テスト開始の合図が会場中に響き、就職活動生たちは一斉に問題用紙に取り組み始めた。
今泉はその熱気に怖気つきながらも、なんとか問題を解こうとした。
問1、異性とパスタを食べるときにどうすれば良いか、以下の選択肢から選びなさい。
【1】相手より速いスピードで食べる
【2】相手よりゆっくりとしたスピードで食べる
【3】相手の速度に合わせて食べる
【4】パスタを投げ捨てる
だめだ…。全然分らない。まさか一問目からこんな難問が出るなんて…。
今泉は頭を抱えた。そもそも何年か前までは『恋愛』なんて科目は就職活動に必要なかったのに…。それが、恋愛能力は仕事能力に比例することを、藤堂新三郎教授が発見してしまったばかりに、こんなことになってしまったのだった。
いまや全ての企業が就職活動試験に恋愛検定を導入している。 このテストで合格点を取れなければ、その場で足切りされるのである。
結局、今泉のテストの出来は散々だった。
――今年も就職浪人か…。
今泉はもう二年も就職活動に失敗していた。SPIや小論文や面接などはうまくいくのに、どうしても『恋愛』科目だけは合格できない。
「なんて不公平な世の中なんだ。恋愛格差社会じゃないか。恋愛できる人は生まれつきモテて良い思いをしているのに、さらに良い会社にも入れるなんて!モテない人は就職もできずに辛い思いをしなければならないなんて!」
あまりに悔しくて大声で叫ぶと、急に今泉の後ろに人が現れた。
「パスタは相手の速度に合わせて食べればいいんだよ」
「え!あなたは誰ですか?」
今泉は驚きながら訊ねた。
「私は恋愛コンサルタントの坂内実だ。君の悔しさはよく分かった。今から一年以内に君を恋愛エキスパートにしてみせよう」
「そんなことができるんですか!?」
「ああ、私が完璧なカリキュラムで君に恋愛について叩き込む。恋愛スキルは後天的に学べるものがほとんどだからな。まずは今から街に歩いているカップルを観察しに行くぞ。カップルの喋り方、デートコース、服装などいろいろ盗んでいくんだ。さあ、時間はない!出発だ!」
「はい!」
今泉はこの人に付いていくと誓った。
それから一年間血のにじむような訓練をして、今泉はどんどん恋愛の実力をつけていった。
そして一年後、今泉は誰もが憧れる最難関の会社の試験を受けたが、スラスラ問題が解けて、最終面接まで進んだ。
今泉以外にも二人が、最終面接に残ったようだった。
社長自ら、彼ら三人の面接をした。
「君たち三人は、満点を取り最終面接まで進んでいる。さすがにあのテストで満点を取る者が三人も出るとはこちらも予想していなかったので驚いたよ。さて、君たちはなぜ満点が取れたと思うかね?」
「はい、私は毎日十三時間、起きている間はずっと恋愛について研究してきました。その努力が結ばれたのだと思います」
今泉の右隣の人はこう答えた。
「努力か。では君は?」
「私は、今までの試験でどんな問題が出るかを徹底的に研究し、戦略を立てて試験に臨みました」
今泉の左隣の人はこう答えた。
「戦略か。では君は?」
そして、今泉が指された。
「私が満点を取れたのは、自分の力ではないと思っています。指導してくれた先生、応援してくれた家族、また今まで恋愛のことを知らずに迷惑をかけてしまっていた女性たち、アドバイスをくれた男友達、みんなのおかげでここまで来ることができました。ありがとうございます」
今泉は思わず涙ぐんでいた。
「はっはっは。君だ!君だけを合格とする!愛の到達点である感謝の心をマスターしているのは君だけだからな!」
こうして今泉は第一志望の会社に合格し、素敵な女性と出会い、幸せに暮らしたのだった。
(おしまい)