『カフェモカ、お前もか』~第2回~ | 最強の作家への飛翔

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新装開店の準備をしているコンビニの前を通ったら、「いらっしゃいませー」とか「ありがとうございましたー」みたいな発声練習を店員一同でしている声が外まで聞こえてきて、途中から、「申し訳ありませんでしたー」「申し訳ありませんでしたー」って何回も連呼していて、なんか切なくなりましたね…ガーン


先日から書き始めた小説の、本日は第2回です音譜

第1回はこちらになります→『カフェモカ、お前もか』~第1回~


(前回までのあらすじ)

 カフェの店員に惚れてしまった今泉は、店に行くたびにカフェモカを注文して、それを作る彼女の姿を見るのが楽しみだった。どうにかして彼女と仲良くなりたいと思っていたが、なかなか話しかけることができない。

 そんなとき、卑猥な動画をダウンロードするためにシリアから日本に久々に帰国した友人の藤堂が、「恋愛マスターのゴンゾウさんにアドバイスをもらえばいい」と今泉に提案したのだった…。


『カフェモカ、お前もか』


第2回


 池袋ではすでに、クリスマスのイルミネーションが飾られ始めていた。

 一年のうちで一番特徴がある月は、12月だと今泉は思う。多くの人が12月に幸福や興奮を味わい、そして多くの人が12月に不幸や焦りを味わう。

 12月を無視できる人は、なかなかいない。

 そんな12月が、今年ももうすぐやってくる。

 カフェのあの子と一緒に12月を過ごせたらどんなに素晴らしいだろう、と今泉は妄想し始めていた。


「おい大丈夫か?いまお前、落ちこぼれのオットセイみたいな顔してボーっとしてたぞ。それにしてもこの前の居酒屋で、焼き鳥にゆずとレモンが一緒についてきたのは驚いたよなあ」

 藤堂が歩きながらよく分からないことを言っていたが、今泉は面倒なので無視した。

「あっ、ここだ、ここがゴンゾウさんの店だよ」

 藤堂が指を差しながら今泉に教える。

 小さな雑貨屋のような概観のその店は、池袋駅近くの裏通りにあった。

 恋愛マスターのゴンゾウさんはこの店で、悩みを持ったいろいろな人にアドバイスをしているらしい。客の中には政治家や芸能人や経済界の大物もいて、はるばる海外からゴンゾウさんに会いにやって来る人も多数いるそうだ。

 藤堂も過去に一度、ゴンゾウさんに助けられたことがある。ただ、人に頼ったことを知られるのが恥ずかしくて、今泉にはそのことを今まで内緒にしていたのだった。


 ゴンゾウさんのアドバイス料が1回1万円かかると藤堂から聞いたときは、今泉は最初のうちは断ろうと思った。

 様々な事情により定職に就かずにアルバイトさえたまにしかやっていない現在の今泉にとって、電車に乗るときは遠回りをしてでも最安値のルートを選択する今泉にとって、カードを使うときは確実に二回払いにする今泉にとって、学生時代に借りた奨学金の返済をときどき滞納し督促の電話がかかってきて焦って振り込んでいる今泉にとって、1万円(カード払い不可)という金額はとてつもなく大きい。

 だがしかし、自分の力では彼女を振り向かせることはできそうもないので、恋愛の達人に助けてもらうしかないのだった。


 今泉がゴンゾウさんの店に入って驚いたのは、室内が黒いカーテンで覆われていたからではなく、照明が3本のろうそくだけで薄暗かったからでもなく、台の上に大きな水晶玉が置いてあったからでもない。

 水晶玉を置いた台の後ろに座っていたゴンゾウさんが、黒いマントと、ハロウィンのかぼちゃのお面を身につけていたからだった。

「あの人は恥ずかしがり屋だから、なかなか人に顔を見せたがらないんだよ」

 藤堂が今泉にひそひそと話す。

「ヤア!君は確か藤堂くんだね、今日はどうしました?」

 無表情のかぼちゃのお面をつけたまま話すゴンゾウさんは、異様なオーラを漂わせていた。ゴンゾウさんの声は、20代のようにも50代のようにも聞こえた。

「ゴンゾウさん、今日は友達の今泉の悩みのアドバイスをもらいたくて来たんです」

「それはそれは、ミスターイマイズミ、ようこそお越しいただきました。わたしがゴンゾウです。人は私を、ドボルザーク・ゴンゾウと呼びます。ただ、それだと長いので、あなたはどうか気楽にゴンゾウと読んでください。プリーズ・コール・ミー・ゴンゾウ」

 ゴンゾウさんの英語の発音は、ネイティブスピーカー並に流暢だった。

「実は…」

 今泉が悩みについて話そうとすると、ゴンゾウさんが手をかざして今泉のほうを見た。

「待ってください。言わなくても結構です。あなたが何について悩んでいるかは分かります」

 そう言うとゴンゾウさんは、水晶玉の前で両手をユラユラと動かし始めた。それはまさに、地上や空気とゴンゾウさんの体が、一体になっているような動き方だった。

「はっ!!」

 ゴンゾウさんが何かに気付いたような声を発した。

 藤堂がゴクリとツバを飲む音が、今泉の耳に聞こえてきた。

「ファンタスティーック!!分かりました!ゆずです!塩でもなくタレでもない第三の道、ゆずを選んでみてください!!」

 ゴンゾウさんの声が室内に響き渡った。

「いや、その件はもう解決しているので…。今日来たのは恋愛の悩みについてなんですよ」

 今泉のその言葉を聞いて、ゴンゾウさんが「ほう」と嬉しそうに反応した。

 お面をかぶっているので表情は分からないが、今泉にはゴンゾウさんが不敵な笑みを浮かべているように見えたのだった。

【つづく】