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日本の構造と世界の最適化

戦後システムの老朽化といまだ見えぬ「新しい世界」。
古いシステムが自ら自己改革することなどできず、
いっそ「破綻」させ「やむなく転換」させるのが現実的か。

トランプへの過大な期待

「勝てば官軍」で、日本の各勢力も大統領選挙に勝利したトランプに擦り寄っていくことだろう。何せ、「鬼畜米英!」と叫んでいたのに占領軍がやってくると途端に擦り寄っていって強力な戦後保守を作ったくらいだからお手のものだ。そうだろう?

 

トランプの政策は、選挙がほぼ人格論争を中心としたもので終わってしまったために未知数だ。トランプの豪腕を期待した株価急騰は過大な先読みという気がする。
NY株、連日の最高値 「トランプ銘柄」活況 (日本経済新聞2016/11/12)
 

人気のあったケネディ大統領がほとんど望みの法案や予算を通せなかったように、イメージとは異なり米国は立法・財政は議会が掌握している。米国大統領には独裁的な権限はない。特にトランプの推進する莫大な財政出動を共和党議員も民主党議員も容認するようには思えない。
*大統領には拒否権という消極的な権限があるが、議会はこれを覆すこともできる

 

無意識に「保護主義」を追求か

トランプがもたらしているヘイトや人種差別などの議論は置いといて、トランプはなぜ共和党から出馬するのかわからないような政策も叫んでいた。米国内工場の海外移転を糾弾したところなどは民主党でかなり左翼のバーニー・サンダースとも共通していた。
フォード 米小型車生産メキシコへ移転 トランプ氏が大非難(ZUUオンライン2016/09/16)
 

大局的にまとめれば、米国をグローバル主義から保護主義に切り替えようとしている節がある。
泡沫と思われた放言王 トランプの勝因は反グローバリズム(日刊ゲンダイ2016/11/09)
 

しかしトランプが政策イデオロギーのようなものを構築しているとも思えず、成り行きにまかせて過激発言を繰り返していただけのようでもある。それが結局、「保護主義」に集約されていくのだろうか?


確かに、グローバリズムが例えば先進国の高卒労働者に直接多大な恩恵をもたらしているとも思えない。投資家は儲けているとは思うが。グローバリズムは以下の3つにまとめることもできるが、特に世界金融危機以降は響きの悪いものとなったようだ。

 

1)モノの自由な移動  ← 日本はこれで貿易黒字国として成功した

2)ヒトの自由な移動  → 欧米での移民嫌悪気運の高まりからすれば、無理

3)カネの自由な移動  → 金融危機波及、パナマ文書など富裕層等の資産隠し、グローバル企業の課税逃れ


個人的には「カネの自由な移動」が突出し行き過ぎてグレーで不公正な世界が生まれていると考える。


冷戦体制は終わるのか

「パクス・アメリカーナ=米国による世界管理体制」というものを我々は生まれた時から自明のものとしてきた。だが米国が最初からそういう国だったわけではない。

 

欧州人の殺し合い=世界大戦は、米国が引き起こしたものではなかったが米国はこれに巻き込まれ、米兵の命を犠牲にして欧州安定化の後見人のようになった。しかし世界大戦は欧州で二度も発生した。
*ルーズベルトは大統領選で米国の若者が欧州の戦争に巻き込まれることはない、と当初公約していた。

 

気がついてみたら「他人の手助け」をしているうちに大英帝国が衰退し、米国が「世界の警察官」となっていたわけである。
*ルーズベルトはヤルタ会談等で「米兵は大英帝国植民地を守るために死んだのではない」という姿勢を打ち出し、欧州の植民地支配は終焉へ向かう

 

ドイツと日本が降伏すると、ソ連が次々とスイッチを押して破壊された後の世界を乗っ取り始めた。米国は枢軸国への勝利の祝杯に酔う間もなく、すぐさまソ連/共産主義プロパガンダと対峙する羽目になる。

・1945年:第二次世界大戦が終結、ドイツ分割占領

・1945年:朝鮮半島にソ連軍侵攻・38度線成立

・1946年:困窮した日本で食糧メーデー

・1946年:英チャーチルが「鉄のカーテン演説」米ソ対立が顕在化
・1946年:日本国憲法が公布
・1947年:マッカーサーが日本共産党指導の二・一ゼネストを中止させる

・1947年:日本で初の社会党政権発足(マッカーサーが共産党危険視、社会党容認へ)
・1947年:マーシャルプランで米国が西側復興支援(豊かさによる対抗)

・1948年:ソ連によるベルリン封鎖
・1948年:米国の対日政策転換・ニューディール左派が排除される、逆コースへ
・1949年:ドイツが東西分離
・1949年:中国が赤化(中華人民共和国成立)
・1950年:朝鮮戦争が勃発(朝鮮半島の赤化の危機)

 

そこで「ソ連との戦い」は従来の国家間戦争とは異なり、「プロパガンダの戦い」でもあった。

 

戦争で荒廃し貧困・食料危機が吹き荒れる中で共産主義プロパガンダが浸透すれば内側から各国を赤化してしまう。それはドミノ倒しのように連鎖して世界を共産化してしまうと危惧された。米国は軍事力だけでなく同盟国への経済支援から「豊かさ」で対抗する。
二・一ゼネスト(wikipedia)1947年戦後荒廃の中で共産党指導の600万人無期限ゼネスト計画は日本左傾化の頂点となった
 

具体的には、X論文(1947年)、マーシャル・プラン(1947年)、トルーマン・ドクトリン(1947年)がその対ソ連の世界戦略の大枠となった。そして戦後世界は以下のようなものを自明とする体制となった。
*ジョージ・ケナンのX論文は「豊かさによる対抗」の骨格であったが、欧州や日本の復興が重視されつつ、朝鮮半島やベトナムは抜け落ちていた。

 

①西側の軍事リーダー、NATOや日米安保などで対抗、全世界に米軍駐留
②西側の金融センター、マーシャル・プランなどでドルを大量供与
③西側の消費センター、戦後荒廃した日独等からの輸入を自由化し経済支援

 


冷戦体制による米国経済の病

冷戦が終わっても、「テロとの戦い」と称して米国世界管理体制が続くかと思われた。

しかしこの体制は、グローバル化が進展する中で米国に中毒症状をもたらしているように思われる。

 

1)世界の軍事リーダーのコスト

米国領土外の地域紛争に巻き込まれ、しかも感謝されない。同盟国がすべて合衆国の領土にでもなるなら話は別だが。ベトナム戦争のような50万人も兵員を投入する泥沼戦争のコストは想像以上にダメージの大きいものであろう。そして高卒米国人に直接メリットがあるわけでもない。
*国土を守るために命を捧げよ!という右翼はいるが、聞いたこともない外国に行って数万人の兵員を犠牲にしよう、世界平和のために!という右翼は日本では聞いたことがない

 

また「テロとの戦い」では降伏する国家も指導者も実質存在しない。世界最強の国との戦いを掲げれば世界中から人員をリクルートできる。そうすると米軍は地球上のすべての反米過激派と戦い続けることになる。世界中が「何かあれば米軍が助けにくる」と期待し、あるいは「米軍の介入は絶対許さねえ」と反発することになる。自国領土だけを守るのと比べると、これは多大なコストである。

*ドイツやイギリスは米国なしでロシアと戦争する力はないのだ、結局

 

これは米国高卒労働者に何か富をもたらすのだろうか?

 

しかし世界の軍事リーダーの役割放棄という考えは米政界では極めて少数・異端であった。自分が一兵卒として前線に投入されないかぎり、世界中に軍隊を動員できる覇権力を捨てる者はいないだろう。しかし、トランプが勝ってしまった。
*民主党はアジアを重視し、共和党はイスラエル等中東を重視しているようで、いずれも軍事リーダーの役割継続は前提であった。


2)世界の金融センター=ドル本位制(変動相場制)のコスト

戦前の世界は長らく「金本位制」で動いてきた。金は「ニュートラルな価値基準」であり、すべての国が貿易黒字で金を貯蔵してこれを国力と考え競争していた。
金本位制の亡霊(当ブログ)
 

しかし70年代から世界はドル本位制(変動相場制)に移行した。問題は、ドルは「ニュートラルな価値基準」ではないということである。

 

ドルは基軸通貨であると同時に一国の通貨でもありその国内経済への思惑が介在する。しかし米国の管理下を離れて世界中でドルが取引されている以上、自国通貨でありながらコントロールできない事態ともなる。

 

また、「変動相場制」はもともとは各国通貨中立という想定であった。その想定では米ドルは「米国製品引き換え券」のようなものである。米国製品を輸入しないのなら無用の紙切れになるはずであった。不要な米ドルは売られ米ドルが高くなり過ぎることもない。しかしそうならなかった。米ドルは世界の投機マネーの標的となっている。

*米国経済が回復したり、米金利が上昇する見込みがあると米ドルは高騰しすぎてしまい、景気回復するたびに米輸出産業が劣化していくことになる

 

しかし日本やサウジアラビア、中国そしてロシアまで米ドルを金塊のように備蓄して保険としている。つまり外貨準備を通じてドルが金のような「ドル本位制」のようになってしまった。
*ロシアの外貨準備はドルだけでもないと思うが、2018年には枯渇する見込みとされている

 

かつて貿易黒字で金を獲得しようとしたように、各国がドルを稼ごうとしている。ドルがなければ重要資源や食料が輸入できない。ただ米国だけは努力してドルを稼ぐ必要はない。ドルを刷るだけで世界中から物資を買える王様のような地位である。

 

しかし、これは中毒のようなものでドルの価値は金を基準として長期的にみれば着実に劣化を続けている。それでいて投機的なドル高を止めることもままらならない。世界最高の地位が今度は自分をがんじがらめにしてしまう。

 

3)世界の消費センター=米貿易赤字の宿命

冷戦のための同盟国製品輸入が、いつしか自由貿易礼賛となり、米国市場は世界に開かれた状態である。みんなが米国からちゅーちゅー吸いたがっている。「さあ、我が国は停滞だ。海外に打って出よう、アメリカへ行こう!」と言っている。そして米国経済はいまや70%が消費によるものである。景気が良くなるたびに米国は米ドル高騰と併せて貿易赤字拡大を経験している。

 

漁師と農民が交換経済をする時、漁師は穀物を手に入れ、農民は魚を手に入れ、この交換は相互互恵でいずれも豊かになる。しかし米国の貿易赤字は、国際収支上は圧倒的なドルの地位/米国債の地位による交換経済となっている。紙切れで世界中から買っていることになる。

 

     A国 魚    → 交換 ← B国 小麦

    米国 米国債  → 交換 ← 各国 輸出品


誰も米国が破産するとは思っておらず、米国債は常に世界中から需要があるから歯止めが効かなくなる。どんな時でもカネを好きなだけ借りられる人はいつしか中毒になっていく。

    
金融緩和やバブルで米国消費を膨らましても、外国からの輸入過多。そしてバブルがはじける度に高卒米国人の生活は悪くなる。

 

米国以外の国には、米国市場へのアクセスは実に有意義なものであり、できれば「米国は股を広げろ、だがオレは股を広げない」という按配のいい状態を維持したいのが本音だ。

 

しかし米国がどんどんおかしくなっていって破裂すれば全世界が破壊的な津波に襲われることになる。このままこの世界体制は継続できるのか?


グローバル化による米国経済の病

貿易摩擦などの国家間の意地、そういったものだけではない。多国籍企業というものがある。

 

グローバル化で自由経済圏が共通化されていけば、グローバル企業はますます動きやすくなる。だが、それは多国籍企業がナショナルな存在を超えて国家のシガラミから離れていくことでもある。こうして国内経済政策や金融政策の効き目が弱くなる。

 

  A社が工場を新興国へ移転 → 労働コスト分利益増大!→ 浮いた分を経営者と株主に利益還元!
                    → 国内工場労働者が失業 → 低賃金の未経験OK職へ 


  B社がグローバルに節税  → 税の安い国へ利益を内部移転 → 浮いた分を経営者と株主に利益還元!
                      → 移された国の税収減     → 財政赤字か

 

  C社が低金利を活用  → 国内で低利で借りて国外で投資 → 儲かった分を経営者と株主に利益還元!

                 → 国内投資が伸びない       → 国内低迷


さらに昨今のテクノロジー(特にソーシャル系)は、プラス面も非常に大きいが、いずれも高卒熟練労働を不要とする方向である。電子商取引が小売を席巻すればリアルなショッピングモールの建設に勢いがなくなる。Airbnbなどが普及すればホテル建設に勢いがなくなる。uberが普及すればタクシー会社の運転手の稼ぎは減るかもしれない。


保護主義による治癒?まずは安い労働力の排除か

米国の保護主義は今のところ、労働力の安い中国や新興国を目の敵にしたもので、工場の米国移転が進んでいる日本は実はそれほど憎まれているわけではないようだ。TPPへの嫌悪は、80年代の日米貿易摩擦とは異なり、ベトナムなどへ製造業がますます移転してしまうこと、安い労働力が問題としてある。

 

■新興国ブーム崩壊?アジア諸国が親中化?

ただ米国が本気で保護主義を推進して新興国を排除し、新興国ブームが潰れれば新興国債券バブル崩壊が生じるかもしれず、特に東南アジア諸国が中国へ傾斜してゆくおそれがある。
*中国は「海のシルクロード構想」でTPPに対抗か、アジアインフラ投資銀行では欧州も引き寄せている。
*元々親中のカンボジア、中国寄り軍事政権のタイがあり、フィリピン、マレーシア、インドネシアも米国がアジアから手を引けばどうなるかわからない。
*最大の親米国のはずのフィリピンのドゥテルテ大統領の反米発言・中国への接近が最近取り沙汰されていた

東南アジア各国、「日中てんびん」 フィリピンに続きミャンマーも(産経新聞2016/11/06)

 

■保護主義で最悪戦争?

また世界各国が保護主義に走れば、やがて報復合戦となり、モノの自由な移動も思わしくなくなり、物資欠乏に追い詰められれば最悪戦争にもなりかねない。その時には各国中央銀行が頭を悩ましてきた、デフレや低インフレの問題は吹っ飛び、物質欠乏によるインフレが皮肉なことに実現することになる。
*日本は世界恐慌後に高級絹製品が売れなくなり、資源の輸入が難しくなり、中国問題等で米国から石油輸入をストップされた。その後オランダ領東インド(インドネシア)との石油通商協議も頓挫して仏印に進駐する。

*フレデリック・バスティア「モノが国境を越えられないとき、軍隊が越える」

 

■しかしグローバリズムの失敗・冷戦の終結は自明
事態は流動的だが誰もが最悪のシナリオは避けようとするだろう。ただ、冒頭で述べたように現在の加速するグローバリズムが高卒労働者にほとんど直接的には利益をもたらしていないのは現実であろう。またトリクルダウン(先に富裕層が豊かになり、後で低所得層にも恩恵がある)ももはや信用できない。

 

また、冷戦体制が形成した米国の世界管理体制は、上述のとおり必ずしも米国の高卒労働者を利するものではない。冷戦が終わった。それゆえ冷戦体制は終焉すべきなのかもしれない。ソ連とは異なり、ロシアや中国はプロパガンダやイデオロギーをばらまいて革命を輸出しているわけではない。これらは国家覇権主義にすぎない。米国がただの大国という地位に戻っても米国は自分は守れるだろう。

 

冷戦体制からの脱却は米国にとっては一つの処方箋かもしれない。

 

■冷戦体制がとても按配よかった日本は
ただし、日本にとっては米国の冷戦体制の継続のおかげで中国ロシアとも対峙できるので結構困ることになる。東アジアは北朝鮮などもあり、冷戦類似体制がほぼ持続している。それゆえ日米同盟は日本にとって必至なのだ。
*冷戦体制出現のおかげで日本は英米の報復対象から共産圏に対する防波堤・米国の重要なパートナーとなった。
*例えば、日印の関係強化は正解だろう。インドは中国とは異質な独自の道を行く地域大国でもある。