『カフェモカ、お前もか』~最終回~「カフェモカ二つお願いしますの巻」 | 最強の作家への飛翔

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それにしても、ウィキリークスにこのブログの情報が漏れてしまわないかどうか心配ですねえあせる国家機密もたくさん書いてありますしねえショック!


先日から書き始めた小説の、本日は最終回になりますクラッカー


今まで書いたのはこちらですアップ

『カフェモカ、お前もか』~第1回~

『カフェモカ、お前もか』~第2回~

『カフェモカ、お前もか』~第3回~「下手な鉄砲数撃てば当たる、は間違い!?の巻」

『カフェモカ、お前もか』~第4回~「カフェの店員に自然に話しかける方法の巻」


【前回までのあらすじ】

 カフェモカを一人で二つ注文して、注目を得てきっかけをつかむこと。

 惚れてしまったカフェの女性店員にどうしても話しかけられなかった今泉に、恋愛マスターのドボルザーク・ゴンゾウはこうアドバイスした。

 そしてついに、恋焦がれている彼女に、今泉が話しかけるときがやってきたのだった…。



『カフェモカ、お前もか』


~最終回~


 今泉は歩き方を忘れていた。

 右足と右手が同時に前に出てしまったり、左足を二回連続前に出してから右足を出したりして転びそうになった。

 歩き方だけではない。

 今泉は呼吸の仕方を忘れ、表情の変え方を忘れ、声の出し方を忘れ、文字の読み方を忘れ、さらにはダジャレの作り方さえ忘れていた。 

 今泉は一日に平均三十以上のダジャレが思い浮かび、ダジャレはオヤジギャグなどではなく「高度な言語ゲーム」だと信じてやまない男だが、この日は一つたりとも思い浮かばなかったのだ。

 彼の意識にあったのは、自分の心臓の音だけだった。ドクンドクンともの凄い音で鳴り響くその音は、周りの全ての音をかき消した。

 今泉は店員の女性に話しかけるために、カフェに向かっているところだった。何度も人にぶつかって罵声を浴びながら、それでもゾンビのように少しずつ歩いていた。ぶつかった人が普通の体形の人だけだったので助かったが、もし相撲取りのような体形のしっかりとした人にぶつかっていたら、今泉は無事ではすまなかっただろう。

 ふらふらしながら、ふいに今泉は友人の藤堂のことを思い出した。


 藤堂は先日、「アイ・ウィル・ビー・バック」と言いながらシリアに戻っていった。

 今頃彼は、シリアで子供たちにバドミントンを教えているのだろう。もしくはその仕事をさぼって、日本で大量にダウンロードした卑猥な動画を、思う存分堪能しているのだろう。

 そんなぐうたらな藤堂のことを思い出し、今泉は気持ちが少し和らいできて、歩き方も徐々にいつも通りになってきた。

――大丈夫だ、俺はきっとできる…


 今泉がカフェに入ると、店員の彼女が「いらっしゃいませ」という声が聞こえた。

 今泉は体中が震え始めた。

 カウンターまで歩き、今泉は何度も家で練習したとおりに注文した。

「カフェモカ…、カフェモカ二つお願いします」

「カフェモカ、お二つでよろしいですか?」

 彼女が確認をするように訊いてきた。

「はい、二つでお願いします。あなたの作るカフェモカは最高だから…」

 今泉がそう言うと、彼女は一瞬キョトンとしたあと、クスっと笑った。

 その瞬間、今泉は次に何を言えばいいのかをど忘れした。

 頭が真っ白になり、どうしていいか分からなくなった。

「今度一緒に…、あの…、コ、コ、コーヒーでも飲みに行きませんか?」

 今泉はその台詞を言ったすぐあとに、自分がとんでもない間違いをしたことに気がついた。カフェの店員をコーヒーに誘うなんて、肉屋の店員を焼肉に誘うようなものじゃないか!?

 彼女は不思議そうな顔をして、今泉を見ていた。


 ちょうどそのとき、大勢の客が一斉にガヤガヤと店に入ってきて、今泉の後ろに並んだ。

「いらっしゃいませ」 

 彼女は後から入ってきた客のほうを向いてそう言って、レジから離れカフェモカを作り始めた。

 今泉は誘いの答えを聞けないまま、カウンターに立っていた。

 今泉は一刻も早く、その場から逃げ出したかった。

 彼女がカフェモカを二つ作っている時間が永遠のように感じられ、その間にも次から次に客がやってきて、今泉の後ろに並び始めた。

 そして彼女から返事を聞けないままカフェモカを受け取り、今泉は呆然としたまま席に向かっていき、座った。

――最悪だ…なんであんなことを言ってしまったんだ…もう何もかもおしまいだ…。

 今泉は頭を抱え、自分の髪の毛がどんどん白くなっていくような気がした。

 そんなとき、今泉の頭の中にゴンゾウさんの声が聞こえてきた。


「オッパイを楽しんでください」

 それは、今泉がゴンゾウさんの店から帰る間際に言われた言葉だった。今泉は最初その言葉を聞いたとき、ついにゴンゾウさんの頭がおかしくなってしまったのかと思った。

「言い間違えました、ミスターイマイズミ。オッパイではなくて失敗です。失敗を楽しんでください。失敗を楽しめるようになれば、何度でもチャレンジできます。何度でもチャレンジして、下手な鉄砲をたくさん撃てば、どうなるかはもうお分かりですよね?ドゥー・ユー・アンダースタンド?モテモテ&ぼろ儲けですよ!!イビサ諸島で美女をはべらかせての豪遊生活ですよ!イーッヒッヒッヒ、イーッヒッヒッヒ!!」

 ゴンゾウさんはその後、狂ったように笑い続けたのだった。

 フロイト的な解釈をすれば、言い間違いをしたときは深層心理を表していることになるので、ゴンゾウさんはあのときオッパイのことを考えていたのだろうと今泉は分析していた。


――そうだ、ゴンゾウさんの言うとおり、この失敗もいつかきっと楽しい笑い話になるだろう…。これでよかったんだ…。

 今泉は失恋のショックを和らげるため、カフェモカを二杯連続で一気飲みしようとした。確実に舌をやけどするだろうが、それも仕方ない。

 今泉はカフェモカを手に取ろうとした。

 そのとき、彼はあることに気付いたのだった。

 彼は今まで気が動転して、カフェモカのことをしっかりと見ていなかったのだ。

 一つのカフェモカはいつもどおり、チョコレートシロップが縞々模様に描かれていた。

 しかし、もう一つのカフェモカは、チョコレートシロップで人の顔が描かれていた。

 それは、ニッコリ笑った顔だったのだ。

 今泉はカウンターの彼女のほうを見た。

 彼女は忙しそうに接客を続けていたが、今泉と目が合い、ニコっと笑った。

 その瞬間に、今泉はいままでの人生が全て、この日のためにあったのだと確信した。

 今泉は、励ましてくれた藤堂の笑顔と、ハロウィンのかぼちゃのお面をかぶっていたので表情は分からないがゴンゾウさんの笑顔を思い浮かべた。

 思わず笑みがこぼれた今泉は、ニコニコマークのカフェモカに向かって、誰にも聞こえないような小さな声で、そっとつぶやいた。

「カフェモカ、お前もか」



(おしまい)