスの土台です。

 

目指すべきは、心理学者ミハイ・チクセントミハイが提唱した「フロー状態」——時を忘れて対象に没頭し、極限の集中と充実感を同時に得ている状態です。

 

このフローに入るために有効なのが、「プレ・パフォーマンスルーティン(PPR)」。朝オフィスに着いたらコーヒーを淹れてから始める、特定の音楽をかける、など自分なりの儀式を持つことで、脳に「ここからが集中モードだ」と自動認識させるレールを敷けます。

 

毎回ゼロから意志力で集中しようとするより、はるかにエネルギー効率がいい。


5分の瞑想が、判断力の土台になる

集中力そのものを直接鍛える手段として、マインドフルネス瞑想も今やビジネスパーソンの必須スキルになりつつあります。

 

人間の心は起きている時間の約47%において、過去への後悔や未来への不安など「今ここ以外」にさまよっているといいます。

 

マインドフルネスの基本は、静かに座って呼吸に意識を向けるだけ。雑念が湧いても評価せず、「あ、浮かんだな」と気づいて呼吸に戻す。

 

これを1日5分繰り返すだけで、注意制御のネットワークが鍛えられます。

 

Googleが社内に瞑想ルームを設けているのも、「予防的なメンタル経営投資」として合理的な判断なのです。


おわりに

タイパもコスパも、メンパという土台が壊れていては機能しません。

 

メンパの保全は、仕事効率を上げるハックではなく、「自分が壊れる前に気づき、正しい判断力を維持するための防衛線」です。

 

健全な企業文化はトップの状態から始まる——これを体感として理解しているリーダーが、長く走り続けられる人だと思います。

 

組織の仕組みをいじる前に、まずご自身の働き方を。不要なタスクに勇気を持って「ノー」と言い、静かな場所で価値の高い仕事に没頭する「ディープワーク」の時間を作る。

 

騙されたと思って、明日の朝5分だけ、呼吸に意識を向けてみてください。あなたのメンパが整えば、業績も、チームのモチベーションも、不思議とついてくるものです。

こんにちは、はっちょん です。

今日はちょっと面白い数字から始めさせてください。

 

1枚2万円のチケットが、16.5万円で売られている件

2024年に終わったTaylor Swiftの「Eras Tour」。

興行収入は20.7億ドル、動員1,016万人。

音楽史のあらゆる記録を"二倍"に書き換えた、もはや怪物級のツアーでした。

 

ただですね、業界の人間が本当にゾッとしたのは、別の数字の方なんです。

  • チケット定価平均:204ドル(約3万円)
  • 転売市場平均:1,652ドル(約25万円)
  • 最終週バンクーバー公演:2,952ドル(約44万円)

何が起きているか。

 

1枚あたり約22万円の「本当ならTaylor Swift本人が受け取れたはずのお金」が、転売業者の懐に消えていったわけです。

10万枚で1.5億ドル、100万枚で15億ドル。

 

この「本当ならファンが払えた金額」と「実際にアーティスト側に入る金額」のギャップ。

 

これからはここを誰が、どうやって回収するか?

 

2026年のエンタメ業界で起きているほぼすべての動きは、この一点に集約されています。

 

ファンダムはいつから"金融資産"になったのか

昔々、1990年代までの音楽ビジネスは、CDを売れば終わりでした。

 

シンプルで、わかりやすい世界。

 

ところが2000年代、Napsterとかファイル共有で売上は一気に崩壊。

 

それを救ったのがストリーミングで、2025年の世界音楽市場は317億ドル、サブスク会員は8億3,700万人。

11年連続で成長している、一応、健全な産業になっています。

 

ただし、ここで見落とされがちなポイントがひとつ。

1人のファンが1年間で音楽に落とす金額は、サブスク会費(せいぜい1.2万円)では済まなくなっているのです。

 

ライブチケット、グッズ、写真集、ファンクラブ、デジタル特典、VIPパス、食事付き撮影会。

いわゆる"スーパーファン"1人が落とす金額は、普通のリスナーの50〜100倍。

 

この事実に最初に本気で気づいたのが、韓国の皆さんかもしれません。だからHYBEはWeverseを作って、月間1,120万人のファンを囲い込んで、DM機能だけで売上の10%以上を叩き出すところまで育てました。

 

もはや音楽産業は、音楽を売っていない。

ファンの「継続的な帰属意識」を売っている、というのが正確な姿なんですよね。

 

「作り手が見えない」という、新しい恐怖

ところが、ですね。

 

2025年に業界の前提を根底から揺さぶる事件が起きます。

Netflix × Sony Pictures Animation『KPop Demon Hunters』の大ヒットです。

  • Netflix英語作品史上最高、5億2,000万再生
  • サウンドトラックはBillboard Hot 100で4曲同時トップ10
  • 主題歌「Golden」はK-POP楽曲初のグラミー
  • 2026年アカデミー賞で長編アニメ賞と主題歌賞を2冠 🏆

衝撃的だったのは主役のHUNTR/Xも、敵役のSaja Boysも、実在しないこと。

 

K-POP業界が7年かけてトレーニングし、恋愛禁止にして、緻密に人格管理して、時に「奴隷契約」と揶揄されながら積み上げてきた「アイドル育成の労働集約モデル」。

 

それをですね、アニメーションがひょいっと迂回してしまった。

 

しかも作ったのはSony Pictures、配信したのはNetflix。

韓国の大手事務所は、どこも関わっていないという…。

 

ここで日本マーケットに思いをいたすと、実はまったく同じ構造を2007年からやってきたことに気づきます。

 

そう、初音ミクです🎤

 

「顔のない歌い手」で世界的ヒットを量産するIP設計は、KPop Demon Hunters以前に、日本ではボカロ文化として18年間続いてきたわけで。

 

K-POP4大事務所が"敵同士の合弁"を組んだ理由

そういう背景があって、です。

2026年4月、普段はバチバチにライバル関係にあるHYBE、SM、JYP、YGの4社が、突然「Phanomenon」という合弁会社を作るという、ちょっと信じられない決断をしました。

 

コーチェラ超えを目指すそうですが、背景を読むと、こういうことなんじゃないかと。

 

「このままだと、K-POPブランドそのものがNetflixやSonyに、あるいは眼中になかった日本のボカロ的手法に奪われる」

この警戒感が、4社を"呉越同舟"に追い込んだ、というのが私の見立てです。

 

で、日本は勝っているのか、負けているのか

さて、日本は、この流れに乗れているのか?

 

答えは「半分はYes、半分はNo」です。

 

まずYesの側から。

米津玄師の2025年ワールドツアー「JUNK」は、国内35万人+海外9万人=計44万人を動員。

主題歌「IRIS OUT」はBillboard Global 200で日本語楽曲史上最高の5位。

 

ここで興味深いのは、米津さんが「ハチ」名義でボカロPとして出発して、今も表舞台にあまり顔を出さないこと。

 

AdoもYOASOBIも、素顔をほとんど見せない。

誰もルックスをウリにしていない(というか、できない?🙇‍♀️)。

 

つまり日本は、音楽においても「顔のないアーティスト経済」を、世界で最も洗練された形で運用している国なのです。

さすが、VTuberの母国。

 

ではNoの側は何か。

致命的な弱点が、ひとつある。

日本は、金融的にファンダムを束ねる基盤を持っていないのです。

  • K-POP → Weverse
  • 米国 → Ticketmaster / Live Nation
  • フランス → Deezer

という具合に、世界には国家レベルの音楽プラットフォームがある。

 

一方、日本は?

LINE MUSIC?ぴあ?楽天ミュージック?

どれも、世界で戦える規模ではないです。

 

2026年2月にアソビシステムが「アソビダス」で「推し活AX事業」に踏み込んだのは、まさにこの致命的空白を埋める試み。

 

ソニー×ユニバーサル合弁のNINE BY NINEなども、Phanomenonに対する日本側の打ち手として位置づけられそうです。

 

おわりに

2026年のエンタメ産業は、「ファン1人の支払い意欲の上積み分を、誰が、どうやってゲットできるか」という、金融工学に近い戦場に突入してきました。

 

美しい歌は、もはや前提条件にすぎない。

勝負は、その先で決まります。

 

考えてみれば、エンタメ産業は歴史的にずっと、アーティストの自由な表現活動を"えげつない資本家"が支える構図でした。

 

それがいよいよ極まってきている、という見方もできるかもしれません。

 

そして、顔がないどころか、フィジカルな存在ですらないAIが、この構図をどう変えていくのか…。

 

ここから先は、しばらく目が離せない展開が続きそうです👀

 

日本の漫画は、もう単なる出版物ではありません。数兆円規模を稼ぎ出す、グローバルIPエコシステムの中核。その頂点に半世紀以上居座り続けているのが、集英社の「ジャンプ」です。

 

そこへ今、生成AIを武器にしたテック企業が、虎視眈々と参入の機会を狙っている。

 

ジャンプの強さを「編集者の勘」で片づけてしまうと、たぶん本質を見誤ります。現場を歩いてきた人間として、少し数字で解剖してみたいと思います。


数字が語る、王者の底力

2025年8月発表の集英社・第84期決算。売上高は前期比12.2%増の2,292億円。コスト上昇で純利益は194億円とわずかに減りましたが、トップラインの勢いは圧倒的です。

 

面白いのは中身。出版の比率は年々下がり、利益を牽引しているのはアニメ化・ゲーム化といった「ライセンス事業」。ライセンス収入は2025年度見込みで739億円に達し、2021年度比でなんと32%増。

 

紙とインクの世界から、限界費用がほぼゼロのIP運用ビジネスへ──重心の移動が、もう完了しているのです。

 

さらに自社アプリ「MANGA Plus」で、多言語同時配信を自前で回している。海外出版社へのライセンスアウトに頼らず、世界中の読者データを直接握る。IP展開の燃料を自分で汲み上げているわけで、これは、ちょっとやそっとでは真似できない構造です。


ウェブトゥーンは「最終進化形」ではない

スマホ時代の象徴として語られる、ウェブトゥーン(縦スクロール・フルカラー漫画)。

 

「日本のコマ割り漫画はいずれ駆逐される」──そんな言説をよく見かけますが、正直、違和感があります。

 

理由はシンプルで、1話あたり50万〜100万円という制作コストが重すぎる。アルゴリズムが短期の課金率に最適化されすぎた結果、「転生もの」ばかりが量産され、読者の飽きがもう見え始めています。

 

「なら、AIで作画や着彩を自動化すれば勝てる」──と考えるのも早計です。

 

本場の韓国では今、読者によるAI作品への強烈な拒否反応が起きていて、2026年からはAI生成物へのラベル表示も義務化されました。

 

同事業を世界で手広く展開している知人によると、着色の一部にAIを使っただけで「手抜き作品」のレッテルを貼られ、ブランドが致命傷を負うリスクが懸念されるとのこと。この温度感は、いずれ日本にも波及するはずです。

 

結局のところ、ウェブトゥーンは「スマホに最適化されたフォーマットの一つ」に過ぎません。

 

白黒のコマ割りが持つ情報密度と読書リズムは、依然として世界最高峰レベルのユーザーインターフェース。ここは譲れない事実だと思います。


後続勢の勝ち筋は「別の土俵」にある

では、AI勢はどこで勝負をかけるのか。

 

ハッキリ言って、数十年かけて蓄積された文化的記憶と、トップクリエイターの狂気から生まれる物語の発明──ここはAIにはなかなか代替できません。

 

ジャンプの背中を真正面から追いかけても、勝てません。

 

持たざる者に勝機があるのは、「制作プロセスの作り変え」と「データの使いどころ」の2点。

 

AIを「クリエイターの代替」ではなく「能力を拡張するインフラ」として使うこと。これなら小規模チームでも、かつての数十倍の速度でプロトタイプを市場に投下できます。

 

そしてデータの役割は、「面白い作品をゼロから自動生成すること」ではありません。Netflixがやっているように、「どこに資本を集中させるか(投資判断)」と「誰に届けるか(マッチング)」を決めるために使うのです。


鍵は「完走率」にあり!

ここで注目したいのが、「完走率」という指標です。

 

Web閲覧ユーザーのリピート率は、わずか18%。8割以上の読者は、一度きりで去っていきます。だからPV(ページビュー)を追いかけても、本当の熱量は見えない。

 

そこで、「最後まで読み切ったか」という深い関与度を測る。完走率の高い“熱量のタネ”を早期に見つけ出し、そこに人間のプロと資本を集中投下する。

 

私自身、これまでの、新規IP立ち上げやゲームプロデュースの現場で、「ヒットの不確実性」というジレンマに何度も向き合ってきました。

 

数億〜数十億円をつぎ込んだ大作が、市場のニーズからわずかにズレていただけで回収不能になる──そんな光景を、嫌というほど見てきたわけです。と言いますが、そんな日常でした(笑)

 

だからこそ思います。「当てにいく」のではなく、「当てるための照準器を作る」。この発想の転換こそが、看板や資本力で劣る後続勢に残された、最もリアルな勝ち筋なのではないか、と。


まとめ──王者の背中を追わない勇気

王者の背中を、真正面から追いかける必要はありません。

 

AIを拡張インフラとして使い、制作の限界費用を下げる。完走率という「長く愛される資産」を見極めるデータ基盤を持つ。あるいは、読者が物語に参加できるインタラクティブな新フォーマットで、別の土俵を作る。

 

独自のIP経済圏を築くこと。

これが、数年後に業界の勢力図を塗り替えるための、現実的なシナリオだと私は考えています。

 

ジャンプという巨艦を遠くから眺めているだけでは、戦は始まりません。別の海路を見つけること。それが、次の時代を作る人の仕事です。




こちらでは、経営者向けにかなり詳細に考察しております!よろしければ、是非!👇
 

AI・データドリブン企業はいかにして巨大IPの牙城に挑むか 〜 王者「ジャンプ」の構造分析から導く、チャレンジャーの競争戦略(CEOブログ)

「これ、AIが作ったの?」

 

最近、この質問が本当に増えました。SNSで流れてくる美女の写真を見ても、整いすぎてると「どうせAIでしょ」とスルーしてしまう。実際、北川景子さんや佐々木希さんレベルの方がいたとしても、うっかり見逃していそうで怖い(笑)。

 

コミック、アニメ、実写っぽいのに誰も出演していない動画。数年前に居酒屋で笑いながら話していたことが、もう現実になっています。

 

 


「人間だもの」は、免罪符にならない時代へ

 

AIのコンテンツに「パクリだ」「創造性がない」という声は根強いですよね。気持ちはわかります。

 

でも少し立ち止まると。

 

音楽の世界では、人間が思いつくメロディーはほぼ出尽くしていると言われて久しい。ファッション業界も、20〜30年ごとに賢い商売人が過去のアーカイブを「新しいトレンド」として売ってきた。それを何度も繰り返してきた現実は、業界の人間はみんな知っている。

 

イノベーションの父・シュンペーターも「創造とは新結合だ」と言っています。

 

つまり「創造的な仕事」って、完全なるゼロイチじゃなくて、「過去ネタの組み合わせに斬新な角度を見つけること」だったんじゃないか。

 

そう考えると、膨大なデータを学習して新たなパターンを出力するAIと、人間の創作プロセスとの間に、全否定できるほどの断絶があるとは……正直、言いにくいですよね。

 

 


AIの武器は「量と速さ」。マーケティングが勝負を決める

 

AIが圧倒的に優れているのは、一定水準以上のコンテンツを、人間には不可能な速度と量で出してくること。

 

だからこれからは、一部のプロデューサーの「俺の直感」に数千万をベットする博打から、科学的なポートフォリオマネジメントへの移行が必要です。

 

AIでたたき台を100パターン生成して、A/B/C/D……と高速で検証。データで「どこにリソースを集中すべきか」を判断する。

 

そしてもうひとつ、重要なことがあります。

 

AI時代は、コンテンツそのものの価値以上に、マーケティングの優劣が占める比重がさらに大きくなっています。

 

なぜか。「そこそこ良いコンテンツ」を作ること自体のハードルが、AIで一気に下がったから。

 

みんなが70〜80点のものを出せるようになると、残るのは「誰に、どのタイミングで、どう届けるか」の差だけ。ここを前提に置かないと、良いものを作っても誰にも届かない。

 


「完成品」より「プロセス」が資産になる

 

AIの大量生成が当たり前になると、完成品の価値が相対的に下がります。コピーされ、模倣される。クオリティだけで差をつけることは、どんどん難しくなっていく。

 

では価値はどこへ移るか。プロセス(制作過程)です。

 

『Nizi Project』や『PRODUCE 101』があれだけ人気なのも、完成品より成長の過程を共有するから人が推したくなるわけで。

 

ボツになったラフ画や、プロデューサーが揉めている会議をそのままYouTubeライブで流してしまう。それが最強のマーケティングになる時代です。

 


天然うなぎとホールフーズの話

 

少し遠回りですが、これが本質に近い。

 

養殖に対する天然うなぎ。ホールフーズ・マーケットのオーガニック食品。絶対的に「おいしい」かどうかは別の話で、そこに高い価値を見出して高い対価を払う人たちが確実にいる。そのマーケットはちゃんと成立している。

 

コンテンツも同じ構造になっていくと思います。「これは人間が作った」という事実が、ひとつの強いブランドになっていく。

 

AI生成が増えれば増えるほど、人間制作の希少性と価値は上がっていく。天然うなぎが養殖の普及とともに値上がりするように。

 

対立じゃなく、共存。それが自然な落としどころです。

 


結局、「冷たい検証」と「熱い熱狂」のハイブリッド

 

AIで冷徹に大量検証して、市場の答えを導き出す。選ばれた「器」に、コピーできないプロセスとWhyを嵌め込んで、ファンが自己表現として参加できるコミュニティを育てる。

 

TikTokでバズっても放置しない。DiscordやLINEへ誘導する動線を早めに設計する。100体テストしたら、勝ち残った1〜2体に全集中。

 

極端なデジタル(検証)と極端なアナログ(熱狂)のハイブリッド。これが、完成品が溢れかえる時代を生き抜く道だと思っています。

 

少なくともしばらくは、人間のクリエイターは、AIには作り難い魅力的なコンテンツを作り得ると思います。

 

ただし、その価値基準は今とは異なり、AIが作りたがらない斬新さや凡庸さが評価軸になっているのではないでしょうか。

 

人とAIで堂々巡りしていくことになろうかと思いますが、その斬新さの追求がプラス作用し、未来人なのか誰目線かは分かりませんが(笑)、コンテンツの普遍的クオリティ向上に寄与することを期待します。

過日、ゼンショーホールディングス創業者の小川賢太郎さんが逝去されました。一代で日本最大の巨大な外食企業を築き上げられたその事実と功績に対し、まずは心より哀悼の意を表します。

 

昨今、界隈のタイムラインでは「スタートアップはもうオワコン」「いや、オワコンはVCのほうだ」といった議論が頻繁に交わされています。

 

しかし、顧客の心理を直接つかみ、日々のシビアな人間管理や数字管理を徹底しなければ即座に淘汰される、まさに生馬の目を抜くようなサバイバルが繰り広げられている飲食業界において、功なり名を遂げた創業社長たちの生き様と比べると、現在のそうした議論は何とも青っぽい気がしてなりません。

 

人間の基本的な欲求である食に直結する現場で、確固たる事業を築き上げた外食創業者たち。彼らの過去の行動履歴を紐解くと、スマートなプレゼン資料や洗練された資金調達といったものとは無縁の、現場での決断と具体的な行動の蓄積だけが見えてきます。

 

今回は、彼らが現場で具体的に何をやったのか。外食創業者3名のエピソードを事実ベースでお伝えします。

 


1. 小川賢太郎さん(ゼンショー・すき家):港湾労働から導き出した「カロリーの供給」

 

小川賢太郎さんの起業の文脈は、現在のIT系スタートアップとは大きく異なります。

 

 

東京大学に入学するも、学生運動に参加して中退されます。その後、労働運動の実践として小川さんが選んだのは、港湾荷役の過酷な肉体労働でした。

 

そこで彼が直視したのは、机上の議論ではなく、目の前で重い荷物を運び、疲労する労働者たちの姿です。「イデオロギーよりも、安くてカロリーの高い食事を供給すること」こそが彼らの生活を支えると判断し、外食産業への参入を決意します。

 

小川さんはすぐさま吉野家に入社しました。24時間体制の店舗シフトに入って自ら牛丼を提供し続け、チェーンオペレーションの仕組みを最前線で学習します。やがて吉野家が経営危機に陥り、倒産に至るプロセスを社内で経験しますが、そこでもチェーン店が破綻する構造を冷静に観測し続けました。

 

その後独立し、1982年に横浜の生麦という、まさに工場や港湾で働く人々が多く集まる街で「すき家」の1号店を開業します。

 

ゼンショー創業時に小川さんが掲げた「世界から飢餓と貧困を撲滅する」という理念は、事業の本質的な目的として設定されています。ファミリーレストランの「ココス」、うどんの「なか卯」、回転寿司の「はま寿司」などを次々と買収し、多業態を展開していきました。「目的が定まれば、経路は論理的に決定される」という言葉の通り、巨大な自社工場と物流網を構築していく姿は、資本主義の仕組みを利用して食のインフラを創り上げようとする事実行動そのものです。

 

2. 正垣泰彦さん(サイゼリヤ):全焼からの再起と、包丁をなくす決断

サイゼリヤを創業した正垣泰彦さんの起点は、すべての資産を失う状態からの再スタートでした。

 

 

東京理科大学に在学中、千葉県市川市で洋食店を開業します。しかしある日、店内で酔った客同士のトラブルが発生し、ストーブが倒れて店舗が全焼してしまいます。店舗の設備をすべて失った後、どうにか店を再建して営業を再開しますが、客はまったく来ませんでした。

 

ここで正垣さんは、自分自身の調理技術や店舗の立地を言い訳にせず、冷徹に状況を観測します。「客が来ないのは、単に提供価格が高いからだ」と結論づけました。

 

そして、メニューをイタリア料理一本に絞り込み、全メニューの価格を当時の相場の7割引きにするという極端な価格改定を実行します。スパゲッティが150円から200円程度になる計算です。

 

その結果、店舗には連日大行列ができるようになりました。しかし、この低単価で客数をさばき、利益を出し続けることは通常では不可能です。

 

これを成立させるため、正垣さんは店舗から包丁をなくす決断を下します。自社農場を開拓して食材を確保し、自社の工場で野菜のカットなどの下処理を完全に済ませてしまいます。

 

店舗のキッチンでは最終的な加熱と盛り付けだけを行うシステムを構築しました。全焼した店舗の跡地から、徹底的に数値化されたチェーンオペレーションが誕生したのです。

 

3. 宗次徳二さん(CoCo壱番屋):毎日1000枚のハガキを読むルーティン

CoCo壱番屋の創業者である宗次徳二さんは、幼少期に極端に貧しい生活を送り、雑草を食べて飢えをしのぐような生活を経験されています。

 

 

不動産仲介業を経て妻と開いた喫茶店で、奥さんが提供していたカレーが客に支持されたことが、カレー専門店へ舵を切る原点となりました。

 

宗次さんの経営スタイルには、複雑な戦略や特別なマーケティング手法は見当たりません。あるのは徹底した反復行動です。

 

カレーチェーンとして全国展開を果たし、店舗数が拡大してからも、宗次さんの日常のルーティンは変わりませんでした。

 

毎朝3時55分に起床し、誰よりも早く出社します。そして、全国の店舗から毎日段ボールで届く1000枚以上のお客様アンケート葉書を、数時間かけて1枚残らず自ら読み込みました。

 

単に読むだけではありません。アンケートに「カレーがぬるかった」と書かれていれば、即座に該当の店舗へ電話を入れて店長を指導します。「店の周辺にゴミが落ちていた」という指摘があれば、直ちに清掃を徹底させました。宗次さん自身も、毎日店舗の周辺をホウキで清掃し続けています。

 

経営側の都合や中間管理職の報告を挟まず、顧客からの直接の声を絶対的な基準として、現場の改善をその日のうちに実行する。その日々の行動量の蓄積だけで、日本最大規模のカレーチェーンを築き上げました。

 


まとめにかえて

私自身、フジテレビ時代に海外で大型イベントをプロデュースしていた際、企画書上の進行プランが現場のトラブルで全く機能しなくなる事態を何度も経験しました。その際に結果を分けるのは、現場の状況を即座に観測し、進行プランを更新して実行し続けることだけです。

外食産業のトップたちは、現場の事実のみを見て、圧倒的な行動量で事業を形にしています。

昨今のスタートアップ界隈における議論も重要かもしれませんが、スマートな計画を作る時間があるなら、まずは現場に出て顧客の動向を直接確認する。そして、今日やるべき業務の改善を即座に実行する。彼らの残した具体的な行動の記録は、現在のあらゆるビジネスにおいて、最も確実な事業成長の原則を示しています。