幽霊やゾンビを出さなくても、ホラー映画は作れます。
黒沢清監督の『トウキョウソナタ』は、僕にとって、とても怖いホラー映画でした。
この映画では、いつでも自分の身に起こりそうな、日常に溢れている恐怖が描かれています。
この作品は、様々な悩みを抱えた家族四人の物語です。黒沢監督は、身の回りにある闇を徹底的に描いていきます。
これでもか、と言うほどに。
僕は、何度も目をそむけたくなりました。観ていてムズがゆくなるシーンがたくさんありました。
そんなことは知りたくないと思うような、人生の理不尽で不愉快で無常なところを、黒沢監督は観客に突きつけてきます。ゾンビよりも恐ろしいことが、人生にはたくさんあるということを見せつけられて、なんだか切ない気持ちになりました。
ただ、それはこの映画がつまらなかったということでは全然ありません。というか、本当に素晴らしすぎる作品だったので、僕は感動して泣きそうになりました。
主役の香川照之氏がすごくいいです!小泉今日子氏もよかったですが、それ以上でした。香川氏は、以前『キサラギ』という映画でも観たことがあって、変な役をやっていたので印象に残っていたのですが、今回は完璧にはまっていました。だめ男の役をやらせたら、香川氏の右に出るものはいないんじゃないでしょうか…。そして、香川氏が悲しそうな表情をすると、フットボールアワーの岩尾氏に見えてしょうがなかったです…。
また、役所広司氏が意外なところで出てくるところも楽しめました。
黒沢清監督は、毎回怖い映画を作りますが、笑えるシーンを随所に入れてきます。今回もニヤニヤしてしまう場面がたくさんあり、お客さんの中には笑いすぎてむせている人もいました。
この映画で印象に残っているのは家族の食事のシーンです。父親がビールを飲み終わるまで、他の家族はご飯を食べずに待っている。食事中はほとんど無言で、電車の音や時計の音が響いている。こういう情景を見せられると、なんだかイヤーな気持ちが体中に湧き上がってきます。四人の家族それぞれに感情移入してしまいました。
そして、ラストがとにかく秀逸でした。できるだけ多くの人に観てもらいたい作品です!