最近大事なことを考えながら歩いていたら、道端に100円が落ちていたので速攻で拾いました。
まったく集中して考えられていなかったようです…![]()
先日からアップし始めたミステリー小説の、今回は第二話です![]()
今回も尋常じゃなく長くなってしまいました…(原稿用紙換算11枚ぐらいです)![]()
●登場人物紹介
今泉…大学二年生。作家志望。
藤堂…大学二年生。バドミントン部所属。こんがりと日焼け。
松川…大学二年生。分厚いメガネをかけている。実家はお茶屋の名店。
日出間…大学一年生。萎びた体だが、端正な顔立ち。今回の事件の相談者。
桜子(さくらこ)…店を一人で切り盛りするマスター。ピンク色の長いサラサラの髪と、ぱっちりした瞳と、透き通るような白い肌をもつ美人。
【前回までのあらすじ】
不思議の国のアリスが迷い込まないと辿り着けないようなわかりづらい場所に、その店はある。
今泉、藤堂、松川の三人は月に一回この店でゲストから身の廻りに起こった不思議な話を聞く、白後家蜘蛛(しろごけぐも)の会を楽しみにしている。
そして今回の相談者日出間が、好きになった女性が目の前で消えてしまったときのことを語り出したのだった…。
第一話はコチラ →「無駄話のあとに、事件は始まる」
『Fカップの悲劇』
第二話 「一人の女性が目の前で消失する」
「皆さんは一目惚れをしたことはありますか?」
日出間が急にそんなピュアな質問をしてきたので、三人のメンバーはきょとんとしてしまった。
「突然そんなことを言われてもなあ。俺はないけど、松川はどうだい?」
藤堂がうろたえながら言った。
「僕は性格を重視しているから、一目惚れはないですね」
松川が言った。
「そうだよ、松川なんて女性に求めることが多すぎるんだからね。なんだったけ?いろんな項目があったよね?」
今泉が口を挟んだ。
「僕が好きな女性は、自分がやりたいことと自分が苦手なことを正確に認識していて、親の誕生日には毎年プレゼントを買っていて、僕が悩んでいるときに『そんなことどうでもいいからスイーツバイキング行こっ!』と言ってくるぐらい明るくて、カレイとひらめを見分けられるくらい雑学にも精通している子が良いんですよ!」
「うん、松川に彼女ができるのはまだまだ先になりそうだよね。それでは日出間君、話を続けてくれ」
今泉が促した。
「それは大学から帰る夕方の時間でした。カフェでレポートを書こうとしていて、交差点で信号待ちをしているときに、向こう側に立っている女性に僕は生まれて初めて一目惚れをしてしまったんです。彼女を見て、胸の鼓動がどんどん速くなっていくのを感じました」
「交差点の向こう側にいる彼女の顔がしっかり見えたんだね。そんなに美人だったのかい?」
藤堂が尋ねる。
「顔もそうですけど…」
日出間が口ごもりながら言う。
「顔以外に彼女に惚れる理由が何かあったのですか?オシャレだったとかですか?」
松川が尋ねた。
「いえ、僕はファッションには無頓着で、彼女の服装はまったく覚えていないんです。それこそスカートを履いていたかズボンを履いていたかすら覚えていない状態です。語学クラスの仲の良い女の子の友達が、髪を切っても新しい服を着てきても、まったく気付かないのでよく怒られています」
「じゃあ、いったい何に惚れたんだい?」
藤堂が訊くと、
「いや、なんでもないんです」
と日出間が下を向いてしまった。
「日出間君。この白後家蜘蛛の会の趣旨はこの前説明したはずだよ。君がここで何を喋ろうと、それはここだけのことであって、絶対に外へは漏れない。だから質問にはできるだけ答えなければならい。これがこの会のルールだ」
藤堂が日出間を見つめながら言う。
「分りました。実は…」
日出間は顔を赤らめて、ためらいがちに言った。
「彼女は巨乳だったんです。そうですね、Fカップはあったと思います」
日出間の告白を聞いて、今泉は喜色満面の顔をして声を立てて笑った。
「日出間君、きみは清純そうな青年の顔をしながら俗っぽいところがあるんだね。いや、これは否定しているわけではない。むしろきみのそういう素直なところが気に入ったんだ!交差点の向こう側から胸のカップまで推測するなんてすごいじゃないか!」
「あ、そのFカップというのはもう少し彼女に近づいたときに見た感じですけどね。それで…」
そのとき、桜子さんが酒のおかわりを持ってきた。
「あんたたちねえ、昼間っから人の店でFカップがどうとか下ネタは勘弁してくれよ。上品な店なんだからさあ」
「桜子さん、この胸の大きさは事件の大事なファクターになるかもしれない。僕らは真剣なんですよ」
今泉が必死にフォローする。
「そういえば桜子さんって何カップなんですか?」
酔っぱらった勢いで今泉が訊くと、桜子さんは今泉のことをギロリと睨んだ。
「うるさい!どうせ私はぺチャパイだよ!」
モデルと言っても通用するほどの美人の桜子さんは、胸が小さいことを気にしていたのだった。
桜子さんが食べ終えた料理の皿を持ってキッチンに戻って行ったあと、日出間が話を続けた。
「しばらくして、信号が青になりました。信号待ちをしていた人たちが一斉に交差点を渡り始めます。僕と彼女も、交差点を歩き始めました。そしてちょうど交差点の真ん中で、彼女と僕はすれ違ったんです。僕はなんとか勇気を振り絞って彼女に声をかけようとしました。一緒にお茶でもどうですかって。人生で一度もそんなことをしたことはありませんが、運命の女神になんとしてでも声をかけないといけないと思ったんです。でも、僕にはできなかったんです。そのまますれ違って、彼女は行ってしまいました」
「まあ普通に考えたら、交差点のど真ん中でいきなり声をかけるのは難しいよね。仕方ないよ」
藤堂がうんうんとうなずきながら言う。
「僕は自分にとっての女神に話しかけられなかったことを悔やんでいました。そのままカフェに行きましたが、レポートはまったく捗らなかったんです。カフェに何時間もいることがよくあるのですが、その日も夜遅くまでカフェでレポートと格闘していました。そこで奇跡が起こったんです!夕方にすれ違った女神が、そのカフェに来たんです。僕がカフェで座って勉強していると、彼女が僕の目の前を通ってトイレに行ったんです」
日出間の声はだんだんと大きくなっていった。
「僕は今度こそ勇気を出して、彼女に声をかけることを誓いました。もう後悔したくなかったからです。トイレから出てくるときは、絶対に僕の席の前を通るはずなので、そのときに声をかけようと誓いました。彼女が僕の前を通ったあと、ずっとトイレを見ていました。
ここから登場人物が増えるので、彼女のことを分りやすくAさんと呼ぶようにします」
「AさんよりもFさんと呼んだほうが分かりやすいんじゃないの?」
今泉がニヤニヤしながら言う。
「確かにそうですね。では、Fさんと呼ぶことにします」
日出間が顔を赤らめながら言う。
「その店のトイレは個室のものが三つついていて、男子専用と女子専用と男女兼用のトイレがありました」
「三つもトイレがあるなんて良いカフェじゃないか」
今泉が口を挟んだ。
「はい、トイレに続く通路までは僕の座っていた席から見えるのですが、その通路の奥に三つのトイレの入り口があるという設計になっています」
「Fさんが入ったあとに、トイレに行った客は二人だけ。一人はハットをかぶった男性です。つぎに、ベビーカーを押した女性でした。しばらくしてFさんとは別の女性が一人トイレから出てきました。続けて、そのあとベビーカーを押した女性が一人と、ハットをかぶった男性が一人出てきました」
「そのあとかなり待っても、まだFさんはトイレから出てきませんでした。二十分近く経ってさすがにおかしい、と僕は心配になりました。Fさんはトイレで気持ちが悪くなって倒れてしまったのではないか、何か事件が起きてしまったのではないか、と不安になりました」
「僕は慌ててトイレを見に行きました。すると、外から見たドアの鍵の部分が青くなっていたので、トイレには三つとも鍵がかかっていなかったことが分かりました。念のため僕はノックをして、女性専用のトイレも男女兼用のトイレも男性専用トイレのドアも空けてみたんです。すると、全部空いていて中には誰もいませんでした。つまり、Fさんは消えてしまったんです」
「ちょっと待ってくれ、トイレには窓はついていないの?」
今泉がすかさず訊いた。
「はい、ついていませんので、トイレから出て通路に出れば、絶対に僕の前を通るはずです」
「本当にきみはずっと目を離さず見張っていたのかい?どこかでよそ見をしていたりボーっとしているときに、Fさんが通っていったのかもしれない」
藤堂が疑わしそうな顔をして訊く。
「そんなことはありません!僕はFさんが出てきたら話しかけるつもりで、ちゃんとずっと見ていました!」
日出間が必死に言い返した。
「なるほど、目の前で一人の女性が完璧に消失してしまったわけですね」
松川がそうつぶやいたあと、しばらく場に沈黙が続いた。
「話をまとめると、トイレを出るときにはトイレ用の通路を出たあと、絶対に日出間君の前を通らないといけない。そして、Fさんがトイレに入ってからトイレから出てきたのは、女性が一人、ベビーカーを押した女性が一人、ハットをかぶった男性が一人、の合計三人ということになるね」
藤堂が日出間に確認した。
「はい、そうです」
「女性が最初に一人出てきたんですよね。その女性がFさんが変装した人だったんじゃないでしょうか?つまりトイレの中で化粧をしていて、それで気づかなかったのではないでしょうか」
松川が質問する。
「それはないです。最初にトイレから出てきたのは、Fさんとはまったく違う女性でした。化粧とかの問題ではなく、似てすらいなかったです。その女性はFさんがトイレに行く前からトイレに入っていたのだと思います」
日出間は頑なに言った。
「ベビーカーを押した女性もFさんではなかったですか?入れ替わっている可能性はありませんか?」
「もちろん、Fさんではありませんでした」
日出間は力を込めてそう言った。
そのとき、藤堂がパンッと手を叩いた。
「分かった。俺にはこの謎が解けたよ」
藤堂がニヤリと笑いながら言った。
(続く)
