『Fカップの悲劇』~第三話~「矛盾だらけの推理」 | 最強の作家への飛翔

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この前、店で時価の料理を注文して、味はおいしかったのですが値段がいくらなのか気になって、会計までずっと生まれたての小鹿のように震えてましたね…叫び
店員さんも「いやあ、これは高いですよー」とか脅してきたんですよね…ガーン


先日からアップを始めたミステリー小説の、本日は第三話になります合格



●登場人物紹介


今泉…大学二年生。作家志望。


藤堂…大学二年生。バドミントン部所属。こんがりと日焼け。


松川…大学二年生。分厚いメガネをかけている。実家はお茶屋の名店。


日出間…大学一年生。萎びた体だが端正な顔立ち。今回の事件の相談者。


桜子(さくらこ)…店を一人で切り盛りするマスター。ピンク色の長いサラサラの髪と、ぱっちりした瞳と、透き通るような白い肌をもつ美人だが、胸が小さいのを気にしている。




【前回までのあらすじ】
「一目惚れした女性が目の前で消失してしまった!」
 日出間の相談はそんな不思議な内容だっ

 今泉、藤堂、松川の三人は月に一回この店でゲストが身の廻りに起こった不思議な話をきく、白後家蜘蛛の会を楽しみにしているが、今回の相談はいつにも増して謎に包まれている。

 日出間のいたカフェのトイレを出るときにはトイレ用の通路を出たあと、絶対に日出間の前を通らないといけない。そして、日出間の一目惚れしたFさんがトイレに入ってからトイレから出てきたのは、女性が一人、ベビーカーを押した女性が一人、ハットをかぶった男性が一人、の合計三人。
 そしていよいよ、白後家蜘蛛の会のメンバーの推理が始まろうとしている…。




第一話はコチラ→「無駄話のあとに、事件は始まる」


第二話はコチラ→「一人の女性が目の前で消失する」

  




「Fカップの悲劇」




第三話 「矛盾だらけの推理」





俺たちはいつだって固定観念にとらわれているんだ」
 と藤堂はきっぱりと言った。
「つまり、変装といえば女性から女性にだけとは限らない。男性も一人出てきたんだよね。その男性こそFさんだったんだ。Fさんは男性に変装していたのさ。その男性はハットをかぶっていたんだよね?顔はそれほどよく見えなかったはずだ。Fさんはトイレで男性の服装に変装して、ハットで顔を隠して日出間君の前を通り過ぎたんだ」
 藤堂が熱を込めて言った。
「うーん…」
 藤堂の推理を聞いて、日出間が困った顔をした。
「その男性はかなり背が高かったので、Fさんとは身長がまったく違いました。絶対にFさんの変装なんかじゃないですよ。それに、ハットはそれほど不自然に深くかぶっていたわけではないので、顔も見えましたし」
 日出間が残念そうにつぶやく。


「分かりました。これは手品師がコインを消すトリックで使う方法ではないでしょうかか」
 松川が言う。
「手のひらからコインを消すという手品は大体の場合、手のひらにそもそもコインが入っていないんです。入れたと見せかけてじつはコインはもともと手のひらに入っていないのを消したと見せかけているんです。今回も同じなのではないでしょうか?」
 松川が話を続ける。
 
「Fさんはトイレから脱出したのではなく、そもそもトイレに入っていないのではないでしょうか。日出間君はトイレから人が出るところはじっくり見ていたかもしれないですけど、入るところをちゃんと見ていましたか?ギリギリで目を離して、最後までFさんがトイレに続く通路に入ったところを見ていなかったのではないですか?」
「いや、間違いなく入ってましたよ」
 日出間が即答して松川は
「あ、そうでしたか」
 とショックを隠せない声でつぶやいた。


 藤堂と松川がともに途方に暮れた顔をしていたそのとき、今泉が話し始めた。
「フフフ、俺は完璧に分ったよ。きみたちの直滑降のような推理は俺の祖母の家にいつも常備してあった黒砂糖のように甘すぎる。もっと頭を使わないとね」
 今泉は咳ばらいをしてから続けた。
「日出間君、君に一つ質問がある。女性が押していたベビーカーには確かに赤ちゃんが乗っていたんだろうね?それを君はちゃんと見たのかい?」
 今泉の発言を聞いて、一瞬一同が静まり返った。
「いえ、それが実は、ベビーカーの屋根がしまっていて、中は見えなくなっていました。おそらく赤ちゃんが寝ているだろうと思っていたのですが。そんなことが何か今回の事件に関係があるのですか?」
 日出間が尋ねた。
「大いに関係あるとも。いいかい?」
 今泉はここでゆっくりと全員を見回した。
「つまり、君の天使のFさんは、ベビーカーの中に隠れて君の前を通り過ぎたんだ。それしかありえない」


「ベビーカーに大人の女性が入れると本気で言ってるんですか??」
 松川が声を荒げた。
「体を縮めてうずくまれば何とかなるかもしれない。うん、きっと無理ではないよ」
 松川の指摘に、今泉は反論した。
「大人の女性がベビーカーの中に入れるかどうかも難しいと思うが、もし仮にそれができたとして、ベビーカーの中にいた赤ちゃんはどこにいったんだ?Fさんと赤ちゃんの二人はさすがにベビーカーには入れないだろう」
 藤堂がすかさず突っ込む。
「そんなの簡単さ。ベビーカーの中には赤ちゃんなんて最初からいなかったんだ」
「なんだと?じゃあベビーカーを押していた女性は、なんのために赤ちゃんが入っていない空のベビーカーを押していたんだ?」
 藤堂が不思議そうに尋ねる。


「そこまでは俺には分らないよ。保育園に赤ちゃんを迎えに行く途中とか、たまたまじゃないかな。つまりこういうことだ。Fさんはトイレへ続く通路に行くときに、日出間君がいることに気付いた。そのときたままたま空のベビーカーを押した女性がトイレにやってきた。事情を話して、Fさんはベビーカーに隠してもらった」
「ちょっと待ってくれ。なぜFさんは隠れなければならないんだ?自分でも男性に変装するなんて推理をしておいてなんだが、そもそもなぜそんなことをする必要があるんだ?日出間君とFさんは一言も話してすらいなんだぞ?彼女はベビーカーに隠れるなんてことをしてまで、日出間君を避ける必要がどこにある?」
 藤堂が大声で言う。


「だからそこまでは俺には分らないよ。ただ仮説としては、こうは考えられないか?トイレに入るときに日出間君に見られていたことにFさんは気付いていた。彼女はこのままトイレから出たら、待ち伏せされて言い寄られてしまうことに直感的に気付いた。モテる女性は男にナンパされることに懲りているからね。だから彼女はたまたまトイレから出てきたときに出会った女性に協力してもらい、ベビーカーに隠してもらったんだ。きっと日出間君が怖い顔をしてFさんを見つめていたんだろう」
 今泉は必死になって言った。
「そんなこと僕はしていないはずです」
 日出間がとっさに反応する。
「まあまあ、理由はこの際置いておこう。何らかの理由でFさんはそのトイレから脱出する必要があったんだろう。これで論理的には矛盾せずに脱出できる」
 今泉が冷静さを取り戻すように落ち着いて言った。


「その推理には、やはり大きな矛盾がある」
 藤堂がゆっくりと間を置いたあとに言った。
「なんだと?何があるっていうんだ?」
「日出間君がそのカフェにいたのはたまたまだな」
「そうだね」
「今泉、つまり君の推理はこういうことになる。彼女はたまたまそのカフェでトイレに行ったら、たまたま日出間君に見られていて何らかの理由で声をかけられたくないためにトイレの廊下で待っていたら、たまたまベビーカーを押して来た女性が来たので声をかけて、たまたまそのベビーカーには赤ちゃんが乗っていなかったので、事情を話して女性に頼んだらたまたまオーケーしてもらったのでベビーカーに隠れてその場を脱出した。どれだけたまたまが続いたと思っているんだ。そんな偶然はありえると思うかい?」
「確かにそれだけの偶然が重なる可能性は低い。でもゼロではない。それしか方法が考えられないなら、そう考えるしかないじゃないか!!」
 今泉が吠えるように言った。
 すると日出間が困惑した声で、
「あのベビーカーに大人が隠れるのはやっぱり難しいですよ。大人が乗った状態でベビーカーを押せばやはり不自然になってしまうのではないでしょうか?そんな感じはなかったですし」
 日出間が今泉の推理にとどめを刺した。
「ふりだしに戻りましたね…」
 松川は両手で頭を抱えた。


 もうこれしか考えられないな、と藤堂はじっとお酒の入ったグラスを見つめながら言った。
「日出間君は夢を見ていたんだよ。Fさんなんて最初から君の前を通ってトイレに行っていなかったんだ。交差点で声をかけられなかったことを後悔していた君の、もう一度会いたいという願望が生んだ幻想だ」
「違う!僕は確かにカフェでもFさんを見た!見間違えるはずがないんです!本当なんです!あの人にもう一回会いたい。なんで消えてしまったんだ。ひどすぎる」
 日出間は今にも泣きそうになっていた。


 場を沈黙が包んでいたときに、デザートを持ってきた桜子さんがカウンターに出てきた。
 桜子さんの顔の変化を見て、今泉と藤堂と松川の三人は驚いてしまった。桜子さんはなぜかチークを思いっきり描いてきたのだ。
「お待たせ、デザートだよ」
 今日のデザートはキャラメルソースがたっぷりかかったプリンといちごのクリーム添えだった。
 おいしそうなデザートだが、意気消沈していた彼らは手を付けるどころではなかった。


「仕方ない。桜子さんに訊くか」
 今泉が眉をひそめて悔しそうに言う。
「え?どういうことですか?」
 日出間が驚いた顔をした。
「日出間君には言ってなかったけど、今まで訪ねてきた相談者の謎は、全て桜子さんが解決しているんだよ。今回こそ僕らで事件を解きたかったんだけどね」
 そう言って今泉は桜子さんのほうを見る。
「桜子さん、話は聞こえてましたよね?」
「まあね。あんたたちのうるさい声は裏のキッチンまで良く聞こえてくるんだよ」
「それで、謎は解けましたか?」
 松川が尋ねる。
「一つだけ…」
 と桜子さんは吐息を少し漏らして言った。
「一つだけ、仮説が浮かんだわ」




(続く)