『カフェモカ、お前もか』~第1回~ | 最強の作家への飛翔

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今日のチラシでラーメン屋の新装開店の広告が入っていて、【開店サービスで100円をその場で返金します】って書いてあったんですけど、どういうことなのか謎ですねえあせる


ラーメンが600円なんですけど、一回600円を払ったあとで100円を「はい」って手渡されるんですかねえ。そのやり取りが気まずそうですねえガーン


というわけで本日から急遽、小説を何回かに分けて書いていきたいと思います!なるべく短くまとめようと思っているのですが、初回がいきなり長くなってしまいましたビックリマーク


この作品を、僕のことを褒めてくれた人たちに捧げます


『カフェモカ、お前もか』 


第1回


 チョコレートシロップのたっぷりかかったカフェモカを、今泉がいつもその店で注文するのは、彼が甘いものが好きだからではなかった。

 スチームでミルクを泡立て、それをエスプレッソに注ぎ、チョコレートシロップを格子状にかけるカフェモカを彼女が作っている間、彼はカウンターの中にいる彼女を見ることができる。

 制服の赤いエプロンは彼女によく似合っていた。チョコレートシロップをかける真剣な横顔に、今泉はいつもしびれてしまうのだ。

「お待たせしました。カフェモカになります」

 彼女の声は透き通っていて、一度も人を憎んだことのないような声だった。

「あ…どうも…」

 今泉はカウンターでカフェモカを受け取ると、そそくさと席のほうに行き、座った。

――今日も結局、喋りかけられなかったな…

 今泉は深く溜め息をついたあと、自分の不甲斐なさを恥じてカフェモカを一気に飲み干した。その結果、あまりの熱さに舌をやけどしてしまったのだった。


「それで、結局どうしたいわけ?」

 友人の藤堂が、今泉に問いかける。

「そりゃあまあ、話しかけて仲良くなれればなあ、と」

 彼らは地元の安い居酒屋に来ていた。

「あ、そうそう、シリアのおみやげあげるよ。石鹸なんだけど、これブランド物で日本で買うと5千円くらいするんだよ。まあシリアでは5百円だったんだけどさ。バブル景気並の豪華なおみやげだよな、石鹸だけに」

 藤堂は今、シリアで青年海外協力隊としてバドミントンを教えている。久々に日本に帰国しても、日本でやることといったら卑猥な動画のダウンロードくらいだ。

「いやあ、シリアでは動画が観られないからさあ。だいぶダウンロードしたから、これで向こうでもしばらく楽しめるよ」

 藤堂はとても嬉しそうだった。

「あ、ゴメン、友達から電話かかってきた。メニュー適当に注文しといてよ。焼き鳥の盛り合わせお願いね」

 そう言って藤堂が電話に出ていると店員がやってきたので、今泉は焼き鳥の盛り合わせや他のメニューを注文した。

 

「お客様、焼き鳥の盛り合わせは塩とタレとどちらになさいますか?」

 店員が今泉に質問してきた。

 塩とタレ…。

 どちらがいいだろう…。今泉は悩み始めた。普通に考えれば塩がいいだろう。今までの経験則からいっても、塩のほうがうまかったことが多いからだ。

 だが…。

 だからこそ逆にタレなのではないか?

 元気のない大人はいつもランチで同じメニューを注文してしまう、とこの前何かの雑誌に載っていたぞ、やはりチャレンジ精神をなくした瞬間に堕落が始まってしまうのではないだろうか?

 タレにします、と言おうとした、まさにそのときだった。

 そこで今泉は、あることに気付いたのだった。

 そもそも、塩かタレかという二択に縛られてはいないだろうか?

 確かに、選択肢が縛られているほうが選択するのは楽だ。ジャム売り場のジャムを6種類から28種類に増やすと売り上げが9割落ちる、と何かの本に書いてあったぞ。だが、俺はそうではいけない、縛られてはいけない。

「ゆずでお願いします」

「は?」

店員がキョトンとした顔をしていた。

「塩でもなくタレでもなく、ゆずをかけて焼き鳥を食べようと思うんです。ゆずをつけて持ってきてください」

「ええっと、その場合ゆずは別料金がかかってしまいますがよろしいですか?レモンでしたらもともと焼き鳥についているんですけど…」

「レモンは似て非なるものです。ゆずです。別料金がかかってもいいんでお願いします」

 今泉がそう言うと、店員は困惑した顔で立ち去った。

 

 やった、やりきったぞ…、融通の利かない店員だったがそれは仕方ない。そのときちょうど藤堂の電話も終わったところだった。

「注文はもうしといたよ」

 今泉が満足げに言う。

「おおサンキュー、それでさ、さっきのカフェの店員の話なんだけど、お前にうってつけの人がいるわ。その人にアドバイスもらえばなんとかなるよ」

「ほんとか!そんな人がいるのか!」

 今泉が興奮しテーブルをバンと叩いたので、藤堂がちょっとビクっとした。

「ああ、恋愛マスターのゴンゾウさんだよ」

 そう言うと、藤堂はニヤリと不敵な笑みを浮かべたのだった。

【つづく】