『百歳の名探偵』 ~創作ショートショート~ | 最強の作家への飛翔

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『百歳の名探偵』 




「は、は、犯人は、こ、この中にいるんじゃああ!」
 名探偵、藤堂新三郎のかすれた声は、屋敷の応接間にかろうじて響き渡った。
 藤堂探偵はそこで一回バランスを崩して倒れそうになったが、なんとか杖を使って転ばずにすんだ。


「犯人がこの中にいるですって?でも誰がどうやって父を殺したっていうんですか?だって、あの部屋は鍵がかかっていて密室だったわけでしょ。僕らには犯行は不可能だ。それに鍵がかかっていて部屋が開かなかったのを確かめたのは、あなたじゃないですか!藤堂探偵!」
 この屋敷の長男の菊千代が大声で叫んだ。
 菊千代は人前で顔を見せるのが恥ずかしいという理由で、常に覆面をかぶっている。


「あっはっは。あの密室のトリックは解けたわい、ゲホッ、ゲホッ」

 藤堂探偵は咳き込みながら得意げに笑った。
「密室のトリックが解けたんですか!さすが数々の事件を解決なさってきた藤堂探偵。そこら辺の若造の探偵とは頭の出来が違うってわけね」
 双子の美人姉妹の姉のほうが合いの手を入れた。
 美人姉妹の妹のほうは、さっきからブルブルと部屋の隅で震えて黙っている。


「あれは心理トリックだったんじゃ!」
 藤堂探偵が杖を振りかざしながら言った。
「シ、心理トリックデスッテー!」
 オーストラリアからホームステイでこの屋敷にやってきているゴンザレスが驚きの声を上げた。


「ワシは何度押しても開かない扉に、てっきり内側から鍵がかかっていると思ったんじゃ。だが、実はあれは押し戸ではなく引き戸だったんじゃ。百戦錬磨のワシも、錯覚を突かれてまんまと騙されてしまったわい。それでワシは鍵がかかっていると犯人に思い込まされ、斧を使って扉を叩き割ったんじゃ」
 藤堂探偵は、急に痛み始めた腰をさすりながら言った。


「だとしたら、犯行は誰にでも可能だったということになりますね。私たちの中の誰が主人を殺したかは分からないのではないですか?」
 この屋敷で唯一左利きの若奥様が藤堂探偵に問い質した。


「そう、つまり誰にでも今回の犯行は可能だったというわけじゃ。ただ、ワシは犯人を特定する重要な手がかりを見つけてしまったんじゃ。犯人はたった一つだけミスを犯したんじゃ。並の探偵は騙せても、ベテランのワシの目はごまかせんわい!」
 藤堂探偵の発言を聞いて、応接間に集められた誰もが驚いた顔をした。
 部屋には、緊迫した空気が流れ始めた。
「犯人は!」
 そう言ったあと、藤堂探偵は急に頭をかきむしり始めた。


「あ、さっきまで覚えていたのに。アレがああして、こうしてああなって、アイツがアレで、あ、あ、ああ、ここまで出かかっているのに。ああ、ああ。どうやら、手がかりも犯人もど忘れしてしもうたようじゃ」 

 そのとき、部屋中の電気が真っ暗になった。
「こんなときに停電か!なんじゃ、なにがあったんじゃああ!」
 藤堂探偵が叫んだ。
「これも犯人の仕業か!無駄な抵抗は止めて、さっさと自首するんじゃああ!」
 藤堂探偵が暗闇の中で必死に声を枯らしていたそのとき、たくさんろうそくがささったケーキを持って、この屋敷の主人が現われた。


「おぬし、死んだはずじゃ!」
 藤堂探偵がこの日一番驚愕した声で叫んだ。
「あれは死んだ振りをしただけですよ。そうです、この事件はサプライズパーティだったんですよ。藤堂探偵への挑戦状として、みんなで仕組んだ事件だったんです。藤堂探偵、百一歳の誕生日、おめでとうございます」
 屋敷の主人がニッコリ笑って言うと、部屋にいたみんなからの拍手が鳴り響いた。


「誕生日じゃと?すっかり忘れていたわい。こりゃあワシとしたことが、一杯食わされたわ!今までの人生で、初めて気付けなかったトリックじゃわい」
 藤堂探偵はフーッとケーキのろうそくに息を吹きかけたが、息の強さが弱いためか、ろうそくの火はほとんど消えなかった。


 (了)