日本の構造と世界の最適化 -9ページ目

日本の構造と世界の最適化

戦後システムの老朽化といまだ見えぬ「新しい世界」。
古いシステムが自ら自己改革することなどできず、
いっそ「破綻」させ「やむなく転換」させるのが現実的か。

国内総生産(GDP)の推移:増税のダメージ顕著

GDPを成長率で見ると、そこには安倍政権・日銀黒田総裁の量的緩和の効能は感じられない。むしろ2014年の消費税と2015年の軽自動車税の引き上げのダメージが相当大きかったことが如実に伝わる。

 

2013年までのGDPの伸びに勢いがあったのは、東北復興などの急激な公共工事増加があったのかもしれない。はたまた2014年からの消費税引き上げを控えた駆け込み消費増という錯覚かもしれない。潜在成長率も低下してきており、これでも潜在能力のフル稼働に近い状態かもしれない。

 

世界のGDPの推移:米国鈍化・中国低迷止まらず

米国は量的緩和の第一弾、第二弾、第三弾を経て量的緩和を終了し、利上げとバランスシート縮小による金融正常化を狙っているが勢いは鈍っている。2017年現在では利上げペース減速の憶測すらある。「輸出頼み!ものづくり!」で生きていく場合、「だって僕たちはすばらしいんだもの」ではなく、買い手のことも考えなければならないはずである。全世界が日本より優秀なら「輸出どんどん」は成功パターンである。戦後がそうであった。しかし日本と同じように低成長にあえいでいる場合はそううまくいかない。

 

 

為替相場の推移:円安は2015年で一服

「円安にして輸出を下支えして日本経済を復活させます!」と言えばアメリカは怒るだろう。というわけで円安はあくまでデフレ克服の結果的現象として進めていた。財務省が直接円売りドル買い介入するのとは違う。日銀が量的緩和を縮小したわけではないが、円安の勢いは2015年をピークに一服している。1ドル120円あたりが心理的に天井なのだろうか。

 

貿易収支の推移:円安が貿易黒字に寄与しない

「円安で日本経済を復活させる。日本は貿易立国で貿易黒字に頼っているんだよ」という感覚がある。それは重商主義的である。それにしては、2012年以降の急激な円安はかえって輸入増大の貿易赤字をもたらすこととなった。原発停止後にスポットで石油を割高な条件で買い増したせいか。2016年になってようやく貿易黒字に。「円安で・・・」は実はそれほど貿易黒字に寄与しなかったのだ。

 

国際収支の推移:貿易立国から投資立国へ

日銀黒田総裁のバズーカ砲がすぐさま貿易黒字とならず、そのかわりマスコミは「経常収支がこんなに黒字!」と報道していた。

 

ところで昨今「ものづくりステキ!」みたいな言説がどれだけばらかまかれていることか。その多くはトヨタのようなロボット化された工場ではなく刀鍛冶か陶工のような情緒に満ちている。

 

しかし国際収支からすると、日本は海外投資のリターン=所得収支が「ものづくり」のインパクトをはるかに上回っている。ちなみに、ものづくりと違って海外投資や国際金融は工場ほど人は雇わない。所得収支の大幅黒字は労働者には実感の沸かないものである。「労働者はもうそれほど要らないよ、資本家にとっては金を回しているほうがものづくりより儲かるんだ」という未来が透けて見える。

 

というわけで国家として経常収支が黒々としていても水面下で不満が蓄積されていることもある。

 

株価の推移:伸びが落ち着く

株価だけ見れば日本経済はリフレで好調に見える。しかし株価は配当や利益額というリアル値ではなく期待値であり、自社株買いなどの釣り上げトリックもある。また日銀が年間6兆円規模のETF買い年金基金が2016年末で34兆円規模の株式保有をしているから「上げ基調」には国家の下支えもある。

 

しかし日銀の出口戦略があっても株高が維持できるのか?日銀が手を放しても日本株式は株高を維持できるほど健全なのか?

 

日経平均は2万円が天井のようでもある。日次での雑感は、ほとんどの場合、前日の米株価動向、為替相場に左右されて変動しているようでもある。それゆえか円安の一服で株式市場も獰猛な上げではなく2016年段階で落ち着いた感がある。

 

金利指標の推移:マイナス金利の実験失敗

国家機関が円安誘導して株買って株高の幻想を作っても、日銀の基軸である2%の物価目標達成にはほど遠い状態である。日銀がインフレを作れない、手詰まり、緩和は限界、そういった声に押されてか、日銀は2016年にマイナス金利に踏み切った。

 

結果は金融市場が混乱したのか中止している。ただし、矢継ぎ早に「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」を打ち出して失敗の痛手を覆い隠した。2017年に生きているあなたは、日銀がますます手詰まり感を強めていることはおわかりだろう。

 

銀行・保険・年金基金は長短金利が順ざやでないとビジネスモデルが崩れる。日本国債の利回りがゼロやマイナスに落ち込むと、代替を見つけなければならない。大企業を囲い込んでいない地銀などは行く先がなくなっていく。こういったものは戦後産業構造で最適化されてしまっており簡単に転換できるものではない。まず外債に逃げるが、米国債やドイツ国債など優良銘柄も低利回りであり利回りを求めてリスクの高い国の国債へ資金が流れる。また安定高利の代わりにリスク投資や金融商品売買手数料で稼ぐようになる。また昨今地銀が不動産融資に逃げ込んでいる様相がありそれが局地的不動産バブルを後押ししているかもしれない。

 

さらに日銀が大量の国債を買い占めることで市場の浮動流通分が減り金融がますます官製相場になっていく。ある種、異常である。そしてそもそもリフレ政策自体が成功したわけでもないので出口戦略や金融正常化へ向かう道筋が見えない。社会主義のように日銀が金融そのものとなり銀行になにがしかの利益を保証してなだめながら・・といった異常である。

 

住宅着工件数の推移:増税影響残らず順調

とにかく金利が安いのだから不動産投資が助長されるはずである。そしてほとんどそうなっている。2013年の急増は消費税引き上げ前の駆け込み需要か。ただ増税の悪影響は残らず伸びは順調に見える。

 

首都圏でのタワマンなどの投資もあり、むしろ部分的に供給過剰すら生じている可能性もある。日銀はREITも買っている(年間900億円のペース)のだから上げになるだろう。勢いはともかく、人口減少局面における住宅バブルだとしたら馬鹿げている。

 

政府はすでに富裕層節税対策としてのタワマン投資を牽制する処置に出ている。国債や預金の利回りがほとんどなくなる中で、財テクとして不動産投資があおられている感もある。単身アパート投資など手の届きやすい不動産投資などがそうである。ただ不動産が好調と言っても、戸数レベルではリーマンショック以前の水準には戻していない。

 

不動産はリフレだが・・・

地価は公示価格のデータからは安倍政権発足とともに下げ止まって高騰を続けている。日銀のリフレはここでは機能している。ただ地価の高騰が物価全体の押し上げに素直につながっていないのである。これは一部の地域・一部の物件だけが局所的なバブルになっている証拠かもしれない。

リフレを如実に現しているのがタワマン投資である。特に東京オリンピックなども控えており首都圏は不動産ブームと言っていい状況があるだろう。ただし富裕層節税手法としての指摘もあり、規制が強化され勢いは鈍った様子である。

 

新車販売の推移:国内販売は低迷

いわゆる「ものづくり」の最高峰・最有力として世界に冠たる自動車産業がある。しかし「円安で輸出下支え」は確かにそうなっているが、輸出台数が減っても輸出額が伸びている状態であった。

 

円安が一服し、輸出額も一服したわけである。他方で、国内実績を見ると、2015年の軽自動車税のインパクトが大きかったのか、立ち直っていない。また長らく続いているタカタのエアバック欠陥問題に加え2016年の三菱自動車燃費不正事件など暗いニュースも多い。

 

「輸出!輸出!」と言うが、日本の自動車メーカーは輸出台数の3倍以上の自動車を海外生産している。「グローバル化なんか嫌いだ」と言うが、日本の自動車メーカーのグローバル化は完了しているようなものである。

 

 

産業活動の推移:公共事業・建設は突出

公共建築土木の勢いが顕著。しかしサービス業は鈍い足取り。全産業指数はサービス業と同じく鈍い。公共事業と不動産のバブルがあることと整合する。

 

ところでGDPにおいてサービス業の割合は鉱工業より大きい。「ものづくり幻想」をくさすのはそういう点もある。また公共事業はGDPを積み増すことができても、経済産業全体を引き上げることができないことも物語っている。従来型公共事業は即効性はあるが、これだけで日本経済復活にはならず応急処置の連続にとどまる。

ものづくり=工業活動の指標は2014年に頭打ち状態である。統計上、資源価格下落が数値を押し下げている面もあるようだ。

 

物価の推移:まったくインフレ見えない

消費者物価は2015年を天井に崩れ落ちてしまった。企業物価の大幅な落ち込みを見ると、簡単に浮揚しそうにない。日銀のリフレ政策の大前提は物価の人為的引き上げ(消費と投資を促進)だが、消費税増税などに吹き飛ばされてしまったか。

ちなみに石油や生鮮食品の影響を排除したCPI指標もあるが、どれを見てもインフレが伸びていく兆しは見えないのである。

 

石油関連指標の推移:持ち直し気配なし

物価全般を大きく押し下げているのは、資源や原油価格の下落である。産油国の減産協議などもあるが、中長期的に石油関連価格が持ち直す気配はない。

金属関連価格指標の推移:持ち直す気配なし

鉄からレアメタル(ニッケル)まで金属価格に持ち直しの気配はない。中国のWTO加盟以来の旺盛な資源開発投資は中国の成長鈍化などで苦境にあえいでいる。

 

 

売上関連指標の推移:増税のインパクト如実

小売や商業販売などを見る限り、株高が示すような上げ基調は2014年をピークに崩れて落ちている。2014年の消費税引き上げ、2015年の軽自動車税のインパクトが大きかったか。

 

家計最終消費については、消費税引き上げ前の駆け込みとその後の落ち込みが顕著である。細目では耐久財の消費が低迷しており、つまり国内自動車販売が冴えないことと整合する。

代表的な小売店舗の状況としては、2016年の百貨店の落ち込みが急激である。中国富裕層の爆買いの恩恵は消えてしまった感がある。意外というか消費低迷の中でコンビニが健闘している。コーヒーなどの斬新な売り込みが奏功したか。高級品より日用品の方が底堅いということだ。また今後は無店舗販売のデータも重視すべきであろう。

 

労働関連人口の推移:経済インプットの制約

生産年齢人口が8000万人を割り、いずれ7500万人も割る。需要(消費)と供給(労働力)は人口を当てにしているから、これはゆっくりだが確実な地盤沈下をもたらす。

他方、非正規雇用は2000万人を超えた。労働組合の春闘でどう妥結しようが、非正規労働者の賃金が低迷すれば全体が低迷する。

 

正規労働者を補完し、バブル崩壊後の低迷を乗り切るバッファとして生まれた非正規雇用は今や日本の無視できない労働力である。「今年のボーナス楽しみですねえ」なんていう報道はもはや日本の労働者の一部しか表さないのである。

戦後の慣行であった人海戦術を抜本的に見直す改革がないと、あちこちの現場で無理がかかって事故も起きるだろう。「全国展開だ、スタッフは学生をアルバイトにしてと・・」という社長は、「社長、この地方には若者がほとんどいません!バイトが集まりません!」という現実に直面することになるであろう。

 

賃金統計の推移:ようやく実質賃金がプラスに

世界中が経済!経済!経済!と言っている。

経済は抽象的で巨大すぎ煩雑すぎる総体であろう。長々とデータを掲載しても、まだ氷山の一角にすぎない。

 

だが経済に目的があるとすれば、政策がもたらす最終的な果実は実質賃金の増加=前より豊かになることである。

 

東北大震災後に実質賃金は連続してマイナスを記録していたが、2016年にようやくプラス圏内に入った。だが安倍政権にも祝杯ムードはない。2017年にもプラスの伸びを続けるられるか、それが問題である。

 

ところで失業率が改善すればインフレが上昇するという経済理論があったが、日本ではその理論は崩壊している。日本はもはや完全雇用に近い。そしてインフレに上昇の気運はない。

 

また人手不足が次第にあちこちの産業に浸透する中、賃金が伸びるのが資本主義なのだが、それはあまりにも鈍い。「統計上は好景気だ。喜べ!」と言われても国民がそれほど「アベノミクス大成功だ!」と叫ばないのはこういうわけである。

 

2015年までのデータでは労働生産性も持ち直しを続けている。

 

日本経済の雑感のまとめ(一部のリフレにとどまる)

アベノミクスは、リーマンショックによる経済瓦解を受けて米FRBが作り出した1ドル70年という円高を日銀によって是正する上では効果があった。

 

しかし日本のメーカーが海外生産を大々的に展開している今日、円安だけで日本経済が復活するわけではないことも如実に示されたようだ。また輸出頼みは、欧米や中国が好調であることを前提にしているが、米国の回復の足取りも鈍く、中国には国営企業の債務や重工業過多の調整の不安もある。思ったほど米国の回復に勢いがなかったこと、中国の株式・通貨・金融に異変と不安が生じたことは、日銀の計算外だったのだろう。

 

輸出頼みは他力本願である。そして他人はあまり当てにならない。忖度の効かない米国でどつぼにはまったタカタ、政治色の強い中国など、わかるだろう。他方、日本経済の問題は内的なものであろう。

 

日銀のインフレターゲットは機能していない。株価と地価は上がったが物価や経済活動、賃金は低迷するという事態になった。

 

ところで就業者1人当たりGDPでは日本は依然優等生である。ちゃんとがんばっている。だが経済は総体であり大量の老人を養う重さは相当のものがある。「経済成長なんか要らないよ、もっとこう・・」という精神論者は老人を公的年金・公的医療保険で養う上で成長が必要で成長を当てにして借金を積み重ねていることを度外視している。

 

これまでの資本主義を刷新するような産業革命でもないと、老人増加・労働力縮小という大きなマントル活動や潜在成長力低下に打ち勝てない。ロボット化・AI活用は無人化・コンパクト化・スリム化をしっかり目標としたものであるべきだろう。身に付いてしまった人海戦術と長時間労働というお馴染みの手法をどこまで捨てられるか。

 

ところで、ご存知のとおり2016年末大統領選挙でトランプが勝利し、世界は再び混迷の局面へ向かった。グローバル普遍主義・多様主義が壊れてナショナリズム・民族主義が台頭する。「日本人は昔からとってもナショナルだぜ!」と言っても世界へのモノのアクセス(輸出入)は日本に絶対必要なので「自分のナショナリズムは素敵だ!他人のナショナリズムは許せねえ」「お前は股を広げろ、俺は広げねえ、何か文句あるのかよ」という矛盾に直面する。

 

日本が長年にかけて仕込んできたTPPがあっという間に頓挫したのが2017年初頭である。自民党としては過去を払拭するような大胆な自由化の方向だったのだが。。。またブレグジット(英国のEU離脱)は、現在は交渉段階でこれまでと大差ないが、交渉期限が切れた後の世界つまりイギリスのハードランディングの見通しはあまり芳しくない。

 

戦後資本主義の何かが限界に達している。資本(設備)過多で資本の収益率が逓減するという話もある。でかい工場を作り大量の人を雇う資本主義の形が変わりつつある。欧米では親の世代より貧しくなると感じる人も多いようだ。こうした不満は政治風土も変容しかねない。