本を読んでいると、好きでたまらない作家に出会うこともありますし、自分には合わないなと感じる作家に出会うこともあります。
バラードは後者でした。
バラードは、とても苦手な作家でした。
バラードはイギリスの作家です。主にSFというジャンルの作品を書いていますが、従来のSF作品とは違い、純文学的で思弁的な内容なので、『ニュー・ウェーブ』と呼ばれたりもします。
僕が苦手だったのは、バラードの純文学風の難解な文章です。洗練された詳細な描写や比喩が多く、サラッと読めないのです。
バラードの作品は何冊か読んだのですが、どうも自分とは相性が悪いみたいだと思っていました。
ただ、ずっと気になってはいました。
バラードのスバ抜けた発想には、興味を持っていたからです。
例えば、世界全体が結晶になっていく話だったり、自動車事故に興奮している人の話だったりと、常人では思いつかないようなことを、この方は考えているのです。
だから、もっと読みやすくさえしてくれれば…、と思っていました。
そんな時、古本屋で、『殺す』というタイトルの、バラードの作品を見つけました。
まず、タイトルに強く惹かれました。
激しいな…、と。
そして本の帯に以下のようなあらすじが書いてありました。
「閑静な高級住宅街で、32人の大人が殺され、13人の子供が誘拐された」
なんじゃそりゃ!!と驚いて、すぐに購入して読みました。
とてつもなくスリリングで面白い作品でした。
あらすじにも書いてあるように、作品の中で起こる事件はすさまじいものなのですが、文章は落ち着いています。そして、僕が苦手だった、執拗な描写なども少なく、かなり読みやすかったです。
バラードは事件を、冷静な視点で、丁寧に分析していきます。事件の激しさと文章の冷静さの、絶妙なバランスが素晴らしかった。
ありとあらゆる仮説が検証され、徐々に事件の全貌が明らかになっていきます。
行き着いた結論は過激なものなので、作品が発表された当時は、おそらく、かなりの衝撃だったのでしょう。
この作品は20年前に書かれました。
今読むと、もしかしたら、ラストにそれほどの驚きはないのかもしれません(僕は十分楽しめましたが)。
作品が発表されてから20年の月日がたち、現代の社会はまさに、バラードの予言どおりになってしまっているからです。
この作品に出会って、バラードは苦手な作家から、とても興味のある作家に変わりました。
今後も、バラードの作品を読み漁っていくことになると思います。