『Fカップの悲劇』~創作ミステリー小説~第一話 | 最強の作家への飛翔

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小説推理新人賞に落選した小説をブログにアップするということで、一年前に書いた小説をブログに貼り付ければいいだけなので、楽かと思いきやそうでもなかったです…あせる


ブログにアップする用に、かなり内容を削ったり変えたりして、なるべく短くまとめようと思ったのですが、どうしても長くなってしまいますね…ガーン


第一話の今回は、3200文字(原稿用紙換算10枚)ぐらいです。


ブログにあるまじき長さになってしまったのですが、頑張って最後まで読んでくれる人が何人かでもいれば、アップした甲斐はあったといえるでしょうニコニコ


ちなみに、以前書いた純愛100パーセントの小説『カフェモカ、お前もか』も、ブログにアップしてあるので良かったらどうぞ音譜



『カフェモカ、お前もか』はコチラへ





『Yの悲劇』の作者、エラリー・クイーンに、この小説を捧ぐ






『Fカップの悲劇』 



第一話 ~無駄話のあとに、事件は始まる~






「面白い作品が売れているわけじゃない。分かりやすい作品が売れているだけなんだ」
 店のカウンターに肘をつきながら、今泉がうんざりした様子でそう言った。
「どうした、またいつもの愚痴が始まったのか?」
 藤堂がグラスをゆっくりと回しながらひやかす。バドミントン部に所属している藤堂は、こんがりと日焼けしている。
「ベストセラーになった本なんて、潰れそうなカフェのアメリカンコーヒーみたいに薄っぺらいものばかりじゃないか!」
 今泉が、ふんと鼻を鳴らしながら言う。


「今泉、要するにきみはこの前賞に投稿した小説が落選したからってそれを根に持ってるわけですよね?失敗はちゃんと認めていかないと駄目ですよ。趣味で小説を書いているならまだしも、きみはプロの作家を目指しているんですよね?プロのクリエイターってのはお客様のためにサービスするのが当然じゃないですか。お客様が分かりやすいものを求めているなら、分かりやすくて面白い作品を書けば良いだけの話でしょう」
 松川が分厚いメガネの奥でぎろりと目を光らせた。
 松川は実家がお茶屋なので、商売についてはうるさい。松川は、今泉や藤堂と同学年で同じ歳だが、なぜかですます調で話す癖があった。
 
 今泉、藤堂、松川の三人は同じ大学に通っている。政治経済学部の二年生であり、二年生というのは大学生の中でも一番暇で時間のあるときだ。
 彼らがいる店は、東京のとある街の入り組んだ路地裏に、砂漠にあるサボテンのようにさり気なくある。不思議の国のアリスが迷いこまないと、辿り着けないような場所だ。


「松川が言ってることは確かにそうだけどね、面白さと分かりやすさは必ずしも一致しないこともあるのさ。だがどんなに面白い作品を書いたとしても、少しでも分かりづらければ、大衆は見向きもしない」
「一度も面白い作品を書いたことがないくせによく言うよ」
 藤堂が枝豆を食べながらチャチャをいれてきたが今泉は無視して話を続けた。
 
「料理で例えるなら、カレーやハンバーガーの味しかみんな分からないんだよ。そういう食べやすいものばかりを食べてる。でもね、繊細な懐石料理や、凝った分子料理を作りたいコックもいるってことさ。そういう作り手は、不遇の時代なんだ」
「おいちょっと待て。カレーって結構奥が深いんだぞ。この前食べに行ったスープカレーの店は…」
 急に藤堂が興奮して語りだしたので、
「カレーの話を頼むからあとにしてくれ!比喩で出しただけなんだから!」
 と今泉は一喝した。
 今泉はここでゆっくりと一呼吸を置いて、話を続けた。
「カフカもゴッホも、死んでから認められたんだ。本当の芸術ってのは、分かりづらいものなんだ。才能がありすぎる人間は、いつの時代も苦労するんだよ」
 今泉が自分は間違ってないと確信する声で言い終えたときだった。


「あんたたちは来るたびにくだらない話しかしないねえ!もっと有意義な話をしたらどうなんだよ。三人寄れば文殊の知恵ってことわざは、嘘だったんだろうね」
 この店のマスターの桜子(さくらこ)さんが奥のキッチンからカウンターに出てきて、場の雰囲気が一気に変わった。
 桜子さんは、誰もが振り返ってしまうような美人だ。
 明るいピンク色のロングヘアはサラサラで、肌は透き通るように白く、瞳はパッチリと大きい。うっすらと香水のココナッツの香りがする。桜子さんの年齢は二十代前半だろうと今泉たちは予想していたが、答えは教えてもらえない。
 
 この店はテーブル席が二つとカウンター席があり、分かりづらい場所にあるというのに夜はいつも満席である。桜子さん目当てで店に通う客も多かったが、桜子さんはそんな男たちを軽くあしらってきたのだった。桜子さんはこの店を一人で切り盛りしている。
 今は月曜の午後三時ということもあってか、客はカウンターに座っている彼ら三人しかいなかった。
 平日の昼間から飲めるのは、暇を持て余している大学生ぐらいだ。
 
「ほら、今日のメインディッシュだよ」
「おおー!」
 桜子さんが持ってきたステーキを見て全員が舌鼓を打つ。
「くだらない話をしている暇があったら、肉でも食べてエネルギーをつけなさい!このぐうたら学生ども!」
 少しぶっきらぼうなところもある桜子さんの声は、一度も人を憎んだことのないように透き通っていた。
 運ばれてきた料理を三人は無我夢中で食べた。普段はうるさい彼らも、おいしい料理を食べているときだけは静かになる。
「うめえ!最高にうめえ!」
 今泉が嬉しそうに叫ぶ。
「あれ、今泉君は確か作家志望じゃなかったかしら?それで感想がうめえだけってのはねえ。ボキャブラリーの貧困さをカバーできるアイデアでも持っているの?」
「いやあ、まいったなあ」
 皮肉屋の今泉も、桜子さんの鋭い指摘にはいつもたじたじになってしまうのだった。
「あ、桜子さん、酒のおかわりはありますでしょうか?」
 松川が空になったグラスを持ち上げて訊く。
「ええ、一滴ぐらいは残ってるよ!」
 桜子さんが威勢よく叫んでおかわりの酒を持ってきてくれる。
「それで今日のゲストはそろそろ来る頃かい?」
 今泉が藤堂に訊く。
「そうだね、講義は三限までと言っていたから、もう来るころだと思うんだけど」


 そのときちょうど、店のドアが開く音がした。
「遅くなってすみません」
「おお、来た来た。日出間君、さあこっちに座ってくれ。日出間君は俺の高校のときの後輩なんだ」
 日出間は萎びたように小柄な体つきだが、端正な顔立ちをしていた。
「なんだ、死にそうな顔をしているじゃないか」
 桜子さんが日出間の顔を見て驚く。
「はい、実は最近大変なことがあって、そのことを今日は相談したかったのですが…。ああ、おいしそうな料理ですね」
「おいしそうでしょ?おかわりもあるからお腹いっぱい食べなさい。おいしいものを食べれば人間は元気になるの。元気がないときは、とにかくおいしいものを食べ続けるしかないのよ」
「じゃあ食欲がわかないほど落ち込んでいるときはどうすればいいんでしょうか?」
 松川がそう言うと、
「そのときは特性のジュースを作ってあげるわよ。ジュースぐらい飲めるでしょ?」
 と桜子さんはウィンクをしながら言って、また奥のキッチンに戻っていった。
「おいしいなあ」
 桜子さんの料理を食べて、日出間の顔が少しだけ明るくなった。


「日出間くん、でしたよね?」
 松川が今日のゲストに話しかけた。
「はい」
「きみは何をもって自身の存在を正当化しますか?」
 松川が日出間の目を見ながら訊いた。
「ああ、本当にこの質問をされるんですね。藤堂さんから話は聞いていましたが」
「そうです。僕らはみんなアイザック・アシモフの『黒後家蜘蛛の会』という小説が好きなんです。その小説の影響で僕らも月に一回ゲストを招いて身の周りで起こった不思議な話を聞く、この『白後家蜘蛛の会』を楽しみにしているのです。この小説でも毎回ゲストに同じ質問をしていますのでね。さあさっきの質問に答えてください。君は何をもって自身の存在を正当化しますか?」
「はい、僕は今、皆さんと同じ大学の同じ学部で政治経済を学んでいます。一つ年下の一年です。僕は将来、日本経済を回復させたいと思っています。これで存在理由になるでしょうか?」
 日出間の意見を聞いて、藤堂が感心してうなずいた。
「素晴らしい理由だ。君たちも日出間君を見習いなよ。今泉なんて楽して金を稼ぐことしか考えてないんだから」
 そんなことない、と反論しようとする今泉を藤堂はすぐに遮って、
「それで、この前話していた、信じられないようなことがあったっていうのはなんなんだい?」
 と日出間に尋ねた。


 すると日出間は真剣な顔つきに変わり、
「実はある女性に恋をしたのですが、その女性が僕の目の前で消えてしまったんです」
 と言った。
「消えた!?」
 藤堂が急に身体をぐいと前に乗り出した。松川は眼鏡を少し上げた。
「日出間君、その話を詳しく聞かせてもらえないだろうか?」
 今泉が夏休みの計画を立てる小学生のように、目をキラキラ輝かせながら尋ねた。



 (続く)