『アンチクライスト』は、困難なことや辛いことがあっても、気持ちを入れ替えたりみんなで助け合ったり努力を積み重ねたりしてなんとかそれを乗り越えて、良かった良かった、今となってはあの不幸さえも良い思い出だ!明日からもがんばっていきまっしょい!!めでたし、めでたし……みたいな映画では全然ない。
ある夫婦に起きた一つの悲劇から物語は始まるのだが、悲観が悲観を呼び、不幸が不幸を呼び、絶望が絶望を呼び、救いなんてほとんどなくて、とにかく観ていて不快な映画で、僕は何度か吐き気をもよおした。ホラー映画の残虐シーンに慣れている僕でも、眼を背けたくなるようなシーンが続出する。
監督のラース・フォーン・トリアーは『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『エピデミック』や『ドッグヴィル』など気が滅入る映画を撮り続けているが、今回の『アンチクライスト』もその嫌な雰囲気は最高潮である。
この映画でアンチを唱えられているのは「クライスト」だけではない。精神分析の「フロイト」にまで、アンチを唱えているように見える。
つまり、何かとんでもなく悲しいことがあったときに、神に頼ることもできないし、人に悩みを打ち明けたりセラピーを受けたり自分の潜在意識を見つめたりしても解決できない問題が世の中にはある、ということをまざまざと見せつけられる。(まあ一人で悩みを抱えているよりは人に話したほうが絶対にいいとは思うが…)
なんで金を払って、時間を使って、わざわざ不快な映画を観にいかなければならないんだ、という気もしないでもないが、やはり観ておいて良かったと思う。
